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白内障・前眼部

Lowe症候群(眼脳腎症候群)

Lowe症候群(Lowe syndrome)は、眼脳腎症候群(oculocerebrorenal syndrome of Lowe)とも呼ばれる稀な先天代謝異常症である。X染色体上のOCRL遺伝子変異によって生じ、遺伝形式はX連鎖劣性のため発症はほぼ男性に限られる。

発症頻度は男児10万人あたり約1人とされる。一方、海外では50万人に1人との報告もある。家族歴のない突然変異(de novo変異)として発生する例も存在する。

本症候群の三主徴は以下の通りである。

  • 眼症状:先天白内障、緑内障など
  • 神経症状:知的障害、筋緊張低下、けいれん
  • 腎症状:近位尿細管障害(Fanconi症候群)
Q 保因者の母親にも眼の症状が現れるか?
A

保因者(carrier)の女性では、発症はしないものの10歳以上の9割以上に水晶体混濁が認められる。これは「雪の結晶(snowflake)」状の皮質放射状混濁として特徴的に観察され、家族歴の評価に有用である。

乳幼児期からの視力低下・羞明が主な主訴となる。眼振を伴う場合は眼球の揺れが観察される。筋緊張低下による運動発達遅滞や摂食困難が出生早期から認められることが多い。

眼症状と全身症状に分けて整理する。

眼症状

先天白内障:両眼性で出生時から存在。水晶体は薄く、しばしば全白内障を呈する。層間白内障として認められることもある。

後部円錐水晶体(後極円錐水晶体):白内障に合併することが多い。

緑内障:約50%に発症。隅角形成異常を原因とし、眼圧上昇・牛眼(buphthalmos)を呈する。隅角鏡検査では強膜棘の視認性低下・毛様体帯の狭小化が認められる。

眼振:視覚遮断・無水晶体症・網膜異常によって生じる。早期手術後も残存することがある。

その他:縮瞳、眼球陥凹。患者の約25〜35%に斜視角膜ケロイドが認められ、視覚予後をさらに悪化させる。

全身症状

筋緊張低下(hypotonia):出生時から重度。深部腱反射の消失を伴い、摂食困難・呼吸障害の原因となる。

精神発達遅滞:軽度から重度まで多様。約70%の患者が6〜13歳までに独歩可能になる。

てんかん:成人患者の50%以上に認められる。種類・重症度は様々。

Fanconi症候群:近位尿細管障害による代謝性アシドーシス・成長障害・脱水・くる病などを呈する。新生児早期から認められる。

慢性腎不全:加齢とともに進行し、多くが40代までにステージ4〜5の慢性腎臓病に至る。

Q 視力予後はどの程度か?
A

Lowe症候群患者の視力予後は全体的に不良である。先天白内障・緑内障・眼振・角膜ケロイドなど複数の視覚障害因子が重複するため、最高矯正視力が0.2を超えることは稀とされている。早期の白内障手術・弱視治療が重要だが、十分な視力が得られない例も多い。

Lowe症候群の原因はX染色体Xq25-26上に位置するOCRL遺伝子の変異である。この遺伝子はイノシトール-5-ホスファターゼ酵素(OCRL-1)をコードする。

OCRL-1の主な機能は以下の通りである。

  • 脂質代謝:ホスファチジルイノシトール4,5-二リン酸(PIP2)をホスファチジルイノシトール4-リン酸(PI4P)へ変換する
  • 細胞内局在:クラスリン被覆ピット・エンドソーム・ゴルジ体に主に存在する
  • 細胞機能への関与:タンパク質輸送・細胞シグナル伝達・アクチン細胞骨格の重合に不可欠

遺伝形式はX連鎖劣性のため、罹患するのはほぼ男性に限られる。女性は保因者として次世代に変異を伝える。家族歴がなく突然変異として発生する例も存在する。

主なリスク因子を以下に示す。

  • 男性であること(必須条件)
  • 母親がOCRL変異の保因者であること

Lowe症候群の確定診断は、遺伝子検査または酵素活性測定によって行う。先天白内障・筋緊張低下・発達遅滞を認める男児では本症候群を積極的に疑う必要がある。

主な診断手順を以下に示す。

検査内容
遺伝子検査OCRL遺伝子の変異解析。罹患男性の95%以上を同定
酵素活性測定皮膚線維芽細胞培養でのOCRL-1活性低下を証明
出生前診断胎児超音波での白内障検出、羊水中のα-フェトプロテイン上昇
血液検査代謝性アシドーシス、低カリウム血症、糸球体濾過量低下、クレアチンキナーゼ上昇など
尿検査アミノ尿、高カルシウム尿、低分子量タンパク尿

保因者女性の診断には眼科的検査が有用であり、10歳以上の保因者女性の9割以上に雪の結晶状(snowflake)の水晶体混濁が認められる。

隅角鏡検査では隅角形成異常(強膜棘の視認性低下・毛様体帯の狭小化)を確認できる。前眼部光干渉断層計AS-OCT)は補助的検査として活用できるが、隅角鏡検査の代替にはならない。眼圧測定眼底検査視神経評価も定期的に行う必要がある。

MRI(T2強調像)で脳室周囲・深部の高信号病変および軽度の脳室拡大が認められることがある。てんかんが疑われる場合は脳波検査を実施する。

筋緊張低下を伴う白内障の鑑別としては以下を考慮する。

  • ミトコンドリア疾患(レーバー遺伝性視神経症など)
  • ペルオキシソーム病(ツェルベーガー症候群など)
  • 先天性感染症(風疹、トキソプラズマ症など)
  • 先天性筋疾患(先天性筋強直性ジストロフィーなど)
  • ジュベール症候群(小脳・脳幹異常を伴う脳腎症候群)

腎疾患の存在は上記の多くを除外する根拠となる。

根本的治療法はなく、各臓器障害への対症療法が中心となる。多科連携チームによる管理が必須である。

遮断弱視を最小限に抑えるため、生後3か月以内の白内障手術が推奨される。乳児期は合併症リスクを考慮して無水晶体(aphakic)状態のままにすることが多く、無水晶体眼鏡またはコンタクトレンズで視覚発達を支援する。行動面の問題や緑内障・角膜病変の合併がある場合、コンタクトレンズ管理が困難なことがある。

緑内障合併例の多くは手術的治療を必要とする。主な術式の選択肢は以下の通りである。

術式についての合意は確立されておらず、症例に応じた選択が求められる。6か月ごとの定期的な緑内障スクリーニングが必要である。

外科的切除が可能な場合があるが、再発することが多く、しばしば初回より侵襲的に再発する。根絶のための確立された治療法は存在しない。

  • 筋緊張低下:理学療法・作業療法による早期介入
  • 神経・精神症状:クロミプラミン、パロキセチン、リスペリドンが一定の有効性を示す報告がある
  • 腎尿細管性アシドーシス:炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ製剤による補正
  • くる病予防:ビタミンD補給、副甲状腺ホルモン・カルシウムの定期モニタリング
  • 脱水対策:乳幼児期の脱水に対しては静脈内輸液が必要になる場合がある
Q 白内障手術後に眼内レンズは挿入できるか?
A

乳児期の白内障手術では、合併症リスクが高く追加手術が必要になる可能性があるため、伝統的に眼内レンズを挿入せず無水晶体状態のままにすることが多い。成長後に眼内レンズ挿入を検討する場合もあるが、緑内障や角膜病変の合併が管理を複雑にする。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

Lowe症候群の病態の根底にあるのはOCRL-1酵素の機能喪失である。OCRL-1はPIP2からPI4Pへの脱リン酸化を触媒するイノシトール5-ホスファターゼであり、この機能不全によって細胞内のPIP2が過剰に蓄積する。

PIP2の蓄積は以下の細胞機能を障害する。

  • タンパク質輸送の障害:エンドソームおよびゴルジ体でのタンパク質の適切な輸送が阻害される。腎臓での近位尿細管の多様なトランスポーターが機能不全に陥り、Fanconi症候群を生じる
  • アクチン細胞骨格の異常:PIP2はアクチン重合を調節しており、その蓄積が細胞の形態・運動に影響を与える
  • 眼症状の機序:眼内での上皮細胞の移動・分化に正常なOCRL-1活性が必要であり、その障害が水晶体上皮細胞の遊走障害をきたし先天白内障を生じさせる。隅角発生異常が緑内障の原因となる

OCRL-1はクラスリン被覆ピット・エンドソーム・ゴルジ体に局在しており、細胞内膜輸送の中枢的役割を担う。この広範な関与が、眼・脳・腎臓という異なる臓器に多彩な症状をもたらす原因と考えられている。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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ラパマイシン(mTOR阻害薬)とスタチン

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OCRL-1機能不全による細胞骨格・輸送障害に対して、mTOR経路の調節とコレステロール代謝への介入を目的としたラパマイシンおよびスタチンの補完的効果が研究されている。現時点では動物実験・基礎研究の段階にとどまっており、臨床応用には至っていない。

遺伝子治療・酵素補充療法の可能性

Section titled “遺伝子治療・酵素補充療法の可能性”

OCRL遺伝子の機能的コピーを標的細胞に導入する遺伝子治療アプローチの基礎研究が進められている。しかし、標的臓器が多岐にわたるため実用化への課題は大きく、現在のところ治験段階には至っていない。


  1. Bokenkamp A, Ludwig M. The oculocerebrorenal syndrome of Lowe: an update. Pediatr Nephrol. 2016;31(12):2201-2212. PMID: 27011217
  2. Loi M. Lowe syndrome. Orphanet J Rare Dis. 2006;1:16. PMID: 16722554
  3. GeneReviews: Lowe Syndrome. NCBI Bookshelf. Updated 2019. PMID: 20301653

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