定型コーガン症候群
実質性角膜炎:最も頻度の高い眼所見であり、症例の77%に認められる1)。周辺部上皮下角膜炎から急速に進行する
環状角膜混濁:360°の周辺部角膜混濁を呈し、深部間質の血管新生と結晶沈着物を伴う1)
虹彩炎:前房内炎症を伴うことがある
結膜下出血:定型の特徴となりうる

コーガン症候群(Cogan syndrome)は、非梅毒性の実質性角膜炎と前庭聴覚症状を特徴とする稀な自己免疫疾患である。1945年にマサチューセッツ眼科耳鼻科診療所のDavid G. Coganにより初めて報告された。現在までの文献報告は数百例に過ぎない1)。
本症は20〜30代の白人若年成人に好発するが、あらゆる年齢層で発症しうる4)。病因は不明であるが、上気道感染症や下痢、歯科感染、予防接種などの感染性トリガーが報告されている。
再発性の眼炎症と放置すれば失聴に至る進行性難聴を特徴とする。最大80%の患者に全身症状が認められ、最大15%に血管炎が発症する3)。死亡率は10%であり、主に血管炎が死因となる。脳卒中、消化管出血、心合併症、全身性血管炎による死亡が報告されている1)。
前庭聴覚症状として突然の悪心、嘔吐、耳鳴、めまい、および通常1〜3ヶ月以内に失聴に至る進行性難聴が出現する。
コーガン症候群は定型と非定型に分類される1)。
| 分類 | 眼所見 | 前庭聴覚症状 |
|---|---|---|
| 定型 | 実質性角膜炎 | 2年以内に出現 |
| 非定型 | 多彩な炎症性病変 | 2年以上の間隔 |
定型コーガン症候群
実質性角膜炎:最も頻度の高い眼所見であり、症例の77%に認められる1)。周辺部上皮下角膜炎から急速に進行する
環状角膜混濁:360°の周辺部角膜混濁を呈し、深部間質の血管新生と結晶沈着物を伴う1)
虹彩炎:前房内炎症を伴うことがある
結膜下出血:定型の特徴となりうる
非定型コーガン症候群
前眼部光干渉断層計(AS-OCT)では、角膜間質前方2/3の高輝度反射と、間質菲薄化部位に一致した代償性の焦点性上皮肥厚が観察される。この所見は角膜拡張症との鑑別に有用であり、拡張症では突出部位の上皮が菲薄化するのに対し、コーガン症候群では上皮が代償性に肥厚する2)。
定型は非梅毒性の実質性角膜炎とメニエール病様の前庭聴覚症状を特徴とし、眼症状から2年以内に前庭聴覚症状が出現する。非定型では実質性角膜炎以外の炎症性眼病変(強膜炎、脈絡膜炎、ぶどう膜炎、網膜血管炎など)を呈し、眼症状と前庭聴覚症状の間に2年以上の間隔がある。非定型ではより全身症状が多い傾向がある。
コーガン症候群の病因は完全には解明されていない。角膜・内耳・内皮抗原を標的とする自己抗体が関与する自己免疫疾患と推測されている。患者の角膜組織や蝸牛からはリンパ球・形質細胞の浸潤が確認されている。
Coganペプチドは内耳と角膜の感覚上皮に発現するCD148およびconnexin 26と相同性を持つ。このペプチドに対する自己抗体が一部の症例で検出されており、角膜と内耳が同時に障害される機序を説明しうる1)。
感染性トリガーとして上気道感染症、胃腸炎、歯科感染、予防接種が報告されている。分子模倣(molecular mimicry)機序が推定されている1)。IL-6が疾患発症に中心的な役割を果たす可能性が示唆されている7)。
コーガン症候群の診断を確定する単一の検査は存在しない。除外診断であり、実質性角膜炎が検出された場合に梅毒、ヘルペス、クラミジア、結核、麻疹、おたふくかぜ、ライム病を除外して診断する。
| 鑑別疾患 | 鑑別のポイント |
|---|---|
| 梅毒性角膜炎 | 血清学検査で鑑別 |
| Vogt-小柳-原田病 | ぶどう膜炎主体 |
| Susac症候群 | 脳梁病変が特徴的 |
確定的な単一の検査は存在しない。臨床的に実質性角膜炎と前庭聴覚症状の組み合わせを認め、梅毒やヘルペスなどの感染性病因を除外した上で診断する。炎症マーカーの上昇(CRP、赤沈)は疾患活動性の指標となる。抗熱ショックタンパク質抗体が50%の患者で陽性を示す可能性がある。
コーガン症候群の治療は重症度と全身病変の程度に依存する。眼科医、耳鼻咽喉科医、リウマチ内科医による集学的管理が必要である4)。
第一選択薬
ステロイド:プレドニゾロン1mg/kg/日で開始し、2〜4週間投与後に漸減する4)。聴力低下の発症後2週間以内に投与した場合、55%で聴力改善が得られるが、2週間を超えると改善率は8%に低下する7)
メトトレキサート:再発例やステロイド減量困難例に使用するが、ランダム化試験では有効性が支持されなかった4)
シクロホスファミド:自己免疫性内耳疾患における聴力保護が報告されているが、毒性(感染、悪性腫瘍リスク)に注意を要する4)
生物学的製剤
ステロイド単剤は3週間を超えて維持すべきでなく、毒性リスクと疾患コントロール維持の困難さがある1)。
人工内耳は重度感音性難聴に有効である。ただしコーガン症候群では炎症性の内耳骨化・線維化により手術が困難となる場合がある。骨化は難聴発症後8週間で生じうるため、手術時期の決定には画像による骨化評価と免疫抑制薬の投与状況を考慮する必要がある6)。
聴力回復は治療開始時期に強く依存する。難聴発症後2週間以内にステロイドを投与した場合、55%で聴力改善が得られるが、2週間を超えると改善率は8%に低下する7)。43〜52%の患者で不可逆的な完全失聴となる4)。人工内耳は重度難聴に対する有効な手段であり、長期的に安定した語音聴取が期待できる6)。
コーガン症候群は自己免疫疾患と考えられているが、詳細な病態機序は未解明である。
角膜組織と蝸牛からはリンパ球・形質細胞の浸潤が確認されている。Coganペプチドは内耳・角膜の感覚上皮に発現するCD148(受容体型チロシンホスファターゼ)およびconnexin 26(ギャップ結合タンパク質)と相同性を持つ。このペプチドに対する自己抗体が一部の症例で検出されており、角膜と内耳が同時に障害される分子基盤を提供している1)。
2012年の改訂国際Chapel Hillコンセンサス会議では、コーガン症候群は変動血管径血管炎(variable vessel vasculitis)に分類されている7)。小・中・大血管のいずれも侵しうる。約10%の患者で大動脈炎が発症し、大動脈弁閉鎖不全、冠動脈狭窄、四肢虚血などの合併症を来す3)。
前庭聴覚障害の機序として、従来はメニエール病様の内リンパ水腫が想定されていた。しかし近年のMRI(HYDROPS法)により、内リンパ水腫を伴わず蝸牛・前庭の造影増強効果を示す症例が報告されており、内耳炎が聴覚前庭障害の原因である可能性が示唆されている6)。
IL-6が疾患の病態形成に中心的な役割を果たす可能性がある。コーガン症候群患者の血清中IL-6は著明に上昇しており、IL-6阻害薬であるトシリズマブの有効性がこの仮説を支持している7)。
Coganペプチドが角膜と内耳の感覚上皮に共通して発現するCD148およびconnexin 26と相同性を持つことが分子的基盤である1)。このペプチドに対する自己抗体が産生されると、角膜と内耳の両方が標的となる。感染性トリガーによる分子模倣機序が自己抗体産生の引き金と推定されている。
コーガン症候群の治療における生物学的製剤の役割が注目されている。特にIL-6受容体抗体であるトシリズマブの早期投与が、不可逆的な感覚器障害の予防に有効である可能性が示唆されている7)。
JAK阻害薬であるトファシチニブの有効性も報告されている。JAK1/JAK3を選択的に阻害し、中・大血管炎における組織常在メモリーT細胞と血管新生経路を抑制する4)。
内耳画像診断ではHYDROPS法MRIにより、内リンパ水腫の有無と蝸牛・前庭の炎症を直接評価できるようになった。これにより前庭聴覚障害の病態メカニズムの解明が進んでいる6)。
今後は、IL-6を含む炎症性サイトカインの役割のさらなる解明と、早期治療介入による感覚器障害予防の確立が期待される。