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白内障・前眼部

細隙灯顕微鏡検査(スリットランプ検査)

細隙灯顕微鏡(さいげきとう・スリットランプ)は、高さ・幅・角度を調節できる収束した光線を照射する**実体生体顕微鏡(stereoscopic biomicroscope)**である。眼付属器(副眼器)から前眼部の微細な解剖学的構造を3次元的に観察・計測できる。手持ちレンズを併用することで後眼部の観察も、隅角鏡(ゴニオレンズ)を用いれば隅角の観察も可能である。

眼科診察の柱であり、眼科専門医のみならず救急医・一般医にとっても重要な器具である。細隙灯顕微鏡は救急外来でも広く備えられており、眼科的救急疾患や全身疾患の診断に活用される。

1823年、プルキンエ(Purkinje)が手持ち式細隙灯の開発を試みた。1863年にデ・ウェッカー(De Wecker)が最初の眼科用顕微鏡を設計した。現代の細隙灯顕微鏡の前身は、1911年にスウェーデンの物理学者オールヴァル・グルストランド(Allvar Gullstrand)がカール・ツァイス社と協力して開発したものである。

1930年代、スイスの眼科医ハンス・ゴールドマン(Hans Goldmann)がグルストランドの細隙灯を改良し、光線の収束点と顕微鏡の焦点が一致する同焦点(parfocal)設計を確立した。ゴールドマンの細隙灯は1958年からハグストレイト社が製造し、初の市販品となった。

ゴールドマンは隅角鏡(gonioscopy prisms)も開発し、その後デイビッド・フォルク(David Volk)が後眼部観察用レンズを開発した。

細隙灯顕微鏡検査は特定の自覚症状に対応した診察ツールではなく、あらゆる眼科的訴えに対応する汎用的な器具である。特に以下の訴えに対して有用である。

  • 視力低下・霧視:白内障・角膜混濁・後眼部疾患の評価
  • 羞明(まぶしさ):皮質白内障・角膜炎・前部ぶどう膜炎の評価
  • グレア障害(難視):夜間・強光下での視力低下。白内障・眼内レンズ混濁の評価
  • 単眼複視:白内障による不正乱視の評価(両眼複視との鑑別:片眼遮蔽後に消失しない)
  • 充血・眼痛強膜炎上強膜炎・前部ぶどう膜炎・角膜炎の評価

前眼部の主要観察部位

眼瞼・睫毛:眼瞼縁炎・内反・外反・麦粒腫霰粒腫睫毛乱生

結膜強膜:充血パターン(結膜充血 vs 毛様充血)・分泌物・乳頭・濾胞

角膜:混濁・角膜後面沈着物(KP)・潰瘍・浮腫・実質病変

前房:深度・フレア・セル・前房蓄膿前房出血

水晶体・後眼部の観察

虹彩瞳孔虹彩新生血管・色素異常・後癒着・瞳孔散大不全

水晶体:混濁の部位・型・程度(核・皮質・後嚢下・前嚢下)

眼内レンズ(術後眼):眼内レンズ位置・後発白内障の有無・眼内レンズ混濁

前部硝子体:浮遊物・出血・感染所見

後眼部(補助レンズ使用):乳頭・黄斑網膜・血管

Q 細隙灯検査で白内障の型はどのように分類しますか?
A

白内障の主な混濁病型は、WHO分類(3主病型)で分類される。①皮質白内障:楔状・輪状混濁として水晶体周辺から中央に進行、②核白内障:水晶体核の混濁・黄色化。核硬度はEmery-Little分類(1〜5)で評価。③後嚢下白内障:後嚢直下の混濁。軽度でも視機能への影響が大きい。これら以外に前嚢下白内障、水隙(water clefts)、retrodots、fiber foldsなどの副病型もある。

細隙灯顕微鏡で評価する主要疾患のリスク要因を示す。

観察対象主なリスク要因
加齢白内障加齢・紫外線・喫煙・糖尿病・肥満(BMI高値)・ステロイド投与
後嚢下白内障アトピー性皮膚炎・ステロイド・ぶどう膜炎
後発白内障糖尿病・ぶどう膜炎・先天白内障・強度近視
閉塞隅角緑内障浅前房・遠視・アジア人・高齢女性
前部ぶどう膜炎自己免疫疾患・感染症・外傷

標準的な細隙灯顕微鏡は以下の4主要部分で構成される。

  1. 架台(base):テーブル・電源スイッチ・調光ダイヤル・ジョイスティック
  2. 患者支持枠:額当て・顎台・外眼角高さ指標
  3. 照明アーム(回転式):光源・スリット高さ調節・スリット幅調節・フィルター
  4. 観察アーム(回転式):接眼レンズ・倍率切替ノブ(6〜40倍)

ポジショニング

患者が顎を顎台に乗せ、外眼角が高さ指標に合うよう調節する。額当てと顎台は使用前にアルコールで清拭する。

焦点合わせ

電源を入れ、架台全体を患者方向へスライドさせ粗動焦点を合わせる。ジョイスティックで微動調整する(時計回り:上方移動、反時計回り:下方移動)。

照明調節

光強度・スリット幅・スリット高さを目的に応じて調節する。コバルトブルーフィルター(フルオレセイン染色)、レッドフリーフィルター(出血評価)、NDフィルター(眼底検査)を使い分ける。

照明法スリット設定主な用途
拡散照射法広い光・拡散板眼付属器・眼表面の広視野観察
直接照射法(細照法)幅を細く核白内障の程度・混濁深度の評価
斜照法斜め30〜45°皮質白内障・水隙・前嚢下混濁の評価
徹照法正面から・やや幅広後嚢下白内障・retrodots・眼内レンズ位置確認
接線照射法真横近くから幅広前嚢下混濁・水晶体前面の観察

水晶体の詳細な観察には最大散瞳が不可欠である。無散瞳では対光反射により後皮質部の所見を正確に評価できない。

斜照法(30〜45°)での観察

まずスリット幅を広めにして以下を確認する。

  • Fiber folds(FF):水晶体赤道部付近の白色線状所見。単独では視機能への影響が少ないが、周辺側に皮質白内障を合併することが多い
  • 皮質白内障(COR):楔状・車軸状・輪状の3型に分類。淡い皮質白内障は斜照法でのみ観察可能なことがある
  • Water clefts(WC):Y字縫合の開裂による病変。瞳孔領に生じると視機能低下・遠視化を来す
  • 前嚢下白内障(ASC):20〜40歳代男性に多い。アトピー性皮膚炎では両眼性

核白内障の評価は、スリット幅をやや細くして一定の幅と光量で観察する。光量が強いと核硬度を過大評価するため注意が必要である。核硬度はEmery-Little分類(1〜5)で評価し、白内障手術の難易度判定に活用する。

徹照法での観察

散瞳した瞳孔縁に正面からスリット光を入射し、眼底からの反帰光で水晶体全体像を評価する。評価すべき所見は以下の通り。

  • 皮質白内障(COR):後方散乱増加→網膜照度低下のため視機能影響大
  • 後嚢下白内障(PSC):後嚢直下の混濁。直径2mm以上で視機能に影響大
  • Retrodots(RD):核周囲の前後深層皮質部に発生するソラマメ様陰影。瞳孔中央3mm以内で陰影面積が25%超なら視機能低下
  • 眼内レンズ偏位・後発白内障(Elschnig真珠・線維状混濁)
Q 後発白内障の診断にスリットランプをどのように使いますか?
A

後発白内障の診断では徹照法が特に有用である。スリット光をやや広めにして斜めから眼底に入射し、網膜からの反射光で後嚢を観察する。後嚢表面の淡いElschnig真珠(パール)や線維状混濁が確認できる。通常の直接照射法では正常に見えても、徹照法で初めて検出されることがある(特に多焦点眼内レンズ挿入眼では視力低下の原因となる軽度の後嚢下白内障を見落としやすい)。Nd:YAGレーザーによる後嚢切開術後も、徹照法で開窓範囲を確認する。

細隙灯顕微鏡は診断ツールとして以下に活用される。

前房評価(急性閉塞隅角緑内障の評価)

前房の深さは、スリット光を角膜周辺部に60°の角度で入射し、角膜内面と虹彩間の距離を確認するファン・ヘリック法(van Herick technique)で評価できる。この距離が角膜厚の1/4未満であれば前房は浅く、眼科専門医への紹介が必要である。

前房内炎症の評価

スリット光を幅約1 mm・高さ約3 mmに絞り、セル(浮遊白血球)・フレア(蛋白滲出)・前房蓄膿・前房出血の有無を評価する。患者に急速な左右眼球運動(サッケード)をさせると房水が撹拌され、所見が明確になる。

細隙灯顕微鏡は診断のみならず、外来での処置にも応用される。

シリコーンオイル誘発性瞳孔ブロックへの応用

硝子体網膜手術後にシリコーンオイル(SO)が前房に移動して瞳孔ブロックを起こすことがある。この合併症に対して、スリットランプ下での外来処置が報告されている1)

51歳男性、増殖糖尿病網膜症による牽引性網膜剥離に対して白内障超音波乳化吸引術+硝子体切除術+シリコーンオイルタンポナーデを実施。術後1日目にシリコーンオイルが前房内に移動、術後2日目に眼圧60 mmHgに上昇、前房扁平化が生じた。前眼部OCTでシリコーンオイルによる瞳孔ブロックを確認。スリットランプ下で患者を座位にてサイドポートから粘弾性物質(OVD)を注入し、虹彩を後方に押し下げることで房水が前房に再流入・前房が再形成された。続けて20ゲージMVRブレードで経角膜的周辺部虹彩切除術を施行し、瞳孔ブロックが解除され眼圧は12 mmHgに正常化した。1)

この方法の利点は、仰臥位(シリコーンオイルが前房方向に移動しやすい体位)や手術室での操作を避けられること、特殊なレーザー機器が不要であること、角膜混濁が強い症例にも対応できることである1)

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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白内障は水晶体蛋白質の修飾・不溶化による混濁疾患の総称である。加齢を中心としたさまざまな要因(紫外線・酸化ストレス・糖化・脱アミド化・メチオニン酸化など)により、水溶性蛋白質(α・β・γクリスタリン)が不溶化して凝集し、光線を散乱させて混濁が生じる。

核白内障の発症機序

加齢に伴い水晶体は前後の厚みが増し(約0.02 mm/年)、各層の散乱光強度が上昇する。正常水晶体では後部胎生核の後方散乱光が強いが、核白内障が発症すると前部胎生核の後方散乱が強まる。核の着色は白色→淡い黄色→黄褐色→茶褐色へと変化する。

核白内障では近視が生じる。高齢患者が急に近くが見やすくなった場合には核白内障の進行を疑う。

酸化ストレスと抗酸化防御の低下

正常水晶体には高濃度の還元型グルタチオン(GSH)が存在し、クリスタリンの酸化凝集を制御している。加齢とともにGSHが減少し、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)活性が低下すると、酸化型グルタチオン(GSSG)産生が増加して蛋白質凝集が進む。

シリコーンオイル誘発性瞳孔ブロックの病態

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シリコーンオイルは水より比重が低いため、仰臥位では前房に移動しやすい1)。前房に移動したシリコーンオイルが瞳孔を閉塞すると、瞳孔ブロックにより房水が前房に流出できなくなり、前房が扁平化し眼圧が急上昇する。無水晶体眼でこのリスクが最も高い1)。開放隅角機序(シリコーンオイルの線維柱帯への浸潤・炎症・既存緑内障の悪化)と閉塞隅角機序(広範な前房癒着・瞳孔ブロック)の両方が眼圧上昇の原因となる1)

デジタル細隙灯顕微鏡・AI診断との融合

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近年、細隙灯顕微鏡に高解像度カメラ・OCT・デジタル解析を統合したシステムが普及している。前眼部OCT(AS-OCT)は瞳孔ブロック・隅角形態・眼内レンズ位置異常の診断において細隙灯顕微鏡を補完する重要なモダリティとなっている1)

外来での細隙灯顕微鏡下処置の適応が拡大している。シリコーンオイル誘発性瞳孔ブロックに対する外来虹彩切除術は、その一例である1)。患者を座位に保つことでシリコーンオイルが前房へ追加移動するリスクを抑えながら、手術室を使わずに処置が完結できる点で意義が大きい1)

手持ち型・ポータブル細隙灯顕微鏡の普及

Section titled “手持ち型・ポータブル細隙灯顕微鏡の普及”

標準的な台型細隙灯顕微鏡での検査が困難な患者(車椅子使用者・臥床患者)に対しては、手持ち式細隙灯顕微鏡が有用な代替手段となる。

  1. Takagi K, Sugihara K, Murakami K, Tanito M. Slit-lamp management of silicone oil-induced pupillary block after vitrectomy. Cureus. 2025;17(10):e95016.

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