単純性上強膜炎
頻度:より一般的
発症:急激
経過:約12時間でピーク、2〜3日で消退
所見:扇状(67%)またはびまん性(33%)の充血

上強膜炎(episcleritis)は、上強膜組織の炎症に起因する比較的よくみられる良性・自己限定的な充血疾患である。発症率は年間10万人あたり41.0人、有病率は52.6人と報告されている。
強膜炎の臨床所見による分類はWatson分類が汎用される。部位別に上強膜炎・前部強膜炎・後部強膜炎に大別される。上強膜炎はTenon囊血管叢など浅在性血管叢の炎症であり、壊死性タイプを欠く点が前部強膜炎と異なる。
単純性上強膜炎
頻度:より一般的
発症:急激
経過:約12時間でピーク、2〜3日で消退
所見:扇状(67%)またはびまん性(33%)の充血
結節性上強膜炎
頻度:やや少ない
発症:緩徐
経過:単純性より長引く傾向
所見:限局性の上強膜結節(可動性あり)
上強膜は強膜実質とTenon囊の間に位置する線維弾性構造である。外側の壁側層(浅層上強膜毛細血管網)と深部の臓側層(高度に吻合した血管網)の2層からなる。両血管網とも前毛様動脈に由来する。神経線維の多くは三叉神経からの分枝である。
圧痛はなく、眼脂を伴わない。激しい疼痛や眼脂がある場合は他の疾患を再検討する。
充血の特徴が鑑別の鍵となる。上強膜炎の充血は鮮やかな赤色またはピンク色を呈し、強膜炎の暗赤色(紫色を帯びた色調)とは対照的である。
| 所見 | 上強膜炎 | 強膜炎 |
|---|---|---|
| 充血の色調 | 鮮赤色〜ピンク | 暗赤色(紫色調) |
| 疼痛 | 軽微〜なし | 強い(放散痛あり) |
| 結節の可動性 | あり | なし |
視力はおおむね正常である。結膜浮腫・高眼圧・前部ぶどう膜炎・角膜炎の合併はまれである。
上強膜炎は眼脂を伴わず、充血部位は角膜輪部付近が中心です。一方、結膜炎は通常痛みがなく眼脂を伴います。また、結膜充血は円蓋部で最も顕著で輪部に近づくほど減衰しますが、上強膜の充血は輪部付近に局在します。結膜血管には可動性がありますが、上強膜血管には可動性がないことも鑑別点です。
大半は特発性(原因不明)である。患者の26〜36%に全身疾患が合併する。
膠原病・自己免疫疾患(最多は関節リウマチ)1):
血管炎:
感染症:細菌、マイコバクテリア、梅毒、ライム病、ヘルペスウイルス、帯状疱疹などがまれに原因となる。Dirofilaria repensによる結膜下寄生虫症が上強膜炎と誤診された例も報告されている7)。
その他:痛風、アトピー、異物、化学外傷、薬剤(トピラマート、パミドロン酸)、COVID-19の初期症状としての報告もある。
はい、約3割の患者さんに全身疾患が合併しています。最も多いのは関節リウマチですが、多発血管炎性肉芽腫症(GPA)やベーチェット病など、早期発見・治療が重要な疾患の初発症状となることもあります。再発を繰り返す場合や全身症状を伴う場合は、リウマチ因子・抗核抗体・ANCA・尿検査などの全身検査が推奨されます。
上強膜炎は主に病歴と細隙灯顕微鏡検査に基づく臨床診断である。
2.5%フェニレフリン点眼は結膜血管を収縮させ、結膜炎と上強膜炎の鑑別に有用である。10%フェニレフリン点眼は浅層上強膜血管網を収縮させるが深層血管網は収縮しないため、上強膜炎と強膜炎の鑑別が可能となる。
1,000倍希釈エピネフリン点眼で充血が消退すれば上強膜炎、消退しなければ強膜炎を示唆する。
単発の上強膜炎では広範な検査は不要である。再発を繰り返す場合や全身症状を伴う場合、以下の検査を考慮する。
多発血管炎性肉芽腫症の初発として上強膜炎が出現した場合、腎機能障害が併存することがある3)。眼炎症と腎機能異常の両方が認められた場合は、速やかに多発血管炎性肉芽腫症を含む全身性血管炎の検索を行う。
上強膜炎は多くが無治療で数日〜数週間で自然治癒する。患者への安心感の付与が管理の第一歩である。冷罨法や冷やした人工涙液も症状緩和に有効である。
低濃度ステロイド点眼が第一選択となる。
ステロイド点眼は速やかに症状を抑えるが、再発リスクを高め「リバウンド」充血を誘発する可能性が指摘されている。
強膜炎との鑑別にもステロイド・キノロン系抗菌薬の併用点眼が用いられる。点眼治療で反応が乏しい場合は強膜炎の精査・治療を行う。
関節リウマチなどの膠原病に合併する上強膜炎では、基礎疾患の治療が重要である1)。局所治療に抵抗性の場合、プレドニゾロン内服(20〜30mg/日からの漸減療法)を併用する。
多発血管炎性肉芽腫症に伴う上強膜炎では、シクロホスファミドやリツキシマブによる寛解導入療法が有効である3)4)。リツキシマブはシクロホスファミドと比較して6か月時の寛解率が高い(64% vs 53%)とする報告がある3)。
ステロイド点眼は上強膜炎の症状を速やかに抑えますが、中止後に「リバウンド」による充血を引き起こし、さらに強い発作を招く可能性が指摘されています。そのため、ステロイドの使用については議論の余地があるとする意見もあります。再発を繰り返す場合はNSAID内服や全身疾患の精査が推奨されます。
上強膜炎の正確な発症メカニズムは依然として解明されていない。
浅層上強膜血管網に血管充血が起こり、上強膜およびTenon囊にリンパ球を中心とする炎症細胞の浸潤がみられる。強膜自体は侵されない。
病理組織学的には非肉芽腫性で、血管拡張とリンパ球浸潤が特徴である。結節性上強膜炎では、病巣中央のフィブリノイド壊死とその周囲の類上皮細胞の配列がみられる。これらの所見から、上強膜炎と強膜炎の間に本質的な差はないとする見解もある。
炎症は活性酸素種(ROS)を増加させ、酸化ストレスを亢進させる2)。ヒト網膜のビタミンC総量は血漿中の20倍と高濃度であり、眼組織は抗酸化システムに依存している。自己免疫性上強膜炎では、この抗酸化システムの機能低下が上強膜の炎症と組織障害を引き起こす可能性が示唆されている2)。
上強膜炎が強膜炎に移行することはほとんどないとされるが、上強膜炎と強膜炎の病理学的所見には類似点が多い。強膜炎のほとんどの症例で上強膜にも炎症(上強膜炎)がみられることから、両者は炎症の深さの違いによるスペクトラムとして捉えることができる。
特発性再発性上強膜炎の60歳男性に対し、ビタミンC 500mg/日の内服を開始したところ、7か月間再発がなかったとする症例報告がある2)。ビタミンCは強力な抗酸化物質であり、酸化ストレスの軽減を介して眼組織の炎症を抑制する可能性がある。ただし、ケースコントロール研究や臨床試験による検証が今後必要である2)。
多発血管炎性肉芽腫症は未治療の場合、1年死亡率が80%に達する致死的疾患であるが、免疫抑制療法により10%に低減できる3)。上強膜炎が多発血管炎性肉芽腫症の初発症状となりうることから、眼科医はこの関連性を認識し、再発性の上強膜炎では全身検査を積極的に行う必要がある3)4)。特に眼炎症と腎機能障害の併存は多発血管炎性肉芽腫症を強く示唆する3)。
関節リウマチに伴う上強膜炎・強膜炎に対し、TNFα阻害薬やリツキシマブなどの生物学的製剤の有効性が報告されている1)。ただし、エタネルセプトは眼炎症を誘発・増悪させる逆説的反応が知られており、薬剤選択には注意を要する。
上強膜炎と診断された患者が実際には眼内転移性腫瘍であった症例6)や、結膜下寄生虫症であった症例7)が報告されており、難治性・再発性の上強膜炎では悪性疾患や感染症の除外が重要である。
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