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眼外傷

眼瞼裂傷

眼瞼裂傷(Eyelid Laceration)は、まぶたにおける部分層または全層の組織欠損である。眼瞼の外傷は日常的に遭遇する一方、合併損傷を見逃すと視機能や整容に長期的な影響を及ぼす。

受傷機序は多岐にわたる。小児では犬による咬傷・転倒・自転車ハンドルとの衝突が多い。成人では拳による打撃・交通事故・球技が主因となる。フロントガラスによる切傷や、目の高さにあるフックへの引っかかりなども起こりうる。

小児の顔面裂傷の約20%に眼瞼が関与するとされる。男性・小児〜若年成人に多く発生する。犬種では特にピットブル・テリア種による咬傷が知られている。薬物やアルコール使用下での受傷、職場での高速移動物体・重機との接触も重要な原因である。爆発外傷においても眼瞼裂傷は主要な損傷の一つであり、ベイルート港爆発後の眼外傷報告では48眼中41.6%で認められた。

病因は大別すると2つある。

  • 鋭利な物体による切傷:前葉のみの部分層裂傷から全層裂傷まで深さはさまざまである。
  • 鈍的外傷による剥脱損傷(avulsion injury):眼瞼が過度に牽引・引き裂かれる機序で生じる。

眼瞼裂傷には角膜擦過傷・涙道損傷・眼内異物・眼球開放性外傷・眼窩骨折などの合併損傷が随伴しうる。これらの見落としが予後を左右するため、系統的な評価が不可欠である。

  • 眼・眼瞼周囲の疼痛・刺激感:受傷直後から生じ、腫脹が強い場合は開瞼困難となる。
  • 出血・排液:眼瞼や眼周囲から持続的な出血を認めることがある。
  • 視界のぼやけ・歪み:眼球損傷の合併または眼瞼腫脹による視野遮蔽で生じる。
  • 流涙:涙小管断裂を伴う場合、受傷直後から過剰な流涙を認める。
  • 知覚麻痺:眼窩縁付近の裂傷では眼窩上神経領域の知覚低下を伴うことがある。

深達度評価が最初の重要なステップである。眼瞼の前葉(皮膚・眼輪筋)までか、後葉(瞼板・結膜・眼瞼挙筋・Müller筋)にまで達する全層裂傷かを見極める。これにより治療方針が大きく異なる。

主要な所見の評価ポイントを以下に示す。

  • 瞼縁断裂の有無:睫毛列(lash line)・grey lineの整合を確認する。瞼板に達していることが多い。
  • 隔膜前脂肪の突出・眼瞼下垂を伴う水平裂傷:眼窩隔膜の穿孔および挙筋腱膜損傷を示唆する重要な所見である。
  • 涙点の変位:涙点が外側に偏位していれば涙小管断裂を疑う。
  • 内眥の変位・過度な丸み・弛緩:内眥靭帯(内側眼瞼靱帯)の剥脱を示唆する。
  • 合併損傷の確認:眼球開放性外傷(眼球破裂・角膜穿孔)、外傷性眼瞼下垂、涙小管断裂を必ず精査する。

鈍的外傷では瞼板が完全断裂するほどの全層裂傷は生じにくく、眼瞼最内側で涙小管を断裂する裂傷になりやすい点に注意が必要である。

Q 眼瞼裂傷で特に注意すべき合併損傷は何か?
A

眼球損傷(眼球破裂・角膜穿孔・強膜裂傷)、外傷性眼瞼下垂、涙小管断裂の3つを必ず確認する。眼球損傷があれば眼瞼修復より優先して対処する必要がある。涙小管断裂を見逃すと慢性的な流涙の原因となるため、眼瞼内側の裂傷では特に念入りに評価する。

  • 犬による咬傷:特に小児に多い。ピットブル・テリア種による咬傷は組織欠損が大きくなりやすい。
  • 転倒・衝突:小児の机の角・自転車ハンドル、高齢者の転倒が多い。
  • 拳による打撃・交通事故:成人の鈍的外傷の主因。眼瞼最内側の涙小管断裂を合併しやすい。
  • フロントガラス・フック:鋭利な切傷や全層断裂を生じることがある。
  • 分娩外傷:帝王切開時の操作で生じることがある。
  • 性別・年齢:男性・小児〜若年成人で発生頻度が高い。
  • 薬物・アルコール:判断力低下による受傷リスクの上昇。
  • 職場環境:未熟練労働者、重機・高速移動物体・目の高さのフック周辺での作業。
Q 眼瞼裂傷を予防するにはどうすればよいか?
A

小児では犬との遊びや鋭利な物体取り扱い時の監督が重要である。成人は球技・自転車・職場作業時に保護メガネやヘルメットを着用する。高齢者は転倒リスクの軽減に努める。

  • 受傷前の状態確認:対側眼や受傷前の写真と比較し、外傷性眼瞼下垂・瘢痕の術前評価に活用する。
  • 受傷機序・時期・自己処置の有無:手術適応の判断と手術タイミングに関わる。
  • 全身情報:アレルギー歴、最終経口摂取時間、破傷風の免疫状態を確認する。
  • 咬傷の場合:狂犬病(犬・流行地域での受傷)、加害者のHIV・肝炎ウイルスのステータスを確認する。
  • 小児・薬物影響下:保護者・目撃者からの情報収集を行い、虐待・ネグレクトの可能性も念頭に置く。

まず眼球損傷の有無を評価する。眼瞼が著明に腫脹し開瞼困難な場合は、デマル鉤で眼瞼を引き開け、手持ちスリットランプで眼球を観察する。角膜穿孔・裂傷・強膜裂傷・眼球破裂があれば眼瞼処置より優先して対処する。

その後、裂傷の部位・深さ・異物の有無・組織欠損の有無を評価する。挙筋断裂と涙小管断裂は必ず確認する。可能であれば眼瞼挙筋腱膜・Müller筋・下眼瞼牽引筋腱膜(LER)の損傷有無も調べる。

涙点より内側の眼瞼裂傷では、涙小管断裂を積極的に疑う。

検査方法注意点
ブジー検査涙点からブジーを挿入し断裂の有無を確認第一選択。麻酔前に実施
通水検査涙点から生理食塩液を注入し漏出を確認慎重に行う(周囲組織への漏出で膨隆し術中操作が困難になる)

断裂部位の特性として、下涙小管の断裂が最も多く、上涙小管、上下両涙小管の順に続く。鈍的外傷による間接損傷では鼻側で断裂し、直接損傷(鋭利な切傷)より断端の捜索が困難となる。

問診・視診から異物や眼窩骨折が疑われる場合はCT撮影を行う。

  • CT(脳・眼窩・顔面):軸位断・冠状断・副矢状断、1〜2mmスライスで評価する。
  • MRI(T1強調):木製異物の可視化に有用。ただし金属異物がある場合はMRI禁忌である。初期検査の第一選択はCT。木片・プラスチック・一部のガラスはX線やCTで写らない点に注意する。

眼周囲の挫傷、眥靭帯の剥脱、眼瞼剥脱(avulsion)を鑑別する。併発損傷として角膜異物・眼窩骨折・外傷性前房出血なども念頭に置く。

手術を開始する前に眼球破裂・残留異物・眼窩骨折・頭蓋内損傷を除外する。眼球損傷があれば眼瞼処置より優先する。一次修復は受傷後12〜24時間以内に行うことが原則である。

  • 表在性の水平裂傷(例:小児の机の角による受傷):消毒・圧迫止血後にテープ固定のみで十分な場合がある。
  • 眼瞼の25%未満・皮膚のしわに沿った単純表在性裂傷:三種混合抗菌薬軟膏や皮膚接着剤で管理可能なことがある。
  • 麻酔:アドレナリン入り0.5%または1.0%リドカインで浸潤麻酔を行う。
  • 洗浄:生理食塩液で砂・泥・ガラス片など異物をすべて除去する。細かい異物は手術顕微鏡下で実施する。
  • デブリードマンは極力控える:明らかに挫滅・汚染された組織のみ切除する。眼瞼皮膚は血流が豊富で感染に強いため、挫滅が強くても縫合で生着しやすい。デブリードマンは組織欠損を生じるため行わない方がよい。
  • 止血:動脈性出血はバイポーラ電気凝固で処置する。

単純裂傷

瞼縁断裂なし:創の断端同士を正確に合わせて縫合する。

皮膚縫合:7-0ナイロン糸を使用する。

眉毛・鼻根部の厚い皮膚:6-0ナイロン糸による埋没縫合を追加する。

皮膚弁状の複数裂傷:一見欠損に見えるが、創縁を丁寧に合わせると皮膚欠損なく縫合できることがほとんどである。

複雑裂傷(瞼縁・瞼板裂傷)

瞼縁の仮縫合:まず6-0ナイロン糸で仮縫合し、モスキートクランプで固定して瞼板を緊張させる。

瞼板縫合:6-0ナイロン糸で瞼板裂傷部を縫合する。

後葉の再建:瞼板→Müller筋→挙筋の順に縫合する。内・外眼角腱の断裂があれば縫合固定する。

瞼縁の最終縫合:皮膚縫合後に仮縫合を外し、睫毛列・grey lineが正確に合うよう再縫合する。

瞼板を含む全層裂傷では、マイボーム腺開口部の並びを参考に断端を合わせ、6-0ナイロン糸で瞼縁から瞼板に通糸する。瞼板前面を6-0吸収糸で2〜3針縫合した後、8-0吸収糸で瞼縁を合わせ直す。

フォローアップの遵守が困難な患者(小児・認知症・ホームレス)では、非吸収性縫合糸の使用を避ける。

一方のみの断裂であっても、涙小管再建を行うことが原則である。受傷後48時間以内の手術が望ましく、1週間以内であれば比較的容易に実施できる。時間が経つほど瘢痕が進み断端の捜索が困難になる。

麻酔の選択:涙小管断裂を伴う場合は全身麻酔が望ましい。局所麻酔による組織膨隆で断端の捜索が困難になるためである。局所麻酔下で行う場合は滑車下神経ブロックを併用する。

手術手技の手順を以下に示す。

  1. 涙点からブジーを挿入し断裂部位を推測する。
  2. 釣り針フック・牽引糸(4-0シルク等)で創を展開する。
  3. ボスミンガーゼやバイポーラで止血しながら断端を捜索する。涙小管断端は乳白色〜灰白色でつやのあるリング状である。
  4. 断端を確認後、涙点からシリコーンチューブを挿入し鼻腔まで通す。
  5. 涙小管断端を8-0バイクリルまたはナイロン糸で後壁から縫合する。
  6. 涙小管だけでなくホルネル筋を含む周囲組織も縫合する。
  7. 閉創前に内側眼瞼靱帯の断裂有無を確認し、断裂があれば整復する。
  • 神経原性・腱膜性:受傷後6か月間は自然軽快が期待できるため経過観察とする。
  • 挙筋・挙筋腱膜断裂が明らかな場合:断裂部位の縫合を試みる。
  • 断裂が不明確な場合:眼瞼裂傷の縫合のみ行い、6か月程度経過観察後に手術要否を検討する。

皮膚縫合糸の抜糸は術後5〜7日(1週間前後)を目安とする。眼周囲・瞼縁の縫合糸は5〜10日間留置する。

涙管チューブを留置した場合のスケジュールを以下に示す。

時期処置内容
術後ステロイド点眼+抗菌薬点眼を開始
術後約2週間初回通水検査を実施(早期実施は断裂部リーク・治癒遅延の原因となる)
術後1〜2か月チューブ抜去(通常の目安)
抜去後2〜3か月間2週間ごとに通水確認を継続

瘢痕は術後2〜3か月で最も目立つが、6か月〜1年かけて目立たなくなる。完全な創傷治癒と瘢痕成熟には6〜12か月を要する。

汚染創・犬による咬傷・異物が疑われる場合は全身性抗菌薬を使用する(アモキシシリン・クラブラン酸、ドキシサイクリン、トリメトプリム・スルファメトキサゾール、セファレキシンなど)。受傷状況に応じて破傷風・狂犬病の予防処置も検討する。

Q 涙小管断裂が合併していた場合、いつまでに手術すべきか?
A

受傷後48時間以内の手術が望ましく、1週間以内であれば比較的容易に断端を捜索・縫合できる。時間が経過するほど周囲組織の瘢痕化が進み断端の同定が困難になる。全身麻酔下での施行が推奨されるため、早期に専門施設へ紹介することが重要である。

Q 眼瞼裂傷の傷跡はどのくらいで目立たなくなるか?
A

瘢痕は術後2〜3か月で最も目立つが、6か月〜1年かけて徐々に目立たなくなる。完全な創傷治癒と瘢痕成熟には6〜12か月を要する。この期間は過剰な牽引・紫外線曝露を避けることが望ましい。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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眼瞼の皮膚は体の中で最も薄く、皮下脂肪をほとんど含まない。この特性が優れた可動性と外力への脆弱性を同時に生む。

上眼瞼の層構造

前葉:皮膚(薄く皮下脂肪なし)→眼輪筋(第VII脳神経支配、瞼板前部・隔膜前部・眼窩部に分類)

隔膜:眼窩隔膜(瞼縁から約10mm上方)→脂肪体(隔膜と挙筋腱膜の間に存在、裂傷修復の重要指標)

後葉:挙筋腱膜(動眼神経支配、瞼板上方約5mm)→Müller筋(交感神経支配、瞼板上方約10mm)→瞼板→結膜

血管構造:縁動脈弓(瞼縁から約2mm上方)と末梢動脈弓(瞼板末梢縁)の2本

下眼瞼の層構造

上部5mm(瞼板領域):皮膚→瞼板前眼輪筋→瞼板→結膜の4層構造

下部5mm(隔膜領域):皮膚→隔膜前眼輪筋→眼窩隔膜→脂肪体(鼻・中央・耳側の3つ)→嚢瞼筋膜→下瞼板筋→結膜の7層構造

瞼板の機能:眼瞼の構造的完全性を維持し、マイボーム腺とその開口部・睫毛毛包を収容する

涙液の排泄経路は涙点→涙小管→総涙小管→涙嚢→鼻涙管の順である。

  • 涙小管の寸法:直径1〜2mm、垂直部(涙点から眼瞼に沿う部分)約2.5mm、水平部(鼻側に走行する部分)約8mm。
  • 総涙小管の形成:80%以上の症例で上涙小管と下涙小管が合流し総涙小管を形成する。
  • 機能的意義:下涙小管が涙液排泄の主要経路とされ、下涙小管のみが損傷した場合でも流涙の原因となりうる。
  • 直接損傷(鋭利な物体による切断):切断部位が明確で断端の捜索は比較的容易。
  • 間接損傷(鈍的打撲):眼瞼が過度に外側へ牽引され内側が引き裂かれる。直接損傷より鼻側で涙小管が断裂し、組織の歪みにより断端の整復が難しい。

眼瞼下垂の原因と機序は損傷の種類によって異なる。

  • 神経原性:動眼神経障害(挙筋麻痺)または交感神経障害(Müller筋機能低下)による。
  • 筋原性:挙筋または挙筋腱膜の直接断裂による。
  • 腱膜性:過度な牽引による腱膜変化によるもので、神経原性とともに自然軽快しやすい。
  • 機械性:瘢痕形成による運動制限であり、6か月以降も残存した場合に手術適応となる。

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