眼瞼縁所見
開口部閉塞:plugging(栓子形成)、pouting(膨隆)、ridge(堤防状変化)を認める。
血管拡張:開口部周囲の毛細血管拡張を認める。
粘膜皮膚移行部(MCJ)の移動:MCJの前方または後方への偏位を示す。
眼瞼縁不整:角膜と接触するラインの凹凸不整を認める。

マイボーム腺機能不全(MGD: Meibomian Gland Dysfunction)は、マイボーム腺の慢性的かつびまん性の異常である。国際マイボーム腺機能不全ワークショップ(IWMGD)は「終末導管の閉塞および/または腺分泌物の質的・量的変化を特徴とし、涙液膜の変化、眼刺激症状、炎症、眼表面疾患を引き起こしうる」と定義した1)。
蒸発性ドライアイの最も一般的な原因であり、眼科診療で最も頻繁に遭遇する疾患の一つである1)。
マイボーム腺は眼瞼の瞼板内に存在する皮脂腺である。上眼瞼に約25〜40個、下眼瞼に約20〜30個が存在する。分泌されるマイバム(meibum)は100種以上の脂質と90種以上のタンパク質を含み、涙液膜最外層の脂質層を形成して水層の蒸発を防止する。
有病率は人種間で差がある。アジア人では毛細血管拡張に基づくと61〜69%に達する。コーカサス人では3.5〜19.9%の範囲である。加齢とともに増加し、男性にやや多い。
MGDは分泌減少型と分泌増加型に大別される。分泌減少型が臨床的に多く、閉塞性と萎縮性に分類される。閉塞性MGDが最も一般的であり、導管上皮の角化亢進とマイバム粘稠度の上昇が原因となる1)。
MGDは蒸発性ドライアイの最も一般的な原因です。マイボーム腺の機能低下により涙液脂質層が菲薄化すると、涙液の蒸発が亢進し、涙液浸透圧が上昇して眼表面に炎症が生じます。ドライアイ患者の多くにMGDが合併しており、MGDの治療がドライアイの改善につながります。
眼不快感、異物感、乾燥感、圧迫感が主訴となる。「ねちゃねちゃする」と表現される粘稠感も特徴的である。症状は朝方に強いことがある。視機能の変動を訴える場合もある。
MGDの症状はQOLに大きな影響を与え、眼刺激だけでなく視機能の低下も引き起こす1)。
眼瞼縁所見
開口部閉塞:plugging(栓子形成)、pouting(膨隆)、ridge(堤防状変化)を認める。
血管拡張:開口部周囲の毛細血管拡張を認める。
粘膜皮膚移行部(MCJ)の移動:MCJの前方または後方への偏位を示す。
眼瞼縁不整:角膜と接触するラインの凹凸不整を認める。
マイバム・腺の評価
マイバムの性状:正常では透明な油脂であるが、混濁・粒状・練り歯磨き状を呈する。
圧出性の低下:指圧による圧出が困難になる。島崎分類(grade 0〜3)で評価する。
マイボグラフィ:赤外線カメラで腺の消失(dropout)を評価する。マイボスコアで定量化する。
涙液脂質層の菲薄化:干渉計で涙液脂質層の厚さを評価できる。
マイボスコアは腺消失の程度を4段階で評価する。
| グレード | 腺消失の程度 |
|---|---|
| 0 | 消失なし |
| 1 | 1/3未満 |
| 2 | 1/3〜2/3 |
| 3 | 2/3以上 |
MGDの発症には内因性・外因性の多数の要因が関与する。
導管上皮の角化亢進はMGDの中心的病態である。この過程には加齢、性ホルモン変動、薬剤使用が影響する1)。
内因性リスク要因は以下の通りである。
外因性リスク要因は以下の通りである。
細菌の関与も示唆されている。眼瞼縁の細菌叢がリパーゼや炎症性分子を産生し、MGDの病態を修飾する1)。
はい、CL装用はMGDのリスク要因です。CLが眼瞼縁のマイボーム腺開口部に機械的刺激を与え、導管の閉塞を促進する可能性があります。CL不耐症の一因がMGDであることもあり、MGDの治療によりCL装用の快適性が改善する場合があります。
本邦のMGDワーキンググループが策定した分泌減少型MGDの診断基準は、以下の3項目すべてが陽性であることを要求する。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 自覚症状 | 眼不快感・異物感・乾燥感・圧迫感 |
| 開口部周囲異常 | 血管拡張・MCJ移動・眼瞼縁不整のいずれか |
| 開口部閉塞 | 閉塞所見+中等度圧迫での圧出低下の両方 |
細隙灯顕微鏡検査ではディフューザーを用いた広範囲観察が推奨される。開口部の閉塞所見(plugging、pouting、ridge)と眼瞼縁の形態変化を評価する。
マイバムの圧出性は島崎分類で評価する。grade 0(軽い圧迫で透明な油脂が出る)からgrade 3(強く圧迫しても出ない)の4段階で、grade 2以上を異常とする。
マイボグラフィでは赤外線カメラを用いてマイボーム腺の形態と消失を観察する。共焦点顕微鏡やSD-OCTも形態評価に用いられる。
涙液検査(BUT、シルマーテスト、涙液浸透圧測定)、OSDI問診票も診断に有用である。
MGD治療の目標はマイボーム腺分泌の改善と涙液膜安定性の回復である1)。ゴールドスタンダードの治療は存在せず、重症度に応じた段階的アプローチが推奨される。
保存的治療
温罨法:眼瞼を40℃以上に温めることでマイバムを液化し排出を促進する1)。温タオル、アイマスクなどを使用する。
眼瞼清拭(lid hygiene):眼瞼縁の衛生管理が基本である。専用の清拭綿やアイシャンプーで眼瞼縁を清掃する。
眼瞼圧迫:指や圧迫鑷子で眼瞼を圧迫し、マイバムの排出を促す。
人工涙液:涙液の補充と眼表面の保湿に用いる。
薬物治療
デバイスを用いた治療として、LipiFlowはVTP(vectored thermal pulsation)により42.5℃の熱と圧力を12分間眼瞼内面に加え、閉塞したマイバムを排出する。臨床試験では100%の治療完遂率が報告されている2)。効果は最長3年間持続するとの報告がある。
IPL(intense pulsed light)療法は眼瞼周囲に光エネルギーを照射し、異常血管の閉塞と腺機能改善を図る1)。
マイボーム腺プロービングでは閉塞した導管内にプローブを挿入し、物理的に開通させる1)。
ニキビダニ(Demodex)が関与する場合はティーツリーオイルによる駆虫が有効である1)。
性ホルモン療法について、局所テストステロンがマイボーム腺機能を高める可能性が報告されているが、現時点で承認された製品はない1)。
清潔なタオルを濡らして電子レンジで温め(約40℃)、両眼の上に5〜10分間当てます。市販の繰り返し使えるアイマスクや使い捨て温熱マスクも便利です。温めた後にやさしく眼瞼をマッサージすると、融解したマイバムの排出が促進されます。毎日継続することが効果的です。
MGDの病態生理は終末導管の閉塞を中心とする複合的なプロセスである。
導管上皮の角化亢進とマイバム粘稠度の上昇が閉塞を引き起こす1)。閉塞は腺房内圧の上昇を招き、腺房の萎縮・消失へと進行する。腺消失により脂質分泌が減少し、涙液脂質層が菲薄化する。
涙液脂質層は外側の非極性層と内側の極性層からなる二層構造である。正常なマイバムは33〜37℃の眼表面温度で流動状態を保つ。MGDではマイバムの組成変化により融点が上昇し、40℃以上の温度がなければ液化しなくなる1)。
性ホルモンの影響は重要である。アンドロゲンは脂質合成を促進する遺伝子を活性化し、角化関連遺伝子を抑制する。マイボーム腺局所の受容体を介して腺房細胞の成熟と脂質分泌を増加させる1)。エストロゲンは脂質異化を促進し、炎症性サイトカイン産生を刺激する1)。閉経後のHRTとドライアイの関連については、エストロゲン補充による視床下部-下垂体-副腎軸の抑制で副腎アンドロゲン産生が低下するという機序が提唱されている1)。
細菌の役割も重要である。眼瞼縁の常在菌が産生するリパーゼはマイバムの脂質を分解し、遊離脂肪酸の増加が炎症を惹起する1)。粘膜類天疱瘡(マトリックスメタロプロテアーゼ)の産生も炎症を助長する。IL-1がMGD患者の涙液中で上昇しており、眼表面上皮障害の重症度と相関する1)。
マイバムの脂質異常は脂質合成・分解・輸送など多くの細胞プロセスに影響を及ぼし、MGDの病態をさらに複雑にする1)。
MGD治療においてはデバイスの改良が進んでいる。LipiFlowの新型半透明アクチベーター(Activator Clear)は、半透明素材により装着位置の確認が容易となり、100%の治療完遂率が報告されている2)。
鼻腔内神経刺激(intranasal neurostimulation)はマイボーム腺の形態変化を誘導する可能性が報告されており、新たな治療モダリティとして研究が進められている1)。
性ホルモン療法の分野では、局所テストステロン点眼液やDHEA補充の研究が行われているが、現時点で十分なエビデンスには至っていない1)。
IL-1受容体拮抗薬(アナキンラ)のMGDへの応用も検討されているが、発表された研究はまだ存在しない1)。
MGDの病態解明においては、マイボーム腺で400以上の遺伝子発現変化が報告されており、遺伝子レベルでの病態理解が進みつつある。
- Sabeti S, Kheirkhah A, Yin J, Dana R. Management of meibomian gland dysfunction: a review. Surv Ophthalmol. 2020;65(2):205-217.
- Hu JG, Dang VT, Chang DH, et al. Performance of a Translucent Activator for LipiFlow Vectored Thermal Pulse (VTP) Treatment of Meibomian Gland Dysfunction. Clin Ophthalmol. 2022;16:963-971.