Histo spots
定義:直径0.2〜0.7乳頭径の、丸く打ち抜かれたような(punched-out)黄白色の脈絡網膜萎縮斑。
分布:黄斑部から周辺部にかけて多発性に存在する。
意義:黄斑部病変は脈絡膜新生血管発生リスクが高く(約25%)、厳重な経過観察を要する。

推定眼ヒストプラズマ症候群(Presumed Ocular Histoplasmosis Syndrome; POHS)は、土壌中に生息する二形性真菌 Histoplasma capsulatum の感染に続発して生じる脈絡網膜疾患である。臨床的には、①punched-out型の「histo spots」、②傍乳頭萎縮(peripapillary atrophy; PPA)、③硝子体炎の欠如、という三徴で定義される。1)
眼内からの菌体培養・組織学的確認が困難なことが多いため、「推定(Presumed)」の名称が用いられてきた。なお、急性感染の組織学的検体でのGrocott’s methenamine silver(GMS)染色による H. capsulatum 確認例も報告されている。1)
米国ではオハイオ川・ミシシッピ川流域が流行地帯であり、同地域住民の皮膚テスト陽性率は約60%に達する。しかし皮膚テスト陽性者のうち眼病変を呈するのは約1.5%にとどまる。HLA-DRw2やHLA-B7との関連が報告されている。
日本は非流行地域であり、POHSは輸入感染症として扱われる。鳥類やコウモリの糞便が汚染された土壌が主要な感染源となり、胞子吸入により感染が成立する。2)
日本は非流行地域のため、POHSは主として流行地への渡航歴・居住歴を持つ患者で発症する輸入感染症として扱われる。鳥やコウモリの糞便に汚染された土壌での作業が感染源となりうる。2)
脈絡膜病変(histo spots・PPA)のみの段階では無症状のことが多い。脈絡膜新生血管が発生した段階で以下の症状が出現する。
POHSの特徴的な所見を以下にまとめる。
Histo spots
定義:直径0.2〜0.7乳頭径の、丸く打ち抜かれたような(punched-out)黄白色の脈絡網膜萎縮斑。
分布:黄斑部から周辺部にかけて多発性に存在する。
意義:黄斑部病変は脈絡膜新生血管発生リスクが高く(約25%)、厳重な経過観察を要する。
傍乳頭萎縮(PPA)
定義:視神経乳頭周囲に生じる脈絡網膜萎縮。POHSの重要な構成要素の一つ。
脈絡膜新生血管リスク:PPAから脈絡膜新生血管が発生する割合は約4%とされる。
経過:PPA単独では視機能に影響しないことが多い。
硝子体炎の欠如
特徴:活動性炎症所見(硝子体混濁・前房炎症)を伴わない点がPOHSの重要な特徴。1)
鑑別意義:硝子体炎を伴う場合は他の疾患(多発消失性白点症候群、点状内層脈絡膜症)を積極的に鑑別する。
その他の所見として、約5%の症例で線状瘢痕(linear streak)が認められる。1)また、脈絡膜新生血管発生時には黄斑部に出血・浮腫・滲出を認め、視機能障害の直接原因となる。両眼性は約60%に及ぶ。
多くの眼内炎症疾患では硝子体への炎症細胞浸潤を伴うが、POHSでは感染の急性期が終息した後に免疫学的機序で脈絡膜新生血管が発生するため、活動性炎症所見を欠く。この「炎症なき脈絡膜萎縮と脈絡膜新生血管」の組み合わせが三徴の根拠となっている。1)
H. capsulatum の胞子は経気道的に吸入され、肺に一次感染巣を形成する。その後、血行性に全身播種し、脈絡膜にも到達して肉芽腫性病変を形成する。1)2)鳥類(特にムクドリ・ニワトリ)やコウモリの糞便に汚染された土壌が胞子の主要な環境源となる。2)
免疫正常者では急性肺感染は軽症・無症状で経過することが多い。一方、腎移植後などの免疫不全状態では全身播種リスクが上昇し、眼外病変(結膜病変など)を来すことがある。2)
POHSに伴う脈絡膜新生血管発生のリスク因子は以下の通りである。
POHSの確定診断には特異的な検査法がなく、臨床所見の組み合わせによる診断が基本となる。
以下に主要な検査法と所見をまとめる。
| 検査法 | 特徴的所見 |
|---|---|
| フルオレセイン蛍光造影(FA) | 萎縮斑の窓状欠損、CNVの早期染色1) |
| OCT(光干渉断層計) | Bruch膜断裂・外層萎縮、CNV形態評価1) |
| OCT-A(血管造影) | CNVの微細血管構造の非侵襲的評価 |
POHSは確定診断のための単一の検査法がなく、臨床的な三徴(histo spots・PPA・硝子体炎なし)の確認が診断の基本となる。流行地域への渡航歴や血清学的検査が補助診断として用いられる。急性感染例では生検組織のGMS染色による菌体確認が確定診断につながる場合がある。1)
POHSに対する治療は、CNVが発生した場合に行う。CNVを伴わないhisto spotsやPPAのみの段階では積極的治療は行わず、経過観察とする。
現在、抗VEGF薬(VEGF阻害薬)硝子体内注射がCNVに対する第一選択治療である。複数の報告でその有効性が示されており、POHS関連CNVの54眼を対象とした検討では平均視力が20/53から20/26へと改善したとされている。
また、アフリベルセプトを用いたHANDLE試験では、PRN(pro re nata)投与により平均19文字の視力改善が得られたことが報告されている。
使用される主な抗VEGF薬は以下の通りである。
黄斑中心窩外(extrafoveal)病変に対してはMacular Photocoagulation Study(MPS)の結果に基づくレーザー光凝固が選択肢となる。MPS試験では、レーザー治療により重篤な視力低下(6行以上)の発生率が44%から9%に低下したことが報告されている。ただし、中心窩病変には適応がない。
中心窩下CNVに対して光線力学的療法が用いられることがある。約45%の症例で視力改善が得られたとの報告がある。抗VEGF薬の登場以降、光線力学的療法単独は第一選択としては用いられにくくなっている。
抗真菌薬(イトラコナゾールなど)はPOHSの眼病変に対して無効であり、標準治療としては使用しない。眼病変の主体は感染の直接侵襲ではなく免疫学的機序(病態生理学参照)であるためである。免疫不全患者の全身性ヒストプラズマ症に対しては別途全身治療が必要となる場合がある。2)
POHSの発症機序に関する主要な仮説として、Gassの提唱した「感染→肉芽腫形成→自然排除→瘢痕化→過免疫応答→CNVM形成」という一連の過程がある。1)
Gass仮説の妥当性を裏付ける証拠として、免疫正常の17歳男性の急性期脈絡膜病変においてOCTでBruch膜貫通所見が確認され、GMS染色で H. capsulatum が同定された症例報告がある。1)また、SpencerらによるPOHS病変組織からのHistoplasma DNA検出も、感染と病変の直接的連関を支持している。1)
脈絡膜の肉芽腫性炎症はBruch膜(網膜色素上皮下の基底膜複合体)に断裂をもたらす。この断裂部位から脈絡膜の新生血管芽が網膜下腔に侵入し、CNVを形成する。CNVからの血漿漏出・出血が黄斑部浮腫・滲出を引き起こし、視機能障害の原因となる。
POHSのCNVは感染の急性期ではなく、感染排除後の過剰免疫応答として発生する。このことが、眼病変に抗真菌薬が無効である理由である。一方、免疫不全状態(腎移植後など)では感染の直接進行リスクが高まる。2)腎移植後患者での結膜ヒストプラズマ症では、KOH・カルコフルオール・ギムザ染色による菌体確認が報告されている。2)
Janetoら(2023)は、免疫正常の17歳男性の急性期脈絡膜病変において、OCTでBruch膜貫通所見を確認し、GMS染色により H. capsulatum を組織学的に同定した。1)IVアムホテリシンB→イトラコナゾールによる抗真菌療法を施行し、6か月後には萎縮瘢痕化・視力20/20へ改善した。SpencerらのHistoplasma DNA検出とも合わせて、Gass仮説を直接的に裏付ける報告として注目されている。
HANDLE試験はPOHS関連CNVに対するアフリベルセプトのPRN(必要時)投与を評価した前向き研究であり、平均19文字の視力改善という良好な成績が報告されている。抗VEGF療法の投与プロトコール最適化に向けた重要なエビデンスとなっている。
OCT-Aは、CNVの微細血管構造をフルオレセイン造影を用いずに非侵襲的に可視化できる技術である。POHS関連CNVの活動性評価・治療効果判定への応用が進んでおり、治療戦略の個別化に貢献することが期待されている。