視細胞保護
ビタミンA:1日15,000IUの経口投与が視機能維持に有用とされる。長期服用時は肝機能モニタリングが必要。妊娠中は催奇形性のため禁忌。
遮光眼鏡:紫外線・強光による酸化ストレスを軽減する。日常的な使用が推奨される。

網膜色素変性症(Retinitis Pigmentosa; RP)は、視細胞(桿体・錐体)および網膜色素上皮(RPE)が進行性に変性・消失する遺伝性網膜ジストロフィの総称である。
有病率は3000〜5000人に1人とされ3)、日本国内の患者数は数万人規模に達する。日本では難病法に基づく指定難病に認定されており6)、医療費助成の対象疾患となっている。
遺伝形式は以下の3型に分類される。
RPは孤発例(家族歴なし)も多く、全体の約40〜50%を占めるとされる。また、他の全身疾患を伴う症候群性RPも存在し、Usher症候群(RP+難聴)が代表的である2)。
RPは遺伝性疾患であるが、必ずしも全員に遺伝するわけではない。遺伝形式によって子への遺伝リスクは異なる。AD型では子の50%に遺伝する可能性があるが、AR型やXL型では遺伝形式に応じてリスクが変わる。孤発例では次世代への遺伝リスクが比較的低いことが多い。
RPの症状は進行段階に応じて変化する。初期症状として夜盲が最も早期から出現することが多い。
病期ごとの症状進行の目安を以下に示す。
| 病期 | 主な症状 | 目安の時期 |
|---|---|---|
| 初期 | 夜盲 | 10〜20歳代 |
| 中期 | 視野狭窄 | 30〜40歳代 |
| 後期 | 視力低下 | 50歳代以降 |
RPの古典的三徴として以下が知られる。
ただし小児の場合には上記の典型的所見がそろっていないことが多く、眼底は色調異常を示すのみのこともある。網膜変性は進行性であるため、幼年時の眼底が正常であっても成長してから異常が現れることがあり、経時的な観察が重要である。網膜電図は早期から著しく振幅が減弱しており、眼底所見がはっきりしない段階でも診断の鍵となる。
合併症として以下が重要である。
RPに合併した後嚢下白内障に対する白内障手術では、術前のOCTでEZ(楕円体帯)幅が600μm以上あれば良好な術後視力が期待できる(AUC 0.97)5)。EZ幅は術前に視機能を予測する有用なバイオマーカーとなる。
RPは100以上の遺伝子変異が原因となる遺伝的異質性の高い疾患である。日本人における主要な原因遺伝子を遺伝形式別に示す。
主要な原因遺伝子の比較を以下に示す。
| 遺伝子 | 遺伝形式 | 日本人での頻度 |
|---|---|---|
| EYS | AR | 18〜30%(AR型最多)6) |
| RHO | AD | AD型で最多6) |
| RPGR | X連鎖 | XL型で約70〜75%6) |
各遺伝子の特徴を以下に補足する。
また、Joubert症候群・Bardet-Biedl症候群などを含む症候群性RPでは、繊毛関連遺伝子の変異が多く、全身合併症(腎疾患・多指症・肥満など)を伴うことがある2)。Fredrich失調症(PHARC)、PCARP、Oliver-McFarlane症候群など多彩な症候群との鑑別も重要である3)。
遺伝子診断は確定診断・遺伝カウンセリング・遺伝子治療の適応判定において重要である。次世代シークエンサー(NGS)を用いたパネル検査が普及し、診断率が向上している2)4)。遺伝カウンセリングと組み合わせて実施することが推奨される。
RPの診断は臨床所見・電気生理学的検査・画像検査・遺伝子検査を組み合わせて行う。
主な検査法を以下に示す。
| 検査 | 主な役割 | 特記事項 |
|---|---|---|
| 網膜電図 | 確定診断 | 桿体・錐体反応の評価6) |
| OCT | 病態評価 | EZ幅:予後予測バイオマーカー5) |
| FAF | 活動性評価 | 自発蛍光リングが病期指標6) |
各検査の詳細を以下に示す。
現時点でRPの根治療法は存在しない6)。治療は視機能の維持・合併症対策・社会生活の支援が中心となる。
視細胞保護
ビタミンA:1日15,000IUの経口投与が視機能維持に有用とされる。長期服用時は肝機能モニタリングが必要。妊娠中は催奇形性のため禁忌。
遮光眼鏡:紫外線・強光による酸化ストレスを軽減する。日常的な使用が推奨される。
合併症治療
嚢胞様黄斑浮腫治療:炭酸脱水酵素阻害薬(アセタゾラミド内服・ドルゾラミド点眼)が第一選択。難治例には硝子体内ステロイド注射やベバシズマブが検討される。
白内障手術:後嚢下白内障合併例に対して施行。術前のEZ幅≧600μmが良好な術後視力の予測因子5)。
支援・リハビリ
ロービジョンケア:拡大読書器・遮光眼鏡・音声ガイドシステムなどの補助具導入。視野・視力に応じた個別支援が重要。
難病制度:指定難病として医療費助成制度が利用可能6)。自立支援医療・障害者手帳の取得も検討する。
RPにおける視細胞死の最終共通経路はアポトーシスである。遺伝子変異の種類は多様であるが、最終的には共通の細胞死経路に収束する。
RPではまず桿体視細胞が変性・消失し、その後に錐体視細胞が二次的に変性するパターンが典型的である7)。錐体は桿体から産生される栄養因子(RdCVF:Rod-derived Cone Viability Factor)に依存して生存しているため、桿体消失後に錐体も機能を失っていくと考えられている7)。
この「桿体→錐体の二次変性」という概念は、桿体を標的とした遺伝子治療が錐体機能保護にも寄与しうることを示唆しており、治療戦略上の重要な根拠となっている。
遺伝子によって変性機序は異なる。
遺伝子治療は遺伝性網膜疾患の治療に最も有望なアプローチである7)。
Luxturna(voretigene neparvovec-rzyl):RPE65遺伝子変異による網膜ジストロフィに対して2017年に米国FDAが承認した世界初の眼科遺伝子治療薬である9)8)。網膜下注射によりAAVベクターでRPE65 cDNAを網膜色素上皮細胞に導入する。
RPGR遺伝子治療:RPGR変異によるXL型RPに対するAAV媒介遺伝子治療がPhase I/II/IIIの臨床試験まで進んでいる7)。
RdCVFは桿体から分泌され錐体の生存を維持するタンパクである7)。RdCVFを用いた錐体保護療法の臨床試験が進行中であり、桿体変性後の錐体機能を維持する独立した治療戦略として注目される。
Luxturnaは日本でも2021年に承認されたが、対象はRPE65変異による網膜ジストロフィに限られる。RPGR変異を含むその他遺伝子変異のRPに対する遺伝子治療は現在臨床試験段階であり7)、日本での一般的な治療としては未承認である。
臨床試験への参加は医療機関の倫理委員会の承認を受けた正式な試験に限られる。担当医師への相談のほか、国立がん研究センターが運営する臨床試験情報(jRCT)や米国clinicaltrials.govで試験情報を検索できる。