Stage 1〜3
Stage 1:血管化網膜と無血管網膜の境界に境界線(demarcation line)が出現。
Stage 2:境界部に高まり(ridge)を形成。
Stage 3:ridgeから硝子体内への線維血管増殖組織が出現。治療適応の判断が重要な段階。

未熟児網膜症(Retinopathy of Prematurity; ROP)は、早産児の未熟な網膜血管が異常増殖して起こる疾患である。1942年にTerryが最初に報告した。1)
未熟児網膜症の流行は歴史的に3回起きている。1) 第1の流行(1940〜50年代)は保育器内での高濃度酸素投与が原因。第2の流行(1970〜80年代)は超低出生体重児の救命率向上に伴うもの。第3の流行は現在進行中で、医療資源の限られた中低所得国で発展途上の周産期医療を背景に生じている。1)
全世界で年間約184,700例の早産児が未熟児網膜症を発症すると推計される。1) 日本では出生体重1000g未満の早産児の86.1%に未熟児網膜症が発症する。日本においては1967年に永田によって世界で初めての未熟児網膜症に対する光凝固治療が行われ、標準的治療として発展してきた。小児の失明原因として未熟児網膜症が占める割合は1990年では約10%であったが、超低出生体重児の生存率向上に伴い現在は約30%にまで上昇している。
在胎32週未満または出生体重1500g未満の早産児が主なリスク群である。出生後の環境因子(酸素投与量・全身状態)も発症に関与する。詳細は「原因とリスク要因」の項を参照。
未熟児網膜症の急性期は新生児期・乳児期に発症するため、患児自身が症状を訴えることはない。保護者や医療従事者が以下のような所見に気づくことがある。
ICROP3(国際分類第3版、2021)に基づき、病期・部位・重症度を評価する。2)
部位(Zone)分類はI〜IIIの3領域で表す。Zone Iは視神経乳頭から黄斑距離の2倍を半径とする円内。Zone IIは鼻側鋸歯縁まで。Zone IIIは残る耳側周辺部。Zone Iほど重症度が高い。
Stage 1〜3
Stage 1:血管化網膜と無血管網膜の境界に境界線(demarcation line)が出現。
Stage 2:境界部に高まり(ridge)を形成。
Stage 3:ridgeから硝子体内への線維血管増殖組織が出現。治療適応の判断が重要な段階。
Stage 4〜5
Stage 4a:中心窩を含まない部分的な網膜剥離。
Stage 4b:中心窩を含む部分的な網膜剥離。視力予後に直結する。
Stage 5:完全な漏斗状網膜全剥離。視力回復が困難な終末段階。
Plus disease・A-ROP
Plus disease:後極部の網膜血管の怒張・蛇行。活動性炎症の指標であり、治療閾値の判定に必須。
A-ROP(Aggressive ROP):旧称Rush disease。Zone I〜II後部に急速進行する重篤型。Plus diseaseが顕著で、典型的な段階的進行を経ずに進展する。2)
ICROP3では退行(regression)と再活性化(reactivation)の概念が明示された。2) 自然退行または治療後に退行した病変が、特に抗VEGF投与後に再び活性化する例が報告されており、長期観察が必要である。
未熟児網膜症の発症には、未熟な網膜血管系と出生後の酸素環境・全身状態の相互作用が関与する(「病態生理学」の項も参照)。
主要リスク因子を以下に示す。1)
| リスク因子 | 内容 |
|---|---|
| 在胎週数 | <32週が高リスク |
| 出生体重 | <1500gが高リスク |
| 酸素投与 | 高濃度・長期投与 |
| IGF-1低値 | 出生後の低栄養・疾患 |
在胎週数と出生体重のほかに、敗血症・貧血・輸血・呼吸窮迫症候群などの全身疾患もリスクを高める。1) IGF-1(インスリン様成長因子-1)は網膜血管発達に必須のシグナル因子であり、早産後の低IGF-1状態がPhase 1の血管成長停止を促進する。1)
スクリーニングの対象基準は国によって異なる。
米国(AAP基準):在胎30週以下または出生体重1500g以下の全早産児、および在胎30〜36週で臨床的に不安定な早産児。1)
日本:厚生省分類では在胎34週未満・出生体重1,800g以下を検査対象としている。さらに酸素投与、人工換気、輸血、敗血症、脳室内出血、全身麻酔手術、胎児水��などのハイリスク群ではこの基準を外れても検査を行う。超低出生体重児における重症例の早期発見のためには、出生時在胎26週未満なら修正在胎29週から、出生時在胎26週以上なら生後3週に初回検査を行うのが適切とされる。
初回眼底検査は生後4〜6週(修正31〜33週)に行い、その後の検査間隔は所見に応じて決定する。1)
フォローアップ間隔の目安を以下に示す。1)
| 所見 | 次回検査まで |
|---|---|
| Zone I、Stage 1〜2、Plus(-) | 1週以内 |
| Zone II、Stage 2〜3 | 1〜2週 |
| Zone II、Stage 1 | 2週 |
| Zone III、Stage 1〜2 | 2〜3週 |
初回は生後4〜6週頃に行い、その後は眼底所見に応じて1〜3週ごとに繰り返す。治療が必要な所見がなく網膜血管化が完成すれば終了となる。米国AAP基準ではフォローアップ間隔の詳細な指針が示されている。1)
治療適応は「閾値病変(threshold disease)」または「早期治療適応病変(type 1 ROP)」を基準に判断する。
Type 1 ROP(ETROP基準):
無血管網膜全体への間接眼底鏡下レーザー光凝固が標準第一選択治療である。
CRYO-ROP試験では、閾値未熟児網膜症治療群の不良転帰(視力・眼底)は25.7%で、非治療群の47.4%と比べ有意に改善した。1)
ETROP試験(2003)では、early treatmentにより不良視力転帰が15.6%から9.1%へ減少した。1)
Zone IやA-ROPなど後極部病変では、眼内への抗VEGF薬(ベバシズマブ、ランイビズマブ等)硝子体内注射が選択される。
BEAT-ROP試験では、Zone I Stage 3+ 未熟児網膜症に対するベバシズマブ単剤はレーザーに比べ再発率が有意に低かった(Zone I:6% vs 42%)。1)
RAINBOW試験ではランイビズマブの有効性が検証された。1)
抗VEGF治療後の晩期再活性化リスクに注意が必要である。1)2) 治療後数週〜数ヶ月後に再活性化が起きることがあり、レーザーに比べて長期のフォローアップが必要となる。
Stage 4以降の網膜剥離には外科的治療が必要となる。
主要臨床試験の成績を以下に示す。
| 試験名 | 対象 | 主要結果 |
|---|---|---|
| CRYO-ROP | 閾値未熟児網膜症 | 不良転帰25.7% vs 47.4%1) |
| ETROP | Type 1 ROP | 不良転帰9.1% vs 15.6%1) |
| BEAT-ROP | Zone I Stage3+ | 再発6% vs 42%1) |
レーザー光凝固
対象:無血管網膜全域
特徴:標準第一選択。長期成績が確立。周辺視野が一部失われる。
エビデンス:CRYO-ROP・ETROP試験で有効性を実証。1)
抗VEGF療法
対象:Zone I・A-ROPに優先
特徴:硝子体内注射。視野温存の利点あり。
注意点:晩期再活性化リスクあり。長期フォローアップ必須。1)2)
手術(Stage 4〜5)
病変の部位・重症度によって選択する。Zone II以降の病変にはレーザーが標準だが、Zone IやA-ROPなど後極部の重篤病変では抗VEGF注射が優先されることが多い。1) いずれも治療後は長期フォローアップが必要である。
未熟児網膜症の病態は2相モデルで説明される。1)
Phase 1(血管成長停止期):早産により高酸素環境(子宮外)に曝された網膜では、酸素センサーを介してVEGFが抑制される。VEGFが低下すると正常な網膜血管化が停止し、無血管帯が形成される。IGF-1の低値も血管成長停止を助長する。1)
Phase 2(血管増殖期):無血管網膜が代謝的に成熟するにつれ、低酸素状態を補うべくVEGFが過剰産生される。このVEGF過剰が、血管内皮の異常増殖を誘発し、硝子体腔への線維血管増殖組織形成(Stage 3以降)につながる。1)
VEGFはPhase 2の主要な血管新生ドライバーであり、これが抗VEGF療法の理論的根拠となっている。
2021年に改訂されたICROP3は、退行・再活性化の概念を正式に組み込み、A-ROPの定義を再整理した。2) 従来の”Rush disease”をA-ROPとして位置づけ、病期進行のパターンを国際的に統一することで、多施設研究や国際比較の精度向上に寄与している。
AIを活用した未熟児網膜症自動診断は、眼科専門医の少ない地域での活用が有望視されている。 広角カメラ画像から Plus disease を自動検出するアルゴリズムが複数開発されており、今後の国際的な普及が期待される。
Damato EM, et al.(2025)は未治療または治療済みの未熟児網膜症患者の晩期眼底所見を含む抗VEGF時代の未熟児網膜症管理を報告した。1) 格子変性が54%、網膜裂孔・剥離が38.6%に認められ、未熟児網膜症後の長期追跡の重要性が示された。
この知見は、未熟児網膜症が急性期治療で終結する疾患ではなく、成人期に至るまで継続的な眼科管理が必要な慢性疾患であることを示唆する。1)
必要である。未治療例だけでなく、治療後の症例でも格子変性や網膜剥離などの晩期合併症が起こりうる。1) 定期的な眼底検査を継続することが推奨される。
軽症(Stage 1〜2)で自然退行した場合は視力予後が良好なことが多い。一方、Stage 4〜5に進行した例や治療が遅れた例では視力障害が残ることがある。晩期合併症(格子変性・網膜剥離)のリスクもあるため、成長後も定期検査が必要である。1)