コンテンツにスキップ
白内障・前眼部

嚢内血腫

嚢内血腫(endocapsular hematoma; ECH)は、眼内手術後に眼内レンズ(IOL)の後面と水晶体後嚢の前面との間に血液が貯留する稀な合併症である。

1989年にThomasらが初めて報告した。線維柱帯切除術と後房レンズ挿入を伴う水晶体嚢外摘出術の併用手術後に発生した症例である。術後2日目に眼内レンズ後方の嚢内に血液貯留と液面形成を認めた。

Q 嚢内血腫はいつ頃発症するのか?
A

多くの場合、白内障手術の晩期合併症として生じる。術後早期に発症する急性例も報告されているが、術後しばらく経過してから発見される症例が多い。

嚢内血腫の自覚症状に関する詳細な記載は限られるが、眼内レンズ後方に血液が貯留するため視力低下を生じうる。血液量が少ない場合は無症状のこともある。

細隙灯顕微鏡検査で以下の所見を認める。

  • 眼内レンズ後方の血液貯留:眼内レンズ後面と後嚢の間の閉鎖空間に血液が存在する。
  • 液面形成:重力に従い血液が下方に沈降し、液面(fluid level)を形成する。

嚢内血腫は以下の状況で発生しうる。

  • 白内障手術と緑内障手術の併用:水晶体乳化吸引術と線維柱帯切除術または非穿孔性緑内障手術を同時に行った場合に最も多い。
  • 血栓溶解療法:ストレプトキナーゼを用いた血栓溶解療法後の稀な眼出血として報告されている。
  • UGH症候群:ぶどう膜炎・緑内障・前房出血症候群に関連した報告がある。
  • 外傷:眼球への外傷に伴い発生しうる。

リスク因子は以下の通りである。

  • 虹彩・水晶体嚢の新生血管:既存の新生血管が眼内レンズとの摩擦で出血を起こしやすい。
  • 糖尿病網膜症:血管脆弱性が亢進している。
  • チン氏帯脆弱:眼内レンズの不安定性を招き、摩擦の原因となる。
  • 血管疾患:全身的な血管障害がリスクを高める。
Q どのような手術で起こりやすいのか?
A

白内障手術単独でも起こりうるが、線維柱帯切除術などの緑内障手術との併用例で特に報告が多い。眼内レンズと嚢の摩擦が出血の一因と考えられている。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

初期の報告では本病態を「嚢内前房出血(endocapsular hyphema)」と呼んでいた。しかし、その発生部位、血球量の不足、および血液が自然に再吸収されないことから、この名称は不正確とされ、現在は「嚢内血腫」の呼称が用いられる。

血液の由来については2つの仮説が提唱されてきた。

  • 前部硝子体出血からの漏出説:初期には後嚢を透過して血液が漏出したとの仮説があった。
  • 手術切開創からの流入説:現在はこちらが有力である。急性術後症例では、手術切開創からの血液が眼内レンズ後方の閉鎖空間に流入し貯留すると考えられている。

眼内レンズと後嚢の間は閉鎖空間を形成する。そのため、一度貯留した血液は前房房水循環にさらされず、通常の前房出血(前房蓄膿)のように自然に吸収されにくい。この特徴が「hyphema」ではなく「hematoma」と呼ぶべき根拠となっている。

Q なぜ血液が自然に吸収されないのか?
A

眼内レンズ後面と後嚢の間は閉鎖された空間である。前房の房水循環から隔離されているため、通常の前房出血と異なり血液の自然吸収が生じにくい。このことが「hyphema(前房出血)」ではなく「hematoma(血腫)」と呼ばれる理由でもある。

記事の全文をコピーして、お好みのAIに貼り付けて質問できます