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角膜・外眼部疾患

巨大角膜

巨大角膜(megalocornea)は、角膜水平径が13mm以上(新生児では12mm以上)を呈する非進行性の先天異常である。通常は両眼性で左右対称を示す。角膜は透明で、角膜厚も正常である。

前眼部全体が拡大する場合は前部巨大眼球症(anterior megalophthalmos)と呼ばれる。虹彩隅角水晶体の異常を伴い、深前房、虹彩振盪、水晶体振盪を認める。

巨大角膜の正確な発生率は不明であるが、まれな疾患である。X連鎖劣性遺伝形式をとるため約90%が男性に発症する。

単独の眼疾患として発症するほか、全身症候群の一部として認められることもある。PGAP3遺伝子変異によるHPMRS4(hyperphosphatasia with mental retardation syndrome 4)では、巨大角膜が初発症状として先天緑内障と誤診された報告がある2)。染色体13q21.33-q31.1欠失に伴う巨大角膜も報告されている5)

Q 巨大角膜と先天緑内障(牛眼)はどう違いますか?
A

巨大角膜は角膜が拡大するものの透明で、眼圧は正常であり、Haab線(Descemet膜の破裂線)を認めません。先天緑内障では角膜拡大に加え眼圧上昇、角膜浮腫、Haab線、視神経乳頭陥凹の進行を伴います。巨大角膜では輪部の境界が明瞭であるのに対し、先天緑内障では不明瞭になる点も鑑別に有用です。

原発性巨大角膜は自覚症状に乏しいことが多い。屈折異常による霧視が主訴となる場合がある。角膜が急峻であるため直乱視近視を呈しやすい。

合併症として緑内障を発症した場合には頭痛や視力低下を訴える。29歳男性の報告例では、間欠性頭痛と進行性の霧視が受診契機となった1)

角膜水平径13mm以上の両側性角膜拡大が特徴である。角膜は透明で、角膜厚は正常ないしやや菲薄化する。

前眼部所見

深前房:前房深度は著明に増大する。前部巨大眼球症では5mm以上に達する3)

虹彩振盪・水晶体振盪毛様体輪の拡大によりチン小帯が伸展し、虹彩と水晶体の動揺を呈する1)

隅角所見:広隅角を示し、線維柱帯の色素沈着増加を認めることがある1)

内皮細胞密度:正常範囲である。先天緑内障による角膜伸展とは異なる。

合併所見

色素散布症候群:虹彩の伸展による透照欠損が色素散布・色素性緑内障の素因となる1)

白内障:早発性白内障の合併が報告される。後嚢下混濁や核硬化を呈する3)

水晶体偏位:チン小帯の脆弱により水晶体亜脱臼を生じうる。

硝子体異常:硝子体液化・硝子体混濁格子状変性など硝子体網膜異常を伴う場合がある4)

前部巨大眼球症の生体計測では、眼軸長は正常範囲であるが前房深度が著明に深いことが特徴である。ある報告では前房深度が6.39mmに達し、白対白径が15.0mmであった3)。硝子体指数(硝子体長/眼軸長×100)が69%以下を示すことが前部巨大眼球症の診断に有用とされるが、非典型例では70%以上の値を示す場合もある4)

巨大角膜の主要原因はCHRDL1遺伝子(Xq23)の変異である。CHRDL1はventroptin(BMP-4アンタゴニスト)をコードする。BMP-4は前眼部の発達に関与する成長因子であり、ventroptin欠損によりBMP-4シグナルが制御不能となり前眼部の過成長が生じる。

遺伝形式は以下の通りである。

  • X連鎖劣性遺伝:最も多い。約90%が男性に発症する
  • 常染色体優性遺伝:まれに報告される
  • 常染色体劣性遺伝:まれに報告される
  • 非家族性(孤発例):家族歴がない散発症例の報告もある4)

症候群性の巨大角膜も認められる。PGAP3遺伝子(GPI欠損関連)の変異ではHPMRS4の一部として巨大角膜を呈する2)。13q21.33-q31.1欠失例ではPOU4F1遺伝子のハプロ不全が角膜発達異常に関与する可能性が示唆されている5)

全身疾患との関連として、Frank-Ter Haar症候群(骨格形成不全・発達遅滞)、Neuhauser症候群(巨大角膜・精神遅滞症候群)、Marfan症候群、Down症候群などが知られる。

Q 女性でも巨大角膜は発症しますか?
A

はい、まれに発症します。最も多い遺伝形式はX連鎖劣性遺伝のため男性に多いですが、常染色体優性・常染色体劣性の遺伝形式をとる場合や、症候群の一部として女性に発症する例が報告されています。PGAP3遺伝子変異による症候群性巨大角膜の女児例も報告されています2)

巨大角膜の診断は角膜水平径の計測と先天緑内障の除外に基づく。

細隙灯顕微鏡検査で角膜径の増大、虹彩振盪、水晶体振盪を確認する。隅角検査では広隅角・線維柱帯色素沈着の評価を行う。先天緑内障との鑑別では、眼圧正常、Haab線なし、角膜透明、視神経乳頭陥凹の進行なしを確認する。

所見巨大角膜先天緑内障
眼圧正常上昇
Haab線なしあり
角膜透明度透明浮腫あり

超音波生体顕微鏡(UBM)では深前房と延長したチン小帯を描出できる1)光干渉断層計(OCT)による前房深度の定量評価も有用である4)

遺伝子検査(CHRDL1)は確定診断に有用である。症候群性が疑われる場合は全エクソーム解析(WES)が推奨される2)5)。全身検査により症候群の合併を除外する。

PGAP3変異例では巨大角膜が先天緑内障と誤診され、不必要な抗緑内障薬が投与された報告がある2)。正確な鑑別診断が治療方針の決定に不可欠である。

巨大角膜自体に対する治療は不要である。長期的な定期経過観察を行い、合併症が生じた場合にその治療を行う。屈折異常には眼鏡やコンタクトレンズによる矯正を行う。

白内障手術

術前計画:深前房、チン小帯脆弱、大きな嚢のため眼内レンズ選択が重要となる3)。眼内レンズ度数計算には注意を要する。

手術手技:極度に深い前房での白内障へのアクセスが困難である。嚢上への核脱出により小帯への負荷を軽減する方法が報告されている3)

眼内レンズ選択:標準径眼内レンズでは嚢内での安定性が不十分となる場合がある。虹彩クロー眼内レンズ、虹彩縫着眼内レンズ、カスタム大口径眼内レンズなどが選択肢となる3)

術後管理:眼内レンズ偏位・脱臼のリスクがあり、長期の経過観察が必要である。

緑内障治療

薬物治療:点眼薬による眼圧コントロールを第一に試みる。

レーザー治療:レーザー虹彩切開術(LPI)により逆瞳孔ブロックを解除できる場合がある1)

手術治療:薬物療法で制御困難な場合は緑内障ドレナージデバイス(GDD)が選択される1)線維柱帯切除術も施行されるが、術後の脈絡膜剥離に注意を要する4)

定期的な経過観察:色素散布症候群を伴う場合は緑内障発症のモニタリングが重要である1)

巨大角膜眼に対する眼内レンズの強膜内固定術では、角膜径が大きいためハプティクスの強膜溝内固定距離が不足し、眼内レンズ偏位のリスクが高まる。経虹彩垂直強膜内ハプティクス固定術(trans-iris vertical intrascleral haptic fixation)が報告され、虹彩切開を介してハプティクスを後部輪部から強膜溝に導出することでより長いハプティクス固定長を確保する方法が提案されている6)

Q 白内障手術で特に注意すべき点は何ですか?
A

巨大角膜眼の白内障手術では、極度に深い前房での操作の困難さ、チン小帯脆弱による嚢破損・核落下のリスク、大きな嚢による標準径眼内レンズの不安定性が問題となります。術前の生体計測を慎重に行い、虹彩クロー眼内レンズや大口径眼内レンズなど適切な眼内レンズを選択することが重要です3)。術後も眼内レンズ偏位のリスクがあるため長期経過観察が必要です。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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巨大角膜の発症機序は胎生期の前眼部発達異常に起因する。

CHRDL1遺伝子変異ではventroptin(BMP-4アンタゴニスト)が欠損する。BMP-4は主に網膜前部で発現し、角膜実質・内皮の発育を制御する。ventroptin欠損によりBMP-4シグナルが脱抑制され、前眼部の過成長が生じる。一般的な仮説として、前眼杯の癒合不全により角膜が平均以上に成長するとされる。

胎生期の眼杯前方への成長遅延が原因とする説もある。虹彩-水晶体隔膜の後方偏位や、正常な内皮細胞密度(緑内障による角膜伸展での低密度とは対照的)はこの説を支持する。

前部巨大眼球症では毛様体輪の拡大が本態である。毛様体の形成異常によりチン小帯が延長・脆弱化し、虹彩-水晶体隔膜の不安定性が生じる。虹彩の伸展は透照欠損を生じ、線維柱帯への色素散布を増加させて色素性緑内障の素因となる1)

POU4F1遺伝子の角膜発達への関与も近年注目されている。POU4F1はRGC(網膜神経節細胞)の分化に関与する転写因子である。マウスモデルではPOU4F1欠損により角膜実質の菲薄化、前房深化、角膜曲率の平坦化、コラーゲン配列の乱れが示されている。ヒトにおいても13q21.33-q31.1欠失によるPOU4F1ハプロ不全と巨大角膜の関連が初めて報告された5)

巨大角膜に関する大規模臨床研究は少なく、知見の多くは症例報告に基づいている。

遺伝学的研究では、PGAP3変異によるHPMRS4症候群における巨大角膜の報告2)や、POU4F1遺伝子の角膜発達への関与を示唆する染色体13q欠失の報告5)など、巨大角膜の原因遺伝子の多様性が明らかになりつつある。全エクソーム解析や全ゲノム解析の普及により、新たな原因遺伝子の同定が期待される。

手術手技の面では、巨大角膜眼における眼内レンズ固定の新しいアプローチとして経虹彩垂直強膜内ハプティクス固定術が報告され、大きな角膜径に対応した安定的な眼内レンズ固定法が開発されている6)

非家族性の前部巨大眼球症の報告4)は、本疾患の臨床的多様性を示しており、遺伝形式によらない発症機序の解明が今後の課題となる。

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