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網膜・硝子体

網膜色素変性症

網膜色素変性症(Retinitis Pigmentosa; RP)は、視細胞(桿体・錐体)および網膜色素上皮(RPE)が進行性に変性・消失する遺伝性網膜ジストロフィの総称である。

有病率は3000〜5000人に1人とされ3)、日本国内の患者数は数万人規模に達する。日本では難病法に基づく指定難病に認定されており6)、医療費助成の対象疾患となっている。

遺伝形式は以下の3型に分類される。

  • 常染色体優性(AD)型:全体の15〜25%を占める
  • 常染色体劣性(AR)型:最も多く50〜60%を占める
  • X連鎖(XL)型:5〜15%を占め、男性が重症化しやすい

RPは孤発例(家族歴なし)も多く、全体の約40〜50%を占めるとされる。また、他の全身疾患を伴う症候群性RPも存在し、Usher症候群(RP+難聴)が代表的である2)

Q 網膜色素変性症は遺伝するのか?
A

RPは遺伝性疾患であるが、必ずしも全員に遺伝するわけではない。遺伝形式によって子への遺伝リスクは異なる。AD型では子の50%に遺伝する可能性があるが、AR型やXL型では遺伝形式に応じてリスクが変わる。孤発例では次世代への遺伝リスクが比較的低いことが多い。

RPの症状は進行段階に応じて変化する。初期症状として夜盲が最も早期から出現することが多い。

  • 夜盲:暗所での視力低下・見えにくさ。桿体視細胞から先行して変性するため、最初期から出現する6)
  • 視野狭窄:周辺視野から内側に向かって徐々に狭まる「トンネル状視野」が特徴6)
  • 視力低下:進行期になると中心視力も低下する。末期まで中心視力が保たれる場合もある
  • 羞明:光への過敏性。錐体変性が進行すると増強することがある

病期ごとの症状進行の目安を以下に示す。

病期主な症状目安の時期
初期夜盲10〜20歳代
中期視野狭窄30〜40歳代
後期視力低下50歳代以降

RPの古典的三徴として以下が知られる。

  • 網膜色素沈着:骨小体様(bone spicule)の色素沈着が中間周辺部網膜に出現する
  • 網膜動脈の狭細化:視細胞変性に伴い二次的に生じる
  • 蝋様視神経乳頭蒼白:視神経の変性を反映する

ただし小児の場合には上記の典型的所見がそろっていないことが多く、眼底は色調異常を示すのみのこともある。網膜変性は進行性であるため、幼年時の眼底が正常であっても成長してから異常が現れることがあり、経時的な観察が重要である。網膜電図は早期から著しく振幅が減弱しており、眼底所見がはっきりしない段階でも診断の鍵となる。

合併症として以下が重要である。

  • 後嚢下白内障(PSC):高頻度(約50%以上)に合併する。EZ(楕円体帯)幅600μm以上で白内障術後視力良好(AUC 0.97)が予測できる5)
  • 嚢胞様黄斑浮腫(CME):約30%に合併し、中心視力低下の主要原因となる
Q 白内障手術を受けると視力は改善するか?
A

RPに合併した後嚢下白内障に対する白内障手術では、術前のOCTでEZ(楕円体帯)幅が600μm以上あれば良好な術後視力が期待できる(AUC 0.97)5)。EZ幅は術前に視機能を予測する有用なバイオマーカーとなる。

RPは100以上の遺伝子変異が原因となる遺伝的異質性の高い疾患である。日本人における主要な原因遺伝子を遺伝形式別に示す。

主要な原因遺伝子の比較を以下に示す。

遺伝子遺伝形式日本人での頻度
EYSAR18〜30%(AR型最多)6)
RHOADAD型で最多6)
RPGRX連鎖XL型で約70〜75%6)

各遺伝子の特徴を以下に補足する。

  • EYS(Eyes Shut Homolog):日本人AR型RPの最多原因遺伝子(18〜30%)6)。欧米ではこれほど高頻度ではなく、日本人特有の遺伝的背景を反映する
  • RHO(ロドプシン):AD型RPの最多原因遺伝子6)。桿体視細胞の光受容タンパクをコードする
  • RPGR(Retinitis Pigmentosa GTPase Regulator):XL型RPの主要原因遺伝子6)。RPGR変異を持つ男性患者では一次性線毛機能不全(PCD)を合併する例が報告されている1)
  • REEP6(Receptor Expression-Enhancing Protein 6):AR型RPの原因遺伝子の一つ。中国人集団でのAR型RP患者の遺伝解析で病原性変異が確認されている4)

また、Joubert症候群・Bardet-Biedl症候群などを含む症候群性RPでは、繊毛関連遺伝子の変異が多く、全身合併症(腎疾患・多指症・肥満など)を伴うことがある2)。Fredrich失調症(PHARC)、PCARP、Oliver-McFarlane症候群など多彩な症候群との鑑別も重要である3)

Q 遺伝子検査は受けるべきか?
A

遺伝子診断は確定診断・遺伝カウンセリング・遺伝子治療の適応判定において重要である。次世代シークエンサー(NGS)を用いたパネル検査が普及し、診断率が向上している2)4)。遺伝カウンセリングと組み合わせて実施することが推奨される。

RPの診断は臨床所見・電気生理学的検査・画像検査・遺伝子検査を組み合わせて行う。

主な検査法を以下に示す。

検査主な役割特記事項
網膜電図確定診断桿体・錐体反応の評価6)
OCT病態評価EZ幅:予後予測バイオマーカー5)
FAF活動性評価自発蛍光リングが病期指標6)

各検査の詳細を以下に示す。

  • 網膜電図(ERG):確定診断に必須の検査6)。初期から桿体反応(暗所ERG)が低下し、進行すると錐体反応(明所ERG)も低下する。全視野網膜電図が基本であり、多焦点網膜電図で局所機能評価も可能
  • OCT(光干渉断層計):EZ(楕円体帯)の幅と消失パターンを評価する。EZ幅は視機能・予後の定量バイオマーカーとして有用で、白内障手術の適応判断にも活用される5)
  • 眼底自発蛍光(FAF):高自発蛍光リング(中心窩を囲む環状輝度上昇)が残存機能網膜を示し、病期進行の指標となる6)
  • 視野検査:Goldmann視野計による動的視野検査が標準。進行に伴い環状暗点→求心性視野狭窄をたどる
  • 次世代シークエンサー(NGS):多遺伝子パネル検査により原因遺伝子の同定が可能2)4)。遺伝子治療の適応判定にも不可欠

現時点でRPの根治療法は存在しない6)。治療は視機能の維持・合併症対策・社会生活の支援が中心となる。

視細胞保護

ビタミンA:1日15,000IUの経口投与が視機能維持に有用とされる。長期服用時は肝機能モニタリングが必要。妊娠中は催奇形性のため禁忌。

遮光眼鏡:紫外線・強光による酸化ストレスを軽減する。日常的な使用が推奨される。

合併症治療

嚢胞様黄斑浮腫治療炭酸脱水酵素阻害薬アセタゾラミド内服・ドルゾラミド点眼)が第一選択。難治例には硝子体ステロイド注射やベバシズマブが検討される。

白内障手術:後嚢下白内障合併例に対して施行。術前のEZ幅≧600μmが良好な術後視力の予測因子5)

支援・リハビリ

ロービジョンケア:拡大読書器・遮光眼鏡・音声ガイドシステムなどの補助具導入。視野・視力に応じた個別支援が重要。

難病制度:指定難病として医療費助成制度が利用可能6)。自立支援医療・障害者手帳の取得も検討する。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

RPにおける視細胞死の最終共通経路はアポトーシスである。遺伝子変異の種類は多様であるが、最終的には共通の細胞死経路に収束する。

RPではまず桿体視細胞が変性・消失し、その後に錐体視細胞が二次的に変性するパターンが典型的である7)。錐体は桿体から産生される栄養因子(RdCVF:Rod-derived Cone Viability Factor)に依存して生存しているため、桿体消失後に錐体も機能を失っていくと考えられている7)

この「桿体→錐体の二次変性」という概念は、桿体を標的とした遺伝子治療が錐体機能保護にも寄与しうることを示唆しており、治療戦略上の重要な根拠となっている。

遺伝子によって変性機序は異なる。

  • RHO変異:ミスフォールドしたロドプシンが小胞体ストレス→UPR(未折り畳みタンパク応答)→アポトーシスを誘導する
  • REEP6変異:REEP6はERの形態維持に関与するタンパクをコードする。病原性変異により桿体外節でのER内封入体形成が生じ、視細胞変性に至る4)
  • RPGR変異:RPGRは一次線毛の軸糸構造に関与し、変異により光受容体外節への物質輸送が障害される1)

7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

遺伝子治療は遺伝性網膜疾患の治療に最も有望なアプローチである7)

Luxturna(voretigene neparvovec-rzyl):RPE65遺伝子変異による網膜ジストロフィに対して2017年に米国FDAが承認した世界初の眼科遺伝子治療薬である9)8)。網膜下注射によりAAVベクターでRPE65 cDNAを網膜色素上皮細胞に導入する。

RPGR遺伝子治療:RPGR変異によるXL型RPに対するAAV媒介遺伝子治療がPhase I/II/IIIの臨床試験まで進んでいる7)

RdCVFは桿体から分泌され錐体の生存を維持するタンパクである7)。RdCVFを用いた錐体保護療法の臨床試験が進行中であり、桿体変性後の錐体機能を維持する独立した治療戦略として注目される。

  • CRISPR/Cas9:病原性変異の直接修正やdominant negative変異の不活化に向けた研究が進行中である7)8)。RHO変異のノックダウン+正常遺伝子導入の組み合わせ戦略も検討されている
  • iPS細胞由来網膜移植:患者自身のiPS細胞から作製した視細胞シートの移植研究が日本でも進められている
  • 人工網膜(網膜プロテーゼ:末期RPに対する電気刺激デバイス。Argus IIなどが海外で実用化されており、日本でも研究が継続している
Q 遺伝子治療は日本でも受けられるか?
A

Luxturnaは日本でも2021年に承認されたが、対象はRPE65変異による網膜ジストロフィに限られる。RPGR変異を含むその他遺伝子変異のRPに対する遺伝子治療は現在臨床試験段階であり7)、日本での一般的な治療としては未承認である。

Q 研究段階の治療を受けるにはどうすればよいか?
A

臨床試験への参加は医療機関の倫理委員会の承認を受けた正式な試験に限られる。担当医師への相談のほか、国立がん研究センターが運営する臨床試験情報(jRCT)や米国clinicaltrials.govで試験情報を検索できる。


  1. Baz-Redon N, et al. Primary Ciliary Dyskinesia and RP: Novel RPGR Variant. Cells. 2024;13(6):524.
  2. Holanda IP, et al. Syndromic RP: A 15-Patient Study. Genes. 2024;15(4):516.
  3. Wawrocka A, et al. RP and Ataxia in PHARC, PCARP, Oliver-McFarlane. Int J Mol Sci. 2024;25(11):5759.
  4. Zhang L, et al. AR RP with REEP6 Variants in Chinese Population. Genes. 2021;12(4):537.
  5. Sakai D, et al. EZ width for predicting visual prognosis after cataract surgery in RP. Eye. 2023;37(1):42-47.
  6. 日本眼科学会. 網膜色素変性診療ガイドライン.
  7. Morda D, et al. IRD Therapeutic Strategies. Prog Retin Eye Res. 2025;109:101405.
  8. Gene Therapy Strategies for Retinal Degenerations. Prog Retin Eye Res. 2021.
  9. Molecular Basis of IRDs. Prog Retin Eye Res. 2025;109:101405.

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