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角膜・外眼部疾患

角膜組織付加技術(CAIRSおよびCTAK)

1. 角膜組織付加技術(CAIRSおよびCTAK)とは

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角膜同種移植片実質内リングセグメント(CAIRS: Corneal Allogenic Intrastromal Ring Segments)は、円錐角膜を含む角膜拡張症に対してドナー角膜組織由来の実質セグメントを角膜内に挿入し、角膜形状を改善する手術手技である。2018年にSoosan Jacob博士が初めて報告した2)。合成ポリマー製のICRS(intrastromal corneal ring segments)と異なり、生体適合性に優れ宿主組織と自然に統合される。

角膜組織付加角膜形成術(CTAK: Corneal Tissue Addition Keratoplasty)は関連する手技であり、CorneaGen社が加工したガンマ線照射済みドナーセグメントを使用する。フェムト秒レーザーのみでセグメントを作製・挿入する点がCAIRSと異なる。

Jack Parker博士は徒手的な挿入法や挿入前の脱水法(「コーニアル・ジャーキー」法)を開発し、手術の柔軟性とアクセシビリティを拡大した。

CAIRS

ドナー組織:アイバンクからの角膜組織(KeraNatural®等)

作製法:徒手的またはフェムト秒レーザーガイド下

特徴:弧の長さ・厚さ・テーパーを術中にカスタマイズ可能。リソースが限られた環境でも実施できる

CTAK

ドナー組織:CorneaGen社加工のガンマ線照射済みセグメント

作製法:フェムト秒レーザーのみ

特徴:追加の滅菌工程と精密なセグメント測定が標準化されている。トポグラフィーに基づくカスタマイズが可能

Q CAIRSと合成ICRS(INTACS、Keraring)の違いは何ですか?
A

合成ICRSは硬いポリマー(PMMA)製で角膜深層に挿入しますが、CAIRSはヒトドナー角膜組織製で浅い深度にも挿入可能です。CAIRSは生体適合性が高く露出・角膜融解・新生血管のリスクが低いこと、弧の長さや厚さを自由にカスタマイズできること、光学的異常(グレア・ハロー)が少ないことが利点です。

CAIRSおよびCTAKの主な適応は以下の通りである。

  • 円錐角膜:進行性の角膜菲薄化と円錐状突出による不正乱視。コンタクトレンズで矯正不十分な症例
  • LASIK後角膜拡張症屈折矯正手術後に発生した角膜の進行性変形
  • 合成ICRS不全例:ICRS露出、前房内迷入、角膜融解等の合併症を生じた症例1)

追加の適応基準として、眼鏡やコンタクトレンズによる十分な矯正が得られないこと、コンタクトレンズ不耐症、18歳以上であることが報告されている。

角膜拡張症に共通する自覚症状として以下がある。

  • 進行性の視力低下:不正乱視の増大に伴い、眼鏡では矯正不能となる
  • 頻繁な眼鏡処方変更:初期は矯正できるが次第に矯正効果が低下する
  • コンタクトレンズの不安定性:ハードコンタクトレンズの偏心や脱落

円錐角膜では角膜中央の実質が菲薄化し前方に突出する。Vogt線条(実質深層の縦走微細線条)、Fleischer環(円錐基底部の上皮内鉄沈着)、角膜瘢痕が特徴的所見である2)角膜形状解析では局所的急峻化とパターンの非対称性が確認される。

円錐角膜は通常両眼性であるが重症度に左右差を認めることが多い。思春期に発症し30歳頃に進行が停止ないし緩徐になる傾向がある3)。治療介入なしでは約20%の症例が角膜移植を要する2)

  • 中央部の角膜瘢痕または混濁
  • 極度の角膜菲薄化(320μm未満)
  • 活動性の角膜感染症または炎症
  • 自己免疫疾患または結合組織疾患
  • 妊娠中および授乳中
評価項目内容
視力検査UDVA・CDVA測定
角膜形状解析Kmax・Kmean・角膜非対称性
前眼部OCT角膜厚・円錐位置の評価

スリットランプ検査で角膜菲薄化・突出・Vogt線条・Fleischer環の有無を確認する2)。角膜トモグラフィー(Pentacam等)で前後面曲率、角膜厚マップ、エレベーションマップを取得し、角膜拡張の程度と進行を評価する2)

小児・若年者の円錐角膜では進行速度が速い場合がある3)。KERALINK試験では若年患者におけるクロスリンキングの進行抑制効果が検討された4)

CAIRSの手術計画にはいくつかのノモグラムが提案されている。

Jacobノモグラム:円錐の位置、離心率、角膜曲率値、非対称パターンを組み込み、セグメントの数・弧の長さ・厚さをカスタマイズする。

Istanbulノモグラム:円錐の位置(中心性/偏心性)に基づく計画。チャネル深度250μmを推奨するが、急峻な円錐ではより浅い深度が有効な場合がある1)

Awwadノモグラム:ICRS用ノモグラムを適応させ、トポグラフィー・トモグラフィー・臨床判断に基づく。

現時点で普遍的に受け入れられたCAIRSのノモグラムは存在しない。円錐角膜の形態学的多様性のため、外科医の判断と個別化が重要である。

CAIRSのセグメントはヒトドナー角膜に由来する。主に2つの調達経路がある。

アイバンクからのパッケージ済みセグメント:Lions VisionGift等のアイバンクがカット済み滅菌済み実質セグメント(KeraNatural®)を提供する。常温保存が可能で術中カスタマイズの必要性を排除する。

カスタム準備:角膜リムから手作業で上皮・デスメ膜・内皮を除去し、トレパンでリングセグメントを作成する。弧の長さ・厚さ・テーパー・曲率を個別に調整可能である。

CTAKではCorneaGen社の保存・ガンマ線照射済み組織をBSSで洗浄し、フェムト秒レーザーの固定装置に装着する。

フェムト秒レーザーまたは徒手的剥離でチャネルを作成する。チャネル深度は全角膜厚の35〜70%(または表面から250μmの固定深度)に設定する。導入切開は急峻軸上または上方に行い、内径4〜6.5mm、外径6.1〜8mmの範囲でチャネルを作製する。

合成ICRSではチャネルは角膜深層(70〜80%深度)に作製するが2)、CAIRSはより浅い深度に挿入可能であり、より大きな平坦化効果が期待できる1)

水和法(Hydrated Method)

手順:水和したセグメントを鉗子やYロッド等でチャネル内に挿入する

利点:自然な柔軟性と本来の厚さを維持し角膜曲率に穏やかに適合する

注意点:柔軟性のため折れやねじれのリスクがある。Bowman膜側にマーカーで印を付け方向を確認する

脱水法「コーニアル・ジャーキー」

手順:セグメントを20〜75分間空気乾燥させてから挿入し、術後BSSで再水和する

利点:硬く小さくなるため迅速な挿入が可能。術中時間が約1/3に短縮される

注意点:重度の円錐角膜に対してより大きなセグメントの使用を容易にする

  • 局所抗菌薬:1日4回、1〜2週間
  • 局所ステロイド:1日4回から開始し4〜6週間で漸減
  • バンデージコンタクトレンズ:術後数日間使用する場合がある

術後はトポグラフィー/トモグラフィーと前眼部OCTで角膜形状変化とセグメント位置を評価する。UCVA、CDVA、Kmax、Kmeanを経時的に追跡する。

CAIRS失敗例を生じた合成ICRSのレスキューとしてCAIRSが有効である1)。49歳女性のICRS不全例(UCVA 20/400)では合成ICRSを除去し3ヵ月後にCAIRSを挿入、Kmax 68.9→61.9D、UCVA 20/30に改善した1)。40歳女性の破損ICRS例ではICRSを残したままCAIRSを併用挿入し、UCVA 20/60→20/25、BCVA 20/20に改善した1)

Q CAIRSの効果は永続的ですか?
A

CAIRSの効果は現在の報告では最長3年まで安定した改善が維持されています。すべての視覚的・トポグラフィー的パラメータが6ヵ月までに安定し、3年間維持されたとのデータがあります。ただし、より長期のデータは限られており、今後の研究結果が待たれます。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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CAIRSセグメントは角膜実質内に挿入されることで、物理的に角膜の急峻部を平坦化する。合成ICRSと同様のアーチ短縮効果(arc shortening effect)により、円錐部分の曲率を減少させ不正乱視を軽減する。

合成ICRSは角膜深層(70〜80%深度)に挿入する必要があるが、CAIRSは浅い深度(35〜70%)でも挿入可能である1)。浅い位置での挿入はより大きな平坦化効果を生み出す可能性がある。ドナー角膜組織は合成ポリマーと異なり宿主角膜と光学的に調和するため、エッジ効果によるグレアやハローが少ない。

同種セグメントは無血管で細胞密度の低い角膜実質層に植え込まれる。この環境では線維性癒着が最小限に抑えられ、手術の可逆性が保たれる。合成ICRSで問題となる角膜融解、急性実質壊死、角膜新生血管のリスクも低減される。CAIRSの挿入は将来的なDALKなどの追加介入を妨げない。

拒絶反応の可能性は理論的に存在するが、そのリスクはDALK(深層前層角膜形成術)よりも低いと考えられている。

角膜への機械的侵襲はTGF-βシグナルを介して創傷治癒応答を誘発する。CAIRSでは合成素材と異なりドナー組織がECMの構成成分と同等であるため、異物反応が最小限に抑えられると考えられている。

系統的レビュー(Levyら、2025年)によると、CAIRS植え込み後の平均UDVAは0.83→0.40 logMAR、CDVAは0.52→0.19 logMARに改善した。等価球面度数は−7.09D→−2.34Dに減少し、Kmaxは57.8→53.6D、Kmeanは49.3→45.3Dに低下した。

指標術前術後
UDVA (logMAR)0.830.40
CDVA (logMAR)0.520.19
Kmax (D)57.853.6

CTAKでもGreensteinら(2023年)が21眼で同様の改善を報告している。平均UDVAは1.21→0.61 logMAR、CDVAは0.63→0.34 logMARに改善した。

CAIRSの合併症は少なく軽微である。一過性ドライアイとチャネル内沈着が最も多いが、臨床的に有意ではなく非進行性であった。セグメント偏位が1例報告されたが術後1週間以内に整復に成功した。重度アトピー患者で前実質融解が1例観察されている。グレアやハローは検討された全研究で1名のみであり、合成ICRSと比較して著しく低い。

合成ICRS不全例へのCAIRSレスキュー

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合成ICRSの合併症発生率は最大30%と報告されている1)。ICRS露出、前房内迷入、角膜融解等の合併症に対し、CAIRSによるレスキューが成功例として複数報告されている1)。ICRS除去後のCAIRS挿入のみならず、ICRS残存下でのCAIRS併用挿入(異なる光学ゾーン)も有効であった1)

CAIRSの最も有望な進展はセグメントのカスタマイズである。個々のトポグラフィーに基づき弧の長さ・厚さ・配置を調整することで、非対称な円錐や偏心した円錐に対する効果が向上する。ノモグラムの標準化、組織準備プロトコルの精緻化、大規模長期縦断研究が今後の課題である。

経済面では1つのドナー角膜から複数のセグメントを作成でき、中央ディスクはDALKやDMEK用に、周辺リムは輪部幹細胞採取に利用可能である。徒手的剥離技術によりフェムト秒レーザーが不要となるため、リソースが限られた環境でも実施可能な点も利点である。

Q クロスリンキング(角膜クロスリンキング)との併用は必要ですか?
A

クロスリンキングの同時施行については外科医により方針が異なります。進行が確認された症例や長期安定性を高めたい場合に併用されます。同時施行のクロスリンキングは術後の角膜平坦化維持に役立つとされますが、術前のクロスリンキングにより実質が硬くなるとCAIRSの平坦化効果が減少する可能性も示唆されています。担当医と十分にご相談ください。

  1. AlQahtani BS, Alsulami RA. The role of corneal allogenic intrastromal ring segments (CAIRS) implantation after failed synthetic intracorneal ring segments (ICRS): A rescuer. Am J Ophthalmol Case Rep. 2025;38:102287.
  1. American Academy of Ophthalmology Corneal/External Disease Preferred Practice Pattern Panel. Corneal Ectasia Preferred Practice Pattern. San Francisco, CA: American Academy of Ophthalmology; 2024.
  1. Meyer JJ, Gokul A, Vellara HR, et al. Progression of keratoconus in children and adolescents. Br J Ophthalmol. 2023;107:176-180.
  1. Larkin DFP, Chowdhury K, Burr JM, et al. Effect of corneal cross-linking versus standard care on keratoconus progression in young patients: The KERALINK randomized controlled trial. Ophthalmology. 2021;128:1516-1526.

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