レンズの3ゾーン構造
光学帯:角膜を覆う中央部分であり、屈折力とベースカーブを含む。直径は通常9〜10mmである。
輪部/移行帯:光学帯と接地帯の間の移行部であり、角膜輪部の上にクリアランスを提供する。輪部幹細胞の保護に重要である。
接地帯/ハプティック帯:強膜および結膜の解剖学的構造に接地する領域であり、球面またはトーリック設計が選択される。

強膜コンタクトレンズ(scleral lenses)は、角膜全体を円蓋状に覆い(vault)、強膜およびその上の結膜組織に接地する硬性ガス透過性レンズである。装着前にレンズのボウル部分を防腐剤フリーの生理食塩水で満たし、レンズ後面と角膜前面の間に「液体貯留部(fluid reservoir)」を形成する4)。この液体貯留部が本レンズの最大の特徴であり、角膜の不正をマスキングしつつ眼表面を持続的に潤滑・保護する4)。
レンズの3ゾーン構造
光学帯:角膜を覆う中央部分であり、屈折力とベースカーブを含む。直径は通常9〜10mmである。
輪部/移行帯:光学帯と接地帯の間の移行部であり、角膜輪部の上にクリアランスを提供する。輪部幹細胞の保護に重要である。
接地帯/ハプティック帯:強膜および結膜の解剖学的構造に接地する領域であり、球面またはトーリック設計が選択される。
PROSE治療の特徴
FDA承認:1994年に初回承認を取得し、2016年に更新された。直径13〜23mmのカスタム義眼デバイスを使用する。
CAD/CAM設計:スプライン関数による接合部のない曲率設計が可能であり、最大8つの独立した子午線で仕様指定ができる1)。
高度なカスタマイズ:SmartChannels(液体換気溝)やフェネストレーション(穿孔)の精密配置が可能であり、複雑な眼表面形状に対応する1)。
| 分類 | 直径の定義 |
|---|---|
| ミニ強膜レンズ | HVIDより6mm以下大きい |
| フル強膜レンズ | HVIDより6mmを超えて大きい |
PROSEデバイスはフルオロシリコーンアクリレートポリマーで製造され、酸素透過性(Dk)は85〜180の範囲から選択可能である1)。高Dk材料は角膜内皮機能不全を伴う症例に使用される。市販の強膜レンズが通常2〜4子午線のカスタマイズに限られるのに対し、PROSEデバイスは最大8子午線の独立制御が可能である1)。
日本では自費診療として一部の専門施設で強膜レンズの処方が可能である。海外では眼類天疱瘡やStevens-Johnson症候群などによる重症ドライアイの治療に広く使用されている。BostonSight PROSEデバイスそのものは米国のBostonSightクリニックおよびネットワーク施設で提供される治療モデルである。
市販の強膜レンズは通常2〜4子午線のカスタマイズに限られるが、PROSEデバイスは最大8つの独立した子午線で仕様指定が可能である1)。スプライン関数による接合部のない曲率設計、SmartChannels(液体換気溝)やフェネストレーション(穿孔)の精密配置など、高度なカスタマイズが特徴である1)。さらにPROSE治療では6か月間のフィッティング期間と厳密な患者訓練が組み込まれており、重度の角膜疾患に対して高い適合性を実現する1)。
強膜レンズの適応となる主な自覚症状は以下のとおりである。
不正乱視による視力低下が最も一般的な適応であり、眼鏡やソフトコンタクトレンズでは十分な矯正が得られない症例が対象となる5)。重度の円錐角膜では裸眼視力が指数弁(CF)まで低下することがある2)。
ドライアイに伴う乾燥感・疼痛・羞明も重要な適応症状である。OSDI(Ocular Surface Disease Index)スコアが95.83に達する重度症例も報告されている3)。露出性角膜症による不快感と視力低下は、CPEO(慢性進行性外眼筋麻痺)などの神経筋疾患でみられる3)。
角膜不正の評価では、Pentacam角膜トモグラフィーにおけるKmax値(重度円錐角膜でKmax 69.3D)や最薄部角膜厚(336μm)が重要な指標である2)。
眼表面障害の評価では、Oxford染色スコア(3.0/5.0)が眼表面損傷の程度を示す3)。角膜混濁・血管新生・上皮プラークはKID症候群などの眼表面疾患でみられる所見である1)。
強膜レンズの適応疾患は大きく「角膜不正による視力障害」と「眼表面疾患」に分けられる。
角膜拡張症(円錐角膜、角膜真珠腫、LASIK術後拡張症、透過性辺縁角膜変性)は不正乱視の主要な原因疾患である5)。進行した円錐角膜では、強膜レンズによる管理が角膜移植の代替となりうる2)。846眼の研究では、強膜レンズの使用により角膜移植が必要となったのはわずか1.65%であった2)。角膜移植後・放射状角膜切開(RK)後の残存不正乱視も適応となる5)。
重度の眼表面疾患として、スティーブンス・ジョンソン症候群、眼類天疱瘡、シェーグレン症候群、慢性眼部移植片対宿主病(GVHD)などが挙げられる4)。これらの疾患では角膜上皮の脆弱性が高く、液体貯留部による持続的保護が治療的意義を持つ。
露出性角膜症はCPEOに伴う兎眼・不完全瞬目から生じうる3)。従来のフロンタリス吊り上げ術などの手術的介入が奏効しない症例でも、強膜レンズが有効な選択肢となる3)。
KID症候群(Keratitis-Ichthyosis-Deafness syndrome)はGJB2遺伝子変異による稀少な外胚葉異形成症であり、角膜血管新生・混濁・上皮プラークを生じる1)。従来の外科的介入(角膜移植・輪部移植など)は成功率が低いとされている1)。
日本では強膜コンタクトレンズは自費診療として一部の専門施設で処方可能である。海外では眼類天疱瘡やスティーブンス・ジョンソン症候群等の重症ドライアイに広く使用されているが、日本ではまだ限られた施設でしか使用できないのが現状である。BostonSight PROSEデバイスそのものは米国のBostonSightクリニックおよびネットワーク施設で提供される治療モデルであり、日本国内での直接的な提供は行われていない。日本では同様の大口径硬性ガス透過性レンズとして市販の強膜レンズが使用されている。
強膜レンズのフィッティングには、角膜形状と眼表面の包括的評価が不可欠である。
| 検査 | 目的 |
|---|---|
| Pentacam角膜トモグラフィー | 角膜曲率・厚さ・円錐形態の評価2) |
| 前眼部OCT(AS-OCT) | 角膜クリアランスの精密測定2)3) |
| 角膜内皮細胞密度 | 装用適格性の判定(>1000/mm²)3) |
| OSDI | 自覚症状の定量評価3)4) |
| Oxford染色スコア | 眼表面障害の評価3) |
Pentacam角膜トモグラフィーは重度円錐角膜の評価に特に有用であり、Kmax値・最薄部角膜厚・前後面エレベーションマップがレンズ選択の指針となる2)。角膜トモグラフィーは角膜全面の不正とトーリシティを可視化し、単純なケラトメトリーでは把握できない情報を提供する2)。
AS-OCTは装用中の角膜クリアランス、輪部クリアランス、レンズエッジのプロファイルを断面画像として評価できる2)3)。一般に200〜500μmの角膜クリアランスが適切とされる。装着後数時間で結膜組織への沈み込みにより約100〜150μm減少するため、初期設定ではこの変化を考慮する必要がある。
角膜内皮細胞密度は装用前の必須評価項目であり、1000 cells/mm²未満では酸素透過性低下による角膜浮腫リスクが増大する3)。
細隙灯顕微鏡によるフルオレセインパターン評価はフィッティングの基本であり、角膜クリアランス・輪部クリアランス・接地帯のアライメントを確認する2)。
重度の角膜浮腫や瘢痕を有する症例では、ソフトコンタクトレンズやRGPレンズのフィッティングが困難なことがあり、強膜レンズが視力評価にも有用である6)。強膜レンズのオーバーレフラクションにより、手術前の視力ポテンシャルをより正確に評価できる6)。
フィッティングは診断用トライアルレンズを用いて開始する2)。レンズの総直径は水平可視虹彩径(HVID)に4mmを加えた値を出発点とする2)。フルオレセインパターン、AS-OCTによるクリアランス測定、オーバーレフラクションを繰り返し、最適な設計を追求する2)。
高Dk材料(Dk 141〜180)と低中心厚(CT 0.30〜0.35mm)の組み合わせにより角膜への酸素供給を最大化する1)3)。酸素透過性が十分でない場合は3〜5時間ごとにレンズを外してリフレッシュする管理が推奨される3)。
SmartChannelsはハプティック後面の放射状溝であり、涙液交換を促進しレンズ下の吸引圧を軽減する1)。フェネストレーション(穿孔)は直径0.25〜0.50mmの小孔をレンズに開け、空気換気による酸素化促進を図る。角膜浮腫を生じる症例や顕著な角膜内皮機能不全を有する症例に使用される。
円錐角膜・角膜不正
重度円錐角膜(Amsler-Krumeich Grade 4、Kmax 69.3D)の34歳男性において、ミニ強膜レンズ(16mm)により裸眼視力(UCVA)指数弁から最高矯正視力(BCVA)20/30への改善を達成した2)。
AS-OCTで角膜クリアランス278μmの良好なフィッティングが確認された2)。他の光学的矯正が不成功であった症例でも手術を回避できた2)。
露出性角膜症(CPEO)
CPEOの69歳女性では、フロンタリス吊り上げ術が奏効せず露出性角膜症が持続していた3)。
強膜レンズ(16.4mm)装用により最高矯正視力が6/12から6/7.5に改善し、OSDIスコアは95.83から4.17へ劇的に低下した3)。Oxford染色スコアも3.0から1未満に改善し、4年間安定を維持した3)。
KID症候群
PROSE装用により角膜上皮プラークの退縮、角膜混濁と血管新生の改善が観察された1)。成人症例では7年間にわたり再発性角膜びらんの消失と眼表面の安定が維持された1)。
レンズ装用を中止すると角膜プラークが再発するため、継続的な使用が重要である1)。
ドライアイ疾患に対しては、スティーブンス・ジョンソン症候群・シェーグレン症候群・慢性眼部GVHDなどの基礎疾患による重度ドライアイ患者において、強膜レンズにより視力とOSDIスコアの改善が報告されている4)。角結膜のフルオレセイン/リサミングリーン染色スコアと涙液浸透圧の低下も確認されている4)。強膜レンズは重度ドライアイに対して有効かつ忍容性が高いとされる4)。
強膜レンズの液体貯留部は薬剤送達モダリティとしても活用されている。貯留部にbevacizumabを併用注入することで角膜血管新生と視力の改善が報告されたほか、シクロスポリンの貯留部充填も試みられている4)。
ミッドデイフォギングとは、強膜レンズ装用中に涙液貯留部内に脂質やタンパク質などの残渣が蓄積し、日中に視力が曇る現象である4)。レンズと角膜の間の液体貯留部は涙液交換が限られるため、残渣が蓄積しやすい。対策としては、SmartChannelsの追加による涙液交換促進、適切な接地帯のアライメント確保、および数時間ごとのレンズリフレッシュが挙げられる。
強膜レンズの使用は角膜移植の実施率を低下させることが報告されている5)。RGPレンズで不成功であった円錐角膜症例でも、強膜レンズにより全例で良好なフィッティングが達成され角膜移植を回避できたとされる5)。角膜移植後にも不正乱視に対する視力回復手段として強膜レンズが使用される場合がある2)。
角膜移植にはグラフト拒絶、感染、高度乱視、長期的な回復期間などのリスクが伴う2)。重度の円錐角膜においても強膜レンズによる管理が可能な症例では、これらの手術リスクを回避できる点が大きな利点である2)。
進行した円錐角膜でも、強膜レンズにより十分な視力改善が得られれば角膜移植を回避できる可能性がある2)5)。846眼を対象とした研究では、強膜レンズ使用群で角膜移植が必要となったのはわずか1.65%であった2)。ただし角膜混濁・角膜水腫・コンタクトレンズ不耐症が存在する場合は角膜移植が必要となることがある。角膜移植後にも残存不正乱視に対して強膜レンズが有用な場合がある2)。
強膜レンズの液体貯留部を薬剤送達プラットフォームとして活用する研究が進行中である4)。bevacizumab(抗VEGF薬)の貯留部充填による角膜血管新生の改善や、シクロスポリン0.05%のドライアイ治療への応用が報告されている4)。
KID症候群における角膜プラーク退縮や血管新生改善の機序については未解明な部分が多く、今後の研究が待たれる1)。
CPEOなどの神経筋疾患に対する強膜レンズの有用性も注目されており、眼瞼挙上効果(MRD改善)と眼表面保護の両面から従来の手術的介入に代わる治療選択肢としての位置づけが確立されつつある3)。
強膜レンズの最適フィッティングに関するエビデンスは蓄積されつつあるものの、ドライアイ管理における使用を支持する質の高い比較研究はまだ不足しているとされる4)。今後は患者報告アウトカム(OSDI、NEI VFQ-25等)を用いた長期前向き研究が期待される2)。