正常なワンピースIOLの所見
嚢内固定(in-the-bag):IOLが水晶体嚢内に正しく位置する
IOLの中心固定:散瞳下で光学部中心が瞳孔中心に一致
回転安定性:トーリックIOLでは軸ずれがないことを確認
後嚢の透明性:後発白内障の有無を確認

眼内レンズ(IOL: Intraocular Lens)は、白内障手術において摘出した水晶体に代わり屈折矯正を担う人工レンズである。IOLは中央の**光学部(optic)と、水晶体嚢内でIOLを固定する支持部(ハプティクス: haptics)**の2要素から構成される。
ワンピースIOL(single-piece IOL / one-piece IOL)は、光学部と支持部が同一素材(アクリル・シリコーン・PMMA)で一体成形されたレンズである。これに対し、光学部と支持部が異なる素材で別々に作られたものをスリーピースIOL(3ピースIOL)という。
現代の白内障手術では、折りたたみ可能(foldable)なIOLが主流となった。折りたたみ可能なIOLはシリコーン・親水性アクリル・疎水性アクリルから製造でき、いずれも最小限の異物反応しか生じない1)。インジェクターを用いることで、小切開創からの挿入が可能となる。
ワンピースIOLが正常に機能している場合、患者は通常、視力の改善・白内障術後の良好な見え方を経験する。しかし、以下の問題が生じた場合には特徴的な自覚症状が現れる。
毛様溝固定による合併症
ワンピースIOLが誤って毛様溝(ciliary sulcus)に設置された場合、以下の自覚症状が現れることがある。
IOL偏位・亜脱臼
IOLが嚢から外れて偏位した場合、複視・光学収差増大・視力低下が生じる。
正常なワンピースIOLの所見
嚢内固定(in-the-bag):IOLが水晶体嚢内に正しく位置する
IOLの中心固定:散瞳下で光学部中心が瞳孔中心に一致
回転安定性:トーリックIOLでは軸ずれがないことを確認
後嚢の透明性:後発白内障の有無を確認
ワンピースIOL合併症の所見
毛様溝固定による所見:色素散布・徹照法での虹彩欠損・眼圧上昇・再発性前房出血
UGH症候群:ぶどう膜炎+緑内障+前房出血の三徴
IOL偏位・傾斜:散瞳下でハプティクスの嚢外逸脱を確認
後発白内障:後嚢の混濁
最大の違いは素材の一体性と固定場所の制限である。ワンピースIOLは光学部とハプティクスが同一素材で一体成形されており、嚢内固定専用に設計されている。3ピースIOLはハプティクスが異なる素材(通常PMMA・PVDF)で別製造されており、嚢内固定のほか毛様溝固定にも対応できる。後嚢破嚢時はワンピースIOLの嚢外固定は禁忌であり、3ピースIOLを使用するか後日手術とする必要がある。
ワンピースIOLに関連する合併症の主要なリスク要因を以下に示す。
| リスク要因 | 関連する合併症 |
|---|---|
| 毛様溝への誤固定 | UGH症候群・色素散布・眼圧上昇・眼内出血 |
| 後嚢破嚢時に使用 | IOL偏位・脱臼・続発緑内障 |
| 偽落屑症候群 | チン小帯脆弱→遅発性IOL嚢ごと脱臼 |
| 先行硝子体手術 | チン小帯脆弱→IOL脱臼 |
| 強度近視 | トーリックIOLの軸ずれリスク上昇 |
| 前嚢収縮 | IOL傾斜・偏位 |
ワンピースIOLのハプティクスは厚くスクエアエッジの設計となっており、毛様溝に配置されると虹彩の裏面と接触する。この接触が虹彩への機械的刺激→色素散布→徹照法での虹彩欠損(transillumination defect)をもたらし、眼圧上昇・再発性炎症・眼内出血(UGH症候群)を引き起こす1)。
眼内状態の確認
細隙灯顕微鏡検査
散瞳下でIOLの位置(光学部・ハプティクス)を確認する。ハプティクスが嚢外に逸脱していないか、IOLが傾斜していないかを評価する。
超音波生体顕微鏡(UBM)・前眼部OCT
IOL-虹彩接触を疑う場合に有用。UGH症候群の診断に役立つ1)。
ワンピースアクリルIOLを嚢外固定した場合、IOL偏位・色素散布・眼圧上昇・眼内出血・嚢胞様黄斑浮腫(CME)などの合併症が生じることがある。合併症が発生した場合、90%以上の症例で手術が必要となり、そのうち83%でIOL交換術が施行されている。最終視力は良好(20/20)なことが多いが、手術侵襲は大きい。予防策として、後嚢破嚢時には3ピースIOLを準備しておくことが推奨される。
ワンピースIOLの適切な挿入・固定手技を以下に示す。
インジェクターによる挿入
折りたたみ可能なワンピースIOLはインジェクターにプリロードされ、小切開創(2〜3 mm)から前房内に挿入する。プリロードインジェクターはIOL挿入時の汚染リスクを減らし、IOL傷・ハプティクスの折れ・IOL反転などの問題を防ぐ1)。
嚢内への展開・固定
IOLを水晶体嚢内で展開し、ハプティクスを嚢内に確実に固定する。前囊切開(CCC)がIOL光学部を均等に覆う状態(capsulorrhexis overlap)が最適である。
トーリックワンピースIOLは、初期世代シリコーンプレート型IOLよりも回転安定性が高い1)。ただし、IOL偏位・軸ずれが生じた場合は再手術による軸合わせが必要となる。術後早期(数時間以内)に軸ずれが最も生じやすい1)。
IOLの軸ずれの主な原因には以下が挙げられる1)。
折りたたみ可能IOLの素材
現代の白内障手術では折りたたみ可能なIOLが主流であり、以下の3種類の素材が使用される1)。
非球面設計(aspheric design)
球面IOLでは近軸光線と周辺光線の集光点が異なる(球面収差)。非球面IOLはこれを補正し、コントラスト感度を改善する。
着色IOL(ブルーライトカット)
無着色のUVカットIOLは可視光線全域・特に短波長光を多く透過する。着色IOLはヒト水晶体の分光透過率に近い透過特性をもたせることで、術後の色・明るさの違和感を軽減し、短波長光による網膜光障害抑制効果が期待される。
ぶどう膜炎-緑内障-前房出血(UGH: Uveitis-Glaucoma-Hyphema)症候群は、現代のワンピースアクリルIOLに特に関連する合併症である1)。毛様溝に設置されたワンピースIOLの厚いスクエアエッジハプティクスが虹彩裏面・毛様体を繰り返し刺激し、色素散布・徹照法での虹彩欠損・眼圧上昇・反復性炎症・眼内出血を引き起こす1)。偽水晶体振盪(pseudophacodonesis)もUGH症候群のリスク因子である1)。
ワンピースアクリルIOLは初期世代シリコーンプレート型より回転安定性が高いことが確認されているが、稀に偏位が生じることもありデザインに依存する1)。焦点深度拡張型(EDoF型)IOLの一部(ミニウェルレディなど)は柔らかいクローズドループのハプティクスを持ち、嚢から外れることがある。これらは無散瞳下では偏位を発見しにくいため、散瞳下徹照法での確認が重要である。
多焦点IOL挿入後1年以内のIOL交換率は単焦点IOLより高いとされる。詳細な術前評価・患者説明・IOLの種類・光学設計による特性の違いを十分に理解したうえでのIOL選択が求められる1)。