遺伝性(40%)
特徴:生殖細胞系列のRB1変異を保有。
眼の状態:両眼性・多発性が多い。
発症年齢:診断が早い傾向(乳児期)。
リスク:二次がん(骨肉腫・軟部組織肉腫など)のリスクが高い。次世代への遺伝リスクがある(常染色体優性遺伝)。1)

網膜芽細胞腫(Retinoblastoma)は、網膜の光受容体前駆細胞に由来する眼内悪性腫瘍である。小児の眼内悪性腫瘍としては最も頻度が高く、約2万人に1人の頻度で発症し、日本では年間70〜80名が新規に診断される。1)
発症は生後まもなくから5歳頃が多く、5歳以降に発見されることはまれである。平均診断年齢は片眼性で約24ヶ月、両眼性で約12ヶ月とされる。診断の遅れは予後に直結するため、白色瞳孔や斜視を認めた際には速やかに眼科専門機関を受診することが重要である。
遺伝性(40%)
特徴:生殖細胞系列のRB1変異を保有。
眼の状態:両眼性・多発性が多い。
発症年齢:診断が早い傾向(乳児期)。
リスク:二次がん(骨肉腫・軟部組織肉腫など)のリスクが高い。次世代への遺伝リスクがある(常染色体優性遺伝)。1)
非遺伝性(60%)
特徴:体細胞変異のみで生殖細胞系列は正常。
眼の状態:片眼性・単発性が典型的。
発症年齢:遺伝性より遅い傾向。
リスク:子や兄弟への遺伝リスクは低い。二次がんリスクも遺伝性より低い。1)
遺伝性網膜芽細胞腫(全体の約40%)は常染色体優性遺伝形式をとる。1)遺伝性患者の子どもには約45%の発症リスクがあるとされる。家族歴がある場合は出生直後からの眼科スクリーニングが推奨される。2)
乳幼児が主な患者層であるため、自覚症状を訴えることは少ない。保護者が気づく他覚的な変化が受診のきっかけとなることがほとんどである。
腫瘍の発育形式によって2つの主要な形態がある。
網膜芽細胞腫の原因は、13番染色体q14.2に位置する腫瘍抑制遺伝子RB1の両アレル不活化である。1) Knudsonが1971年に提唱した「2ヒット仮説」がその分子基盤である。
遺伝性例では第1のヒットをすべての細胞がすでに保有しているため、両眼・多発性の発症が説明できる。
遺伝性網膜芽細胞腫では、放射線治療を受けた場合に二次がんリスクが3倍以上に増加するとされる。1) 骨肉腫・軟部組織肉腫・メラノーマが主な二次がんである。この晩期リスクは、治癒後も長期フォローアップが必要な理由の一つである。1)
遺伝性網膜芽細胞腫に対して放射線治療を行った場合、二次がん(骨肉腫など)のリスクが非照射例の3倍以上になるとされる。1)このため現在は放射線治療は最終手段と位置づけられ、化学療法や局所療法が優先される。
網膜芽細胞腫の診断は原則として臨床的に行う。腫瘍播種のリスクから腫瘍生検は禁忌とされており、病理組織診断なしに治療を開始するのが標準的な方針である。
眼内網膜芽細胞腫の治療方針は国際網膜芽細胞腫分類(ICRB; International Classification of Retinoblastoma)に基づいて決定される。
| グループ | 特徴 | 眼球温存率の目安 |
|---|---|---|
| A | 小さな腫瘍(≤3mm)、黄斑・視神経から離れた位置 | 非常に高い |
| B | 網膜限局、播種なし | 高い |
| C | 局所的な網膜下・硝子体播種 | 中等度 |
| D | びまん性の網膜下・硝子体播種 | 低い |
| E | 大型腫瘍・眼球充填・新生血管緑内障など | きわめて低い |
白色瞳孔を呈する疾患との鑑別が重要である。
| 疾患 | 鑑別ポイント |
|---|---|
| Coats病 | 網膜血管異常・漏出性剥離。石灰化なし |
| 永続性胎生血管症(PFV) | 片眼・小眼球・後極部の線維血管増殖 |
| 未熟児網膜症(ROP) | 早産・低出生体重の既往歴 |
| 硝子体出血 | 外傷歴・血液疾患の有無を確認 |
| 網膜細胞腫 | 石灰化を伴うが血管に乏しく透明感がある。網膜芽細胞腫の良性亜型 |
| 星細胞過誤腫 | 桑の実様外観、網膜芽細胞腫に比べ黄色調が強い |
| 家族性滲出性硝子体網膜症(FEVR) | 種々の網膜剥離を伴う |
白色瞳孔(写真で瞳孔が白く光る)を認めた場合は、速やかに眼科専門医を受診することが推奨される。網膜芽細胞腫は早期発見・早期治療により眼球温存の可能性が高まるため、疑いがあれば早急な精査が重要である。
現在の治療の主目標は「生命を救うこと」であり、可能であれば眼球温存・視機能温存を図る。治療法はICRB分類と腫瘍の広がりに応じて選択される。
小さな腫瘍(グループA・B)には局所治療が有効である。
全身化学療法
薬剤:ビンクリスチン(VCR)・カルボプラチン(CBDCA)・エトポシド(VP-16)の3剤併用が標準的。
目的:腫瘍を縮小して局所治療(TTT・冷凍凝固)との併用で眼球温存を図る(化学療法減量法)。
対象:グループB〜D、両眼性症例、硝子体・網膜下播種を伴う症例。
ARET0321試験では硝子体播種への全身化学療法+局所治療の有効性が検討された。1)
動脈内化学療法(IAC)
方法:眼動脈内にメルファランなどを直接注入する超選択的動脈内投与。
利点:全身投与より高濃度の薬剤を腫瘍に届けられ、全身副作用を低減できる。
適応:グループC〜D、全身化学療法に抵抗する症例。片眼性難治例での第一選択化が進んでいる。
硝子体内化学療法
方法:メルファランを硝子体内に直接注射する。
目的:硝子体播種の制御。従来の治療では硝子体播種は眼球温存の大きな障壁だったが、硝子体内注射により温存率が改善した。
注意:播種のリスク管理のため適切な手技が必要。
グループEや重篤な眼内炎症・続発緑内障を伴う眼、他治療が無効な眼では眼球摘出(眼球核出術)が選択される。視神経断端を長く切除し、眼外浸潤を病理学的に評価することが重要である。眼球摘出後に視神経浸潤や著明な脈絡膜浸潤を伴う場合には、転移予防のために全身化学療法や放射線治療などの後療法を行う。
眼球を温存した場合、瘢痕化した腫瘍の再発に注意し定期的な眼底検査を行う。再発は1年以内に生じることが多く、1〜2か月ごとの診察が望ましい。眼球摘出後の眼窩内再発および遠隔転移も1年以内に生じることが多い。視神経浸潤など転移の危険因子がなかった場合、転移する確率は1%以下である。片側性症例であっても、遅れて他眼に腫瘍を生じることがあるため、5歳頃までは定期的に他眼の診察を行う。
眼球温存療法が広く普及した現在、外照射放射線治療は最終手段として位置づけられる。1)遺伝性例における二次がんリスクの増大から、使用は最小限にとどめる方針が国際的に定着している。
網膜芽細胞腫の腫瘍細胞は網膜の光受容体前駆細胞に由来し、分化能を一部保持している。病理組織学的には、Flexner-Wintersteinerロゼット(光受容体様分化の指標となる構造)が特徴的な所見として知られる。1)
RB1遺伝子産物であるpRb(網膜芽細胞腫タンパク)は、細胞周期の要所(G1/S移行点)を制御する転写因子E2Fを不活化することで細胞増殖を抑制する。両アレルのRB1が失われるとpRbが機能を消失し、網膜前駆細胞が制御なく増殖を続けることで腫瘍が形成される。1)
IAC(眼動脈内化学療法)は、当初は全身化学療法抵抗例への救済治療として導入されたが、現在は片眼性グループC〜D症例への第一選択治療として位置づけが変化しつつある。全身副作用の軽減と高い眼球温存率が主な利点である。
RB1遺伝子解析技術の進歩により、高リスク家系における出生前・出生後の個別化スクリーニングが現実的になっている。2) AAOOP(米国小児眼科斜視学会)のコンセンサスガイドラインでは、リスク層別化に基づく系統的スクリーニングプロトコルが提案されており、過剰・過少なスクリーニングを避ける方向性が示されている。2)
Liu・Rayら(2021)は、乳児期に両眼性網膜芽細胞腫として治療を受け、13年間再発がなかった症例が骨の転移性再発を呈した事例を報告した。1)再発は寛解から13年後に生じており、遺伝性網膜芽細胞腫における長期フォローアップの必要性を示している。
遺伝性網膜芽細胞腫では治療後も長期の定期受診が必要である。二次がん(骨肉腫・軟部組織肉腫など)の発症リスクがあり、1)晩期再発の報告もある。1)フォローアップの頻度・期間は担当医の指示に従う。