細隙灯顕微鏡検査
徹照法:角膜後面の微細な粒状沈着物を描出する最も基本的な方法である
スペキュラ反射:Descemet膜直前の混濁を高コントラストで観察可能である
直接照射:微小な沈着物は見逃しやすいため徹照法の併用が重要である

角膜小麦粉状変性(cornea farinata)は角膜実質最深層のDescemet膜直前に微細な粉塵状混濁が出現する所見である。1923年にAlfred Vogtが初めて記載した。“floury cornea”(小麦粉状角膜)とも呼ばれる。
両眼性に発症し、加齢とともに緩徐に進行する。視力に影響を及ぼさないため臨床的意義は限定的である。角膜ジストロフィではなく変性に分類される。40歳未満での報告はまれである。
STS遺伝子(Xp22.31)変異によるX連鎖性魚鱗癬(XLI)患者でも同様の角膜深層混濁が認められる。この場合は加齢変化ではなくステロイドスルファターゼ欠損に起因し、硫酸コレステロールの蓄積によるものである。
角膜小麦粉状変性は通常治療を必要としません。無症状であり視力への影響もないため経過観察のみで対応します。ただし、類似の角膜深層混濁を呈するFuchs角膜内皮ジストロフィなどとの鑑別が重要です。Fuchsでは角膜内皮細胞密度の低下を伴いますが、角膜小麦粉状変性では角膜内皮は正常です。

角膜小麦粉状変性は通常無症状である。視力低下・眼痛・異物感・羞明を訴えることはない。多くの場合は細隙灯顕微鏡検査で偶然発見される。
細隙灯顕微鏡の徹照法またはスペキュラ反射で角膜後面に微細な灰白色〜黄褐色の粒状沈着物を認める。混濁は角膜中央〜傍中心部に密に分布し、周辺部では減少する。個々の沈着物は極めて微小であり、スリット光の直接照射では見逃しやすい。
混濁はDescemet膜前方の角膜実質にびまん性かつ均一に分布する。Descemet膜・角膜上皮・角膜内皮細胞層自体には異常を認めない。角膜厚は正常範囲内である。スペキュラーマイクロスコピーでは角膜内皮細胞の形態・密度ともに正常である。
最大のリスク因子は加齢である。高齢者に多く認められ、緩徐に進行するが臨床的に問題となることはほとんどない。40歳未満での報告はまれである。
STS遺伝子(Xp22.31)の変異によるステロイドスルファターゼ欠損はX連鎖性魚鱗癬(XLI)を引き起こす。XLI患者では角膜実質深層にコレステロール硫酸が蓄積し、角膜小麦粉状変性と類似の混濁を呈する。STS遺伝子には少なくとも6つの異なる変異が報告されており、変異の種類によりステロイドスルファターゼ酵素の発現や機能が異なるため多様な表現型を示す。
細隙灯顕微鏡検査
徹照法:角膜後面の微細な粒状沈着物を描出する最も基本的な方法である
スペキュラ反射:Descemet膜直前の混濁を高コントラストで観察可能である
直接照射:微小な沈着物は見逃しやすいため徹照法の併用が重要である
スペキュラーマイクロスコピー
角膜内皮評価:内皮細胞の形態・密度が正常であることを確認する
Fuchsとの鑑別:Fuchsではguttaeと内皮細胞密度低下を認めるが、本疾患では内皮は正常である
共焦点顕微鏡
深層観察:Descemet膜前方の角膜実質細胞内に高反射微粒子を認める
鑑別診断:類似の角膜ジストロフィや変性との鑑別に有用である
| 疾患 | 混濁の特徴 | 角膜内皮 |
|---|---|---|
| 角膜小麦粉状変性 | 微細粉塵状・深層 | 正常 |
| Fuchsジストロフィ | guttae・深層 | 異常あり |
| デスメ膜前角膜ジストロフィ | 多形性混濁・深層 | 正常 |
その他の鑑別として斑状角膜ジストロフィ(fleck corneal dystrophy)、深部糸状ジストロフィ(deep filiform dystrophy)、後部点状ジストロフィ(posterior punctiform dystrophy)がある。いずれも角膜深層に混濁を呈するが、混濁の形態・分布が異なる。
Fuchs角膜内皮ジストロフィとの鑑別は細隙灯顕微鏡のみでは困難な場合があり、スペキュラーマイクロスコピーが必要である。角膜小麦粉状変性では角膜内皮に異常はみられない。
角膜小麦粉状変性とFuchs角膜内皮ジストロフィはともに角膜深層に所見を認めますが、決定的な違いは角膜内皮の状態です。角膜小麦粉状変性ではスペキュラーマイクロスコピーで角膜内皮細胞の形態・密度が正常であるのに対し、FuchsではDescemet膜のguttae(疣状突起)と内皮細胞密度の低下を認めます。Fuchsは進行すると角膜浮腫や水疱性角膜症に至りますが、角膜小麦粉状変性は視力に影響しません。
角膜小麦粉状変性は治療を必要としない。視力への影響がなく自覚症状も伴わないため、経過観察のみで対応する。
X連鎖性魚鱗癬に伴う場合も角膜所見に対する治療は不要である。皮膚科的管理が主体となる。
変性および遺伝的基盤に基づく疾患であるため、一次予防法は現時点で存在しない。
加齢に伴いDescemet膜直前の角膜実質細胞(keratocyte)の細胞質内にリポフスチン様封入体が蓄積する。組織病理学的にはリポフスチン様封入体を含む細胞質内空胞として観察され、角膜実質細胞の異常な肥大を引き起こすことがある。
リポフスチンは細胞内の酸化ストレスによる脂質過酸化産物であり、加齢に伴い蓄積が進行する。角膜実質深層のkeratocyteに選択的に蓄積する機序は十分には解明されていない。
STS遺伝子変異によるステロイドスルファターゼ欠損ではコレステロール硫酸の代謝障害が生じる。蓄積したコレステロール硫酸が角膜実質細胞内に沈着し、加齢性の角膜小麦粉状変性と類似した粉塵状混濁を呈する。STSは細胞内の小胞体に局在しており、組織病理でみられるリポフスチン様沈着物の形成に関与している可能性がある。
XLIにおける角膜沈着は加齢性変化よりも若年で出現し、より広範に分布する傾向がある。XLIと加齢性の角膜小麦粉状変性が共通の病態生理学的基盤を有する可能性が指摘されているが、詳細な解明にはさらなる研究が必要である。