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ぶどう膜炎

ライム病

ライム病(Lyme disease)は、スピロヘータの一種であるBorrelia burgdorferi(ボレリア・ブルグドルフェリ)によって引き起こされる多臓器感染症である。マダニ(Ixodes属)の刺咬によって感染し、皮膚・眼・神経・関節・心臓などに症状をきたす。

病原体と媒介動物

B. burgdorferiは長さ20〜30μm・幅0.2〜0.3μmの螺旋状微生物であり、7〜11本の鞭毛によって高い運動能力を持つ。Barbour-Stoenner-Kelly(BSK II)培地などの複雑な培地を要する。

マダニは2年間の寿命で幼ダニ→若ダニ→成ダニの3段階を経る。若ダニが人間への主要な感染源となる。動物宿主(リザーバー)は齧歯類・シカ・鳥などである。

疫学(日本)

日本ではシュルツェマダニヤマトマダニがライム病を媒介する。無症候性感染も多い。北海道を中心とした北日本が主な流行域であり、マダニの地理的分布に一致する。世界的にはヨーロッパ・北米でも広く流行し、欧州では年間約12万8,888例が報告されている。

Q ライム病はなぜ日本では北海道に多いのか?
A

日本ではBorrelia属を保有するシュルツェマダニとヤマトマダニが媒介動物であり、これらのマダニの地理的分布が北海道を中心とした北日本に集中していることが主因である。本州でも報告はあるが、発症例の多くは北日本からの報告である。

ライム病の症状は病期によって異なる。

  • 第1病期:発熱・筋痛・全身倦怠感・遊走性紅斑(erythema migrans)。眼症状として結膜炎を認めることがある。
  • 第2病期:顔面神経麻痺・髄膜炎・神経根炎・眼症状・心臓異常(房室ブロック等)。眼症状として視力低下・霧視飛蚊症
  • 第3病期:慢性関節炎(特に膝関節)・神経症状。眼症状として角膜実質炎上強膜炎
病期皮膚・全身症状神経・心臓所見
第1病期遊走性紅斑(感染後数日〜1か月)・発熱・頭痛なし
第2病期播種性紅斑・関節痛顔面神経麻痺・髄膜炎・房室ブロック
第3病期消退慢性関節炎・脳脊髄炎・脱髄

遊走性紅斑は最初に赤い丘疹として始まり、拡大するにつれて外縁が鮮紅色・中心が退色した「的(ターゲット)状」の病変を形成する。患者の約20%は典型的なターゲット状病変を示さない。

第1・2病期の眼症状

濾胞性結膜炎:第1病期に約11%で認める。上強膜炎も見られる。

中間部ぶどう膜炎:第2病期の最も一般的な眼病型。

その他のぶどう膜炎:前部・後部・全ぶどう膜炎。硝子体炎・肉芽腫性前房反応・脈絡膜炎を伴うことがある。

視神経病変:乳頭炎・視神経網膜炎乳頭浮腫

網膜病変網膜血管炎滲出性網膜剥離(稀)。

神経眼科・第3病期

脳神経麻痺:第II・III・IV・VI・VII(顔面)神経の麻痺。両側性顔面神経麻痺が特徴的。片側性・両側性いずれもあり、順次または同時に出現する。

角膜炎:第3病期の最も一般的な眼症状。

角膜所見:両側性・斑状・局所的・実質性または上皮下浸潤。境界不明瞭で初期感染から数か月〜数年後に出現する。局所ステロイドに良好反応(免疫応答性を示唆)。

その他:上強膜炎・瞳孔障害・眼瞼下垂(稀)。

Q ライム病で最も多い眼病型は何か?
A

第2病期における中間部ぶどう膜炎が最も一般的な眼病型である。前部ぶどう膜炎・後部ぶどう膜炎・全ぶどう膜炎としても現れるが、硝子体炎を主体とした中間部ぶどう膜炎が典型とされる。

感染経路と病態生理

感染したマダニが宿主(人間)に付着し、唾液分泌物を介してスピロヘータを伝播させる。微生物は宿主細胞のプロテオグリカンに付着した後、リンパ行性または血行性に皮膚・筋骨格系・神経系・眼など多臓器へ播種される。

リスク要因

  • マダニ(Ixodes属)が生息する野外への曝露
  • 流行地域(北海道・北日本、北欧・欧米)への滞在・渡航歴
  • 夏から秋の屋外活動(キャンプ・森林活動など)

遊走性紅斑は診断的価値が高く、流行地への曝露歴・マダニ刺咬歴の聴取が重要である。眼所見のみからの診断は難しく、血清学的検査が必須となる。

米国疾病予防管理センター(CDC)が推奨する2段階アプローチ

  1. 酵素免疫測定法(第1段階):IgMおよびIgG抗体の検出。感染初期1か月はIgMがピークに達する。感染初期数週間は感度が低い。
  2. ウェスタンブロット(第2段階):酵素免疫測定法で疑陽性・陽性の場合に施行。

ウェスタンブロットの判定基準(米国疾病予防管理センター基準):

  • IgM陽性:23・30・41 kDaの3バンドのうち2つが存在(23と41 kDaの組み合わせは偽陽性に注意)
  • IgG陽性:18・23・28・30・39・41・45・58・66・93 kDaの10バンドのうち5つが存在
  • PCR法:眼内液を含む組織からゲノム・プラスミドDNAを増幅。
  • 培養:主に紅斑病変からの分離が容易。
  • 梅毒との鑑別:ライム病は梅毒血清検査(FTA-ABS)で偽陽性を示すことがある。
  • 治療後の注意:抗菌薬治療後も、IgGおよびIgM反応は何年も持続することがある。臨床像がなければ、陽性IgM反応を最近の感染や再感染の証拠として解釈できない。
疾患特徴的な眼症状主な鑑別点
梅毒肉芽腫性ぶどう膜炎FTA-ABS陽性(偽陽性に注意)
サルコイドーシス肉芽腫性前部ぶどう膜炎胸部X線・アンジオテンシン変換酵素値
バベシア症網膜出血・乳頭炎血小板減少・溶血性貧血
Q熱脈絡膜炎・視神経網膜炎Coxiella burnetii抗体

その他の鑑別:バベシア症・コロラドダニ熱・エーリキア症・ロッキー山紅斑熱・ダニ媒介性回帰熱・野兎病など、眼症状を伴う他のダニ媒介性疾患との鑑別が必要である。

Q ライム病の診断で梅毒検査が偽陽性になるのはなぜか?
A

Borrelia burgdorferiはスピロヘータ科に属し、梅毒トレポネーマと同じスピロヘータ目の微生物である。両者の抗原が交差反応を示すため、ライム病患者では梅毒の脂質抗原法(RPR・VDRL)や蛍光トレポネーマ抗体吸収試験(FTA-ABS)で偽陽性を示すことがある。鑑別にはT. pallidumに特異的な検査を組み合わせる必要がある。

初期疾患・顔面神経麻痺(経口投与)

以下のいずれかを選択する:

  • ドキシサイクリン(Doxycycline):100 mg 経口 1日2回 × 10〜21日間
  • アモキシシリン(Amoxicillin):500 mg 経口 1日3回 × 14〜21日間(小児:25〜50 mg/kg/日)
  • セフロキシム(Cefuroxime):500 mg 経口 1日2回 × 14〜21日間(小児:30 mg/kg/日)

日本ではペニシリン系(アモキシシリン)やテトラサイクリン系(ドキシサイクリン) の経口投与が基本とされる。

髄膜炎・再発性関節炎・中枢神経系または末梢神経系疾患(静脈内投与)

  • セフトリアキソン(Ceftriaxone):2 g/日 静脈内投与 1日1回 × 14〜28日間

全身の抗菌薬治療が開始された後に行う。

  • ステロイド点眼薬:前眼部の炎症に対して使用する。
  • 散瞳薬(調節麻痺薬)虹彩後癒着の予防・疼痛・光線過敏の緩和を目的として追加する。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

感染から臓器病変への過程

感染したマダニの唾液腺内でスピロヘータが増殖し、吸血時に宿主皮膚へ注入される。Borreliaは表面のグリコサミノグリカン(decorin結合タンパクなど)を介して宿主のプロテオグリカンに付着する。

その後、細菌はリンパ行性または血行性に全身へ播種され、特に以下の組織に親和性を持つ:

  • 皮膚(遊走性紅斑)
  • 関節滑膜(関節炎)
  • 末梢・中枢神経系(神経ライム病)
  • 心臓伝導系(房室ブロック)
  • 眼組織(ぶどう膜・角膜・視神経)

眼病変の機序

眼のぶどう膜炎は直接的な菌の浸潤と宿主の免疫反応の両方が関与する。第3病期の角膜実質炎は局所ステロイドのみで良好な反応を示すことから、感染そのものよりも**免疫応答(炎症)**が主体と考えられている。

両側性顔面神経麻痺はBorreliaによる脳神経炎(cranial neuritis)の結果であり、第2病期の播種性感染に特徴的な所見である。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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バレリナおよびValneva・Pfizerによる共同開発ライム病ワクチンの臨床試験が欧州・北米で進められており、欧州のLyme borreliosis疾患負荷研究もその基盤となっている。予防医学の観点から新たな段階に入りつつある。

欧州のサーベイランスデータによれば、過去15年でライム病の疾患負荷は流行地域で著しく増大しており、新たな地域への拡大も報告されている。欧州25か国の集計では年間約12万8,888例が報告されており、エストニア・リトアニア・スロベニア・スイスでは罹患率が100例/10万人/年以上と特に高い。

PCR・マルチプレックス診断技術

Section titled “PCR・マルチプレックス診断技術”

眼内液サンプルを含む多様な検体におけるBorrelia DNA検出のためのPCR法が改良され、血清学的診断が困難な症例への応用が研究されている。


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