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網膜・硝子体

視覚誘発電位(VEP/VER)

視覚誘発電位(Visual Evoked Potential/Response; VEP/VER)は、視覚刺激に反応して後頭葉視覚皮質(occipital cortex)で生成される数〜数十μVの電気信号を、頭皮上に置いた電極で記録する他覚的検査法である。視覚皮質は主に中心視野によって活性化され、後頭葉には黄斑の大きな投射領域が存在する。

VEPは眼、視神経(optic nerve)、視交叉(optic chiasm)、視索(optic tract)、視放線(optic radiation)、大脳皮質を含む視路(visual pathway)全体の完全性に依存する。特に黄斑部錐体から大脳皮質視覚領に至る明所視機能を反映するため、網膜周辺に局在する病変は評価対象とならない。

電気生理学的検査の位置づけとして、眼科領域では網膜電図(網膜電図)、VEP(視覚誘発電位)、EOG(眼球電図)の3種が主要な検査である。VEPは網膜電図では検出できない視路上位の機能障害や、自覚的検査が困難な症例の視機能評価に特有の価値を持つ。

国際臨床視覚電気生理学会(ISCEV: International Society for Clinical Electrophysiology of Vision)が2016年に標準プロトコールを改定・公表しており、施設間の差をなくす目的でこれに準じて記録することが推奨される。

Q VEPはどのような患者に特に有用か?
A

他覚的に視機能を評価する必要がある場合に有用である。具体的には、乳幼児など視力検査への協力が困難な症例、白内障硝子体出血などで眼底が透見できない症例、心因性視覚障害や詐病が疑われる症例、視神経疾患の精査、および原因不明の視力低下などが主な適応となる。

VEPは患者の自覚症状に基づく検査ではなく、他覚的に視路機能を測定する検査である。以下のような自覚症状を訴える患者の評価に用いられる。

  • 視力低下:原因が視神経性か黄斑性かの鑑別補助
  • 視野異常:視路のどの部位に障害があるかの評価
  • 症状と所見の解離:視力検査で視力が出ない、または不安定な症例での器質性障害の有無確認

VEPの波形は刺激方法によって異なる。主要な波形成分を以下に示す。

パターン反転VEP

波形構成:N75(75ms)、P100(100ms)、N135(135ms)の3成分。

振幅測定:N75ピークからP100ピークまでの電位差で測定する。

正常P100潜時:約90〜120ms(年齢差あり)。

特徴:個人差が少なく信頼性が高い。眼底に画像を結像できる症例では原則としてパターンVEPを選択する。

フラッシュVEP

波形構成:N70(約70ms)とP100(約100ms)で評価する。振幅はN70-P100間の大きさを測定する。

正常P100潜時:約90〜120ms(年齢差あり)。

特徴:個人差が大きいため、左右差による評価が一般的である。中間透光体の混濁がある場合や視力0.1以下の症例に適用する。

小児の振幅:成人の1.5〜2.0倍程度あり、7〜8歳で成人とほぼ同程度となる。

パターンVEPはtransient VEP(t-VEP)とsteady state VEP(s-VEP)に大別される。刺激頻度が概ね2Hz以下の場合はt-VEP、4Hz以上(定常状態)ではs-VEPと呼ばれる。t-VEPはチェックサイズを変えることで空間周波数特性を評価でき、視力との相関が得られるため他覚的視力推測に広く用いられる。s-VEPは短時間で計測できるが振幅情報のみで潜時延長の評価は困難である。

VEPの異常所見は大きく3種類に分類される。

  • Non-recordable VEP(消失型・平坦型)視神経炎急性期や視力が0.1以下に極端に低下した視神経疾患でみられる。
  • P100頂点潜時の延長:多発性硬化症などの脱髄性疾患で極端な潜時延長を認め、診断価値が高い。視神経炎などほかの視神経障害でも延長する。黄斑部障害による高度な視力低下(0.1以下)でも延長するが、視神経炎ほどではない。
  • 振幅低下:個人差や年齢の影響が大きいため、片眼性疾患では患眼/健眼比の評価が有用である。s-VEPは感度が高く、片眼性の視神経障害や黄斑部疾患で左右差を認める。
Q P100潜時が延長するのはどのような疾患か?
A

P100潜時の延長は多発性硬化症などの脱髄性疾患で最も著明であり、診断補助として価値が高い。視神経炎やそれ以外の視神経障害でも延長する。黄斑部障害による高度視力低下(0.1以下)でも潜時延長を認めるが、視神経炎ほど極端ではない。詳細は「診断と検査方法」の項を参照。

VEPは特定の「疾患」ではなく「検査法」であるため、この項では主な適応疾患とリスク因子(視路障害の原因)を示す。

VEPの主な適応は以下の通りである。

  • 視神経疾患の精査:視神経炎、視神経症、緑内障における他覚的視路評価
  • 乳幼児の視機能モニタリング:視力検査への協力が得られない場合
  • 術前後の視力予後予測:白内障などの手術前に視力不良眼の予後を予測する目的
  • 詐病・心因性視覚障害の除外:パターン出現・消失VEPが詐病患者に特に有用である
  • 脱髄性疾患の診断補助:多発性硬化症では無症候性の視神経炎を検出できる
  • 術中視路モニタリング:頭蓋底腫瘍や下垂体腫瘍手術時の視路保護

VEP記録の標準的な準備事項を以下に示す。

患者側の準備

  • 散瞳(パターンVEP)または散瞳(フラッシュVEPと同時に網膜電図を記録する場合)
  • 屈折異常の矯正(パターンVEPでは眼鏡または人工瞳孔で矯正した状態で検査)
  • 単眼記録(検査眼以外の対側眼を完全に遮光する)

電極の配置(国際10/20法に準拠)

  • 後頭葉(Oz):活性電極(陽極)
  • 前頭部(Fz):基準電極(陰極)
  • 耳たぶ・頭頂・乳様突起:接地電極(中性)

電極は直径約8mm程度の脳波用皿電極(塩化銀電極または金電極)を用い、専用ペーストで固定する。電極間インピーダンスは5kΩ以下とする必要がある。

ISCEVが定める3種類の刺激方法が以下の通りである。

刺激方法刺激条件主な特徴
パターン反転チェック1°・0.25°、反転2rps個人差少、信頼性高
パターン出現・消失出現200ms・消失400ms詐病・眼振に有用
フラッシュ1Hz、3 cd·s/m²透光体混濁・低視力に適用

記録条件:生体アンプの増幅率は20,000〜50,000倍、バンドパスフィルタはhigh pass filter(low cut)1Hz以下、low pass filter(high cut)100Hz以上。加算回数はS/N比によるが64回以上が必要である。解析時間は250ms以上とし、約20〜50msのプレトリガー時間を設ける。

刺激方法の選択基準は以下の通りである。

  • 眼底が透見できる場合:原則としてパターンVEPを選択する。パターンVEPはフラッシュVEPよりも個人差が少なく視路異常を検出しやすい。
  • フラッシュVEPを選択する場合:①白内障・硝子体出血など眼底透見不能例、②視機能低下が著しくパターン刺激で反応が得られない例(矯正視力0.1以下)、③新生児など固視が困難な例。
  • 心因性視覚障害疑い:矯正視力0.1以下でもパターンVEPが有用である。

半視野刺激による視交叉・視交叉後評価

Section titled “半視野刺激による視交叉・視交叉後評価”

マルチチャネルVEP記録が必要で、活性電極をOz(正中)に加えO1・O2(外側)にも配置する。

  • 視交叉障害白皮症など誤投射):後頭部頭皮上でVEPの非対称な分布を引き起こす「交差性非対称(crossed asymmetry)」を呈する。
  • 視交叉後機能不全:「非交差性非対称(uncrossed asymmetry)」を呈する。

心因性視覚障害の鑑別では、視力の程度にかかわらずパターン刺激によるVEPを記録する。基本的に振幅も潜時も左右差なく正常であるが、心因性の患者は検査に協力的で熱心に刺激視標を見るため、正常者より成績がよいこともある。詐病疑いでは固視しているかどうかを確認することが重要で、パターン出現・消失VEPが特に有用である。

Q 乳幼児にVEP検査を行う際の注意点は?
A

乳幼児で体動が激しい場合は鎮静剤を用いることがあるが、なるべく覚醒状態でのほうがよいVEP波形が得られる。鎮静薬として抱水クロラール坐薬(30〜50mg/kg)やトリクロルエチルホスフェート液(0.8〜1.0mL/kg)が用いられる。睡眠下での記録は睡眠脳波が混入するため、睡眠深度を考慮した判定が必要である。フェノバルビタールなどの脳幹性催眠剤はVEP波形を安定させるとされるが、呼吸抑制のリスクがあるため使用に際しては注意が必要である。

5. 臨床応用・治療モニタリングへの活用

Section titled “5. 臨床応用・治療モニタリングへの活用”

白内障などの中間透光体混濁がある場合、手術前にフラッシュVEPを用いることで後極・視神経の機能を推定し、術後視力予後の予測に役立てる。フラッシュVEP異常は視路障害の存在を示唆し、術後視力不良を予測する参考となる。

頭蓋底腫瘍や下垂体腫瘍の手術中にVEP監視を行うことで、視路へのリアルタイムの損傷検出と外科的アプローチの修正が可能となる。

従来のフラッシュVEP術中モニタリングは全身麻酔下での不安定性・再現性の低さが問題とされてきた。

Foo らは(2025年)、頭蓋底髄膜腫手術中の症例報告で、フラッシュ(on-response)VEPが術中変化なしであったにもかかわらず、off-response VEPが視神経周囲の腫瘍切除後に40%の振幅増加(2.8Vから4.0Vへ)を示し、術後に右眼視力が0.1から0.5(ランドルト環)へ著明改善したことを報告した1)。off-response VEPは光刺激終了時に生じる電位を独立記録するものであり、従来のフラッシュVEPより安定した波形が得られ、視機能改善の検出に感度が高い可能性がある。

パターンVEP(pVEP)はサプラスレッショルドな視覚処理の指標として弱視眼の評価に有用である。P100の潜時延長は弱視眼での視覚情報処理速度の低下を反映する。

Blavakisら(2023年)による斜視性弱視3症例のシリーズ報告では、バーチャルリアリティ(VR)システムを用いたダイコプティック(dichoptic)ゲームトレーニング20時間(週2〜4回)の前後でpVEPを評価した2)。全3症例で弱視眼のP100潜時が改善し(例:症例1では10arcmin刺激で145msから136ms、症例2では147msから139ms)、立体視も著明に改善した(例:症例1では100arcsecから50arcsecへ)。VEPで評価される視覚処理速度の改善が、視力改善に先行する可能性が示された。

Q 弱視のVEP所見はどのような特徴を示すか?
A

弱視眼では健眼と比較してP100潜時の延長を認めることが多い。これは弱視眼における視覚情報の処理速度低下を反映する。ダイコプティックトレーニングなどの治療によりP100潜時の改善が報告されており2)、pVEPは弱視の治療効果モニタリングに有用な指標となりうる。

6. 病態生理学・視路評価の理論的背景

Section titled “6. 病態生理学・視路評価の理論的背景”

VEPは視覚刺激に対して後頭葉第1次視覚野(V1野)で誘発される電位を記録するものである。P100成分は第1次視覚皮質の活動に対応する電気的相関として認識されている。

視路に沿った信号伝達の概略は以下の通りである。

  1. 網膜(錐体細胞)での光刺激受容
  2. 網膜神経節細胞から視神経への信号伝達
  3. 視交叉(半視野の交叉)
  4. 外側膝状体(視床)でのシナプス中継
  5. 視放線を経由して後頭葉第1次視覚野(V1)へ

パターンVEPはフラッシュVEPに比較して中心窩機能をより強く反映し、中心視力の評価に適している。フラッシュVEPは網膜神経節細胞層から視中枢に至る視路全体を評価するが、個人差が大きい。

脱髄性疾患におけるVEP異常の機序

Section titled “脱髄性疾患におけるVEP異常の機序”

多発性硬化症では脱髄によって髄鞘が障害されるため、神経軸索の伝導速度が低下してP100潜時が著明に延長する。脱髄が改善しても潜時延長は長期間持続することがあり、無症候性の視神経炎の痕跡を検出できる点で診断補助としての価値が高い。

振幅低下は神経軸索自体の消失(軸索障害)を反映することが多く、潜時延長のみの場合は比較的良好な回復が期待されるのに対し、振幅低下を伴う場合は予後が悪い傾向がある。

皮質視覚障害(CVI)におけるVEP

Section titled “皮質視覚障害(CVI)におけるVEP”

小児の皮質視覚障害(Cortical Visual Impairment; CVI)において、フラッシュVEPおよびパターンVEPが診断・予後評価に応用されてきた。ただし、CVI児でのVEP解釈には限界もあり、VEPの診断的有用性については相互に矛盾する報告がある。

Clarkら(44人の乳児対象)は、正常なフラッシュVEP反応を示した乳児の85%(13人中11人)が有意な視力改善を経験したのに対し、異常なVEP群では55%(31人中17人)にとどまったことを報告した3)。一方、正常なフラッシュVEP反応が視覚転帰と相関しないという報告もあり、使用したVEPパラダイム(フラッシュ対パターン)、被検者の年齢、フォローアップ期間、視覚改善の定義などが結果の差異に関与すると考えられている3)

スイープVEP(Sweep VEP)は、空間周波数を段階的に変化させるパターン刺激を用いて視覚閾値を定量的に評価する手法であり、フラッシュVEPよりも客観的な視力測定法として期待されている。CVI児を対象とした研究で、スイープVEPによる縞視力は臨床的視力評価との信頼性・妥当性が確認されている3)。ただし、構造的脳異常による電極配置の困難さや、てんかん発作・抗てんかん薬の影響が解釈の限界として挙げられる3)

多局所VEP(multifocal VEP):多局所網膜電図と同様の装置を用い、網膜より上位の視路障害を検出する他覚的視野測定法として期待される。緑内障の視野障害の他覚的評価などへの応用が検討されているが、黄斑部を刺激した応答が大きく周辺部では小さいため、一般的な臨床検査としての普及にはまだ課題がある。

事象関連電位(ERP:電極を頭頂に置き、300ms付近に出現するP300成分を評価する。情報処理や認知活動に関連し、眼科領域では心因性視力障害の一部の症例で診断や病態解明に応用されている。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

off-response VEPによる術中モニタリングの改良

Section titled “off-response VEPによる術中モニタリングの改良”

従来のフラッシュVEP(on-response)が術中変化を捉えられなかった場合でも、off-response VEPが視機能の改善を感度高く検出できた単例報告がある1)。光刺激の持続時間を延長することでon-responseとoff-responseを分離して記録する手法であり、より安定した波形と感度の向上が期待されている。現時点では単例報告にとどまり、有意なVEP振幅増加の最低閾値なども未確定であるため、さらなる多施設データの蓄積が必要である1)

スイープVEPによる客観的視力測定の精緻化

Section titled “スイープVEPによる客観的視力測定の精緻化”

スイープVEPはCVI児をはじめとする評価困難な症例での客観的視力測定法として研究が続いており、スイープVEPの格子視力(grating acuity)はvernier視力よりも検出感度が低いが、行動学的視力(FPL法)よりは一貫して高い値を示すとされる3)。今後、CVI以外の小児疾患への応用拡大が期待される。

ダイコプティックトレーニングとVEPによる効果モニタリング

Section titled “ダイコプティックトレーニングとVEPによる効果モニタリング”

VRヘッドセットを用いたダイコプティックゲームトレーニングの効果評価にpVEPが活用されている。pVEPで評価される視覚処理速度(P100潜時)の改善が視力改善に先行する可能性が示されており2)、今後の大規模無作為化比較試験での検証が期待される。弱視の再発は治療中断後1年以内に最大25%に生じるとされ、長期追跡によるVEP変化と再発の関係も課題となっている2)


  1. Foo MX, Hardian RF, Kanaya K, et al. Postoperative improvement of visual function following amplitude increase in intraoperative off-response visual evoked potential (VEP) monitoring during a skull base meningioma surgery. Cureus. 2025;17(4):e82563.

  2. Blavakis E, Spaho J, Chatzea M, Gleni A, Plainis S. Dichoptic game training in strabismic amblyopia improves the visual evoked response. Cureus. 2023;15(9):e45395.

  3. Chang MY, Borchert MS. Advances in the evaluation and management of cortical/cerebral visual impairment in children. Surv Ophthalmol. 2020;65(6):708-724.

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