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白内障・前眼部

外傷性水晶体脱臼

外傷性水晶体脱臼(traumatic lens dislocation)は、鈍的外傷によって眼球が著しく変形し、水晶体を支えるチン小帯(Zinn小帯)が断裂した結果、水晶体が正常位置から偏位した状態である。

偏位の程度によって2つに分類される。

  • 亜脱臼(subluxation):チン小帯の一部が断裂し、水晶体が瞳孔領に存在するが偏位した状態
  • 完全脱臼(luxation):チン小帯が全周断裂し、水晶体が瞳孔領から完全に離れた状態

外傷は水晶体脱臼の最も一般的な原因である。その他の原因として、マルファン症候群ホモシスチン尿症・ワイル・マルケサーニ症候群・落屑症候群などがある。

Q 水晶体脱臼は外傷以外でも起こるか?
A

外傷以外にも、マルファン症候群(上方偏位が多い)、ホモシスチン尿症(下方偏位が多い)、落屑症候群、強度近視硝子体手術の既往などによって生じる。これらはZinn小帯の脆弱化が基盤にある。

外傷後に以下の症状を呈する。

  • 視力変化水晶体偏位・傾斜による近視化、乱視の増強、屈折変動
  • 単眼複視:偏位した水晶体縁が瞳孔領にかかることで生じる
  • 眼痛眼圧上昇を伴う場合に著しい
  • 視力低下:完全脱臼で高度遠視化、または合併症進行による

軽度の亜脱臼では無症状のことがある。

亜脱臼の所見

水晶体震盪(phacodonesis):眼球運動に伴う水晶体の揺れ。Zinn小帯脆弱を示す。

虹彩震盪(iridodonesis):急速な眼球運動に伴う虹彩の振動。後方への偏位を示唆する。

浅前房:偏位した水晶体による前房深度の左右差。浅いほうのZinn小帯脆弱を疑う。

虹彩形状異常:虹彩離断の併発、または偏位した水晶体による虹彩変形。

完全脱臼の所見

前房内脱臼:水晶体が前房内に脱出し、急激な眼圧上昇を引き起こす。緊急対応が必要。

硝子体内落下:水晶体が硝子体腔に落下した状態。仰臥位CTで浮遊水晶体サイン(floating lens sign)を呈する。

水晶体瘤(phacocele)強膜間接破裂により水晶体が結膜下またはテノン嚢下に脱臼する稀な所見。高齢者に多い。

Q 水晶体震盪とはどのような状態か?
A

Zinn小帯に脆弱がある場合、眼球運動に伴って水晶体が小刻みに揺れる状態である。細隙灯顕微鏡で確認でき、Zinn小帯断裂を示す重要な所見となる。

鈍的外傷による水晶体脱臼のメカニズムは、角膜および前方強膜への前後方向の圧縮力により、眼球が赤道方向へ急速に代償的拡張を起こすことに起因する。その結果、チン小帯が伸展または損傷を受ける。

  • チン小帯部分断裂→亜脱臼
  • チン小帯完全断裂→完全脱臼(前房内または硝子体内)
  • スポーツ外傷(野球、サッカー、テニスなどのボールによる打撲)
  • 喧嘩による打撲
  • 交通外傷
  • 既存のZinn小帯脆弱(落屑症候群、マルファン症候群など)

鈍的眼外傷の既往確認後、細隙灯顕微鏡による検査を散瞳下で行う。

  • 前房深度・左右差の評価
  • 水晶体震盪・虹彩震盪の確認
  • 虹彩離断の有無
  • 眼圧測定(鈍的外傷後の眼圧上昇は前方脱臼を示唆)
検査特徴適応
CT水晶体形態が容易に確認可能眼球破裂疑い・完全な検査が困難な場合
ベッドサイド超音波迅速・リソース限定環境で有用救急外来での迅速診断
超音波生体顕微鏡チン小帯断裂の特定に有用断裂範囲の詳細評価

鈍的眼外傷患者の42.9%に超音波生体顕微鏡でチン小帯損傷の証拠が認められたとの報告がある。CTでは、仰臥位での軸位断で水晶体が硝子体後方に位置し、頸部過伸展仰臥位の冠状断で硝子体上方に位置する「浮遊水晶体サイン(floating lens sign)」が後方脱臼の指標となる。

眼球破裂が疑われ眼球への圧迫を避ける必要がある場合は、CTが優先される。

硝子体手術を要した外傷性水晶体脱臼・亜脱臼患者の37.7%に網膜裂孔または剥離が認められたが、術前に特定できたのはわずか8.9%との報告がある。網膜裂孔・剥離、眼球破裂、虹彩離断、前房出血硝子体出血外傷性視神経症の合併を精査する。

前方脱臼は緊急対応が必要な場合がある。瞳孔ブロックによる急性隅角閉塞緑内障を伴う場合は、緊急水晶体摘出の適応となる。

摘出前の一時的処置として以下を行う。

  • アセタゾラミド投与:眼圧降下
  • 周辺虹彩切開術(peripheral iridotomy):瞳孔ブロック解除

後天性水晶体偏位に対する治療は手術であるが、水晶体偏位のために瞳孔ブロックを起こした場合はまず散瞳薬を用いる(縮瞳薬は禁忌)。

保存的管理が可能な場合もあるが、緑内障・ぶどう膜炎などの合併症が生じた場合は摘出の適応となる。硝子体中への完全脱臼の場合、緑内障・眼内炎網膜浮腫などがない場合以外は積極的な手術適応とはならない。

チン小帯断裂の範囲と水晶体嚢の完全性に基づき術式を決定する。

  • 超音波水晶体乳化吸引術(phacoemulsification)+嚢拡張デバイス(CTR等):不安定性が最小限の場合。Zinn小帯断裂範囲が1/4以上の場合はCTR(capsular tension ring)を使用する。
  • 嚢外摘出術(ICCE:前方アプローチが安全でない場合
  • 経扁平部水晶体切除術(pars plana lensectomy)+硝子体切除術:180度超のZinn小帯断裂や完全脱臼の重症例

水晶体が硝子体内に完全に脱臼した場合は、硝子体手術時に液体パーフルオロカーボン(LPFC)を用いて水晶体を虹彩面まで浮上させ、経強角膜的に摘出する。

眼内レンズ(IOL)の種類・術式・固定位置は、チン小帯の離断範囲や水晶体嚢の完全性を考慮し症例ごとに決定する。水晶体嚢内に眼内レンズを固定できない場合は、毛様溝縫着または強膜内固定を行う。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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鈍的外傷による眼球変形は、赤道方向への急速な拡張力をチン小帯に与える。チン小帯は水晶体を毛様体に固定する線維状組織であり、この拡張力を超えると断裂が生じる。

断裂の程度により以下の結果をもたらす。

  • 部分断裂:水晶体動揺(水晶体震盪)、虹彩振盪、水晶体偏位による浅前房
  • 全周断裂:水晶体が脱臼し、硝子体内に落下または前房内に脱出。いずれにしても眼圧が上昇する

続発緑内障の機序はいくつかある。6時間分以上のZinn小帯離断を伴う眼の58.5%で初診時に眼圧上昇が見られ、そのうち54.2%が急性隅角閉塞を呈したとの後ろ向き研究がある。

  • 瞳孔ブロック:前方亜脱臼による急性・慢性の隅角閉塞
  • 水晶体溶解性緑内障(phacolytic glaucoma):水晶体タンパクの漏出による線維柱帯閉塞
  • 前房内への硝子体脱出:線維柱帯の閉塞
  • 悪性緑内障:前方完全脱臼で報告

**水晶体起因性ぶどう膜炎(lens-induced uveitis; LIU)**は、外傷後タンパク漏出や水晶体嚢破損により生じる炎症反応で、通常外傷後14日以内に発生するが、数十年後の発生報告もある。水晶体亜脱臼を伴う場合は、保存的治療ではなく水晶体摘出の適応となる。

角膜内皮不全は、前方亜脱臼による水晶体と角膜内皮の接触(lens-endothelial touch)の結果として生じる。接触による角膜内皮不全が回復せずDSAEKを必要とした症例も報告されている。


縫合糸を使わない強膜内固定技術(ヤマネ法など)の普及により、水晶体嚢が使用できない症例での眼内レンズ固定の安全性・再現性が向上している。トーリック多焦点IOLの強膜固定も報告されつつある。

フェムト秒レーザー支援水晶体切除術

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フェムト秒レーザーの応用により、亜脱臼眼における前嚢切開の精度向上と手術侵襲の低減が期待されている。ただし、高度なZinn小帯断裂例での適応については現在も検討中である。


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