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白内障・前眼部

強度近視と白内障手術

近視は一般人口の約25%にみられる。強度近視(high myopia)は等価球面度数-6.0 D以上、または眼軸長26.5 mm以上と定義される。人口の約2%が該当する。さらに病的近視(pathologic myopia)は等価球面度数-8.0 D以上、または眼軸長32.5 mm以上を指す。

強度近視は白内障の発症リスクを高める。Singapore Malay Eye Studyでは、強度近視患者の核白内障リスクが3〜5倍、後嚢下白内障リスクが約30%増加することが示された。近視と後嚢下白内障(PSC)の関連は特に強固であり、近視1 Dの増加あたりPSC有病率が約21%上昇するとの報告がある2)。一方、皮質白内障や核白内障の有病率は近視の程度との明確な関連を示さないとする研究もある2)

強度近視眼の白内障手術は、眼軸長の延長・後部ぶどう腫の存在・水晶体嚢の弛緩など、正視眼にはない多くの課題を伴う。経験豊富な術者による周到な術前評価が良好な視力転帰の鍵となる3)

Q 強度近視があると白内障になりやすいのか?
A

強度近視は核白内障のリスクを3〜5倍、後嚢下白内障のリスクも有意に高める。ただし核白内障は近視性の屈折変化(核硬化による近視化)と混同されやすく、眼軸長との直接的な関連は必ずしも明確でない2)

強度近視眼における白内障の自覚症状は以下の通りである。

  • 視力低下:核白内障の進行に伴い近視がさらに強まる。遠方だけでなく近方視力も徐々に低下する。
  • 霧視(かすみ):後嚢下白内障では逆光やまぶしい環境で霧視が顕著になる。
  • 単眼複視:核硬化や皮質混濁の不整により生じることがある。
  • 飛蚊症:強度近視眼では後部硝子体剥離(PVD)が早期に起こりやすく、飛蚊症を訴える頻度が高い。

強度近視眼に特徴的な白内障関連の臨床所見は以下の通りである。

  • 核白内障:最も多い白内障型であり、核硬化・核着色を呈する。進行に伴い近視度数がさらに増加する。
  • 後嚢下白内障(PSC)水晶体後面に顆粒状混濁を認める。強度近視との関連が強い。
  • 後部ぶどう腫:眼軸長33.5 mmを超える眼の約70%に認められ、眼軸長測定を困難にする。
  • 早期後部硝子体剥離:強度近視眼では後部硝子体剥離が若年で生じやすく、黄斑部硝子体皮質が高率に残存する。
  • 近視性網膜変性:近視眼の約62%に何らかの近視性または加齢性の網膜変性がみられる。

強度近視眼で白内障が進行しやすい原因は多因子的である。

  • 眼軸長の延長:水晶体への酸化ストレスが増大し、核硬化が促進されると考えられている。
  • 硝子体液化:強度近視では硝子体液化が早期に進行する。液化した硝子体が水晶体の代謝環境に影響を与える可能性がある。
  • 加齢との相乗効果:加齢と眼軸長の延長はいずれも矯正視力の低下因子となる。

白内障手術の必要性が高まるリスク要因は以下である。

  • 近視度数の急激な変化:核白内障の進行を示唆する。
  • 屈折矯正手術の既往:LASIK・PRK既往眼ではIOL度数計算がさらに複雑になる。
  • 近視性黄斑変性:術後の視力回復を制限する独立因子である。

強度近視患者では屈折矯正手術や網膜疾患の既往がある確率が正視眼に比べ約10倍高い。詳細な眼科既往歴の把握がきわめて重要である。

眼軸長の正確な測定は強度近視眼の白内障手術で最も重要な術前検査である。

  • 光学式測定(IOLマスターなど):患者が固視可能であれば、角膜頂点から中心窩までの屈折学的眼軸長を高精度で推定できる。ただし眼軸長27.0 mmを超える眼やマイナス度数IOL使用眼ではIOL度数を過小評価するとの報告もある。
  • 超音波Aモード(接触法・浸漬法):角膜頂点から後極までの解剖学的眼軸長を測定する。後部ぶどう腫が存在すると眼軸長を過大評価し、術後遠視化の原因となる。

術前に2,000個/mm²以上であることが望ましい。1,500個/mm²以下の場合は手術方法の選択に配慮が必要である。

散瞳下の詳細な眼底検査により、網膜裂孔・格子状変性・後部ぶどう腫の有無を確認する。近視性黄斑変性の有無は術後視力の予測因子となる。

Q 術前に硝子体網膜専門医の評価は必要か?
A

強度近視患者の白内障手術前に硝子体網膜専門医の評価を求める術者もいるが、この慣習は普遍的ではない。少なくとも術前の詳細な散瞳下眼底検査は必須である。

強度近視眼では従来のIOL度数計算式の精度が低下する。特に第3世代の計算式は有効レンズ位置(ELP)の推定精度が不十分であり、術後遠視化の原因となる1)

主な計算式の特性を以下に示す。

計算式特徴長眼軸での精度
SRK/T第3世代・広く普及遠視化傾向あり
Barrett Universal II多因子・理論式高精度
Kane / Hill-RBFAI駆動最高精度

Suzukiら(2025)は眼軸長30.0 mm以上の80眼を対象に4式を比較した1)。KaneとHill-RBFのMAEはそれぞれ0.51 Dと0.52 Dであり、SRK/Tに対して有意に低かった(P < 0.05)。Barrett Universal IIのMAEは0.66 Dで、SRK/Tとの有意差は認められなかった。±1.0 Dを超える屈折誤差の割合はKane・Hill-RBFで7.5%、SRK/Tでは42.5%であった。眼軸長32.0 mm以上のサブグループではKaneが最低のMAE 0.44 Dを達成した。

長眼軸眼(26.0 mm以上)ではSRK/T式・Holladay 1式・Holladay 2式の精度が高いとされてきたが、最新のエビデンスではOlsen・EVO・Kane・Hill-RBF・Barrett Universal IIなどの新世代計算式がすべての眼軸長で正確とされている3)。長眼軸眼で前房深度が3.5 mm以上の場合、Haigis式も精度が高い3)。Wang-Koch(W-K)眼軸長補正を第3世代計算式に適用することも有用である3)

強度近視眼では以下の点に留意する。

  • IOL挿入が原則:無水晶体のままにするより、IOL挿入が推奨される。IOLは硝子体の移動と網膜牽引に対する障壁として機能する。
  • アクリルレンズの推奨:将来の硝子体手術の可能性を考慮し、シリコーンレンズよりアクリルレンズが好ましい。
  • 目標屈折の設定:マイナス度数IOLでは術後遠視化率が高いため、目標屈折を-2.0 D程度の近視寄りに設定する術者もいる。

LASIK・PRK既往眼では角膜屈折力の正確な評価が困難となり、IOL度数計算の精度がさらに低下する3)。術後遠視化を招きやすい。Barrett True K式やASCRSオンラインカリキュレータなど、複数の計算式を併用して度数を決定することが推奨される。LASIK術前データの有無にかかわらず、80〜90%が±1 D以内に収まるとされるが、10〜20%では±1 D以上の度数ずれが生じうることを患者に説明しておくことが重要である。

強度近視眼では前房が深く、水晶体嚢が弛緩し大きいため、以下の工夫が推奨される。

  • 連続環状嚢切開(CCC)時に粘弾性物質で前房を適切に加圧する。
  • 切開創からの漏出・前房虚脱を最小限にする
  • 灌流瓶の高さを下げ、流速を上げる。前房が過度に深くなることを防ぐ。
  • LIDRS(水晶体虹彩隔壁後退症候群)発生時:スパチュラやシンスキーフックで瞳孔縁を持ち上げ、液体が瞳孔を越えて流れるようにする。

強度近視眼の術中合併症の推定発生率は以下の通りである。

  • 後嚢破損:眼軸長 > 27.0 mmで2.3〜9.3%
  • チン小帯断裂:眼軸長 > 30.0 mmで1.7%
  • 前嚢破損:眼軸長 > 30.0 mmで1.1%

眼軸長が1.0 mm延長するごとに術中合併症リスクは1.22倍増加するとの報告がある。

Q 片眼だけ手術を受けるとどうなるか?
A

片眼のみ手術を行うと、未手術眼との間に大きな不同視(屈折差)が生じる。日常生活に支障をきたすため、もう一方の眼の手術を適切な時期に行い、不同視の期間を短縮することが重要である。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

強度近視眼では眼球の前後径(眼軸長)が正常より著明に延長している。この延長に伴い以下の構造的変化が生じ、白内障手術の難度を高める。

眼軸長33.5 mmを超える眼の約70%に後部ぶどう腫(posterior staphyloma)が存在する。病的近視のほぼすべての症例に何らかの程度の後部ぶどう腫があるとされる。ぶどう腫強膜脈絡膜網膜色素上皮の局所的拡張であり、超音波測定で眼軸長を過大評価させる。また黄斑部のぶどう腫は固視不良を引き起こし、光学式測定の精度をも低下させる。

長眼軸眼では前眼部パラメータが眼軸長に比例して変化しない1)。このため回帰ベースのモデルによるELP推定が困難となる。ELPの不正確な推定がIOL度数予測誤差の主因である。従来のSRK/T式は眼軸長28.0 mm以上で精度が著明に低下し、術後に遠視化しやすい1)

Barrett Universal II式は理論的眼モデルに基づき、水晶体厚や角膜径を含む複数の生体計測パラメータを用いてELP推定を改善する1)。しかしAIベースではない。KaneやHill-RBFなどのAI駆動計算式は機械学習アルゴリズムにより、眼軸長と前眼部パラメータの非線形的関係を学習し、より正確なIOL度数予測を実現する1)

強度近視眼では後部硝子体剥離が早期に発生しやすく、黄斑部に硝子体皮質が高率に残存する。白内障手術でIOLを挿入することは硝子体の前方移動と網膜牽引に対する物理的障壁となり、網膜剥離のリスク軽減に寄与する。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

Suzukiら(2025)は眼軸長30.0 mm以上の極度軸性近視80眼において、Kane式とHill-RBF式がSRK/T式に比べ有意にMAEが低く(それぞれ0.51 D、0.52 D vs SRK/T)、±1.0 Dを超える屈折誤差がSRK/Tの42.5%に対し7.5%にとどまることを報告した1)。特に眼軸長32.0 mm以上のサブグループではKane式のMAEが0.44 D、MedAEが0.40 Dと最良の成績を示した。

AI技術を活用したIOL計算式のさらなる精度向上が期待されている1)。データの蓄積と学習アルゴリズムの最適化により、極度の長眼軸眼でも安定した屈折転帰を得られる可能性がある。


  1. Suzuki Y, Kamoi K, Uramoto K, Ohno-Matsui K. Artificial intelligence driven intraocular lens power calculation in extreme axial myopia. Sci Rep. 2025;15:20899.
  2. Bullimore MA, Ritchey ER, Shah S, et al. The risks and benefits of myopia control. Ophthalmology. 2021;128(11):1561-1579.
  3. ESCRS. Clinical practice guidelines for cataract surgery. European Society of Cataract and Refractive Surgeons. 2024.

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