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眼外傷

眼窩気腫

眼窩気腫(orbital emphysema)は、眼窩内または眼瞼内に異常な空気が蓄積した状態である。一般的に良性かつ比較的まれな疾患であり、大多数は7〜10日以内に後遺症なく自然軽快する。

眼窩壁骨折が最も一般的な原因であり、眼窩気腫が認められる症例の眼窩骨折に対する特異度は99.6%、陽性的中値は98.4%とされる。特に内側壁骨折との相関が高く、内側壁骨折症例の最大75%に眼窩気腫が併発する7)

眼瞼気腫は主に外傷で生じ、基本的に自然吸収して数日で治癒する。眼窩気腫は数日で自然吸収される。

Q 眼窩気腫はどのくらいで治るのか?
A

大多数は特別な治療なく7〜10日以内に後遺症なく自然軽快する。ただし、一方向弁機構が生じた緊張性眼窩気腫では眼窩コンパートメント症候群に進展することがあり、視神経障害の症状が出現した場合は緊急対応が必要となる。

  • 圧迫感・疼痛:眼窩周囲の不快感や痛み。
  • 複視外眼筋の機能障害または眼球偏位による。
  • 視力・視野の変化:重症例では視神経圧迫により生じる。
  • 眼球運動の制限感:眼窩内圧上昇に伴う。
  • 捻髪音(握雪音):眼瞼触診でパチパチとした感覚を聴取する。眼窩気腫に病態生理学的に特異的な所見である。
  • 眼球突出(proptosis):少量の気腫でも全方向に高度な眼球運動制限を生じることがある。
  • 眼球の下方偏位(hypoglobus):遊離空気は眼窩上部に蓄積する傾向があるため生じる。
  • 眼球運動制限:眼窩内圧上昇による。
  • 結膜下気腫:眼窩気腫が結膜下へ拡大した状態。リンパ管拡張症や化学熱傷・眼球脂肪脱出との鑑別が必要となる7)
  • RAPD(相対的求心性瞳孔障害):視神経障害の徴候。
  • 視力低下:重症例では網膜中心動脈閉塞症(CRAO)や圧迫性視神経症が原因となる。

Roelofs分類により3段階に分けられる2)

軽症

条件:視神経圧迫・視力障害なし

管理:保存的管理のみ

中等症

条件:早期の視神経圧迫徴候、軽度視力障害、眼圧上昇、中等度眼球突出

管理:針穿刺脱気±外眥切開・靭帯切断

重症

条件:著明な視神経圧迫、重度視力障害、眼圧上昇、著明な眼球突出

管理:緊急眼窩減圧術

Q 眼圧が正常でも眼窩コンパートメント症候群の可能性はあるのか?
A

ある。Cuttingら(2021)の報告では、眼圧 12 mmHg(正常範囲内)にもかかわらずRAPDが出現し視神経機能障害を来した症例が記録されている6)。眼圧値のみで安全性を判断せず、RAPD・視力・眼球突出を総合的に評価することが重要である。

眼窩気腫は様々な原因で生じる。副鼻腔と眼窩を隔てる紙様板(lamina papyracea)の厚さは約0.3 mmと薄く、加齢・骨粗鬆症・慢性副鼻腔炎でさらに菲薄化するため、比較的軽微な力でも骨折・離開しうる1)

主な原因と病因の比較を以下に示す。

原因カテゴリ代表的な病因
外傷性眼窩壁骨折(特に内側壁)、眼瞼・結膜裂傷
行動・生理的鼻かみ、くしゃみ、バルサルバ法
医原性FESS、鼻形成術、眼瞼形成術、胸腔ドレーン
その他気圧外傷、感染症、食道破裂、特発性

鼻腔内圧は鼻かみで70 mmHg以上、口鼻閉鎖でのくしゃみで176 mmHgに達するとされ4)、これが紙様板の離開・骨折を引き起こしうる。

医原性原因としては、機能的内視鏡下副鼻腔手術(FESS)3)・鼻形成術1)・眼瞼形成術4)のほか、胸腔ドレーン挿入後に気管支胸膜瘻を介して縦隔→頸部→眼窩へ空気が到達した報告もある9)

Q 鼻をかむだけでも眼窩気腫が起こるのか?
A

起こりうる。鼻かみの鼻腔内圧は70 mmHg以上に達し、紙様板が加齢や慢性副鼻腔炎で菲薄化していれば離開・骨折を引き起こしうる4)6)。眼窩骨折の既往がなくても、アレルギー性鼻炎患者が外傷翌日に強く鼻をかんで眼窩気腫が増悪した症例が報告されている2)

眼瞼・眼窩の触診で捻髪音(crepitus)を確認することが第一歩となる。この所見は眼窩気腫に特異的とされる。外傷歴、副鼻腔炎の既往、直前の鼻かみ・くしゃみ・手術歴を必ず聴取する。

各画像検査の特性を以下に示す。

検査特性注意点
単純X線「黒い眉毛徴候」で示唆的偽陰性率50%、微細骨折の検出困難
CT最も決定的な診断法軟部・骨条件の両方が必要
POCUSCT代替、放射線被曝なし専門施設・機器が必要
  • 単純X線:眼窩上部の三日月状透亮像「黒い眉毛徴候(black eyebrow sign)」が高度に示唆的2)5)。しかし偽陰性率は50%に達し、少量の空気や微細骨折の検出は困難である。
  • CT:眼窩気腫診断の最も決定的な画像診断法。空気の存在・位置・量、骨欠損、視神経情報、外眼筋嵌頓を評価できる。Reid基準線(RB line)での撮影が標準であり、ウインドウ幅を軟部組織条件に変更すると眼窩脂肪と眼窩内気腫の確認が容易になる。軟部条件と骨条件の両方で評価する。
  • POCUS(ポイントオブケア超音波):CTが利用困難な術中や搬送困難時にCTの代替として使用可能。眼球周囲の空気ポケットをリアルタイムに検出できる3)
  • ガス産生菌による感染症:発熱・白血球増多を伴う場合に疑う。
  • 眼窩内異物(木片、ポリスチレン):CTフォローアップで鑑別する。
  • 嫌気性菌による眼窩膿瘍:感染徴候を伴う場合に鑑別が必要。
  • 球後出血(retrobulbar hemorrhage):眼瞼形成術後では疼痛・斑状出血・視力低下がより顕著なため鑑別の参考となる4)
  • 潜在性悪性腫瘍:繰り返す気腫や外傷歴のない症例では考慮する。

治療は重症度に応じて段階的に選択する。

大多数は治療・外科的介入なしに自然軽快する。以下の指導と対症療法を行う。

  • 鼻かみ・くしゃみ・咳・バルサルバ法の回避を指導する。
  • 高高度への移動を避ける(低気圧下で空気が膨張する)1)
  • 指圧による空気排出(副鼻腔への開口部がある場合)。
  • 鎮痛薬:疼痛管理に用いる。
  • 鼻腔充血除去薬・抗ヒスタミン薬:粘膜炎症・くしゃみ反射の軽減に用いる1)2)
  • 予防的抗菌薬:二次感染(眼窩蜂巣炎)予防として使用する。ただし最近の後方視的コホート研究では、上気道感染なし・ステロイド不使用の低リスク群では不要との報告もある2)
  • 圧迫眼帯:場合によって使用する。
  • メチルプレドニゾロン静注:圧迫性視神経症(Hunts分類 Stage III〜IV)に対して。負荷量30 mg/kg、以後6時間ごと15 mg/kgで投与する2)

生理食塩水を入れたシリンジに針を接続し、眼窩内の空気を吸引する。気泡の放出を監視できるため、吸引による組織損傷を予防できる2)6)

Cuttingら(2021)は、反復性の非外傷性眼窩気腫により眼窩コンパートメント症候群を来した症例に対し16Gカニューレで涙丘付近から穿刺し、7 mLの空気を吸引した。これにより眼球突出と複視が即座に消失した6)

  • 外眥切開術(lateral canthotomy)±外眥靭帯切断術(cantholysis):眼窩コンパートメント症候群時の緊急処置として施行する。

Chewら(2025)は、緊張性眼窩気腫により眼圧 48 mmHgに達した眼窩コンパートメント症候群症例に対し、cantholysisを伴わない外眥切開術のみを施行した。全身アセタゾラミドとの併用で眼圧は28 mmHgまで低下し、5日後に完全回復した5)

  • 眼窩減圧術:RAPD・視力低下を伴う重度例に適応する。
  • 高気圧酸素療法:窒素拡散勾配による吸収促進のためまれに使用される1)
  • 副鼻腔眼窩瘻の外科的閉鎖・眼窩壁骨折整復術:基礎疾患に対するフォローアップとして施行する。

Hunts分類に基づく管理プロトコール

Section titled “Hunts分類に基づく管理プロトコール”

Hunts分類(Stage I〜IV)では視力低下・眼圧上昇・網膜中心動脈閉塞症の有無に応じて管理が決定される2)

  • Stage I:眼球突出/偏位なし、視力低下なし、眼圧正常、網膜中心動脈閉塞症なし → 予防的抗菌薬+充血除去薬+鼻かみ禁止
  • Stage II:眼球突出/偏位あり、視力低下なし、眼圧正常、網膜中心動脈閉塞症なし → 眼窩CT+Stage Iの治療±針穿刺脱気
  • Stage III:眼球突出/偏位あり、視力低下あり、眼圧上昇(あり/なし)、網膜中心動脈閉塞症なし → 眼窩CT+即座の針穿刺脱気+メチルプレドニゾロン静注
  • Stage IV:眼球突出/偏位あり、視力低下あり、眼圧上昇あり、網膜中心動脈閉塞症あり → 緊急外眥切開・靭帯切断+眼窩CT+針穿刺脱気+メチルプレドニゾロン静注
Q 針穿刺脱気はどのように行うのか?
A

生理食塩水を入れたシリンジと針(カニューレ)を接続し、眼窩内に蓄積した空気を吸引する手技である。気泡の放出をリアルタイムで確認できるため吸引による組織損傷を予防できる。Cuttingら(2021)の報告では16Gカニューレを涙丘付近から刺入し、7 mLの空気吸引で即座に眼球突出と複視が消失した6)

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

眼窩気腫の基本メカニズムは、空気が眼窩内に流入するが排出できず蓄積する「一方向弁(one-way valve)機構」にある2)5)

空気流入経路として最も頻度が高いのは、骨折または離開した紙様板を介した副鼻腔からの流入である。損傷した眼窩脂肪組織が弁として機能し、空気の眼窩外への排出を妨げる。

眼窩内圧の上昇により以下の視覚障害が生じる。

  • 圧迫性視神経症:眼窩内圧の上昇が視神経を圧迫・伸展し、虚血を引き起こす。3時間以上の虚血で永続的視力障害のリスクが生じる5)
  • 網膜中心動脈閉塞症:眼窩内圧が眼動脈圧を超えた場合に発症する。

Heerfordt の死体実験では、眼窩内に空気注入した際に眼窩隔膜が破裂するのに40〜50 mmHgの内圧が必要であり、若年者で抵抗が最も強いことが示されている2)。眼窩眼瞼気腫(眼窩隔膜が破裂して空気が前方の眼瞼に拡大した状態)が生じた場合は、眼窩内圧が低下するため眼窩コンパートメント症候群の否定的所見となりうる2)

成人の眼窩の平均容積は約30 mLと限られた円錐形空間であり、隔膜・瞼板の伸展性が限られているため容積増加に脆弱である5)

遠隔部位からの空気移動も生じうる。顔面・頸部・胸部の深筋膜面が解剖学的に連続しているため、気管支胸膜瘻から縦隔→頸部→下眼窩裂を経由して眼窩へ空気が到達した症例が報告されている9)


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

POCUS(ポイントオブケア超音波)の診断応用

Section titled “POCUS(ポイントオブケア超音波)の診断応用”

Kanwatら(2024)は、8歳児のFESS術後に発生した眼窩周囲気腫に対し、術中CTが利用困難な状況でPOCUSを用いてリアルタイムに診断・経過観察を行った初の報告を発表した3)。保存的治療(ネオスポリン軟膏、圧迫包帯)で36時間以内に完全消失した。

放射線被曝がなく反復使用可能なPOCUSは、特に小児症例やCTが利用困難な緊急場面での代替診断手段として注目されている。

Boustanyら(2023)は、鼻形成術後に一過性の両眼性垂直複視を生じた63歳女性に対し、左側臥位での体位変換を2時間実施した結果、眼窩上部の4 mm × 3 mmの錐外空気が流入部位方向へ誘導され複視が消失したと報告した1)

この手法は良性発作性頭位めまい症のEpley法や空気塞栓のDurant法の原理を応用したものであり、軽症の錐外気腫に対する非侵襲的アプローチとして限定的に報告されている。

眼窩底骨折再建材料としてのPMMA

Section titled “眼窩底骨折再建材料としてのPMMA”

AlSubaieら(2022)は、眼窩底吹き抜け骨折(BOF)に対し成形可能なポリメチルメタクリレート(PMMA)インプラントを用いた再建術を2症例に施行し、術後1年の良好な解剖学的・機能的転帰を報告した8)。安価・術中成形可能・硬化後の固定不要という特性を持つが、長期成績は不明である。


  1. Boustany AN, Comer CD, Gopal H, Lin SJ, Slavin SA. Acute diplopia following rhinoplasty: clearing the air. Plast Surg. 2023;31(2):177-182.
  2. Ng QX, Lim XC, Chong JC, Hanafi H, Lim LT. Traumatic orbital emphysema following blunt trauma and nose blowing. Cureus. 2023;15(11):e48584.
  3. Kanwat J, Jalwal G, Rathi U, Kaur K. An innovative use of point-of-care ultrasound for identification and management of a rare and uncommon perioperative complication: periorbital emphysema following sinus surgery in a pediatric patient. Cureus. 2024;16(4):e57721.
  4. Tarim B, Kılıç M. Orbital and premaxillary emphysema as a result of nose-blowing following blepharoplasty. Indian J Plast Surg. 2025;58:136-138.
  5. Chew CF, Prem-Kumar V. Tension orbital emphysema following blunt trauma: a case of orbital compartment syndrome. Cureus. 2025;17(11):e97421.
  6. Cutting S, Davies-Husband C, Poitelea C. Recurrent self-induced nontraumatic orbital emphysema causing orbital compartment syndrome with optic nerve dysfunction. Case Rep Ophthalmol Med. 2021;2021:8884009.
  7. Boyer EF III, Filutowski O, Slonim C. Late subconjunctival emphysema in an unrepaired orbital floor fracture. Cureus. 2022;14(4):e24459.
  8. AlSubaie MF, Al-Sharydah AM, Nassim HM, Alhawsawi A. Orbital floor blowout fracture reconstruction using moldable polymethyl methacrylate: a report of two cases and their imaging findings. Open Access Emerg Med. 2022;14:223-232.
  9. Land MR, Shin EH, Kim DB. Orbital emphysema as a result of chest tube placement for recurrent pneumothorax. Clin Case Rep. 2023;11:e6978.

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