この疾患の要点
広角イメージング(WFI)は50度以上、超広角イメージング(UWFI)は最大200度の視野を撮影できる。
従来の眼底カメラ の画角は最大60度程度であり、周辺部網膜 の観察には制限があった。
Optos®(超広角走査型レーザー検眼鏡)は1回約0.3秒の撮影で眼底の80%以上をカバーし、無散瞳 でも使用できる。
RetCam®は主に小児・新生児の眼底疾患(未熟児網膜症 など)に用いられる接触型カメラである。
マルチモーダルイメージングにより、FA ・ICGA ・眼底自発蛍光 などを同一装置で取得可能である。
糖尿病網膜症スクリーニング では、超広角イメージングが従来の7視野撮影からの移行を支持するエビデンスが蓄積されている。
スマートフォンと連携した携帯型眼底撮影 も低・中所得国でのスクリーニングに活用されている。
網膜イメージングとは、三次元(3D)の網膜組織を二次元の画像として取得する技術の総称である。眼科診療において疾患の診断・管理に不可欠な検査基盤をなす。
広角イメージング(Wide Field Imaging: WFI)は50度以上の視野領域を撮影する技術と定義される。さらに広い視野を持つ超広角イメージング(Ultra Wide Field Imaging: UWFI)は、Optos®のように最大200度まで撮影でき、網膜表面積の80%以上をカバーする。
従来の眼底カメラの画角は最大60度程度であり、正面視では黄斑 アーケードの少し外側まで、眼球の向き運動を加えてもぎりぎり赤道部が撮影できる程度にとどまっていた。そのため眼底周辺部の撮影には大きな制限があった。
20世紀初頭、眼科医はフィルムロールを用いた眼底撮影や蛍光眼底造影に頼っていた。20世紀後半以降にデジタルイメージングが普及し、すべての眼底カメラがデジタルシステムへ移行した。
最も大きな変革は光干渉断層計 (Optical Coherence Tomography: OCT)の導入である。1990年代に導入されて以来、多くの網脈絡膜 疾患の理解・管理・治療評価が大きく変化した。近年は広角・超広角イメージングも急速に普及し、眼底周辺部の評価が格段に向上している。
Q 広角イメージングと超広角イメージングはどう違うか?
A 定義上、視野角50度以上がWFI(広角)に分類される。超広角イメージング(UWFI)は特にOptos®のような最大200度の視野を持つシステムを指し、網膜表面積の80%以上を一枚の画像に収められる点が特徴的である。
Q 無散瞳でも広角撮影は可能か?
A Optos®やCLARUS®などの非接触型UWFIシステムは無散瞳での撮影が可能である。散瞳不良症例や散瞳を嫌がる小児でも眼底周辺部まで撮影できる点が大きな利点である。
現代の広角・超広角イメージングシステムは接触型と非接触型に大別される。主要機器の比較を以下に示す。
機器名 接触/非接触 視野角 主な光源・原理 RetCam® 接触型 最大130° CMOS + 光ファイバー HRA2® + Staurenghiレンズ 接触型 最大150° SD-OCT + CSLO Optos® 非接触型 最大200°(眼球中心から) CSLOベース(赤・緑レーザー) CLARUS® 500 非接触型 133°(1枚)/200°(2枚合成) スリットスキャン(赤・緑・青LED) Heidelberg Spectralis 非接触型 55°〜102°(アタッチメント対応) SD-OCT + CSLO
接触型
RetCam®(Clarity Medical Systems社) :最大130°。主に小児・新生児の眼底撮影に使用。全身麻酔下または点眼麻酔下で施行。眼底撮影・蛍光眼底造影が可能(RetCam® 3のみFA対応)。日本では2019年時点で唯一承認された接触型広角眼底カメラ。
HRA2® + Staurenghiレンズ :接触時に最大150°。蛍光・自発蛍光撮影に対応。OCT搭載モデルでは造影所見と対応する断層像を同時取得可能。
注意点 :外傷後・術後早期には使用を避ける。感染性病変の疑い例では院内感染予防に十分留意する。
非接触型
Optos®(Optos PLC社、英国) :楕円凹面鏡を用いて最大200°(眼球中心から)を撮影。緑色(532 nm)レーザーで主に網膜色素上皮 前方を、赤色(633 nm)レーザーで眼底深部を撮影し合成した疑似カラー画像を提供。FA・眼底自発蛍光(green/infrared)・ICGAに対応。無散瞳撮影可能。
CLARUS® 500(Carl Zeiss Meditec社) :1枚で133°、2枚合成で200°。赤・緑・青のLED光源を用いたスリットスキャン方式(部分共焦点)。真のカラー画像および青・緑・赤外の自発蛍光モードを搭載。無散瞳撮影可能。
撮影はミドリン®Pによる十分な散瞳後に実施する。角膜 にヒドロキシエチルロース(スコピゾル®)を滴下し、130°レンズを直接角膜に接触させてフットスイッチで操作する。小児では開瞼器または検者の指で確実に開瞼する。テープを眼瞼耳側に当ててスコピゾル®のプールを作ると安定した撮影が可能である。
接触型イメージングの注意点
外傷後・術後早期は角膜への接触を避ける
感染性病変の疑いがある場合は院内感染予防の観点から十分に注意する
角膜への過度な圧力を避けるようハンドピースの保持方法を工夫する
角膜が乾燥すると画像ぶれが生じるため、撮影は手早く行う
Q 接触型と非接触型はどのような場合に使い分けるか?
A 接触型(RetCam®など)は主に新生児・乳幼児や体動制限が必要な症例に使用する。非接触型(Optos®・CLARUS®)は成人を含む幅広い年齢層に対応し、無散瞳での周辺部撮影が可能である。術後早期や外傷後は非接触型を選択する。
現代のWFIおよびUWFIシステムの大きな利点は、複数の撮影モードを同一装置で取得できることである。主要な取得モードを以下に示す。
カラー眼底撮影 :出血・硬性白斑などの色情報と形態変化を記録
蛍光眼底造影(FA) :フルオレセイン (488 nm)を用いた血管透過性・血流の評価。超広角FAにより眼底周辺部の血管病変を一枚で捉えられる
インドシアニングリーン蛍光造影 (ICGA) :脈絡膜血管の評価。Optos® California以降の機種で超広角ICGA対応
眼底自発蛍光(FAF) :リポフスチン などの自発蛍光物質を評価。ブルー(BAF)、グリーン(GAF)、赤外(IRAF)の各波長で異なる情報を提供
レッドフリー(無赤色光)撮影 :神経線維層の観察に有用
OCT・OCT-A :網膜断層像・血流情報を非侵襲的に取得
Optos® 200Txの眼底自発蛍光では緑色(532 nm)レーザーを使用しており、通常の眼底カメラとは色調が異なる点に注意が必要である。眼底自発蛍光評価の際にはこの波長特性を考慮する。HRAでは同時造影(FA/ICG)も可能であり、同一画角で同時期の造影所見と対応部位へのマーキング表示が得られ、部位比較が容易である。
WFIおよびUWFIシステムはきわめて幅広い眼疾患の診断・管理に活用される。
糖尿病網膜症 (DR) :超広角撮影により末梢血管病変・増殖組織の全体像把握が容易になる。広角イメージングはDRの病変負荷全体のドキュメント化に特に有用である3)
未熟児網膜症(ROP) :RetCam®による小児への対応が確立
網膜血管閉塞症・網膜血管炎 :周辺部病変の検出と経過観察
後部ぶどう膜炎 (感染性・非感染性)
周辺部網膜剥離 ・網膜裂孔 :前駆病変の早期発見
家族性滲出性硝子体網膜症 (FEVR) ・Eales病・急性網膜壊死
周辺部ポリープ状脈絡膜血管症 (PCV) ・周辺部網膜変性 ・網膜分離症
眼腫瘍(網膜芽細胞腫 など)
粘液多糖症(MPS)網膜症 :UWF眼底写真・眼底自発蛍光・OCTの組み合わせにより、臨床眼底検査のみでは検出困難な網膜症が検出可能。75例中65例にUWF眼底写真を施行し、31例で網膜症と一致する所見を確認した2)
強膜 圧迫が禁忌となる状況 (術後早期など)
RetCam®を用いた小児眼底撮影により:①病状の時間的経過の客観的比較、②蛍光眼底造影による病態の詳細把握、③若手医師への教育、④学会発表・論文情報共有、⑤小児科医・コメディカルとの情報共有、⑥家族への病状説明—などの効果が期待できる。撮影は手術室での全身麻酔下(EUA)または外来での点眼麻酔下で行う。1歳未満ではバスタオル等での体動抑制で撮影可能だが、それ以上で体動制限困難な場合はトリクロホスナトリウム(トリクロリール®シロップ)や抱水クロラール(エスクレ®座剤)による鎮静下で観察・撮影を行う。
超広角イメージングは糖尿病網膜症の重症度評価において、従来の7視野(7F)撮影からの移行を支持するエビデンスが蓄積されつつある。
UWF-F7グレーディングとETDRS方式(7F)の重症度評価の一致率は高く、重篤な所見である非増殖DR(κ=0.73;一致率96%)・増殖DR(κ=0.74;一致率97%)・散乱光凝固(κ=0.97;一致率99%)・局所光凝固(κ=0.71;一致率98%)でいずれも高い一致率が示された4) 。UWFイメージングの主な利点は、網膜の広い面積(少なくとも80%)を可視化できることであり、7視野撮影単独では検出できない病変の同定が可能である4) 。
WFI・UWFIシステムには以下の技術的制約がある。
定量評価の困難さ :球面(網膜)を平面(画像)に変換する際、周辺部は中心部に比べてかなり拡大されて表示される。そのため網膜病変のサイズ・面積の定量的評価には特殊な補正手法が必要である
アーチファクト :周辺部撮影では光路に干渉する眼瞼・睫毛が写り込みやすい。焦点深度の深いOptos®では周辺部評価の妨げになることが比較的多い
色調の違い :Optos®やCSLO系機種は特定波長のレーザーまたはLEDを光源とし、網膜表面で反射させる従来の眼底カメラとは画像の色味が異なる。カラーバランスの調整により検眼鏡所見に近づけることもできる
3D→2D変換の課題 :三次元の網膜表面を二次元画像で表現することは依然として課題であり続けている
CSLOは明るいフラッシュ光の代わりに単一波長レーザー光を高速走査して眼底を照射する。共焦点絞りにより焦点外の反射・散乱光を遮断し、高コントラスト・高解像度の画像を取得する。CSLOベースのシステムには焦点深度が深いという特徴がある。
Optos®の原理
楕円凹面鏡方式 :楕円の2つの焦点の一方から出た光が必ずもう一方を通過する性質を利用。眼底スキャンの中心(バーチャルスキャンポイント)を瞳孔 面上に置き、眼底200度の範囲をスキャンする。
2波長合成 :532 nm(緑)で主に網膜色素上皮より前方を、633 nm(赤)で眼底深部を撮影し合成した疑似カラー画像を生成する。
共焦点方式 :組織への深達度の違いから波長ごとに異なる深さの情報を取得するため、通常眼底カメラとは色味が異なる。
CLARUS®の原理
スリットスキャン方式(部分共焦点) :赤・緑・青のLED光源を用いたBLFI(Balanced Light Fundus Imaging)技術。中心部は共焦点方式、周辺は部分共焦点で撮影する。
真のカラー画像 :赤・緑・青の各波長で取得した情報を合成し、白色光源の眼底カメラに近い自然なカラー画像を提供する。
無散瞳対応 :単一画像で133°、2枚の画像の合成で最大200°、モンタージュで最大267°の撮影が可能。
Heidelberg Retina Angiograph(HRA)の標準画角は30°だが、アタッチメントにより55°や102°の撮影も可能である。3種類のレーザー(488 nm・785 nm・817 nm)を搭載し、各波長特性を生かした観察ができる。マルチカラーシステムでは青・緑・近赤外光で同時撮影しリアルタイムに疑似カラー眼底画像を得る。平均加算処理により中間透光体の混濁がある症例でも鮮明な画像取得が可能である。
スマートフォンと接続可能な携帯型眼底撮影デバイスの研究が進んでいる。
Kim et al.(2024)はEYELIK Eデバイスを使用したスマートフォンベース眼底撮影(SBFI)をベトナム(クアンチー省・タイグエン省)で実施し、7,023人・13,615眼を解析した1) 。遠隔診断システムを活用して得られた有病率は、アジア他国のデータと概ね一致した。SBFIはRAABよりも資源効率と診断精度に優れ、眼科医不在の検診チームでも実施できる利点を持つと結論づけられた1) 。
AIを組み合わせた自動診断システムの開発も進んでおり、コスト効率の高い眼疾患スクリーニングへの応用が期待されている。
研究用プロトタイプとして、最大6,700,000 Aスキャン/秒の速度を持つスウェプトソースOCT(マルチMHz FDML OCT)が報告されている。垂直共振器面発光レーザー(VCSEL)による周波数掃引光源は最大50 mmの撮影範囲を実現し、前眼部・水晶体 ・硝子体 ・網膜・脈絡膜・強膜を含む眼全体を単一OCTで撮影できる可能性が示されている。4D術中OCTの実現も今後の目標の一つである。
RPEから放出される自発蛍光量を定量化する手法である。スターガルト病 では眼底が正常に見える状態でも自発蛍光物質の大量蓄積が検出されるなど、疾患への新しい洞察と予後予測の手段を提供している。
超広角インドシアニングリーン蛍光造影(UWF-ICGA)は中心性漿液性脈絡網膜症 (CSC)やポリープ状脈絡膜血管症(PCV)の病態解明への貢献が期待されている。補償光学 走査型レーザー検眼鏡(AO-SLO)にフルオレセイン造影フィルターを搭載した装置も開発中であり、黄斑部血管構造を組織病理学的解像度で可視化し、黄斑虚血の管理を変える可能性がある。
Q スマートフォンで眼底撮影は可能か?
A EYELIKEなどのスマートフォン接続型眼底撮影デバイスが実用化されており、低・中所得国での遠隔スクリーニングに活用されている1) 。ただし現時点では画角は限られており、超広角撮影専用機には及ばない。AIを組み合わせた診断精度の向上が期待されている。
Kim J, Yoon S, Kim HYS. Prevalence of Selected Ophthalmic Diseases Using a Smartphone-Based Fundus Imaging System in Quang Tri and Thai Nguyen, Vietnam. Healthc Inform Res. 2024;30(2):162-167.
Noor A, et al. Retinopathy in Mucopolysaccharidoses: Patterns, Variance, Progression. Ophthalmology. 2024.
American Academy of Ophthalmology. Diabetic Retinopathy Preferred Practice Pattern. 2024.
December 2024 Journal Highlights. Ophthalmology. 2024. [UWF-F7 grading concordance study]
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