コンテンツにスキップ
ぶどう膜炎

HIV/AIDSにおける眼病変

HIV感染症は眼および眼周囲に多様な病変を引き起こす。眼症状はCD4陽性Tリンパ球数(正常値700〜1,500/μL)と密接に関連し、免疫不全の進行に伴い出現する疾患が変化する。

HIVはCD4陽性Tリンパ球に感染して細胞性免疫を低下させる。急性期にウイルスが急増殖した後、無症候期を経て数年〜10年でCD4数が減少し、200/μL未満になると日和見感染症や悪性腫瘍を発症するAIDSの状態となる。

2007年の大規模観察研究では、HIV感染患者の9.2%が良眼に視力障害を有し、41.4%がその他の主要な眼合併症を有していた。1996年以降、多剤併用抗レトロウイルス療法(ART)の導入により眼症状の発症パターンは大きく変化した。ART時代においてもHIV感染症は眼科医にとって重要な臨床課題である。

日本におけるHIV感染者数は約2万人程度と世界的には少ないが、新規感染者数はなお増加傾向にある。日常生活を送る感染者がHIV陽性を告げずに眼科を受診する可能性は十分にある。

Q HIV感染者の眼科診療で院内感染のリスクはあるか?
A

HIVは物理的に非常に弱いウイルスであり、通常の消毒薬で容易に失活する。涙液中のウイルス量はきわめて微量であるため、眼科検査器具を介した感染の可能性はない。ただし注射や手術など血液曝露の状況では、針刺し事故に十分な注意が必要である。

HIV/AIDSにおける眼症状は多岐にわたる。自覚症状は病変の部位と種類に依存する。

  • 視力低下:サイトメガロウイルス網膜炎が後極部に及んだ場合や、網膜剥離を合併した場合に顕著となる。
  • 飛蚊症硝子体炎やIRU発症時に認める。
  • 視野欠損:網膜壊死や網膜剥離の進行に伴い出現する。
  • 充血・眼痛:前部ぶどう膜炎(虹彩炎)やヘルペス感染に伴い認める。
  • 無症状:HIV網膜症(綿花様白斑)は通常無症状であり、眼底検査で偶然発見される。

HIV/AIDSの眼合併症は大きく3つに分類される。

HIV網膜症

綿花様白斑:最も頻度の高い眼合併症である。500μm未満の白斑で境界は羽毛状。6〜8週間で自然消退する。

点状出血:微小血管障害に起因する。

活動性指標:出現は血清中HIV量と相関し、HIV感染の活動性指標として重要である。

日和見感染症

サイトメガロウイルス網膜炎:CD4数50〜100/μL以下で発症。黄白色混濁に出血と萎縮を伴う。

トキソプラズマ症:CD4数100/μL以下で発症。大型で両側性の病変が特徴。

進行性外層網膜壊死:水痘帯状疱疹ウイルスによる急速進行性の壊死性網膜炎。

悪性腫瘍

カポジ肉腫:ヒトヘルペスウイルス8型による血管性腫瘍。眼瞼や結膜に深紅〜紫色の結節を形成する。

悪性リンパ腫:眼内浸潤を生じ、ぶどう膜炎に類似した所見を呈する。発症頻度は健常者の200倍。

結膜扁平上皮癌角膜輪部に好発する。

CD4陽性Tリンパ球数と眼合併症の関係を以下に示す。

CD4数(/μL)出現しやすい疾患特徴
500以下帯状疱疹・カポジ肉腫比較的早期に出現
100以下トキソプラズマ症・結核免疫不全の進行
50以下サイトメガロウイルス網膜炎・進行性外層網膜壊死重度の免疫不全

HIVはレトロウイルス科レンチウイルス属のRNAウイルスである。主な感染経路は性的接触、母子感染(経胎盤・産道・母乳)、および血液を介した感染(輸血・医療事故・注射器の共用)である。

眼合併症の発症リスクに関連する主な要因は以下の通りである。

  • CD4陽性Tリンパ球数の低下:最大のリスク因子。200/μL未満で日和見感染のリスクが急増する。
  • ウイルス量(HIV-RNA):検出限界以下であれば予後は良好である。
  • 抗レトロウイルス療法未導入・治療不良:免疫回復が得られない場合、日和見感染の発症リスクが持続する。
  • AIDSの罹病期間:長期にわたるほどサイトメガロウイルス網膜炎などの進行リスクが高い。

梅毒はHIVとの混合感染が非常に多い。近年、日本でも梅毒感染患者数は激増しており、梅毒感染からHIV陽性が判明するケースも多い。HIV陽性患者では眼梅毒の両側性病変の頻度が62%と、HIV陰性患者の38%に比べ有意に高い1)

帯状疱疹はAIDSの指標疾患には含まれないが、HIV感染者での発症頻度は健常者の15倍と高い。50歳未満での眼部帯状疱疹の発症はHIV感染を示唆する所見である。

Q 梅毒とHIVの混合感染はなぜ問題になるのか?
A

HIV陽性患者では眼梅毒が早期に進行しやすく、両側性病変の頻度も高い。また非トレポネーマ検査が偽陰性となることがあり診断が困難になる1)。HIV陽性患者の梅毒治療には高用量のペニシリンが必要とされる。

HIV/AIDSに伴う眼合併症の診断は、眼所見と全身的な免疫状態の評価を組み合わせて行う。

散瞳下の眼底検査が最も重要である。サイトメガロウイルス網膜炎、HIV網膜症、トキソプラズマ症、PORNなど主要な網膜疾患の診断は特徴的な眼底所見に基づく。

  • サイトメガロウイルス網膜炎:黄白色混濁病変に出血と萎縮を伴い、正常網膜との境界に顆粒状病変(granular border)が存在する。3つの病型(周辺部顆粒型・後極部血管炎型・樹氷状血管炎型)に分類されるが、実際には混在することが多い。
  • HIV網膜症との鑑別:初期サイトメガロウイルス網膜炎との鑑別が困難なことがある。光干渉断層計検査が鑑別に有用である。
  • 進行性外層網膜壊死前房や硝子体の炎症が最小限で、網膜外層の急速な壊死が特徴である。
  • 前房水PCR:サイトメガロウイルス、単純ヘルペスウイルス、水痘帯状疱疹ウイルスなど各種ウイルスの検出に用いる。サイトメガロウイルス網膜炎の確定診断に有用であるが、前房内炎症細胞が出現していない初期には検出されないことがある。
  • マルチプレックスPCR:少量のサンプルで網羅的にウイルスを検索できる。壊死性網膜炎の鑑別に有用である。
  • CD4陽性Tリンパ球数:眼合併症のリスク評価に必須。
  • HIV-RNA定量:ウイルス量のモニタリングに用いる。
  • 梅毒血清反応検査:梅毒の混合感染を除外する。AIDS患者では偽陰性に注意1)
  • トキソプラズマ抗体:偽陽性を示すことが多いため注意が必要。
Q 若年者の眼部帯状疱疹でHIV検査は必要か?
A

50歳未満で重篤な眼部帯状疱疹を認めた場合、HIV感染を示唆する所見である。帯状疱疹はHIV感染者の最初の顕性症状となる可能性があり、HIV検査を考慮すべきである。

HIV/AIDSにおける眼合併症の治療は、抗レトロウイルス療法による免疫回復と、個々の日和見感染症に対する特異的治療の併用が基本となる。

逆転写酵素阻害薬、プロテアーゼ阻害薬、インテグラーゼ阻害薬を組み合わせた強力な抗HIV療法である。抗レトロウイルス療法により免疫不全状態を改善でき、サイトメガロウイルス網膜炎の発症率は80%減少した。現在、抗HIV薬は30種類以上に及ぶが、いずれもウイルス自体を排除することはできず、服薬中断により確実にAIDSへ進展する。

サイトメガロウイルス網膜炎の治療

Section titled “サイトメガロウイルス網膜炎の治療”

ガンシクロビルの点滴静注が第一選択である。病巣の部位・大きさ・副作用に応じて治療法を選択する。

  • ガンシクロビル点滴静注:導入量5 mg/kg 1日2回、維持量5 mg/kg 1日1回
  • バルガンシクロビル経口投与:導入量900 mg 1日2回(21日間)、維持量900 mg 1日1回。利便性が高く、静注と同等の血中濃度が得られる。
  • ホスカルネット点滴静注:ウイルス耐性がある場合やガンシクロビルとの併用に使用。導入量90 mg/kg 12時間ごと、維持量90〜120 mg/kg 1日1回。最大30%に腎機能障害やカルシウム・マグネシウム代謝異常を生じる。

日本における処方例は以下の通りである。

  • ガンシクロビル:導入量400 μg 週2回(または800 μg 週1回)、維持量400 μg 週1回。海外では2,000 μg 週1回の投与も行われる。
  • ホスカルネット:導入量2,400 μg 週2回、維持量2,400 μg 週1回

抗サイトメガロウイルス療法の中止基準

Section titled “抗サイトメガロウイルス療法の中止基準”

ARTを服用中でCD4数が100/μL以上で安定した網膜炎患者では、抗サイトメガロウイルス療法の中止を検討できる。ウイルス量が検出限界以下であれば中止の成功率が高い。中止後もサイトメガロウイルス網膜炎の再発リスクがあるため、3か月間隔での経過観察が必要である。

有効な治療法は確立していない。アシクロビル単独投与は無効であり、ガンシクロビルとホスカルネットの併用を行う。2剤の全身投与、あるいは1剤を全身投与・1剤を硝子体内投与で併用する。同時に抗レトロウイルス療法による免疫能の回復を図る。

神経梅毒のレジメンに準じた治療が必要である。

  • ペニシリンG:2,400万単位/日 10〜14日間 静脈内投与
  • 続いてベンザチンペニシリンG 240万単位 週1回 3週間 筋注

HIV陽性患者では早期の症候性神経梅毒が多く、より高用量のペニシリンが必要とされる1)

残存病原体に対する抗サイトメガロウイルス療法の継続が基本である。重症度や時期により経過は異なり、自然寛解するものから外科的治療を要する症例までさまざまである。極度の炎症には中等量ステロイド薬の全身投与を併用することもある。黄斑浮腫に対してはステロイド薬の眼窩テノン嚢下・硝子体内投与が有効とされるが、眼内炎をはじめとした副作用に十分な注意を要する。

サイトメガロウイルス網膜炎に網膜剥離を合併した場合は外科的治療の適応となる。病巣の大きさと剥離の程度に応じて、硝子体手術・眼内光凝固術・輪状締結術・シリコーンオイル注入を組み合わせる。抗レトロウイルス療法により網膜炎のコントロールが改善されるため、網膜剥離のリスクは60%減少する。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

HIVに対する抗原抗体反応により網膜微小循環障害が生じ、綿花様白斑や点状出血が出現する。検眼鏡的には消退しても、近年の研究で光干渉断層計や走査レーザー検眼鏡により網膜内層に恒久的な構造的損傷が残存することが判明している。

サイトメガロウイルス網膜炎の病態

Section titled “サイトメガロウイルス網膜炎の病態”

サイトメガロウイルスは血管内皮親和性(endothelial-tropic)を有するため、病変は血管走行に沿って分布する。感染血管のサイズにより、以下の3病型を呈する。

  • 周辺部顆粒型:網膜周辺部に出血をほとんど伴わず、白色顆粒状の滲出斑が扇形に集積する。
  • 後極部血管炎型:後極部の血管に沿って網膜出血と浮腫を伴う黄白色滲出斑を生じる。
  • 樹氷状血管炎型:大血管を中心に網膜血管が白鞘化する。

ウイルス複製が遅いため病変中心部が治癒し、境界部が黄白色で衛星状病変(satellite lesions)を伴いながら進行するのが典型的パターンである。陳旧性サイトメガロウイルス網膜炎病巣は網膜全層が壊死してレース状に菲薄化し、硝子体の牽引により多発裂孔を形成して網膜剥離をきたす。

免疫回復ぶどう膜炎の発症機序

Section titled “免疫回復ぶどう膜炎の発症機序”

発症機序はいまだ完全に解明されていないが、有力な仮説は以下の通りである。抗レトロウイルス療法によりサイトメガロウイルス特異的T細胞の反応が回復すると、すでに鎮静化したサイトメガロウイルス網膜炎病巣辺縁の細胞内でわずかに複製される残存サイトメガロウイルス抗原に対して免疫反応が顕在化し、ぶどう膜炎を生じる。

免疫回復ぶどう膜炎の危険因子として以下が挙げられる。

  • 抗レトロウイルス療法導入時のCD4数50/μL未満:免疫回復ぶどう膜炎発症リスクが高い。
  • 病巣面積が大きい:残存サイトメガロウイルス抗原量が多いためリスクが上昇する。サイトメガロウイルス網膜炎の表面積30%超で硝子体炎・ぶどう膜炎のリスクが増加する。
  • シドフォビル硝子体注射の既往:リスクを高める。
  • 十分な抗サイトメガロウイルス療法の施行:リスクを低減する。

免疫回復ぶどう膜炎でみられる眼病変は多岐にわたり、虹彩毛様体炎、硝子体炎、虹彩後癒着、後嚢下白内障乳頭浮腫、黄斑浮腫、網膜上膜、網膜新生血管増殖硝子体網膜症、網膜剥離が含まれる。

水痘帯状疱疹ウイルスが重度免疫不全宿主で網膜外層を直接障害する疾患である。宿主が炎症反応を生じることができないため、前眼部・硝子体の炎症が乏しいまま網膜外層が急速に壊死に至る。しばしば皮膚の帯状疱疹に続発する。

Q 免疫回復ぶどう膜炎はいつ発症するか?
A

通常は抗レトロウイルス療法開始後3か月以内に発症するが、最大12か月後まで起こる可能性がある。サイトメガロウイルス網膜炎の既往がある眼に、CD4陽性T細胞数が100/μL以上に増加した際に好発する。

HIV/AIDS患者の一部に、神経線維層の消失として定義されるHIV関連神経網膜障害が報告されている。コントラスト感度の低下、色覚異常、視野欠損として現れる。リスク要因にはC型肝炎感染、検出可能なウイルス量、低CD4 T細胞数が挙げられている。光干渉断層計による網膜層構造の定量評価がこの障害の早期検出に有用であると考えられている。

抗レトロウイルス療法時代のサイトメガロウイルス網膜炎管理

Section titled “抗レトロウイルス療法時代のサイトメガロウイルス網膜炎管理”

抗レトロウイルス療法普及後もサイトメガロウイルス網膜炎は完全に消失したわけではない。抗レトロウイルス療法導入が遅れた患者や治療不応例では依然としてサイトメガロウイルス網膜炎が発症する。近年開発されたマルチプレックスPCRは、少量の前房水サンプルで網羅的にウイルスを検索できる画期的な検査法であり、壊死性網膜炎の鑑別を含めた診断精度の向上に貢献している。


  1. Dutta Majumder P, Chen EJ, Shah J, et al. Ocular syphilis: a major review. Surv Ophthalmol. 2019;64(4):513-535.

記事の全文をコピーして、お好みのAIに貼り付けて質問できます