プルッシャー斑
形状:多角形の境界明瞭な白濁。
位置:細動脈と静脈の間の網膜内層。
境界:血管から50μm以内に明確な境界線。
病態:毛細血管床の閉塞による。

1910年、オトマール・プルッシャーが頭部外傷後の男性で初めて報告した疾患である。圧迫外傷に関連する脈絡網膜症で、軟性白斑・網膜出血・視神経乳頭浮腫・プルッシャー斑を伴う。外傷がない場合は「プルッシャー様網膜症」と呼ばれる。
推定発生率は0.24人/百万人/年であり、過少報告の可能性がある4)6)。両眼性が約60%で、急性膵炎が原因の場合はほぼ全例両眼性となる。病変は後極部(乳頭周囲・黄斑領域)の83〜92%に限局する。
Miguelらの系統的レビューでは、最も頻度の高い関連疾患は外傷で、次いで急性膵炎であった。
プルッシャー様網膜症の原因は多岐にわたる。急性膵炎・腎不全・膠原病・妊娠高血圧腎症/HELLP症候群・脂肪塞栓症候群・バルサルバ法・溶血性尿毒症症候群・揺さぶられっ子症候群・球後麻酔・ステロイド注射などの他、近年ではCOVID-19感染1)9)・高血圧緊急症2)・フィラー注入3)・虚血性大腸炎4)・ワクチン接種5)・C3糸球体症8)による症例が報告されている。
頭部外傷・胸部圧迫・長管骨骨折など外傷が原因の場合をプルッシャー網膜症と呼ぶ。急性膵炎や腎不全など外傷を伴わない全身疾患が原因の場合はプルッシャー様網膜症と呼ぶ。眼底所見は両者で共通している。
Miguelらの系統的レビューによる眼底所見の頻度は以下の通りである。
プルッシャー斑
形状:多角形の境界明瞭な白濁。
位置:細動脈と静脈の間の網膜内層。
境界:血管から50μm以内に明確な境界線。
病態:毛細血管床の閉塞による。
軟性白斑(CWS)
2か月フォローアップ時の経過として、眼底正常化40%・視神経萎縮64%・RPE虎斑状変化23%・網膜菲薄化14%・網膜動脈狭窄4%が報告されている。
プルッシャー斑は多角形で細動脈-静脈間の毛細血管床に生じ、血管から50μm以内に明確な境界線を持つ。軟性白斑は境界不明瞭なふわふわした白色斑で、NFL内の局所梗塞が原因である2)。両者が同一眼底に共存することもある。
プルッシャー網膜症(外傷性)
頭部外傷:最も古くから知られた原因。
胸部圧迫:強い圧迫外傷による胸腔内圧の急激な上昇。
長管骨骨折:脂肪塞栓症候群の合併により発症しうる。
プルッシャー様網膜症(非外傷性)
急性膵炎:最も頻度が高い非外傷原因。ほぼ全例両眼性。
腎不全・C3糸球体症:補体代替経路の活性化が関与する6)8)。
COVID-19感染:軽症例でも補体活性化・凝固異常により発症しうる1)9)。
バルサルバ法・排便:胸腔内圧上昇による静脈還流障害7)。
その他の非外傷原因として、膠原病・結合組織疾患(SLE・皮膚筋炎)・妊娠高血圧腎症/HELLP症候群・脂肪塞栓症候群・溶血性尿毒症症候群・血栓性血小板減少性紫斑病・リンパ増殖性疾患・骨髄移植・気圧外傷・ステロイド注射・球後麻酔・揺さぶられっ子症候群がある。近年ではフィラー注入(非顔面含む)3)・虚血性大腸炎4)・帯状疱疹ワクチン(Shingrix)接種後5)の症例も報告されている。
胸腔内圧の上昇による静脈拡張、遊離脂肪酸による血管炎、複合的な因子による血管内皮傷害が病態に関与する。
軽症COVID-19でも補体活性化・凝固異常により網膜微小血管閉塞が生じ、プルッシャー様網膜症を発症しうることが報告されている1)。サイトカインストームによるC5a高濃度が血栓形成を促進する機序も考察されている9)。
2つの診断基準が用いられる。
Agrawalらの基準は、①関連疾患の存在、②単眼/両眼のプルッシャー斑および/または浅層CWS、③後極部への限定、④直接眼外傷がないこと、⑤網膜血管内に塞栓がないこと、⑥最小限の出血、のすべてを要する。
Miguelらの更新基準(5基準中3つ以上)を以下に示す。
| 基準 | 内容 |
|---|---|
| 基準1 | プルッシャー斑の存在 |
| 基準2 | 少数〜中等度の網膜出血 |
| 基準3 | 軟性白斑(後極部限定) |
| 基準4 | 説明可能な病因の存在 |
| 基準5 | 診断と矛盾しない補完的検査所見 |
エビデンスに基づいた治療ガイドラインは存在しない。多くは経過観察となるが、ステロイド治療を行う場合もある。基礎疾患の治療が最優先である。
以下に主な治療アプローチの比較を示す。
| 治療法 | エビデンス | 主な位置づけ |
|---|---|---|
| 経過観察 | 系統的レビューで推奨 | 第一選択 |
| 高用量ステロイド | 前向き試験未確立 | 補助的 |
| 抗VEGF薬 | 症例報告のみ | 黄斑浮腫合併時 |
Miguelらの系統的レビューでは、高用量ステロイド群と無治療群で視力改善に有意差は認められなかった。Xiaら(2017)の系統的レビューでもグルココルチコイド療法に視力改善の差はないとされている4)5)。病変は1〜3か月で自然消退する傾向がある4)。
高用量ステロイド静注が最も一般的に報告される治療法であるが、前向き試験でのエビデンスは未確立である。機序として損傷した神経膜と微小血管チャネルの安定化、顆粒球凝集と補体活性化の抑制が挙げられる。症例報告ではプレドニゾロン60mg開始後に漸減する用量が用いられている1)6)。
複数の系統的レビューでステロイド群と無治療群の視力改善に有意差は示されていない4)5)。基礎疾患の治療が最優先であり、病変は1〜3か月で自然消退する傾向がある。ステロイド治療を行う場合も前向き試験でのエビデンスは未確立である。
最も受け入れられている理論は、網膜血管系の微小塞栓による前毛細血管閉塞→神経線維層(NFL)微小血管梗塞である。
塞栓の種類は原因疾患により異なる。脂肪(長管骨骨折)・膵臓プロテアーゼ(急性膵炎)・白血球凝集(leukoembolization)・空気・血小板・フィブリンが報告されている。
プルッシャー斑の機序は、直径約45μmの前毛細血管細動脈の閉塞である。網膜動脈・細動脈両側50μmの毛細血管非存在領域(capillary free area)に対応する透明ゾーンが形成される。塞栓サイズによって所見が異なり、大きいものは網膜動脈分枝閉塞症様の融合性白濁を、小さいものは軟性白斑を、中間のものがプルッシャー斑をきたす。
C5および補体の活性化は二次的なリンパ漏出を伴い重要な役割を担う。補体活性化→白血球凝集塊(最大50μm)形成→前毛細血管閉塞という経路が示唆されている5)8)。
バルサルバ/圧迫による機序では、静脈還流障害→網膜静脈の急激な拡張→CWS・出血をきたす7)。
疾患別の機序は以下の通りである。
データは乏しい。Kincaidらによる急性膵炎死亡例では網膜内層に局所的浮腫・嚢胞状空間・正常構造の破壊が観察された。細動脈内腔にタンパク質様物質(再開通した血栓と推定)を認め、視細胞外節の消失があるがRPEと脈絡膜は正常であった。Hollóらによる壊死性膵炎例では、軟性白斑の周囲・内部の血管は無傷で閉塞なく、急性膵炎では塞栓なしでもCWSが発生しうることが示された。
エクリズマブ(C5阻害薬)が非定型溶血性尿毒症症候群に伴うプルッシャー様網膜症で有効性を示した症例報告がある8)。C3糸球体症と補体調節異常の共通病態を踏まえ、プルッシャー様網膜症治療への応用可能性が示唆されている。
Teru et al.(2025)は急性虚血性大腸炎後のプルッシャー様網膜症を初報告した4)。72歳女性、腹痛・血便で入院翌日に両眼視力低下。大腸炎の治療(メトロニダゾール・シプロフロキサシン)のみで2週間後に自然改善した。眼科的治療は不要であった。
Pee et al.(2023)は乳房ヒアルロン酸フィラー約500mL注入後に両眼CF・肺胞出血・脳梗塞を合併したプルッシャー様網膜症とPAMMの初例を報告した3)。SD-OCTで内顆粒層高反射バンドを認め、10か月後にも内層網膜の配列異常が残存した。
Shroff et al.(2022)はSS-OCTAで血管脱落・血流欠損を描出した片眼性プルッシャー様網膜症後COVID-19例を報告した9)。急性期の血流欠損が慢性期にも持続することが示され、OCTAが表層・深層毛細血管叢の血管密度を定量的に評価できるツールとして注目されている。