眼科的所見
若年性白内障:最も高頻度(92%)の所見。後嚢下白内障にcortical fleck-like opacitiesを伴う形態がCTXに特徴的とされる2)。
眼瞼黄色腫:眼瞼部へのコレステロール沈着。
視神経萎縮:求心路性瞳孔反応欠損や中心暗点を伴うことがある。

脳腱黄色腫症(cerebrotendinous xanthomatosis; CTX)は、CYP27A1遺伝子の変異によるステロール27-ヒドロキシラーゼ欠損を原因とする常染色体劣性の脂質蓄積疾患である。1937年にVan Bogaertらによって初めて報告された。
胆汁酸合成が障害されることで、コレスタノールと胆汁アルコールが脳・末梢神経・水晶体・腱・骨などに蓄積し、多彩な全身症状を呈する。
米国における有病率は10万人あたり3〜5人と推定される。世界全体では約400〜425例が報告されているが、過小診断の可能性が高い。モロッコ系ユダヤ人では108人に1人と高頻度である。女性にやや多い。
CYP27A1遺伝子には約259の変異が知られ、85が病原性またはおそらく病原性とされる4)。変異型の内訳はスプライス部位変異が29%で最多であり、エクソン4に変異が集中する4)。
大規模症例シリーズ(49例)では、白内障が92%、錐体路徴候が92%、小脳徴候・末梢神経障害が82%、腱黄色腫が78%、認知障害が78%に認められた。診断時の平均年齢は35.5歳であり、症状出現から診断まで約16年以上の遅延がある。
Maら(2021)は2016〜2019年の報告25例をレビューし、神経症状を92%、白内障を60%、腱黄色腫を68%、慢性下痢を20%に認めたと報告した5)。平均年齢は36.6歳であった。
症状の発症時期や重症度が多様であり、乳児期の下痢や若年性白内障が他の疾患と誤認されやすい。神経症状が出現するまで見過ごされることが多く、最初の遺伝子パネル検査にCYP27A1が含まれていない場合もある1)。診断の遅れは不可逆的な神経障害につながるため、若年性白内障や原因不明の下痢を認めた際には本疾患を鑑別に挙げることが重要である。
CTXの臨床像は発症時期によって異なる。
CTXの主要な臨床所見は、眼科的所見・腱黄色腫・神経学的所見に大別される。
眼科的所見
若年性白内障:最も高頻度(92%)の所見。後嚢下白内障にcortical fleck-like opacitiesを伴う形態がCTXに特徴的とされる2)。
眼瞼黄色腫:眼瞼部へのコレステロール沈着。
視神経萎縮:求心路性瞳孔反応欠損や中心暗点を伴うことがある。
腱黄色腫
アキレス腱黄色腫:最も好発する部位。通常10代後半〜20代に出現する。
その他の部位:肘・手指の伸筋腱、膝蓋腱、頸部の腱にも生じる。
触知不能の場合:黄色腫が触知できず、MRIで初めて発見される例もある3)。
神経学的所見
同一のCYP27A1変異を持つ同胞間でも表現型は異なりうる。ある報告では、同じホモ接合性変異を持つ兄弟で一方に歯状核石灰化・小脳萎縮を認め、他方は正常なMRI所見であった6)。イランの家系報告でも、同変異の3同胞間で凹足・てんかん・黄色腫の部位に差異が認められた4)。
まれな臨床像として肺病変がある。
Zaizenら(2021)は55歳のCTX患者で胸部CTにびまん性微小結節影を認め、経気管支肺生検で泡沫状マクロファージと脂質結晶裂隙を確認した7)。CDCA治療2年後に血清コレスタノールは28μg/mLから5.9μg/mLに低下し、肺病変も縮小した。
後嚢下白内障にcortical fleck-like opacities(斑点状の皮質混濁)を伴う形態がCTXに特徴的とされる2)。通常は両眼性であり、4〜18歳で発症する。白内障はCTX患者の75%で最初に出現する症状であるため、若年性の両眼性白内障を診た際にはCTXの可能性を考慮すべきである。
CTXはCYP27A1遺伝子(染色体2q35)の変異による常染色体劣性遺伝疾患である。
CYP27A1はミトコンドリアのステロール27-ヒドロキシラーゼをコードし、コレステロールからケノデオキシコール酸(CDCA)への変換を担う。この酵素の欠損により以下の代謝異常が生じる。
コレスタノールは特に脳、末梢神経、水晶体、腱、骨に沈着し、臓器障害を引き起こす。
50以上の病原性変異が報告されており、ミスセンス変異が約45%を占める6)。近親婚家系でホモ接合性変異が多くみられる4)。同一変異であっても表現型が大きく異なることがあり、遺伝子型と表現型の相関は乏しい4)。
CTXは常染色体劣性遺伝であり、両親がともに保因者であれば同胞の25%が発症しうる。家族にCTXと診断された方がいる場合は、無症状であっても遺伝カウンセラーと相談のうえ、CYP27A1遺伝子検査や血漿コレスタノール測定を検討すべきである。
CTXの診断には臨床的疑い、生化学的検査、画像検査、遺伝子解析を組み合わせた包括的アプローチが必要である1)。
乳児期発症の慢性下痢、若年性の両眼性白内障、腱黄色腫、進行性の神経精神症状の組み合わせがあればCTXを疑う。「疑い指数(suspicion index)」テーブルが診断補助として提案されており、スコア100以上であれば血清コレスタノール測定に進むべきとされる。
| 検査項目 | 特徴 |
|---|---|
| 血漿コレスタノール | 正常の5〜10倍に上昇 |
| 血漿コレステロール | 正常〜低値 |
| 尿中胆汁アルコール | 著明に上昇 |
血漿コレスタノールは最も利用しやすいバイオマーカーである2)。正常コレステロール値の患者に腱黄色腫を認めた場合はCTXを強く疑うべきである。
脳MRIはCTXの診断ワークアップにおいて重要である。
脳MRI異常は報告例の84%(21/25例)に認められたが、MRIが正常であってもCTXを否定できない5)。
O’Keefeら(2025)は25年間の痙性対麻痺の経過から遺伝性痙性対麻痺と推定されていた53歳女性において、アキレス腱MRIで黄色腫を発見し、生化学的・遺伝学的検査を経てCTXの診断に至った症例を報告した1)。最初の遺伝子パネルにCYP27A1が含まれておらず、診断遅延の一因となった。
CYP27A1遺伝子の配列分析がゴールドスタンダードである。意義不明の変異(VUS)が検出された場合は、ACMGガイドラインに基づき、臨床所見・生化学所見・画像所見を統合して病原性を判定する1)。
Fernandez-Eulateら(2022)は若年性の原因不明の両眼性白内障患者30例に対し前方視的にコレスタノールスクリーニングを実施した2)。1例(3.3%)が著明なコレスタノール高値(68μmol/L、基準<10)を示しCTXと確定診断された。この患者は19歳女性で、後嚢白内障にcortical fleck-like opacitiesを伴う形態であった。
CTXの標準治療はケノデオキシコール酸(CDCA)の経口投与である。
CDCAの効果は治療開始年齢に強く依存する。
Maら(2021)のレビューでは、25歳以降に治療を開始した患者は早期治療群に比べ予後が不良であり、進行した神経障害の改善は困難であることが示された5)。
O’Keefeら(2025)は53歳で診断されCDCA 750mg/日を開始した症例で、3年間にわたり臨床的安定と生化学的改善(血清コレスタノール低下・尿中胆汁アルコール正常化)が得られたが、既存の神経障害の改善には至らなかったと報告した1)。
薬物療法で縮小しない大きな腱黄色腫に対しては手術が検討される。
Qiら(2023)は両側アキレス腱黄色腫(各16cm)を切除し、血管柄付き腸脛靱帯による再建を行った8)。術後9年でAOFASスコア100/100と良好な機能的転帰が得られた。
Nakazawaら(2021)は44歳のCTX患者の肘頭腱黄色腫に対し内視鏡的切除を施行した9)。術後2年で再発なく、創部の知覚障害もなかった。
可能な限り早期の治療開始が推奨される。25歳以降に治療を開始した患者は、早期治療群に比べて予後が不良であることが示されている5)。発症前の段階でCDCAを開始すれば、疾患の合併症の発症を予防できるとされ、若年性白内障の段階で診断・治療開始することの意義はきわめて大きい。
CYP27A1遺伝子は染色体2q35に位置し、9つのエクソンからなる。最大の転写産物は約1895bpの長さで、531アミノ酸のステロール27-ヒドロキシラーゼをコードする4)。成熟酵素は498アミノ酸からなり、33アミノ酸のミトコンドリアシグナル配列を含む4)。
ステロール27-ヒドロキシラーゼはミトコンドリアのシトクロムP450ファミリーに属し、ステロール中間体の側鎖酸化を触媒する。アドレノドキシン結合部位(残基351〜365)とヘム結合部位(残基435〜464)が高度に保存されている4)。また、ビタミンD3のC-1位およびC-25位の水酸化にも関与する4)。
正常では、コレステロールはステロール27-ヒドロキシラーゼによりCDCAに変換され胆汁酸として排泄される。酵素欠損により以下が生じる。
脳内のコレスタノール蓄積はアポトーシス経路を活性化し、神経細胞死を引き起こすと考えられている6)。MRI上の歯状核信号変化は、脂質沈着に続発する脱髄・軸索変性を反映する5)。
歯状核のT2/FLAIR/SWI低信号は経時的に出現し、脱髄・ヘモジデリン沈着・微小石灰化・壊死・嚢胞性変化を反映する5)。この変化はCDCA治療にもかかわらず臨床的・MRI的悪化を予測する疾患進行のバイオマーカーとなりうる5)。
Rashvandら(2021)はイラン人家系で同定されたc.1184+1G>Aスプライシング変異について、3つの異常転写産物が生成されることを報告した4)。いずれの異常タンパクもフェレドキシン結合ドメインおよび/またはヘム結合ドメインを欠損しており、酵素活性は検出不能であった。
新生児乾燥濾紙血(DBS)を用いたCTXのスクリーニング法の開発が進んでいる。蓄積するケトステロール胆汁酸前駆体の感度の高い検出法が報告されており、CTX患者のDBS濃度(120〜214 ng/mL)は非罹患児(16.4±6.0 ng/mL)の約10倍であった。
Fernandez-Eulateら(2022)の前方視的コホート研究では、若年性の両眼性白内障患者30例中1例(3.3%)がコレスタノールスクリーニングによりCTXと診断された2)。この患者は他のCTX症状を呈しておらず、白内障のみでの早期診断の有用性が示された。白内障コホートでは対照群に比べ中等度のコレスタノール上昇が有意に多かった(17.2% vs. 4.2%; p=0.014)。
初回の遺伝子パネルにCYP27A1が含まれておらず診断が遅れた症例が報告されている1)。痙性対麻痺や進行性の神経変性疾患を疑う場合は、CYP27A1を含む包括的な遺伝子パネルの使用、または全エクソーム解析の実施が推奨される。