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網膜・硝子体

遷延性類円板状網脈絡膜炎(RPC)

1. 遷延性類円板状網脈絡膜炎(RPC)とは

Section titled “1. 遷延性類円板状網脈絡膜炎(RPC)とは”

遷延性類円板状網脈絡膜炎(Relentless Placoid Chorioretinitis; RPC)は、2000年にJonesらが初めて報告した稀な両眼性炎症性脈絡膜疾患である1)

急性後部多発性類円板状色素上皮症(APMPPE)とサーピジン状脈絡膜炎(SC)の中間的特徴を示す。RPCは急性後部多発性類円板状色素上皮症のように多発性の類円板状病変を呈するが、SCのように慢性遷延性の経過をとる点で異なる。初報告から現在まで世界的に報告例が少ない希少疾患である1)

発症年齢は主に20〜60歳とされるが、小児・若年成人での発症も報告されている1)。発症前のウイルス前駆症状が約33%に認められる1)。また、COVID-19感染後の発症例が複数報告されており1)2)、甲状腺炎や脳血管炎との関連も指摘されている1)

Q RPCは急性後部多発性類円板状色素上皮症やサーピジン状脈絡膜炎とどう違うのか?
A

急性後部多発性類円板状色素上皮症は自然軽快することが多い一方、SCは地理的に進行し視力予後が悪い。RPCは急性後部多発性類円板状色素上皮症に似た多発性病変を呈するが、6か月以上にわたり新病変が出現し続ける点でSCに類似する。両者の特徴を兼ね備えた中間型として位置づけられている1)

  • 視力低下:病変が黄斑部に及ぶと著明な視力低下を来す。
  • 視野欠損:新病変の出現に伴い、対応部位の視野欠損が生じる。
  • 霧視・変視:脈絡膜・網膜色素上皮(RPE)の障害による。
  • 光視症:炎症刺激により生じることがある。
  • 無症状の病変:周辺部病変では自覚症状を欠く場合がある。

両眼性に50個以上の多発性類円板状病変が出現することが特徴的である1)4)。病変は急性期と瘢痕期で異なる画像所見を呈する。

急性期病変

眼底所見:クリーム色〜灰白色の類円板状病変。後極部から周辺部に多発。

FAF(自発蛍光):急性病変は高蛍光を示す2)3)

FA(蛍光眼底造影):早期低蛍光・後期高蛍光のパターン。脈絡膜虚血を反映した早期低蛍光が特徴的1)4)

ICG造影:全期にわたり低蛍光斑を呈する。活動性脈絡膜炎の指標となる1)5)

慢性期・瘢痕期

FAF:瘢痕化した慢性病変は低蛍光を示す2)3)

OCT:外網膜の高反射変化、RPE不整、光受容体層の障害を認める1)

OCT-A:脈絡毛細血管層の血流低下を検出できる6)。内層脈絡膜が主たる障害部位とされる6)

瘢痕病変:RPEの萎縮・色素沈着・凝集として残存する。

約70%の症例で急性期にディスクからのleakage(視神経乳頭の蛍光漏出)が認められるとの報告がある5)

各種画像検査の特徴を以下に示す。

検査急性期所見慢性期所見
FAF高蛍光低蛍光
FA早期低蛍光後期高蛍光
ICG全期低蛍光低蛍光斑
Q 病変はどれくらいの期間、新しく出続けるのか?
A

報告によれば5〜24か月にわたり新病変が出現し続ける症例が存在する1)。これがRPCを「遷延性」と呼ぶ根拠であり、急性後部多発性類円板状色素上皮症との本質的な違いでもある。

RPC特定の病因は解明されていない。免疫介在性の脈絡膜血管炎が主体と考えられている。

感染前駆症状:約33%の症例でウイルス感染を示唆する前駆症状が認められる1)。具体的な病原体は特定されていない。

COVID-19関連発症:COVID-19感染後にRPCを発症した症例が複数報告されている1)2)。COVID-19後の免疫異常が誘因となった可能性がある。

自己免疫機序:T細胞介在性の自己免疫反応が関与すると考えられている3)。免疫抑制療法への反応性がこれを支持する。

系統的合併症:甲状腺炎や脳血管炎を合併した症例が報告されている1)。眼外病変を伴う全身性炎症疾患の可能性を念頭に置く必要がある。

脈絡毛細血管虚血:脈絡毛細血管レベルの虚血が発症の主病態とされる6)。詳細は「病態生理学・詳細な発症機序」の項を参照。

RPCの診断基準は確立されていない。以下の特徴の組み合わせにより臨床診断を行う。

診断のポイント:

  • 遷延性経過:6か月以上にわたる新病変の出現
  • 両眼性の多発類円板状病変:50個以上に及ぶことがある1)4)
  • 特徴的な画像所見:FA早期低蛍光、ICG全期低蛍光1)5)
  • 除外検査の陰性確認:梅毒・結核・トキソプラズマなどの感染症1)2)

RPCとの鑑別が必要な疾患は多岐にわたる。12疾患との詳細な鑑別が報告されている2)

鑑別疾患鑑別ポイント
APMPPE自然軽快・遷延しない
サーピジン状脈絡膜炎地理的進行・単眼性傾向
VKH症候群全身症状・夕焼け状眼底

その他の鑑別疾患として、多発性後極部RPE症(MEWDS)、バードショット網脈絡膜症、感染性脈絡膜炎(トキソプラズマ、結核、梅毒)、サルコイドーシス関連脈絡膜炎などが挙げられる2)

梅毒血清反応(RPR/TPHA)、QuantiFERON-TB(結核)、トキソプラズマ抗体、胸部X線・CT、ACE(サルコイドーシス)などを行う1)2)

FA・ICG・FAF・OCT・OCT-Aの多モーダル画像評価が診断と病勢評価に不可欠である1)5)6)

Q RPCと診断するために最低限必要な検査は何か?
A

FA(特に早期低蛍光の確認)とICG(全期低蛍光斑の確認)が診断に重要である1)5)。また梅毒・結核・トキソプラズマの除外検査が必須となる1)2)。OCT-Aは脈絡毛細血管の血流評価に有用である6)

RPCに対して確立された標準治療プロトコールは存在しない。現状では免疫抑制療法が治療の基本となる。

全身性ステロイドが第一選択薬として用いられる1)。プレドニゾロンの経口投与が一般的に開始される。ただし単独ステロイド療法では十分な効果が得られないことが多く、免疫抑制薬の追加が必要となる。

シクロスポリン+プレドニゾロン:小児・若年成人症例でも使用される組み合わせである1)

アザチオプリン:使用率96.2%と報告されており、維持療法として広く用いられる1)

メトトレキサート(MTX)15mg/週:シクロホスファミドパルス療法後の維持療法として使用される3)

シクロホスファミド静注パルス療法

Section titled “シクロホスファミド静注パルス療法”

難治性RPC4症例を対象とした報告では、シクロホスファミド静注10mg/kgパルス療法により、BCVAが20/125から20/32へ有意に改善した(P<0.001)3)。副作用は最小限であった。RCTにおいてもシクロホスファミドパルス療法によりSC病変の消退が中央値2週間で認められている3)

トリプル免疫抑制療法(トリプルIMT)

Section titled “トリプル免疫抑制療法(トリプルIMT)”

COVID-19後RPC症例において、シクロスポリン+ミコフェノール酸モフェチル(MMF)+メチルプレドニゾロンの三者併用療法(トリプルIMT)により6か月間の寛解が得られた症例が報告されている2)

Bombuy Gimenez Jら(2025)は、COVID-19感染後に発症した51歳男性のRPC症例に対し、トリプルIMT(シクロスポリン+MMF+メチルプレドニゾロン)を施行し、6か月の寛解達成を報告した2)。12疾患との詳細な鑑別を経て診断された。

難治例・再発例に対してアダリムマブインフリキシマブトシリズマブが使用された症例が報告されている1)。トシリズマブの使用は世界初報告として注目されている(詳細は「最新の研究と今後の展望」の項を参照)。

網膜静脈閉塞症(RVO)および周辺部網膜新生血管を合併した症例では、セクター散乱レーザー光凝固術が施行されている4)

妊婦RPC症例に対してはテノン嚢トリアムシノロン(IVTA)が使用された報告がある1)

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

RPCの主病態は脈絡毛細血管の虚血であると考えられている6)

脈絡毛細血管虚血:OCT-Aを用いた検討では、脈絡毛細血管層の血流低下が確認されており、内層脈絡膜が障害の主座とされる6)。この虚血により上層の網膜色素上皮(RPE)および外網膜が二次的に障害を受ける。

脈絡膜血管炎:免疫介在性の脈絡膜血管炎が根本的な機序と考えられる4)。FA・ICG所見の特徴は急性後部多発性類円板状色素上皮症と共通しており、脈絡膜血管レベルの炎症が循環障害を引き起こすと推測される。

網膜血管への波及:網膜静脈閉塞症や周辺部網膜新生血管を合併した世界初報告例では、脈絡膜血管炎が隣接する網膜血管に波及した可能性が示唆されている4)。網膜静脈閉塞症の機序として白血球うっ滞(leukostasis)が推測されている4)

Gupta RRら(2021)は、50個以上の病変を有するRPC患者に分枝網膜静脈閉塞症(BRVO)と周辺部網膜新生血管が合併した世界初例を報告した4)。脈絡膜血管炎が主病態であることを支持する所見として記載された。

OCT所見の意義:急性期における外網膜高反射は、虚血に伴う光受容体・RPE複合体の障害を反映すると考えられる1)


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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小児・若年成人RPCに対するトシリズマブ使用は世界初の報告として注目されている1)

Zaheer HAら(2023)の報告では、17歳のRPC患者にトシリズマブを投与したが再発を認め、その後インフリキシマブへ変更したところ最終視力20/15を達成した1)。IL-6阻害薬(トシリズマブ)はRPCの新たな治療選択肢として期待される。

シクロホスファミド静注パルス療法の有望性

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4症例を対象とした前向き研究では、シクロホスファミド静注10mg/kgにより視力(BCVA)が20/125から20/32へ有意に改善し(P<0.001)、副作用は最小限であった3)。難治性RPCに対する有望な治療選択肢として評価されている。

Pedroza-Seresら(2025)は、4症例にシクロホスファミドIV 10mg/kgパルス療法を施行し、BCVAの有意な改善(20/125→20/32、P<0.001)を達成した3)。維持療法としてMTX 15mg/週が用いられた。RCTにおいても同療法でSC病変の中央値2週間での消退が報告されている3)

COVID-19感染後RPC発症の機序解明が今後の重要課題である1)2)。感染後の免疫異常がどのように脈絡膜血管炎を惹起するかについて、さらなる研究が必要とされる。

Q トシリズマブはRPCに有効か?
A

世界初報告として1例での使用が報告されているが1)、現時点では症例報告レベルのエビデンスにとどまる。再発に対してインフリキシマブへの変更で良好な転帰を得た症例も報告されている1)。標準治療として確立されるには今後の積み重ねが必要である。


  1. Zaheer HA, Cheema MR, Subhani SN, et al. Relentless placoid chorioretinitis in pediatric and young adult patients: a case series with review of the literature. Front Pediatr. 2023;11:885230.
  2. Bombuy Gimenez J, Almagro-Mira D, Morales-Navarro C, et al. Relentless placoid chorioretinitis following COVID-19 infection: a case report and literature review. Cureus. 2025;17(7):e88688.
  3. Pedroza-Seres M, Navarro-Lopez P, Reyes-Camarena S, et al. Intravenous cyclophosphamide pulse therapy for refractory relentless placoid chorioretinitis. Indian J Ophthalmol. 2025;73:1576-1580.
  4. Gupta RR, Iyer SSR, Bhagat N. Branch retinal vein occlusion and peripheral neovascularization as a complication of relentless placoid chorioretinitis. J VitreoRetin Dis. 2021;5:173-176.
  5. Herbort CP Jr, Mantovani A, Papasavvas I. Indocyanine green angiography in inflammatory diseases affecting the posterior segment. Cureus. 2024;16(1):e58867.
  6. Agarwal A, Invernizzi A, Singh RB, et al. Enhanced depth imaging optical coherence tomography and optical coherence angiography in white dot syndromes. Surv Ophthalmol. 2021;66:1263-1281.

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