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白内障・前眼部

フェムト秒レーザー白内障手術

1. フェムト秒レーザー白内障手術とは

Section titled “1. フェムト秒レーザー白内障手術とは”

フェムト秒レーザー白内障手術(Femtosecond Laser-Assisted Cataract Surgery; FLACS)は、近赤外フェムト秒レーザー(波長1,053 nm、パルス幅200〜800 fs)を用いて白内障手術の主要ステップを自動化する技術である1)。リアルタイムの光干渉断層計(OCT)やシャインプルーフ画像によるガイド下で、角膜切開・前嚢切開(カプスロトミー)・水晶体核の分割(フラグメンテーション)・弧状角膜切開(アーケートケラトトミー)を施行する5)

白内障手術は世界で最も頻繁に行われる手術の一つであり、欧州で年間約700万件、米国で370万件、世界全体で2,000万件が施行される1)。FLACSは2009年にNagyらにより初めてヒトに適用され1)、2010年にFDA承認を受けた4)。従来の超音波水晶体乳化吸引術(PCS)に対し、より高い精度と再現性を目指して開発された。

現在臨床で使用される主なプラットフォームは以下の通りである。

  • LenSx(Alcon):高エネルギー・低周波パルス
  • Catalys(Johnson & Johnson Vision):高エネルギー・低周波パルス
  • VICTUS(Bausch & Lomb):高エネルギー・低周波パルス
  • Femto LDV Z8(Ziemer):低エネルギー・高周波パルス。手持ちハンドピース式で、パルスエネルギーが10分の1以下に抑えられる5)
Q フェムト秒レーザーは白内障手術のすべての工程を置き換えるのか?
A

レーザーが担うのは角膜切開・前嚢切開・核分割・弧状切開の初期ステップのみである。水晶体片の吸引除去や眼内レンズ挿入には従来どおり超音波乳化吸引装置が必要となる1)

FLACSの対象となる白内障患者は、以下のような症状を呈する。

  • 視力低下:水晶体混濁の進行に伴い緩徐に悪化する。
  • 霧視:かすんで見える。
  • 羞明(まぶしさ):光の散乱によるグレア。
  • コントラスト感度の低下:薄暗い場所で見えにくい。

白内障の臨床所見はLOCS III分類に基づき評価される。核硬化度(grade 2〜4)は手術時の超音波エネルギー消費量に直結する3)

FLACS術後に認められうる所見は以下の通りである。

  • 角膜浮腫:術後早期に一過性に認める。術後1〜3ヶ月でFLACS群はPCS群より中心角膜厚が薄いとの報告がある2)10)
  • 前房内炎症:プロスタグランジン放出に伴う前房フレアの上昇。
  • 眼圧上昇:術後1日目に最も上昇しやすく、粘弾性物質(OVD)の残留が主因と考えられている7)

FLACSの適応は従来のPCSと同一であり、視機能を障害する白内障が対象である。本術式が特に有用となりうる患者群は以下の通りである。

  • 硬い白内障(核硬化度grade 3〜4):レーザー核分割により超音波エネルギーの消費を低減できる9)
  • 浅前房症例:前房深度2.5 mm未満の症例でFLACSがより安全に施行できたとの報告がある1)
  • 角膜内皮細胞が少ない症例(フックス角膜内皮変性など):内皮細胞喪失が軽減される可能性がある1)10)
  • プレミアムIOL(トーリック・多焦点・EDOF)を使用する症例:正確な前嚢切開によるIOLのセンタリング向上が期待される5)8)

一方、以下は非適応・注意が必要な状況である。

  • 角膜混濁:レーザー光線の透過を妨げる
  • 散瞳不良(瞳孔径5 mm以下):安全なレーザー照射が困難となる
  • 白色白内障:一部のプラットフォームでは液化皮質によりレーザー視野が遮られる

白内障の診断と手術適応の判断は従来法と同様であるが、FLACSでは以下の追加評価が求められる。

  • 細隙灯顕微鏡検査:核硬化度(LOCS III)の評価、角膜透明度の確認
  • 角膜内皮細胞検査(スペキュラーマイクロスコピー):内皮細胞密度の評価。FLACS適応決定に重要
  • 光学式眼軸長測定(IOLマスター等)IOL度数計算用バイオメトリー
  • 角膜トポグラフィ:既存乱視の評価。弧状切開計画に必要
  • 前眼部OCT:前房深度の測定。レーザー安全域の設定に使用

FLACS装置には統合型イメージングシステムが搭載されている5)

  • OCT:前嚢の位置・水晶体の厚さ・後嚢までの距離を三次元的に計測する。ほとんどのプラットフォームで採用
  • 三次元共焦点構造化照明+シャインプルーフ撮影:LensAR社が採用

これらにより、前嚢切開の位置・核分割の安全域・角膜切開の深さを正確に計画できる。

FLACS手術は以下のステップで構成される。

患者インターフェース(PI)をレーザー装置と眼球に接続する工程である1)5)。PIには2種類がある。

方式特徴利点
アプラネーション型曲面レンズで角膜を圧平安定性が高い
液体浸漬型強膜吸引リング+液体浸漬室IOP上昇が少ない。角膜しわの発生を低減

ドッキング不良やサクション喪失が稀に生じるが、初期の2.5%から改善し、現在は0.1%程度である1)

FLACSの最大の利点とされる工程である1)5)

  • 直径5.0〜5.25 mmが標準
  • 手技による連続円形切嚢(CCC)より円形度・精度・再現性に優れる
  • IOLのセンタリングが改善する可能性がある
  • 瞳孔中心・角膜頂点・嚢中心のいずれかを基準に中心を設定可能

マニュアル連続環状切嚢では正円の作製が難しく、偏位や変形を生じやすいのに対し、FLACSでは設定径・設定位置で正確な前嚢切開が作製できる。

核分割(レンズフラグメンテーション)

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レーザーで水晶体核を事前に分割し、超音波エネルギーの消費を低減する5)

  • 分割パターン:格子状(グリッド)、円柱状、扇形(パイ)など
  • 総超音波乳化吸引時間(EPT)を最大96.2%低減したとの報告がある1)
  • 累積超音波消費エネルギー(CDE)はFLACS群で有意に低いとするメタアナリシスがある10)
  • 主創口(2.2〜2.5 mm)と副創口(0.8〜1.0 mm)をレーザーで作製可能
  • レーザー切開は安定性・再現性に優れるが、鋸歯状の断面を呈する1)
  • 臨床では約35%のFLACS症例のみでレーザー角膜切開が使用されている1)

白内障手術時の低〜中等度乱視(1.5 D以下)の矯正に有効である1)10)。手動のLRI(輪部減張切開)よりも精度が高い。ただし、中等度以上の乱視矯正ではトーリックIOLのほうが優れる10)

FLACS

前嚢切開:高精度・高再現性。正円で均一な径を作製可能。

核分割:レーザー事前処理によりCDEを低減。

後嚢破損率:RCTで0%の報告が複数あり8)

費用:装置・消耗品のコストが高い。

従来法(PCS)

前嚢切開:術者の技量に依存。円形度にばらつきが生じる。

核分割:すべて超音波エネルギーで行う。CDEが高い。

後嚢破損率:RCTで0.5〜3%の報告8)

費用:FLACSより安価。費用対効果が高い。

ESCRSガイドラインでは、PCSとFLACSはいずれも安全かつ有効であり、視力・屈折予後は同等であると推奨している(GRADE +/++)10)。ただし、硬い白内障や角膜内皮細胞数が少ない症例では、FLACS群で内皮細胞喪失と術後中心角膜厚増加の軽減が示されている10)

フランスのFEMCAT試験(多施設RCT、909例)では、FLACS群の成功率は41.1%、PCS群は43.6%で有意差はなかった(OR 0.85, 95% CI 0.64–1.12)11)。増分費用効果比は「PCSで成功した追加1患者あたり€10,703の節約」であり、FLACSは費用対効果が低いと結論された10)

英国のFACT試験でも、FLACSの増分費用効果比は1 QALYあたり£167,120であり、費用対効果は認められなかった10)

Q FLACSは術後ドライアイを悪化させるか?
A

FLACSでは患者インターフェースの圧迫により結膜杯細胞が損傷され、術後ドライアイのリスクが上昇する可能性がある6)。ただし3ヶ月後には多くの指標が術前レベルに回復すると報告されている。詳細は「病態生理学」の項を参照。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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フェムト秒レーザーの組織作用機序

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フェムト秒レーザー(パルス幅10⁻¹⁵秒)は近赤外光(1,053 nm)の超短パルスを用い、組織内で光破壊(フォトディスラプション)を引き起こす1)5)

光破壊は以下の3段階で進行する。

  1. プラズマ形成:集光点で組織がイオン化される
  2. 衝撃波の発生:プラズマの急速膨張により微小衝撃波が生じる
  3. キャビテーション:残存ガス気泡により組織が剥離される

エネルギー閾値を超えると2つの機序で組織分離が達成される5)

  • 高エネルギーパルス(μJオーダー):ガス気泡の膨張による機械的分離が主体。切断面が粗くなりやすい
  • 低エネルギーパルス(nJオーダー):切断(クリービング)が主体。周囲組織への損傷が少ないが、高い照射密度と高周波パルスを要する

レーザー前嚢切開は「切手パーフォレーション」様の連続照射で作製される。電子顕微鏡では手技による連続環状切嚢より切開縁にノッチ(刻み目)が認められ、引張強度が低いとの報告がある1)

しかし、レーザー設定の最適化(特に垂直スポット間隔の拡大:20 μm)により前嚢裂孔の発生率は大幅に低減した8)

Scottら(2019)は垂直スポット間隔を10・15・20 μmに設定した場合の前嚢裂孔率がそれぞれ0.79%・0.35%・0.09%であったと報告した8)

FLACS後のドライアイには従来法と共通する機序に加え、以下の特有の要因がある6)

  • 患者インターフェースによる結膜杯細胞障害:陰圧吸引と圧迫により杯細胞のアポトーシスと密度低下が生じる
  • プロスタグランジン放出:前嚢切開時にIL-6・IL-8などの炎症性サイトカインが房水中に増加する
  • PIによる眼表面神経障害角膜知覚低下と反射性涙液分泌の低下
  • 手術時間の延長:眼表面の露出時間が増加し、角膜上皮微絨毛が損傷される

FLACSでは術中に縮瞳(小瞳孔)が有意に高頻度で生じる(OR 3.05, 95% CI 1.83–5.07)4)。主因は前嚢切開時の房水中プロスタグランジンE₂濃度の上昇である1)。低エネルギーパルスデバイスでは縮瞳の発生が少ないとされている5)


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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多焦点IOL・EDOF(焦点深度拡張型)IOL・トーリックIOLでは、IOLの正確なセンタリングと前嚢のオーバーラップが光学性能に直結する。FLACSの正確な前嚢切開はこれらのプレミアムIOLの効果を最大化する可能性がある5)8)

Levitzら(2021)は、レーザー前嚢切開の正確性がEDOFレンズやトーリックレンズの偏心を減少させ、像質劣化を防ぐ可能性を指摘した8)

眼内レンズの術後レーザー修正

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フェムト秒レーザーにより、挿入済みのIOLの屈折率を変更して度数・乱視・多焦点性を調整する、あるいはピンホール開口を形成するコンセプトがin vitroで検討されている1)。IOL交換率の低減につながる可能性がある。

小児白内障では前嚢の弾性が高く、軟らかい水晶体核を有する。FLACSは前嚢切開と後嚢切開の両方に使用可能であるが、小児への適用はオフラベルであり、弾性による拡大を考慮した補正係数が必要である1)

フェムト秒レーザー技術と水晶体吸引のロボット化を組み合わせた完全自動化白内障手術プラットフォームの構想がある1)。これにより手術の標準化と費用対効果の向上が期待される。


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