①眼圧上昇
眼圧上昇:中等度〜高度の眼圧上昇を示す。網膜剥離の重症度に比例する傾向がある。
開放隅角:隅角検査では隅角は開放しており、閉塞隅角ではない。房水流出障害は線維柱帯レベルで生じている。

Schwartz-Matsuo症候群は、裂孔原性網膜剥離(rhegmatogenous retinal detachment; RRD)に続発する開放隅角緑内障の一病型である。1973年にSchwartzが初めて報告し、その後Matsuoらが病態を詳細に解明したことから本名称で呼ばれる。1)
疾患の本質は、網膜裂孔から房水が網膜下に流入する際、剥離した視細胞の外節(photoreceptor outer segments; POS)が前房に遊出することにある。この外節粒子が線維柱帯(trabecular meshwork; TM)を物理的に閉塞し、房水流出障害をきたして眼圧が上昇する。1) 日本緑内障学会の緑内障診療ガイドラインでは、本症候群を続発開放隅角緑内障の一形態として分類している。2)
裂孔原性網膜剥離に合併する続発緑内障の一形態であり、稀ではあるが見逃されやすい疾患である。前房細胞を炎症と誤認してステロイドを投与しても眼圧は下がらず、診断に難渋することがある。網膜剥離を有する患者に眼圧上昇が認められた際は本症候群を必ず念頭に置く必要がある。
本症候群の自覚症状は、網膜剥離によるものと眼圧上昇によるものが混在する。
本症候群には以下の3徴候が特徴的である。
①眼圧上昇
眼圧上昇:中等度〜高度の眼圧上昇を示す。網膜剥離の重症度に比例する傾向がある。
開放隅角:隅角検査では隅角は開放しており、閉塞隅角ではない。房水流出障害は線維柱帯レベルで生じている。
②前房細胞
比較的大きな細胞:前房内に白血球様の細胞が浮遊する。視細胞外節の断片であり、炎症細胞より大きく不規則な形態を示すことがある。
フレア軽度:炎症性ぶどう膜炎に比べてフレア(タンパク混濁)は軽度にとどまることが多い。
③網膜剥離
裂孔原性網膜剥離:眼底検査で網膜剥離と裂孔を確認できる。
剥離範囲と眼圧の相関:剥離範囲が広いほど前房に遊出する外節量が多く、眼圧上昇が高度になる傾向がある。
本症候群と炎症性ぶどう膜炎緑内障の臨床的鑑別点を以下に示す。
| 所見 | Schwartz-Matsuo症候群 | 炎症性ぶどう膜炎 |
|---|---|---|
| 前房細胞 | 大型・不規則 | 小型・均一 |
| フレア | 軽度 | 中等度〜高度 |
| 網膜剥離 | あり(必須) | なし(通常) |
| ステロイド反応 | 無効 | 有効 |
本症候群で前房に浮遊する細胞は視細胞外節の断片であり、炎症細胞ではない。炎症性細胞より大型で形態が不規則な点が特徴だが、細隙灯顕微鏡のみでは鑑別が困難なこともある。網膜剥離の存在確認と、ステロイドへの無反応性が鑑別の鍵となる。詳細は「診断と検査方法」の項を参照。
本症候群の根本的な原因は、裂孔原性網膜剥離による視細胞外節の前房内遊出と、それによる線維柱帯の物理的閉塞である。1)2)
視細胞外節は代謝の活発な組織であり、正常でも先端部が毎日脱落して網膜色素上皮細胞に貪食される。網膜が剥離すると、脱落した外節は網膜色素上皮に回収されず、網膜下液を通じて硝子体腔・前房へと流入する。外節粒子は線維柱帯の細孔に詰まり、慢性的な房水流出障害を引き起こす。
裂孔原性網膜剥離を発症しやすいリスク要因が、そのまま本症候群のリスク要因となる。
3徴候(眼圧上昇・開放隅角・前房細胞)を有する患者で網膜剥離が確認されれば、本症候群を強く疑う。欧州緑内障学会(EGS)ガイドラインおよびAAO(米国眼科学会)の開放隅角緑内障PPPでは、続発開放隅角緑内障の診断に隅角検査(gonioscopy)を必須としており、本症候群でも同様である。4)5)
鑑別すべき疾患と各疾患の特徴を以下に示す。3)
| 鑑別疾患 | 特徴 | 鑑別点 |
|---|---|---|
| 炎症性緑内障 | 前房炎症・KP | ステロイド有効 |
| POAG | 慢性進行性 | 網膜剥離なし |
| ポスナー・シュロスマン | 反復性眼圧上昇 | 軽微な炎症 |
ステロイド無効性は重要な鑑別根拠の一つである。しかし確定診断には眼底検査または超音波検査による網膜剥離の確認が不可欠である。ステロイドへの反応を試みるより先に、網膜剥離の有無を積極的に検索することが望ましい。
本症候群の根本治療は網膜剥離の手術的修復である。剥離を復位させることで視細胞外節の前房への供給が断たれ、眼圧は通常、術後に正常化する。1)
術式の選択は剥離の範囲・裂孔の位置・増殖性変化の有無により決定する。
第一選択
網膜剥離手術:根本的な眼圧正常化をもたらす唯一の治療。強膜バックリングまたは硝子体手術を病態に応じて選択する。
術後経過:適切な復位が得られれば術後数日〜数週間で眼圧は正常範囲に低下することが多い。
術前・待機中の眼圧管理
房水産生抑制薬:β遮断薬点眼(チモロール等)、炭酸脱水酵素阻害薬(点眼・内服)を用いる。眼圧が高度な場合は手術までの橋渡し治療として使用する。
プロスタグランジン関連薬:炎症を助長する可能性があるため使用に慎重を要する意見もある。
ステロイドは無効
ステロイド点眼・内服:前房細胞は視細胞外節であり炎症細胞ではないため、ステロイドによる眼圧降下効果は期待できない。
誤投与のリスク:炎症性緑内障と誤診してステロイドを投与すると、ステロイド誘発性眼圧上昇のリスクが加わる。
裂孔原性網膜剥離では、網膜裂孔を通じて硝子体液が網膜下腔に流入する。剥離した視細胞(桿体・錐体)の外節は、正常の網膜色素上皮による貪食回収を受けられなくなり、網膜下腔から前房へと遊出する。前房内に流入した外節粒子は房水に混入し、線維柱帯の細孔を物理的に閉塞する。1)2)
線維柱帯は房水の主要排出路であり、小柱状のコラーゲン線維束で構成されている。視細胞外節のディスク膜断片は生物学的に安定しており、マクロファージによる分解・貪食が緩徐である。このため外節粒子は長期間にわたり線維柱帯に蓄積し、持続的な流出抵抗を生じさせる。1)
眼圧上昇の程度は、前房内に遊出した外節量(すなわち剥離の範囲・期間)に相関する。
炎症性ぶどう膜炎緑内障では、白血球・炎症性サイトカイン・フィブリンが線維柱帯に炎症浸潤をきたし、さらにプロスタグランジンが毛様体の房水産生を亢進させる。これに対し本症候群では、炎症性機序は関与せず、外節粒子による物理的閉塞が主体である。この機序の違いがステロイドへの反応の差を生む。3)
硝子体手術の技術革新(27ゲージ・25ゲージの小切開システム、広角観察システム)により、網膜剥離修復術の術後成績は向上し続けている。本症候群においても、迅速かつ精度の高い網膜復位が実現することで、線維柱帯への二次的・非可逆的ダメージを最小化することが期待される。
網膜復位後に眼圧が正常化しない難治例では、線維柱帯切開術などの流出路再建術が検討される場合がある。近年普及するMIGS(minimally invasive glaucoma surgery)デバイスは、外節粒子で閉塞した線維柱帯を機械的に開放する手技として理論的に適合しており、今後の応用が期待されるが、本症候群に特化したエビデンスは現時点で限られている。
多くの症例では網膜復位後に眼圧は正常化する。しかし剥離が長期間持続した場合は、線維柱帯への不可逆的な損傷が残存し、術後も眼圧が高値を維持することがある。早期手術が眼圧予後の改善につながる。
眼圧上昇の期間と高さに依存する。早期に網膜剥離を修復して眼圧を正常化できれば、視神経への不可逆的ダメージは最小限に抑えられる。一方、診断が遅れて高眼圧状態が続いた場合は緑内障性視野障害が残存するリスクがある。