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角膜・外眼部疾患

角膜デレン

角膜デレン(corneal dellen)は、輪部傍隆起(paralimbal elevation)に隣接して生じる角膜周辺部の浅い皿状の陥凹である。Ernst Fuchsが角膜縁における浅い皿状の陥凹として初めて記載した。

局所的な涙液層の途絶、特にムチン層の欠如と脱水によって発生する2)。涙液層の途切れが角膜の局所的脱水を引き起こし、実質が菲薄化して陥凹を形成する。輪部病変と翼状片が最も一般的な原因とされる2)

通常24〜48時間で自然消退し、多くは2週間以内に治癒する。ただし慢性化すると上皮破壊・実質炎症・瘢痕化を来す場合がある。

Q 角膜デレンは自然に治りますか?
A

多くの場合、人工涙液などによる適切な潤滑を行えば24〜48時間で消退する。2週間以内に治癒するケースがほとんどであるが、原因となる隆起が持続する場合や治療が遅れた場合は遷延・悪化する可能性がある。

Corneal Dellen image
Corneal Dellen image
Bharti Sharma, Sushil Kumar Bajoria, Abhishek Patnaik, Ravi Barbhaya Resolution of Corneal Dellen After an Uneventful Pterygium Surgery with Punctal Cautery 2020 May 23 Cureus.; 12(5):e8250 Figure 1. PMCID: PMC7308917. License: CC BY.
画像Aは、角膜の周辺部に白く見える陥凹(デレン)を示しています。矢印がその陥凹を指しています。画像Bは、同じ眼をコバルトブルーライトで撮影したもので、フルオレセイン染色が施されており、デレンの部分に蛍光性が見られます。

角膜デレンの自覚症状は比較的軽度である。

  • 充血:隣接する結膜血管の拡張を伴う
  • 異物感:眼表面の不整による違和感
  • ゴロゴロする感じ(grittiness):乾燥感に類似した不快感

重篤な疼痛を伴うことは少ないが、二次感染を合併した場合には痛み・羞明視力低下が加わる1)

細隙灯顕微鏡検査で以下の所見を認める。

  • 境界明瞭な陥凹:角膜周辺部に皿状の凹みが生じる。直径は約2〜3mmである
  • 好発部位:通常耳側に発生し、輪部と平行な楕円形を呈する
  • 壁の形態:角膜側の壁は急峻で、輪部側の壁は緩やかに傾斜する
  • 上皮の状態:脱水した実質の菲薄化領域を上皮が覆っている。上皮は透明な場合と、混濁・乾燥して不透明に見える場合がある
  • フルオレセイン所見:陥凹部にフルオレセインが貯留(pooling)し、時に上部で染色(staining)を認める
  • 角膜知覚:デレン部位では周囲と比較して知覚が低下していることがある
  • 隣接部の変化:血管係蹄や結膜血管が充血するが、隣接する角膜は通常正常である

結膜下シリコンオイル(SCSO)に続発した症例では、耳側9時方向に6×3mmのデレンと浸潤(infiltrate)が認められた1)前眼部光干渉断層計AS-OCT)でデレンの深度とSCSO・強膜下シリコンオイルの位置関係が確認された1)

角膜デレンは輪部傍隆起による涙液層の局所的途絶が原因で生じる。主な原因を以下に示す。

分類原因
炎症性上強膜炎強膜炎
変性・増殖性瞼裂斑、翼状片、輪部腫瘍
術後緑内障手術、斜視手術、白内障手術

上記以外にも以下の原因が知られている。

  • 結膜下出血・結膜浮腫:涙液層を途絶させる隆起を形成する
  • 結膜下注射:薬剤による局所的隆起が原因となる
  • 濾過胞線維柱帯切除術後の濾過胞が輪部近傍を隆起させる
  • 縫合糸肉芽腫:術後の縫合糸に対する肉芽腫性反応
  • 結膜下シリコンオイル(SCSO)硝子体手術後にシリコンオイルが結膜下へ移行し隆起を形成する。23ゲージ硝子体切除術とシリコンオイル注入を受けた症例の9.7%に結膜下への移行が報告されている1)
  • コンタクトレンズの長期装用:涙液分布の変化が関与する
  • 麻痺性兎眼:閉瞼不全による涙液層の不安定化
  • 特発性:高齢者に認められることがある
  • 眼外傷:外傷後の結膜腫脹や瘢痕性隆起

斜視手術・緑内障濾過手術後の発生が報告されている2)。緑内障デバイス(Ahmed valve)挿入術後にも同様の合併症が生じうる2)

Q 眼の手術の後に角膜デレンが起きることはありますか?
A

緑内障手術(線維柱帯切除術、緑内障デバイス挿入術)、斜視手術、白内障手術などの後に角膜デレンが発生することがある2)。術後の縫合糸肉芽腫や濾過胞が輪部傍隆起を形成し、涙液層を途絶させることが原因である。

以下の既往を確認する。

  • 眼科手術歴(緑内障手術、硝子体手術、斜視手術など)
  • 眼外傷の有無
  • コンタクトレンズ装用歴
  • 過去の眼症状
  • 細隙灯顕微鏡検査:角膜周辺部の境界明瞭な陥凹、隣接する隆起性病変の確認が基本である
  • フルオレセイン染色:陥凹部への色素貯留(pooling)を確認する。上皮欠損がある場合は染色を認める
  • 前眼部光干渉断層計(AS-OCT):デレンの深さと菲薄化の程度、原因となる結膜下病変の位置関係を客観的に評価できる1)

角膜デレンは非炎症性の角膜菲薄化であり、以下の疾患との鑑別が重要である。

  • 感染性角膜潰瘍:浸潤や膿瘍を伴い、上皮欠損が明確に染色される。前房蓄膿を認めることがある
  • カタル性角膜潰瘍:免疫原性の周辺部潰瘍で、限局性の毛様充血を伴う
  • Mooren潰瘍(蚕食性角膜潰瘍:角膜周辺部に深く掘れこんだ潰瘍で、進行性の組織破壊を示す
  • Terrien辺縁変性:緩徐進行性の周辺部角膜菲薄化で、上方に好発する

デレンでは上皮が通常保たれており、浸潤を伴わない点が角膜潰瘍との重要な鑑別点である。ただし、デレンに二次感染が合併すると浸潤を生じることがある1)

治療の原則は輪部傍隆起の軽減、すなわち根本原因の治療である。

ムチン層と親水性の角膜表面を迅速に再構築することが目標である。

  • 人工涙液・眼軟膏:頻回の潤滑により涙液層を補い、角膜の再水和を促す
  • 眼帯による遮閉(patching):蒸発を防ぎ、涙液保持を促進する
  • 包帯コンタクトレンズ(BCL):大径ソフトコンタクトレンズで角膜表面を保護し、涙液層を安定化させる

濾過胞に続発するデレンでは、濾過胞は眼圧管理上必要であるため除去できない。人工涙液の長期的かつ頻回な使用で管理する。

保存的治療で改善しない場合や原因隆起が明確な場合は外科的介入を行う。

  • 隆起性病変の切除:翼状片、瞼裂斑、輪部腫瘍などの原因病変を切除する
  • 眼瞼縫合術(tarsorraphy):眼表面の露出を制限する目的で施行されることがある

結膜下シリコンオイルに続発したデレンで浸潤を合併した症例では、レボフロキサシン1.5%点眼(1時間毎)およびガチフロキサシン0.3%眼軟膏(就寝時)で浸潤を消退させた後、結膜下SOの外科的除去・シアノアクリレート接着剤塗布・包帯コンタクトレンズ装着が行われた1)

Q 角膜デレンが穿孔に至ることはありますか?
A

稀ではあるが、デレンを放置すると角膜実質の変性が進行し、穿孔に至ることがある2)。また二次感染を合併すると穿孔や眼内炎などの重篤な合併症を引き起こす危険がある1)。早期の潤滑治療と原因除去が重要である。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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角膜デレンの形成機序は以下の段階を経る。

  1. 輪部傍隆起が涙液層を局所的に途絶させる
  2. 涙液途絶部位でムチン層が欠如する
  3. 角膜上皮は本来疎水性であり、ムチンが存在しないと水をはじく
  4. ドライスポット(乾燥点)が形成される
  5. 局所的な脱水が進行し、角膜実質が菲薄化する
  6. 浅い皿状の陥凹(デレン)が完成する

輪部は血管系・免疫系・神経系が密集した特殊な領域であり、角膜上皮幹細胞が存在する。輪部近傍の隆起がこの微細な環境を乱すことで、涙液層の不安定化が生じやすくなる。

Mahgoubら(2017)は、23ゲージ硝子体切除術後の結膜下シリコンオイル(SCSO)20眼を検討し、10眼(50%)にデレン形成を認めた。SCSの輪部への近接度がデレン発生のリスク因子であり、輪部に近いほどデレン形成率が高かった。すべてのデレンはSCSO除去後に瘢痕を残して治癒した1)

Hyung & Min(1998)もMolteno implantを介したSO結膜下漏出例でSCSO除去後のデレン消失を報告しており1)、原因隆起の除去がデレン治癒の鍵であることが示されている。

デレンは通常自己限定的であるが、慢性化すると上皮破壊・実質炎症・瘢痕化が進行する。デレンに二次感染が加わると、穿孔や眼内炎などの重篤な合併症に至る危険がある1)。早期の原因除去と涙液層の再構築が合併症予防の要である。


  1. Mohan S, Nadri G, Mohan S. A Rare Complication Causing Another Rare Complication: Corneal Dellen with Infiltration Secondary to Subconjunctival Silicon Oil. Beyoglu Eye J. 2023;8(3):233-236.
  1. Marafon SB. Corneal Dellen. Arq Bras Oftalmol. 2024;87(3):e2023-0060.

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