眼瞼・前眼部所見
青色強膜:強膜の菲薄化・透明化によりぶどう膜が透見される。骨形成不全症とともに代表的な合併症である。
内眼角贅皮:18.6%に認められる。テレカントゥス(内眥間距離開大)を伴うことがある。
眼瞼下垂:32%に報告されている。弛緩眼瞼(floppy eyelid)も高頻度に認められ、V型コラーゲン異常との関連が示唆されている2)3)。
角膜菲薄化:パキメトリで菲薄化を示し、急峻な角膜曲率値や不正乱視を伴う。

エーラス・ダンロス症候群(Ehlers-Danlos syndrome:EDS)は、コラーゲンの構造遺伝子やその代謝酵素の遺伝子異常により結合組織が脆弱化する疾患群である。1901年にEhlersが皮膚・関節病変を報告し、1908年にDanlosが皮下偽性腫瘍を報告したことに由来する。
推定有病率は5,000人に1人である。性別・民族による偏りはない。2017年のエーラス・ダンロス症候群国際シンポジウムで13亜型が定められた1)。主要亜型と関連遺伝子を以下に示す。
| 亜型 | 責任遺伝子 | 遺伝形式 |
|---|---|---|
| 古典型(cEDS) | COL5A1/A2 | AD |
| 過可動型(hEDS) | 不明 | AD |
| 血管型(vEDS) | COL3A1 | AD |
このほか脆弱角膜症候群(BCS:ZNF469/PRDM5)、眼側弯型(kEDS:PLOD1)、古典様型(clEDS:TNXB)など多数の亜型が存在する1)。
EDSを、マルファン症候群、骨形成不全症、皮膚弛緩症、弾性線維性仮性黄色腫、ロイス・ディーツ症候群と区別することが重要である。
2017年の国際分類で13亜型に分類されています1)。古典型・過可動型・血管型が主要な亜型です。眼科的に特に重要なのは脆弱角膜症候群(BCS)と眼側弯型(kEDS)で、それぞれ角膜破裂や眼球破裂のリスクを伴います。
ドライアイ、視力低下、近見時の焦点合わせの困難、両眼性複視、頭痛を訴えることがある。血管型EDSでは頸動脈解離による一過性視覚障害やホーナー症候群が新規発症の視覚異常として現れることがある。
眼所見
眼瞼・前眼部所見
青色強膜:強膜の菲薄化・透明化によりぶどう膜が透見される。骨形成不全症とともに代表的な合併症である。
内眼角贅皮:18.6%に認められる。テレカントゥス(内眥間距離開大)を伴うことがある。
眼瞼下垂:32%に報告されている。弛緩眼瞼(floppy eyelid)も高頻度に認められ、V型コラーゲン異常との関連が示唆されている2)3)。
角膜菲薄化:パキメトリで菲薄化を示し、急峻な角膜曲率値や不正乱視を伴う。
水晶体・後眼部所見
円錐角膜:BCS型で特徴的である。円錐角膜はEDSの関連遺伝疾患として広く認知されている4)。
高度近視:25.3%に認められる。軸性近視が主体である。
網膜剥離:眼側弯型で合併しやすい。硝子体の液化を伴うことがある。
水晶体脱位:マルファン症候群ほど一般的ではないが報告がある。
眼窩下溝(29.3%)、離生眼(8%)、斜視(8%)、涙液層破壊時間の短縮(7%)なども報告されている。顕著な結膜弛緩症の症例報告もある。輻輳不全は比較的多い所見である。
全身所見
皮膚の過伸展性・脆弱性、萎縮性瘢痕が特徴的である。関節の過可動性は各亜型で程度が異なる。血管型では動脈解離・動脈瘤や腸管破裂などの重篤な合併症を呈する。
コロンビアの46歳女性は筋障害型EDSと診断されるまで40年を要した。ドライアイ、緑内障を合併し、全身的には易骨折、自顎関節脱臼、キフォスコリオーシスを呈していた1)。
脆弱角膜症候群(BCS)では軽微な外傷でも角膜破裂が起こりうるため、視力喪失のリスクがあります。眼側弯型では強膜の脆弱性から眼球破裂をきたす可能性があります。また高度近視に伴う網膜剥離も視力低下の原因となります。早期診断と適切な眼外傷予防が重要です。
EDSはコラーゲンの構造・修飾に関わる遺伝子の異常により発症する。主にI型・III型・V型コラーゲンが関与する。V型コラーゲンはI型コラーゲンと共に角膜に最も豊富に存在する結合組織蛋白であり、COL5A1のハプロ不全はヘテロ型I/V型原線維形成を障害する1)。
各亜型の責任遺伝子は異なる。古典型ではCOL5A1/COL5A2、血管型ではCOL3A1、眼側弯型ではPLOD1(リジン水酸化酵素欠損)、BCSではZNF469/PRDM5が同定されている1)。古典様型はTNXB(テネイシンX蛋白)の欠失による。
第一度近親者にEDS患者がいることが最大のリスク因子である。遺伝形式は亜型により常染色体優性(AD)と常染色体劣性(AR)がある。孤発例は突然変異による。
各亜型に固有の臨床診断基準が設定されている。古典型では皮膚の過伸展性・萎縮性瘢痕に関節過可動性を要する。BCSでは角膜菲薄化(円錐角膜または球状角膜を伴う)が主要基準となる。
| 評価法 | 判定基準 | 診断能 |
|---|---|---|
| Beightonスコア | ≥5/9で陽性 | 標準的指標 |
| 5項目質問票 | ≥2で陽性 | 感度80-85% |
Beightonスコアでは小指の背屈・親指の前腕屈曲・肘と膝の過伸展・体幹前屈の5種9項目を評価する。年齢・性別に応じたカットオフが使用される場合がある。
全症例で分子診断が推奨される。次世代シーケンシング(NGS)によるDNA検査が利用される1)。眼側弯型では尿中デオキシピリジノリン:ピリジノリン比の上昇がリジン水酸化酵素活性の低下を反映する。BCSではこの比率は正常である。
| 鑑別疾患 | 主な特徴 |
|---|---|
| 骨形成不全症 | 青色強膜、易骨折 |
| マルファン症候群 | 水晶体脱位、高身長 |
| ロイス・ディーツ症候群 | 離生眼、大動脈解離 |
スティックラー症候群(硝子体網膜異常・感音難聴)、皮膚弛緩症(皮膚垂れ下がり・正常創傷治癒)も鑑別に挙がる。
EDSに根治療法はない。治療は対症療法中心であり、多職種チームによる管理と遺伝カウンセリングが行われる1)。全例で完全な眼科的検査を受けるべきである。
眼科的管理
輻輳不全:輻輳訓練・調節療法を行う。
眼外傷予防:保護用アイウェアの常時使用を指導する。脆弱な亜型では特に重要である。
ドライアイ:涙液層破壊時間の短縮がみられれば人工涙液を処方する。
角膜管理:BCSでは角膜破裂の予防が最重要であり、接触スポーツを禁止する。
全身的管理
疼痛管理:NSAIDsが第一選択である。オピオイドは短期使用に限る1)。局所にはリドカイン注射が使用される。
運動指導:脆弱な亜型ではコンタクトスポーツを避ける。サポーター装着を指導する。
心血管管理:血管型ではエコーによる大動脈径の定期監視が必要である。
サプリメント:コンドロイチン、CoQ10、アスコルビン酸などの有効性は十分に証明されていない。
網膜剥離に対しては網膜復位術・硝子体手術が行われる。眼側弯型では眼球の脆弱性を考慮し、十分な経過観察のもとで手術適応を判断する。眼瞼形成や斜視手術の適応症例もある。角膜穿孔に至った場合は組織接着剤や構造的角膜移植が必要となる。
手術自体は可能ですが、通常より合併症率が高いことが知られています。皮膚の脆弱性から縫合部の離開や瘢痕増大のリスクがあり、術前にEDSの診断がついていることが望ましいとされています。保護用アイウェアによる外傷予防で手術を回避できる場合もありますので、眼科医とよく相談してください。
EDSの電子顕微鏡観察では、コラーゲン原線維の破壊が認められ「コラーゲン・フラワー」と呼ばれる特徴的な外観を呈する。
古典型では、COL5A1/COL5A2変異によりV型コラーゲンが異常となり、I型・III型コラーゲンの組み立ても障害される1)。V型コラーゲンは少量成分ながらI型コラーゲン含有組織(皮膚・腱・靱帯・角膜・強膜)に広く分布している。ヘテロ型I/V型原線維形成における調節異常が角膜菲薄化や眼瞼弛緩の基盤と考えられている2)。
古典型EDS(I/II型)ではCOL5A1/COL5A2変異によるV型コラーゲン合成障害がみられる。V型コラーゲンは角膜・強膜のI型コラーゲン原線維に組み込まれている。EDS患者では上眼瞼の弛緩、V型コラーゲン総量の減少、角膜厚の減少が報告されている2)。眼瞼弛緩症候群(FES)の病態としてI/V型コラーゲン相互作用の異常が仮説的に提唱されている3)。
EDSに伴う円錐角膜は、角膜コラーゲンの分解亢進を反映する。角膜円錐ではマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)活性の上昇とその組織阻害因子(TIMP)の低下が示されている4)。EDSは異常コラーゲンおよび超弾性と関連する結合組織疾患として、角膜円錐のリスク因子に位置づけられている4)。
血管型(vEDS):COL3A1変異によるIII型コラーゲン異常が動脈壁・腸管壁の脆弱化を招く。30〜40代での動脈破裂による突然死リスクがある。眼科的には内頸動脈海綿静脈洞瘻や網膜下出血を合併しうる。
脆弱角膜症候群(BCS):ZNF469/PRDM5変異により細胞外マトリックス成分の発現が障害される1)。角膜の菲薄化が著しく、円錐角膜または球状角膜を呈し、軽微な外傷で眼球破裂が起こりうる。
眼側弯型(kEDS):PLOD1変異によるリジン水酸化酵素欠損が原因。強膜脆弱性から眼球破裂、水晶体脱臼、網膜剥離を合併する。
2017年の国際分類で13亜型が確立され1)、分子診断に基づく精密な亜型分類が可能となった。次世代シーケンシングの普及により、これまで未分類であった症例の遺伝的基盤の解明が進んでいる。
過可動型EDS(hEDS)の線維芽細胞では、線維芽細胞→筋線維芽細胞移行(FMT)の亢進が示されている。αVβ3インテグリン-ILK-Snail1/Slugシグナルを介するこの変化は、結合組織リモデリングの異常として注目される。
角膜トポグラフィー・トモグラフィー技術の進歩により、EDS患者における潜在的な角膜ectasiaの早期検出が可能になりつつある4)。EDS患者の定期的な角膜形状解析が推奨される方向にある。
hEDSの責任遺伝子はいまだ同定されていない。慢性疼痛管理のエビデンス構築も重要な課題である1)。眼科領域では、弛緩眼瞼とV型コラーゲン異常の因果関係の解明2)、BCSにおける角膜補強法の開発、EDS患者に対する眼科手術の安全性向上が求められる。