外観の変化
内眥角の丸み(rounding):内眥の鋭角な構造が失われる。
内眥間距離開大(telecanthus):両眼の内眥間距離が後天的に増大する。
眼裂の水平短縮:内眥靭帯剥離に伴い眼裂が短くなる。
涙点の外側偏位:内眥靭帯前脚付着の損傷を示す指標となる。涙小管断裂との合併を示唆する。

内眥靭帯(medial canthal tendon; MCT)剥離とは、内眥(目頭)を含む眼瞼の全域または一部が本来の解剖学的位置から引き裂かれた眼瞼外傷である。
内眥靭帯は涙道系を密接に囲む構造体であり、内眥の支持・眼瞼と眼球の位置規定・涙道系の機能維持に重要な役割を担う。内眥靭帯は眼輪筋の隔膜前部・瞼板前部の筋線維が内側に伸びて形成され、上脚と下脚が合流して共通の内眥靭帯となる。その後、前脚と後脚に分岐する。
涙嚢体部の前面は内眥靭帯に覆われている。涙囊上半分の外側面は、結合組織を介してホルネル筋(Horner-Duverney’s muscle)に覆われる。涙小管は内眥靭帯の背側を走行し、内総涙点で涙囊に接続する。涙点から涙囊に至るまでの涙小管の走行は、垂直方向に約2mm進んだ後、水平に8〜10mm眼輪筋内を走行し、80%以上の症例で上下涙小管が合流して総涙小管(3〜5mm)となり涙嚢後外側壁に流入する。涙小管の直径は1〜2mmである。
涙囊は開閉瞼時の眼輪筋・ホルネル筋の収縮・弛緩と連動してポンプ機能(導涙ポンプ機能)を果たす。内眥靭帯やホルネル筋が断裂するとこのポンプ機能が障害され、流涙症の原因となる。
涙小管は内眥靭帯の背側を走行しており、内眥靭帯と解剖学的に連動している。そのため内眥靭帯剥離が生じると、涙小管断裂が高率に合併する。涙点の外側への偏位がこの連動損傷の指標となる。
外観の変化
内眥角の丸み(rounding):内眥の鋭角な構造が失われる。
内眥間距離開大(telecanthus):両眼の内眥間距離が後天的に増大する。
眼裂の水平短縮:内眥靭帯剥離に伴い眼裂が短くなる。
涙点の外側偏位:内眥靭帯前脚付着の損傷を示す指標となる。涙小管断裂との合併を示唆する。
診察所見
靭帯付着部の評価:有鉤ピンセットで牽引し、上脚・下脚の完全性を触診で評価する。
後涙嚢稜付着部の確認:後部靭帯付着部を評価し、剥離の程度を判定する。
涙小管の断端:断端は乳白色または灰白色でつやのあるリング状にみえる。
内眥角の丸み・後天性の内眥間距離開大(telecanthus)・眼裂の水平方向短縮・涙点の外側偏位が主な所見である。これらが複合して出現することで、特徴的な外見の変化が生じる。
内眥靭帯剥離は以下のような外力によって引き起こされる。
損傷の形式には2種類ある。下表に主な違いを示す。
| 損傷の形式 | 機序 | 断裂部位の特徴 |
|---|---|---|
| 間接損傷 | 眼部打撲による眼瞼の過度な外側牽引 | 鼻側で断裂・整復が難しい |
| 直接損傷 | 内眥への直接の外力 | 比較的整復しやすい |
損傷を受けやすい部位・部分については以下の傾向がある。
鈍的外傷・動物咬傷・交通事故・鼻眼窩篩骨骨折に合併しやすい。また、医原性損傷として涙嚢鼻腔吻合術後にも生じる。間接損傷では眼瞼が外側に牽引されることで鼻側の涙小管断裂を伴うことが多く、整復が困難となりやすい。
内眥靭帯剥離の診断は臨床診断である。受傷機転の十分な理解と詳細な病歴聴取が重要であり、眉・鼻・頬を含む顔面上内側のあらゆる損傷で内眥靭帯外傷を疑う。
まず眼球損傷の有無を確認するための完全な眼科的検査を行う。眼球破裂・角膜穿孔・眼窩骨折・外眼筋損傷・頭部顔面外傷の合併を確認する。木片・ガラス・石・鉄片などの異物遺残が疑われる場合はCT検査を行う。
CTとMRIの比較を以下に示す。
| 検査 | 推奨度 | 特徴 |
|---|---|---|
| CT(静脈内造影なし) | 第一選択 | 損傷範囲・骨折合併の評価に最良 |
| MRI | 原則非推奨 | 強磁性体混入の懸念から初回外傷検査では禁忌。CTより時間・費用もかかる |
全身麻酔が望ましい。局所麻酔液の浸潤により組織が膨隆すると断端の探索が困難になるためである。局所麻酔下で行う場合は滑車下神経ブロックを併用する。
修復は以下の順序で行う。
①涙小管修復
涙点からブジーを挿入し断裂部位を推測する。釣り針フック・牽引糸(4-0シルク)で創を展開する。
断端探索:ボスミンサーゼ・バイポーラ・吸引嘴管で止血・吸引しながら断端を探索する。断端確認後、通水・ブジー挿入で涙小管であるか確認する。
シリコーンチューブ挿入:涙点から涙管チューブを挿入する。
断端縫合:断端同士を8-0吸収糸(バイクリル等)で2〜3針縫合する。ホルネル筋を含む周囲組織も一緒に縫合する。ホルネル筋の縫合は導涙ポンプ機能の再建に重要である。
②内眥靭帯縫合
**涙小管縫合後に内眥靭帯を縫合する。**この手順を怠ると術後に涙点が外側に偏位した状態で治癒し、醜形をきたす。
内眥靭帯切断で両端確認可能な場合:4-0ポリエステル糸(非吸収性)で水平マットレス縫合を行う。
骨膜無傷で遠位端不明の場合:5-0編み込みマルチフィラメント吸収性縫合糸を内側壁骨膜と内眥靭帯に通して固定する。
完全剥離の場合:マイクロプレートによる内眥靭帯の骨固定、または経鼻ワイヤリングを行う。
③眼瞼縫合
内眥を基準にして周囲の裂傷を縫合していく。
眼瞼皮膚は血流豊富で感染に強いため縫合で生着しやすい。デブリードマンは組織欠損を生じるため行わない。
瞼縁断裂がある場合:6-0ナイロン糸で仮縫合→瞼板縫合→皮膚・眼輪筋・結膜を層ごとに縫合する。
まず涙小管断裂の修復(断端縫合・涙管チューブ挿入)を行い、次に内眥靭帯縫合、最後に眼瞼裂傷の縫合の順で実施する。この順序を守ることで、涙点の偏位や内眼角部変形を防ぐことができる。
通常は術後1〜2か月で抜去する。術後2〜3週間は通水検査を行わない。抜去後も2〜3か月間は2週間ごとの通水確認が必要である。涙管チューブは最低6週間留置し、問題がなければ4〜6か月の留置を考慮する場合もある。
内眥靭帯の前脚は涙嚢前方を通り上顎骨前頭突起・前涙嚢稜に付着して涙点位置を保持する。後脚は涙嚢後方を通り後涙嚢稜に付着して眼瞼内側の位置維持と眼球密着に寄与する。後脚は外側への牽引力に対して比較的弱いため、剥離が後脚から生じやすい。
鈍的外傷の機序については以下の2経路がある。
鈍的外傷では瞼板が断裂する裂傷は生じにくく、眼瞼の最内側で涙小管断裂を伴った裂傷になりやすい。涙小管は内眥靭帯の背側を走行するため、内眥靭帯剥離と涙小管断裂は解剖学的に連動して損傷する。
涙小管断裂が生じると内眥靭帯も同時に断裂し、涙点が外側に偏位する。その結果として内眥角の丸み・telecanthusが出現する。また、内眥靭帯およびホルネル筋の断裂により開閉瞼に伴う導涙ポンプ機能が障害され、流涙症が持続する。
内眥靭帯再建を行わずにクロフォード型バイカナリキュラーステントの留置のみで修復する手法が報告されている。
ステント単独修復を行った37名中35名で有効であり、流涙もほぼなく美容結果も良好であったと報告されている(資料C記載)。後内側への牽引力を提供することで内眥靭帯複合体の再接着を助けるとされる。
眼窩内側壁にスクリューホールを作成し、アンカーデバイスを挿入して内眥靭帯断端に縫合するシステム。遺体研究において対側内眥靭帯の保持強度の97%を有することが報告されている。
セルフタッピングスクリューと専用ドライバーを用い、固定穴を自身で作成できるアンカーシステム。
内眥靭帯付着点に2つのドリル穴を作成し、非吸収性縫合糸を通して同側鼻孔から結紮する手技。比較的容易・安価であり、2名の症例で良好な経過が報告されている。