未熟児網膜症
定義:早産・低出生体重児における網膜血管発達異常。異常新生血管の増殖・牽引から網膜剥離へ進展する。
重要性:世界的な小児失明の主要原因。1990年代には小児失明の約11%、2010年には約20%を占める。3)

小児硝子体網膜手術(Pediatric Vitreoretinal Surgery)は、乳幼児から小児期に生じる硝子体網膜疾患に対して行われる手術的治療の総称である。対象疾患は多岐にわたる。
未熟児網膜症
定義:早産・低出生体重児における網膜血管発達異常。異常新生血管の増殖・牽引から網膜剥離へ進展する。
重要性:世界的な小児失明の主要原因。1990年代には小児失明の約11%、2010年には約20%を占める。3)
FEVR・PFV
家族性滲出性硝子体網膜症(FEVR):Wntシグナル経路遺伝子(FZD4・LRP5等)の変異による網膜血管発達不全。未熟児網膜症に類似した眼底像を呈する。
永続性胎児血管症(PFV):胎生期の硝子体血管が退縮せずに残存する先天異常。片眼性が多い。
Coats病・小児RD
Coats病:網膜毛細血管の異常拡張・滲出による滲出性網膜剥離。男児・片眼性に多い。
小児網膜剥離:格子状変性や外傷を契機とした裂孔原性網膜剥離。未治療未熟児網膜症の晩期合併症としても生じる。1)
未熟児網膜症の病態は2相モデルで説明される。第1相(在胎22〜30週)では高酸素環境による網膜血管発達停止が起こる。第2相(在胎30〜34週頃)では相対的低酸素によるVEGF過剰産生が異常新生血管増殖を引き起こす。3)
小児眼は毛様体扁平部が未発達で水晶体が大きく強膜が薄いため、成人と同じアプローチがとれない。硝子体は成人より網膜と強く癒着しており、強制的な後部硝子体剥離(PVD)誘発が医原性網膜裂孔のリスクとなる。術後の増殖性変化も強い傾向がある。
小児は症状を自己申告できないため、保護者・健診での観察が重要である。
未熟児網膜症の病期はICROP3(2021年改訂)に基づいて評価する。3)
| 分類軸 | 内容 |
|---|---|
| Zone(部位) | Zone I:後極中心、Zone II:中間、Zone III:周辺 |
| Stage(病期) | 1:境界線、2:隆起、3:新生血管、4:部分剥離、5:全剥離 |
Plus病変は後極部の血管怒張・蛇行(2〜4象限以上)であり、治療適応の重要な指標となる。3)
未治療の未熟児網膜症の長期追跡研究(203例解析)では、186眼に格子状変性・萎縮性円孔・網膜剥離などの晩期合併症が確認されている。1)
厚生省分類(1〜5度)により瘢痕期未熟児網膜症の重症度を評価する。1度は周辺部軽微変化のみ。2度は硝子体索状物または網膜ひだ。3度は黄斑部牽引。4度は硝子体牽引・網膜剥離(黄斑部を含まない)。5度は漏斗状全網膜剥離である。
白色瞳孔は複数の重篤疾患の共通サインであり、迅速な鑑別を要する。
| 疾患 | 鑑別の特徴 |
|---|---|
| 未熟児網膜症 Stage4〜5 | 早産・低出生体重の既往 |
| 永続性胎児血管症 | 単眼性、小眼球を伴うことあり |
| 網膜芽細胞腫 | 生命予後に関わる、緊急評価が必要 |
| Coats病 | 男児に多い、滲出性網膜剥離 |
白色瞳孔は網膜芽細胞腫など生命予後に関わる疾患のサインとなりうる。気づいた時点で速やかに眼科を受診させることが重要である。診察では散瞳検査・超音波検査・必要に応じてCT検査で鑑別を進める。
未熟児網膜症の発症は早産・低出生体重と強く関連する。
日本での未熟児網膜症スクリーニング対象は在胎34週未満または出生体重1,800g以下とされている。
FEVRはWntシグナル経路に関わる遺伝子変異が原因である。原因遺伝子にはFZD4・LRP5・NDP・TSPAN12・KIF11等が含まれる。常染色体優性遺伝が多いが浸透率は不完全であり、同一家系内でも重症度が大きく異なる。
PFVは通常単眼性・非遺伝性とされる。胎生期の硝子体血管が正常に退縮しないことで生じる。特定の危険因子は同定されていない。
スクリーニングは在胎31〜32週、または出生後4〜6週のうち遅い方に開始する。間接検眼鏡または広角眼底カメラ(RetCam等)による散瞳下網膜観察が基本である。
広角眼底カメラ画像を用いたAIによる未熟児網膜症スクリーニングシステムの開発が進んでいる。3) 専門医が少ない地域での早期発見・重症度判定への応用が期待される。未熟児網膜症の検出において高い感度・特異度が報告されており、医療資源が限られた地域でのスケーラブルなスクリーニング手段として評価されている。3)
網膜無血管領域への全周光凝固が標準治療として確立している。新生血管の退縮を促し、網膜剥離への進展を防ぐ。Zone I病変・Plus病変を伴うStage 3以上が主な治療適応となる。
未熟児網膜症に対するVEGF阻害薬(ベバシズマブ、ラニビズマブ等)の硝子体内注射が広く行われるようになった。3)
Stage 4A/4B 未熟児網膜症の牽引性網膜剥離に対して適応を検討する。輪状締結またはセグメントバックルにより網膜を復位させる。小児では術後に眼球成長とともにバックルが緩むため、後日除去が必要となる場合がある。
増殖牽引膜の切除・網膜復位を目的とした手術であり、Stage 4〜5 未熟児網膜症の主要手術療法である。水晶体を温存することで術後の弱視リスクを低減する。3)
Stage別のLSV成功率(網膜復位率)の目安を以下に示す。3)
| Stage | 成功率の目安 |
|---|---|
| Stage 4A | 74〜91% |
| Stage 4B | 62〜92% |
| Stage 5 | 22〜48% |
術後晩期再剥離のリスクが存在する。Kondoら(2009年)はStage 4B/5 未熟児網膜症術後の晩期再剥離を報告しており、長期的な経過観察が必要である。2)
成人との解剖学的差異から、以下の対応が必要となる。
術後合併症として白内障が発生することがある。3) 弱視予防の観点から速やかな光学的矯正・遮閉訓練が求められる。
Stage 5(漏斗状全網膜剥離)ではLSVによる網膜復位率は22〜48%にとどまる。3) 視機能回復は限定的であり、手術の目的は光覚の獲得・維持が主体となることが多い。Stage 4A段階での早期手術介入が視力予後を大きく左右する。
未熟児網膜症の発症は2相性の血管病態として理解される。3)
第1相(血管退縮期、在胎22〜30週):出生後の高酸素(保育器内酸素投与)環境が、本来は低酸素環境下で発達するはずの網膜血管の成長を抑制する。VEGFおよびIGF-1の産生が低下し、既存の血管も退縮する。IGF-1は早産児では母体・羊水からの補給が途絶えるため低値となり、第1相での血管発達停止に関与する。
第2相(血管増殖期、在胎30〜34週頃):代謝需要が高まる周辺部の無血管領域に相対的低酸素が生じる。VEGFが過剰産生され、異常な動静脈シャント(Stage 1・2)・新生血管(Stage 3)・Plus病変が形成される。持続的なVEGF上昇は線維血管増殖・瘢痕化・牽引網膜剥離へと進行する。
FEVRはWntシグナル経路の遺伝子変異(FZD4・LRP5・NDP・TSPAN12等)による網膜血管発達不全である。網膜血管の末梢への伸長が不全となり、無血管領域への滲出・新生血管増殖・牽引網膜剥離へと進展する。臨床像は未熟児網膜症に類似するが、早産の既往がなく症状が緩徐に出現する点が特徴である。
PFVは胎生期に存在する一次硝子体(硝子体動脈を含む胎児性血管系)が正常に退縮しないことで生じる。通常は単眼性で、後部・前部・混合型に分類される。遺残組織の牽引により毛様体突起の延長・網膜ひだ・水晶体混濁・網膜形成異常が生じる。
広角眼底カメラで撮影した網膜画像をAIが解析し、未熟児網膜症の病期判定・Plus病変検出を行うシステムの開発が進んでいる。3)
専門家またはAI支援システムによる未熟児網膜症画像診断は、治療を要する未熟児網膜症の検出において高い感度・特異度を示しており、医療資源が限られた地域でのスケーラブルなスクリーニング手段として評価されている。3)
カフェインは早産児の無呼吸治療薬として広く使用されている。未熟児網膜症の発症率・重症度に与える影響が注目されており、研究が進行中である。3) ただし明確なエビデンスの確立には至っておらず、未熟児網膜症を主目的としたカフェイン投与は現時点では標準治療ではない。
Treseら(Ophthalmol Retina, 2020年)は203例の未治療の未熟児網膜症を対象とした長期追跡研究を報告した。186眼の解析で、格子状変性・萎縮性円孔・網膜剥離など多様な晩期合併症の発生が確認された。1) 治療症例との比較から、早期治療介入の長期的有益性が支持された。
Kondoら(Am J Ophthalmol, 2009年)はStage 4B/5 未熟児網膜症手術例の長期経過を追跡し、術後の晩期網膜再剥離の発生を報告した。2) 手術成功例でも数年後に再剥離が生じる可能性があり、定期的な長期フォローアップの重要性が示された。
治療後の視力は病期・治療時期・黄斑部の関与によって大きく異なる。Stage 4A以下で早期に治療が奏功した場合は比較的良好な視力が期待できる。黄斑部を含む網膜剥離(Stage 4B以上)では視力予後は限定的であり、長期的な弱視治療・経過観察が重要となる。3)