手技のポイント
針の太さ:33-34ゲージを使用する。32ゲージより太い針は推奨されない
注入方向:角膜縁から離れる方向に注入する。輪部血管網の損傷を回避するためである
蒼白化の確認:血管が蒼白化しない場合は実質内注入の可能性がある
洗浄の徹底:MMCの角膜上皮毒性があるため、眼表面の十分な洗浄が必須である

MICE(Mitomycin Intravascular Chemoembolization)は、2022年にOuano医師により初めて報告された角膜新生血管および脂質角膜症に対する新規治療手技である。
角膜は本来無血管組織である。血管新生促進因子と抑制因子のバランスにより無血管性が維持されている。このバランスが破綻すると角膜新生血管が生じる。新生血管に隣接して脂肪成分が蓄積し、脂質角膜症を引き起こす。角膜混濁、不正乱視、視力低下の原因となる。
MICEの原理は肝細胞癌に対する経動脈的化学塞栓療法(TACE)に由来する。TACEでは腫瘍の動脈系に抗がん剤を注入し、局所的な腫瘍壊死を誘導する。MICEではこの原理を応用し、MMCを角膜新生血管内に選択的に注入する。MMCの血管内皮細胞に対する不可逆的細胞毒性により、異常血管の閉塞と退縮を誘導する1)。
従来の治療法(ステロイド点眼、抗VEGF療法、レーザー光凝固)は急性期の角膜新生血管に対しては一定の効果を示すが、成熟した血管や慢性の角膜新生血管を退縮させる効果は限定的である1)。MICEはMMCの血管内皮に対する不可逆的細胞毒性を利用するため、成熟血管に対しても直接的な閉塞効果が期待できる点が大きな違いである。

MICEの治療対象となる角膜新生血管および脂質角膜症では、以下の症状を呈する。
角膜新生血管が視軸にかからない場合は無症状のこともある。
MICE施行後の特徴的所見として、術後早期に「ピザパイ角膜(pizza-pie cornea)」と呼ばれる外観を呈する1)。角膜実質内に脂質と血液が残留するためである。これらは数週間で再吸収される1)。
角膜新生血管を生じる原因は多岐にわたる。
| 原因カテゴリ | 代表的疾患 |
|---|---|
| 感染症 | ヘルペス角膜炎、トラコーマ |
| 外傷 | 化学外傷、熱傷 |
| 医原性 | CL障害、角膜移植後 |
深層性血管新生は前毛様動脈から角膜実質内に侵入し、炎症や実質浮腫の持続で生じる。表層性血管新生は角膜上皮の酸素不足や結膜上皮侵入に関連する。
脂質角膜症は角膜新生血管に続発して生じる。新生血管の走行に沿って白色混濁(脂質)が沈着し、次第に拡大する。深層に新生血管が存在する場合に生じやすい。
MICEの適応は以下の条件を満たす患者である。
術前には血管形態の確認が不可欠である。カニュレーション(カニューレ挿入)が容易な太い血管の同定が手技成功の鍵となる。栄養血管の位置と走行を細隙灯顕微鏡で詳細に評価する。
角膜移植前の予防的治療としての使用も報告されている1)。角膜新生血管を有する眼では角膜移植の拒絶率が有意に高い1)。MICEにより中心部の新生血管を除去することで、移植の成功率向上が期待される1)。
処置は眼科用手術顕微鏡下に行う。
手技のポイント
針の太さ:33-34ゲージを使用する。32ゲージより太い針は推奨されない
注入方向:角膜縁から離れる方向に注入する。輪部血管網の損傷を回避するためである
蒼白化の確認:血管が蒼白化しない場合は実質内注入の可能性がある
洗浄の徹底:MMCの角膜上皮毒性があるため、眼表面の十分な洗浄が必須である
注意すべき点
全層穿孔の回避:角膜を全層穿孔すると前房内にMMCが注入される危険がある
角膜内皮への影響:MMCの角膜内皮細胞への影響は未解明である1)
術後管理:抗菌点眼薬とステロイド点眼薬を術後に使用する
角膜新生血管の従来治療は効果が限定的である。
角膜新生血管の閉塞は術後早期(術後1日目を含む)に確認できる1)。術後数週間は角膜実質内に残留した脂質と血液が認められるが再吸収される1)。脂質の吸収に伴い角膜の平坦化が生じ、一過性の乱視を来すが安定または改善する。
単純ヘルペスウイルス-1角膜炎による角膜新生血管に対しMICEを施行した53歳男性では、MICE後4ヶ月で全層角膜移植(PKP)を施行した。PKP後3ヶ月でBCVAは20/40に改善し、その後の白内障手術を経てBCVAは20/30を維持した。MICE後1年以上にわたり角膜新生血管の再発は認められなかった1)。
残存血管がある場合はMICEの再施行が可能である。塞栓術に成功した血管では、限られたフォローアップ期間内ではあるが再発は報告されていない。
角膜の透明性は無血管性に依存する。無血管性は血管新生促進因子(VEGFなど)と抑制因子のバランスにより能動的に維持されている1)。このバランスが感染、外傷、低酸素状態などにより破綻すると、角膜新生血管が発生する。
表層性血管新生は結膜血管から角膜上皮下に侵入する。酸素不足や結膜上皮侵入が主な原因である。深層性血管新生は前毛様動脈から角膜実質内に侵入し、持続的な炎症や実質浮腫に伴って生じる。
角膜新生血管の血管壁は正常な輪部血管と比較して透過性が亢進している。この血管透過性亢進により、血漿成分中の脂質が血管周囲の角膜実質に漏出・沈着する。新生血管の走行に沿って白色混濁として拡大する。
MMCはStreptomyces caespitosus由来の抗腫瘍性抗生物質である。DNA架橋形成による細胞増殖抑制作用を有する。特に血管内皮細胞に対して不可逆的な細胞毒性を示す1)。
MICEでは、この細胞毒性を利用して角膜新生血管の内皮細胞を選択的に障害する。MMCの注入による静水圧が求心性・遠心性血管の両方にMMCを到達させる。血管内皮細胞の障害により血管閉塞が生じ、角膜新生血管の退縮が誘導される。脂質沈着の供給源となる血管が閉塞されることで、脂質角膜症の改善も期待される。
抗VEGF療法がVEGF-Aのみを標的とすること、および角膜新生血管周囲にペリサイトが動員されてバリアを形成することが、従来治療の効果を制限する要因である1)。成熟した角膜新生血管はペリサイトに覆われているため、抗VEGF薬の血管退縮効果が減弱する。MICEはこのバリアを介さず、血管内腔から直接内皮細胞に作用する点で従来治療と異なる。
MICEは2022年にOuano医師により初めて報告された新しい手技であり、臨床データの蓄積は始まったばかりである。
Ranguらは、単純ヘルペスウイルス-1角膜炎による角膜新生血管を有する患者に対し、全層角膜移植(PKP)前の予防的治療としてMICEを施行した世界初の症例を報告した1)。MICE後にPKPを施行し、1年以上にわたり良好な視力と角膜新生血管の非再発を確認した1)。角膜新生血管を有する眼では角膜移植の拒絶率が3〜36%と高率であるため1)、MICE による予防的新生血管除去は移植成功率の向上に寄与する可能性がある。
今後の課題として以下が挙げられる。
MICEは報告されてから日が浅く、長期的な安全性データは限られている。特にMMCが角膜内皮細胞に及ぼす影響は未解明であり、MICE施行後はスペキュラーマイクロスコピーや角膜共焦点顕微鏡による角膜内皮の経時的評価が推奨される1)。現時点では短期的な有害事象は報告されていないが、今後のデータ蓄積が不可欠である。