網膜・黄斑病変
脈絡網膜萎縮:黄斑部を中心に、境界明瞭な萎縮巣を形成する。CZSの最も特徴的な所見。
色素斑状変化(pigment mottling):局所的な色素凝集・脱色素変化。黄斑部に好発する。
黄斑外病変:色素凝集・脈絡網膜萎縮が黄斑外にも及ぶことがある。
網膜血管異常:血管の異常停止・局所拡張・蛇行・細線化などが報告されている。

ジカウイルス感染症は、フラビウイルス科(Flaviviridae)フラビウイルス属に属する一本鎖RNAウイルスであるジカウイルス(ZIKV)による感染症である。1947年にウガンダのアカゲザルから初めて分離された1)。
ジカウイルスは主にネッタイシマカ(Aedes aegypti)およびヒトスジシマカ(A. albopictus)の咬傷でヒトに伝播する。ヒトおよび非ヒト霊長類がウイルスの主な宿主とされる。蚊媒介以外にも、性交渉・輸血・妊婦から胎児への経胎盤感染が成立する1)。
86カ国以上で蚊媒介性感染が確認されている。2015〜2016年のブラジルを中心とした流行により、先天性脳・眼障害との関連が明らかになった。インドでは2021年のカンプール(Kanpur)アウトブレイクをはじめ、複数の流行が報告されている1)。
周産期にジカウイルス感染した母親の胎児の約10%が先天性ジカ症候群(CZS)に罹患する1)。
成人の感染は多くが無症状である。症状が出る場合も、発熱・関節痛・発疹・非膿性結膜炎などの軽症で1週間程度で自然軽快する。ただし約4000人に1人の割合でギラン・バレー症候群(GBS)が発症することが報告されており、視神経炎のモニタリングが必要となる場合がある。
ジカウイルス感染症の眼科的所見は、先天性(CZS)と非先天性(乳児・小児・成人)で大きく異なる。
CZSを持つ乳幼児は、脈絡網膜萎縮や視神経異常による視力障害を来す。皮質性視覚障害(cortical visual impairment)が視力低下の主因であるが、網膜・視神経の構造的損傷が視力をさらに悪化させる2)。視力障害を持つ乳幼児では、眼振・斜視なども認められることがある。
年長小児・成人では以下の自覚症状が報告されている。
症状は通常軽度で数日〜1週間持続する。
CZSにおける眼異常のスペクトラムは広い。最大55%の乳児に何らかの眼科的徴候が認められる。
網膜・黄斑病変
脈絡網膜萎縮:黄斑部を中心に、境界明瞭な萎縮巣を形成する。CZSの最も特徴的な所見。
色素斑状変化(pigment mottling):局所的な色素凝集・脱色素変化。黄斑部に好発する。
黄斑外病変:色素凝集・脈絡網膜萎縮が黄斑外にも及ぶことがある。
網膜血管異常:血管の異常停止・局所拡張・蛇行・細線化などが報告されている。
視神経・その他の眼所見
高倍率(80°レンズ)によるカラー眼底撮影は、広角レンズ(130°)では検出できない黄斑部の微細変化を検出するうえで有用である2)。Venturaらの4例のCZS乳児対象研究では、130°レンズで片眼性所見を認めた全例において、高倍率レンズにより対側眼の微細黄斑変化が新たに検出され、蛍光眼底造影(FA)で確認された2)。
成人の症例報告では以下の多彩な眼科所見が記載されている。
CZSの子供の約42%は小頭症などの神経学的症状を呈しない可能性があり、神経学的所見が正常でも眼科的異常が存在しうる。眼科的所見は皮質性視覚障害にも寄与するため、神経所見にかかわらず出生後1ヶ月以内の包括的眼科検査が推奨されている。
ジカウイルスは神経前駆細胞(neural progenitor cells)に親和性を持つ。胎児の眼・脳への感染機序については、血液網膜関門・血液脳関門を通過し、脈絡膜・網膜層の細胞に感染して炎症反応と細胞死を引き起こすことが動物実験で示されている。
ヒト虹彩色素上皮細胞はZIKVに対して中程度の感受性を持ち、感染後に強力な抗ウイルス反応(IFN-β)を示す。
妊娠第1三半期にジカウイルスに感染した女性から生まれた胎児では、第3三半期に神経学的異常(小頭症・脳室拡大・皮質下石灰化・脳回形成不全)が顕在化することがある1)。超音波による定期的なサーベイランスが重要である。
臨床的疑いは母体のリスク因子(流行地への渡航歴、感染リスクのあるパートナーとの性交渉)と、臨床的徴候・症状に基づく。確定診断には検査が必要である。
| 検査 | 検体 | 方法 |
|---|---|---|
| RNA核酸増幅検査(NAT) | 血清・尿・CSF | RT-PCR |
| IgM抗体検査 | 血清 | ELISA |
| 中和抗体検査 | 血清 | PRNT |
ジカウイルス血症は発症後1週間未満しか持続しないため、RT-PCRが無効になっている場合がある。PRNTによるIgM陽性確認がより特異的な診断手段である。胎盤・臍帯の組織病理学的検査や免疫組織化学染色も有用である。
CDCは以下の乳児に対し、生後1ヶ月以内に包括的眼科検査を推奨している。
検査内容には視力評価(Teller視力検査など)、対光反射、細隙灯顕微鏡検査、眼圧測定、散瞳下眼底検査が含まれる。
先天性ジカ症候群における光干渉断層計(OCT)では以下が認められる。
広角レンズ(130°)のみでは微細な黄斑病変が見落とされる可能性がある。80°高倍率レンズを用いたカラー眼底撮影は、全例においてFAで確認された微細黄斑変化を非侵襲的に検出できる2)。蛍光眼底造影(FA)は窓欠損(window defect)として色素上皮の微細変化を確認する金標準だが、小児では鎮静を要する。高倍率眼底撮影はFAより低侵襲で費用が少ない代替手段である2)。
渡航歴・流行地域への曝露歴と臨床症状が診断の根拠となる。特徴的な症状は、数日〜1週間持続する斑状丘疹状発疹・関節痛・結膜炎を伴う急性発熱である。
十分ではない可能性がある。Venturaらの研究では、130°広角レンズで所見がなかった対側眼の全例において、80°高倍率レンズにより微細黄斑変化が検出された。これらはFAで確認されており、高倍率撮影を追加することで見落としを防げる可能性がある。
現時点で先天性ジカウイルス感染を予防・軽減するための確立した治療法はない。管理はCDCの暫定ガイダンスに基づく支持療法が中心である。
特異的な抗ウイルス薬は存在しない。治療は対症療法が基本であり、安静・水分補給・鎮痛剤・解熱剤を用いる。
眼病変に対しては以下の対応が報告されている。
ジカウイルスは神経前駆細胞に親和性を持ち、感染細胞のアポトーシスを誘導する1)。胎児の眼に対しては、血液網膜関門を通過したウイルスが脈絡膜・網膜層の細胞に直接感染し、炎症反応と細胞死を引き起こすと考えられている。
CZSで死亡した胎児4例の眼科組織病理学では以下が確認されている。
免疫染色では虹彩・神経網膜・脈絡膜・視神経にZIKV抗原の発現が確認されている。
ZIKVに感染したマウスの研究では、網膜血管は表層のみが発達し血管密度が大幅に減少していた。CD45抗体染色では炎症細胞の浸潤が豊富に認められた。これらの知見は、ZIKVが網膜血管成長の抑制と炎症反応の増強を引き起こすことを示唆している。
CZSの視力障害は多因子性である2)。
Venturaらは119例のCZS児を対象とした研究で、眼底所見の有無にかかわらず大多数の児が視力障害を呈することを示した2)。これはCVIが主要因であることを支持する。
成人感染では、ウイルスが眼内(房水・硝子体)に侵入してぶどう膜炎を引き起こすと考えられている。ジカウイルスはGuillain-Barré症候群など神経学的異常をきたすため、視神経炎のモニタリングも重要である。
Venturaら(2021)は4例のCZS乳児において、80°高倍率レンズによるカラー眼底撮影が、FAで確認された微細黄斑変化を全例で非侵襲的に検出できることを示した2)。従来の広角レンズ(130°)では検出できなかった対側眼の微細変化が高倍率で描出された。過去の研究では55%に眼底所見があると報告されていたが、高倍率撮影により実際の有病率はより高い可能性がある。
現在、ジカウイルスに対するワクチンは実用化されていない。mRNAワクチンを含む複数のプラットフォームで研究が進行中であるが、いずれも臨床応用段階には至っていない。
妊娠第1三半期の感染例では、超音波所見が妊娠12・16・20週で正常でも、28週以降に初めて異常が顕在化することがある1)。妊娠中を通じた定期的な超音波サーベイランスの重要性が症例報告を通じて強調されており、より精密なモニタリングプロトコールの確立が求められている。
Singh D, Kaur L. Maternal Zika virus infection in the first trimester and fetal stigmata in the third trimester. Indian J Radiol Imaging. 2023;33:400-402.
Ventura CV, Aragão I, Ventura LO. Color fundus imaging using a high-magnification lens for detecting subtle macular changes in infants with congenital Zika syndrome. J VitreoRetinal Dis. 2021;5(5):425-430.