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角膜・外眼部疾患

巨大円蓋部症候群(GFS)

1. 巨大円蓋部症候群(GFS)とは

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巨大円蓋部症候群(giant fornix syndrome:GFS)は、再発性の膿性結膜炎を伴う稀な慢性炎症性疾患である。2004年にジェフリー・ローズ(Geoffrey Rose)によって初めて報告された。

上眼瞼円蓋部(superior fornix)の解剖学的構造が異常に深い高齢者に発生し、慢性的な結膜分泌物(目やに)と二次的な角膜・眼瞼病変を特徴とする。

  • 好発年齢:70〜90代。年齢の中央値は75歳
  • 性差:複数の症例シリーズで女性に多い傾向が報告されている
  • 有病率:過小診断のため正確なデータは限られている。認識不足から診断が見落とされたり、何年も遅れたりすることが多い

大量の分泌物を伴う慢性再発性の膿性結膜炎が主な臨床像である。

  • 膿性分泌物:大量の粘膿性分泌物が持続的にみられる
  • 充血:結膜の炎症と充血を伴う
  • 疼痛・刺激感:異物感、灼熱感、乾燥感を訴える
  • 流涙:涙液排泄機能の障害に伴う
  • 視力低下:角膜病変が進行した場合に生じる

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

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  • 粘膿性分泌物と偽膜:瞼結膜に乳頭結膜炎を認め、円蓋部に厚い偽膜(pseudomembrane)を形成する
  • 異常に深い上円蓋部:しばしば2〜3cmに達する。眼瞼反転により確認できる
  • 眼瞼下垂:重症の上瞼結膜炎に続発する
  • 黄色のデブリ凝塊:炎症を起こした上円蓋部内に認める
  • 眼瞼縁炎:眼瞼縁の発赤や毛細血管拡張がみられる
  • 点状表層角膜症:可逆的な場合もあるが、持続的な上皮変性に至ることがある
  • 角膜合併症:長期経過例では血管新生、実質瘢痕、角膜潰瘍・穿孔を来す可能性がある
  • CT所見:上結膜円蓋部に遊離ガス(free air)が認められることがある

GFSは通常片眼性であるが、稀に両眼性の報告もある。典型的には上円蓋部の病変であるが、下円蓋部の関与も報告されている。

Q GFSは必ず片眼性ですか?
A

GFSは通常片眼性であるが、稀に両眼性の症例も報告されている。また典型的には上円蓋部が主座であるが、下眼瞼の手術歴がある患者で下円蓋部のみが関与した症例も報告されている。

  • 年齢:最大のリスク要因である。加齢に伴う上眼瞼挙筋腱膜の瞼板からの離断が上円蓋部の深さを増す
  • 上眼瞼溝の拡大:GFS患者では通常認められ、円蓋部の深さが2〜3cmに達する
  • 性別:症例シリーズでは女性に好発する傾向がある
  • 常在菌の慢性定着:まつ毛や結膜円蓋部における常在菌が定着の場となる。最も頻繁に分離される菌は黄色ブドウ球菌である

GFSの診断は主に臨床所見に基づく。異常に深い上円蓋部の存在が裏付けとなる。円蓋部の深さが25mmを超える場合にGFSが発生しやすいとされるが、臨床徴候の存在が診断の決め手である。

特定の診断基準や重症度のグレーディングシステムは確立されていない。紹介・診断までの症状持続期間は平均2年とされ、見落としが多い疾患である。

  • 眼瞼反転:厚い偽膜と深い結膜円蓋部を確認する
  • 細隙灯顕微鏡検査:結膜・角膜を覆う粘膿性分泌物、乳頭結膜炎、点状表層角膜症を観察する
  • 涙嚢圧迫:涙点からの粘液逆流の有無を確認する
  • 眼底検査:通常は異常を認めない
  • 細菌培養:膿性結膜分泌物の培養で高い菌量が検出される。黄色ブドウ球菌と表皮ブドウ球菌が最も一般的に分離される
  • 結膜生検:多数の形質細胞と、胚中心を伴う小型で分化の良いリンパ球を伴う激しい慢性炎症が認められる
  • CT検査:上結膜円蓋部の遊離ガスを確認できる場合がある
  • 眼アレルギー:類似症状を呈し誤診の原因となるが、喘息や皮膚炎などのアトピー性疾患を伴うことが多い
  • 慢性涙嚢炎:関与する菌がGFSと同様である。涙嚢炎治療後も結膜炎が改善しない場合はGFSの評価を行う
  • 眼瞼縁炎:慢性的な眼刺激症状の一般的な原因
  • ドライアイ:慢性的な充血・刺激感を呈する
  • 上強膜炎強膜炎:充血と疼痛を来す炎症性疾患

GFSは内科的治療と外科的治療を組み合わせて管理するが、完治は困難である。

  • 凝塊の除去と円蓋部洗浄:細菌量を減少させ、局所抗菌薬の到達性を改善する。治療の基本となるステップである
  • 局所抗菌薬:黄色ブドウ球菌はペニシリン系、セファロスポリン系、マクロライド系に感受性がある。MRSAが疑われる場合はバンコマイシン、トリメトプリム・スルファメトキサゾール、テトラサイクリン系を検討する。円蓋部凝塊内の細菌には高用量の抗菌薬が必要であり、低用量では根絶に成功しない
  • 10%ポビドンヨード洗浄:難治性症例では抗菌薬・ステロイドと併用して実施する。結膜表面の細菌コロニーを91%減少させることが知られている
  • 局所ステロイド:炎症の抑制を目的に追加される
  • 結膜下注射・全身抗菌薬:難治例で使用される
  • 人工涙液:眼表面の保護と角膜治癒の促進を目的に投与する

内科的治療で症状がコントロールできない場合に検討する。

円蓋部短縮術(forniceal reduction) が有効な外科的介入として報告されている。異常に深い円蓋部の長さを短縮し、解剖学的構造を矯正する。

  1. 上眼瞼および/または下眼瞼の瞼結膜を切除し、偽膜を除去する
  2. 電気焼灼器を用いて下層の炎症を起こした結膜床を切除する
  3. 結膜下への抗菌薬注射(セファゾリン、バンコマイシンなど)を行う

6人の症例シリーズでは、円蓋部の深さが平均4.75mm短縮され、全員が術後の症状改善を報告した。6人中5人は完全な消失を達成している。パターマンクランプ(Putterman clamp)の使用により手術成績が向上する。

涙液排泄の改善を目的に眼瞼手術や涙道手術が併用されることもある。術前の凝塊・分泌物培養が術中・術後の抗菌薬選択の指針となる。

Q 円蓋部短縮術の成績はどうですか?
A

6人の症例シリーズでは、円蓋部の深さが平均4.75mm短縮され、全員が術後1ヶ月までに症状消失を達成した。6人中5人で完全寛解が得られたが、1人は再発を経験している。手術合併症の報告はない。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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GFSの正確なメカニズムは完全には解明されていないが、以下の悪循環が病態の中心と考えられている。

  1. 常在菌による炎症の惹起:眼瞼や結膜の常在菌(主に黄色ブドウ球菌)が亜臨床的または臨床的な炎症を引き起こす
  2. 蛋白性滲出物の分泌:炎症を起こした瞼結膜から蛋白性滲出物が分泌される
  3. 凝塊の形成:滲出物が異常に深い上円蓋部で凝塊を形成する
  4. 細菌の定着:凝塊にさらに細菌が定着し、眼表面に毒性環境を作り出す
  5. 炎症の増悪:炎症により円蓋部表面の粗造性(rugosity)が増し、さらなる蛋白性滲出物の放出と炎症の悪化が繰り返される

加齢に伴う上眼瞼挙筋腱膜の瞼板からの離断が上円蓋部の深さを増大させる。加えて、炎症による瞼結膜の変化も円蓋部構造に影響する。

  • 炎症性変化:粗造な表面積の増加により眼瞼下垂が促進される
  • プロスタグランジンの作用:瞼結膜の炎症細胞から放出されるプロスタグランジンが周囲組織の萎縮や眼球陥凹(enophthalmos)を伴う眼窩周囲病変を引き起こし、円蓋部をさらに深くする
  • 涙液排泄障害:細菌量の増加と感染リスクの悪化に寄与する

常在菌に関連した炎症が既存の異常な円蓋部構造を悪化させ、細菌叢を保持する追加の「デッドスペース」を生じさせるという悪循環が疾患を進行させ続ける。

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