VHL病の主要病変
網膜毛細血管腫(RCH):VHL病患者の50〜60%に発生。橙赤色腫瘤と流入出血管拡張が特徴。
中枢神経血管芽細胞腫:小脳・延髄・脊髄に発生。頭痛・運動失調の原因となる。
腎細胞癌(RCC):VHL関連RCCは両側性・多発性のことが多い。生命予後に影響する。
膵神経内分泌腫瘍・嚢胞:膵全体に多発し、膵外分泌機能低下をきたすことがある。

網膜毛細血管腫(Retinal Capillary Hemangioblastoma; RCH)は網膜に生じる良性の血管腫瘍である。1895年にEugen von Hippelが眼底所見を詳述し、1926年にArvid Lindauが中枢神経系の血管芽細胞腫や内臓病変との連関を記載したことで、フォン・ヒッペル・リンドウ(VHL)病としての疾患概念が確立した。
VHL病の疫学:VHL病は3番染色体短腕(3p25.3)に位置するVHL腫瘍抑制遺伝子の変異による常染色体優性遺伝疾患である。発症頻度は約36,000人に1人であり1)、80%が遺伝性、20%がde novo変異に起因する1)。初回診断時の平均年齢は26歳である1)。
VHL病は遺伝子変異のパターンに基づき以下の型に分類される1)。
| 型 | 主要病変 | RCC リスク |
|---|---|---|
| Type 1 | 血管芽細胞腫・腎細胞癌 | 低〜中 |
| Type 2A | 褐色細胞腫・血管芽細胞腫 | 低 |
| Type 2B | 褐色細胞腫・RCC・血管芽細胞腫 | 高 |
| Type 2C | 褐色細胞腫のみ | なし |
RCHはVHL病患者の50〜60%に出現し、眼症状として最も高頻度の徴候の一つである。初回診断時の平均年齢は25歳前後である1)。孤発性のRCHの84%においてVHL変異が確認されるとの報告があり2)、孤発例でも遺伝性疾患の可能性を念頭に置く必要がある。
VHL病患者の50〜60%にRCHが出現するが、全員に発症するわけではない。VHL変異の型や個人差によって病変の組み合わせは異なる1)。定期的な眼底検査を継続することが重要である。
初期のRCHは無症状であることが多く、定期検査で偶然発見される場合が少なくない。腫瘍の増大とともに以下の症状が出現する。
RCHの典型所見は流入・流出血管の拡張蛇行を伴う橙赤色の腫瘤である。周辺網膜に85%、乳頭傍(視神経乳頭付近)に15%の頻度で発生する。治療前の視力は77%が20/20以上に保たれるとされる。
VHL病の主要病変
網膜毛細血管腫(RCH):VHL病患者の50〜60%に発生。橙赤色腫瘤と流入出血管拡張が特徴。
中枢神経血管芽細胞腫:小脳・延髄・脊髄に発生。頭痛・運動失調の原因となる。
腎細胞癌(RCC):VHL関連RCCは両側性・多発性のことが多い。生命予後に影響する。
膵神経内分泌腫瘍・嚢胞:膵全体に多発し、膵外分泌機能低下をきたすことがある。
RCHの病期と進行
初期(小型腫瘍):橙赤色の小点状腫瘤。流入出血管の軽度拡張。自覚症状なし。
中等期:腫瘤増大、滲出液・硬性白斑の出現。黄斑浮腫をきたすと視力低下。
進行期(大型・滲出性RD):滲出性網膜剥離を合併。広範な滲出と視力の著明な低下。
末期(NVG・眼球萎縮):虹彩ルベオーシス、眼圧上昇、疼痛5)。
超広角蛍光眼底造影(FA)は周辺部RCHの検出に有用であり、早期過蛍光と晩期の蛍光漏出を特徴とする2)。単一患者に最大11個の腫瘤が存在することがあるため、全周の網膜を見渡せる超広角撮影が診断上重要である。
乳頭傍RCHは視神経乳頭に隣接するため、レーザーや冷凍凝固を施行すると視神経損傷や視野欠損のリスクが高い。また滲出が黄斑部へ広がりやすく、治療後も視力低下が残存することがある。詳細は「標準的な治療法」の項を参照。
RCHの直接的な原因はVHL遺伝子の機能喪失変異である。VHL遺伝子は3番染色体短腕(3p25-26)に位置し、232アミノ酸からなるpVHL(VHLタンパク)をコードする1)。
遺伝形式と変異:VHL病は常染色体優性遺伝であり、VHL遺伝子の生殖細胞系列変異と腫瘍細胞での体細胞変異の両方(2ヒットモデル)が揃ったときに腫瘍化が起こる。変異のタイプ(ミスセンス・ナンセンス・欠失・挿入)によって臨床表現型が異なり、Type分類に反映される1)。
VHL病の診断には臨床診断基準と遺伝子診断を組み合わせる1)。
VHL病の全身評価には多臓器の画像検査が必要であり、体系的なサーベイランスプロトコールが推奨される1)。
| 検査項目 | 対象病変 | 開始推奨年齢 |
|---|---|---|
| MRI(頭部・脊椎) | CNS血管芽細胞腫 | 11歳〜 |
| 腹部MRI・CT | RCC・膵腫瘍 | 16歳〜 |
| 散瞳眼底検査 | RCH | 1歳〜 |
| カテコラミン測定 | 褐色細胞腫 | 5歳〜 |
遺伝子検査:サザンブロット法・FISH・MLPAなどによりVHL遺伝子変異を確定する1)。臨床的にVHL病が疑われる場合は遺伝子検査を強く推奨する。
68Ga-DOTATOC PET-CT:ソマトスタチン受容体(SSTR)発現を利用した全身評価に有用である3)。VHL関連腫瘍はSSTRを高発現しており(SSTR4: 100%、SSTR1/2/5: 89%)3)、機能的イメージングとして注目されている。
RCHの治療目標は腫瘍の閉塞と視機能の温存である。日本の眼科学教科書(眼科学第3版)および今日の眼疾患治療指針に基づく治療方針を示す。
小型〜中型の周辺部RCHに対する第一選択治療である。腫瘍本体および流入血管を直接光凝固する。
直径3mmを超える大型腫瘍や、光凝固が困難な周辺部病変に用いる。腫瘤全体を確実に覆うよう施行する。
FAガイド下のTTTが報告されており4)、補助的な治療選択肢となる。
大型腫瘍や滲出性網膜剥離を合併した症例では硝子体手術(PPV)が必要となる。
Bhende P et al.(2022)は40歳男性の両眼RCHに合併した牽引性・滲出性網膜剥離に対し、硝子体切除術+腫瘍切除+シリコーンオイル(SO)填充を施行した4)。術後の矯正視力は6/36であった。TTT併用によりFFA所見の改善が得られた。
放置すると腫瘍が増大し、滲出液の蓄積・硬性白斑の形成・滲出性網膜剥離へと進行する。さらに進行すると血管新生緑内障を合併し、疼痛・眼圧上昇・眼球萎縮に至ることがある5)。早期の小型腫瘍ほどレーザーによる根治が可能であるため、定期検査による早期発見が視力予後を大きく左右する。
pVHL(232アミノ酸)はエロンギンB・エロンギンC・CUL2からなるE3ユビキチンリガーゼ複合体のサブユニットとして機能し、低酸素誘導因子α(HIF-α)をユビキチン化・プロテアソーム分解へ誘導する1)。
VHL変異→pVHL機能喪失→HIF-αのユビキチン化障害→HIF-α核内蓄積→VEGF・PDGFなどの血管新生因子過剰発現→RCH形成、という一連の経路が確立している1)。RCHは酸素分圧に関わらずHIFが常時活性化した「疑似低酸素状態」を呈する。
RCHの真の腫瘍成分は内皮細胞ではなく間質細胞(stromal cell)であり、VHL変異を持つこの間質細胞がHIF-α依存性にVEGFを産生して血管新生を駆動する。腫瘍血管は間質細胞のパラクリン作用により形成される。
VHL関連血管芽細胞腫はSSTRを高発現する。SSTR4は100%、SSTR1/2/5は89%の腫瘍に発現しており3)、この受容体発現はHIFの低酸素非依存的な活性化経路を介している3)。この特性が68Ga-DOTATOC PET-CTによる診断や、ソマトスタチンアナログ療法の標的となる。
ベルズチファン(belzutifan)はHIF-2αを選択的に阻害する経口分子標的薬であり、2021年に米国FDAによりVHL病関連腫瘍(RCC・膵神経内分泌腫瘍・RCH)に対して承認された1)。標準投与量は120mg/日の経口投与である2)。
VHL病関連RCHに対する奏功率(ORR)は100%と報告されており1)2)、既存の眼局所治療に対する初の全身薬物療法として画期的な位置づけにある。
Ercanbrack CW et al.(2024)はベルズチファン投与を受けた3症例を報告した2)。症例1では投与21か月後に腫瘍の完全線維化が確認された。症例3では腫瘍面積が10.3mm²から5.5mm²へと7か月で縮小した2)。超広角FAによるモニタリングが腫瘍縮小の定量評価に有用であった。
副作用プロファイルは以下の通りである2)。
段階的治療戦略として、ベルズチファンで腫瘍を縮小させた後にレーザー光凝固で根治を目指す組み合わせ療法が検討されている2)。
ランレオチド(lanreotide)120mg/28日間隔皮下注射による治療効果が報告されている。
Brabo EP et al.(2024)はランレオチド投与を受けたVHL病患者において、68Ga-DOTATOC PET-CTのSUVmaxが15.6から4.8へと著明に低下したことを報告した3)。患者1人あたり平均10.4個の血管芽細胞腫が存在し、ランレオチドによる腫瘍増殖抑制の可能性を示した3)。
ソマトスタチンアナログはHIF-2α阻害薬とは異なる経路で血管芽細胞腫に作用しており、将来的な併用療法の可能性が示唆されている3)。
SSTR発現を利用した機能的画像診断であり、従来のMRI・CTでは検出困難な微小病変の描出が期待されている3)。VHL病の全身サーベイランスとしての有用性を検証する研究が進行中である。