初期〜中期
豹紋状眼底:脈絡膜血管が透見される典型的所見。Category 1〜2相当。
乳頭周囲萎縮(PPA):視神経乳頭周囲の脈絡膜・RPEの菲薄化。早期から認める。
lacquer cracks:Bruch膜の線状亀裂。有病率4.2%とされるが、存在する場合脈絡膜新生血管の発症リスクはOR 2.56。4)

病的近視(pathologic myopia; PM)は、屈折度が-6.0D以上または眼軸長26.5mm以上の強度近視に、眼底変性病変を伴う状態と定義される。META-PM(Meta-Analysis for Pathologic Myopia)分類では眼底萎縮性変化をCategory 0〜4で段階評価する。
世界有病率は0.2〜3.8%と報告されている。日本では視覚障害の主要原因であり、成人失明原因の第2位を占める。特に東アジアでの有病率が高い。
眼底変化の記述にはATN分類も用いられる。Aは萎縮性変化(atrophic)、Tは牽引性変化(tractional)、Nは近視性脈絡膜新生血管(neovascular)を指す。両分類を組み合わせることで、病変の重症度と活動性を包括的に評価できる。
ぶどう腫(staphyloma)は眼軸延長に伴う強膜の局所的膨隆であり、有病率は69.4%に達する。1) ぶどう腫の存在のみで病的近視の陽性予測値は89.8%である。1)
強度近視は屈折度が-6D以上または眼軸が26.5mm以上の状態を指す。病的近視はそれに加えて眼底変性病変(萎縮・ぶどう腫・lacquer cracksなど)を伴うものを指し、視力予後が悪い。
眼底所見は病期の進行とともに多様な変化を示す。META-PM分類に基づく主な所見を以下に示す。
初期〜中期
豹紋状眼底:脈絡膜血管が透見される典型的所見。Category 1〜2相当。
乳頭周囲萎縮(PPA):視神経乳頭周囲の脈絡膜・RPEの菲薄化。早期から認める。
lacquer cracks:Bruch膜の線状亀裂。有病率4.2%とされるが、存在する場合脈絡膜新生血管の発症リスクはOR 2.56。4)
進行期
びまん性萎縮:RPEおよび脈絡膜の広範な菲薄化・萎縮。長期では57%が進行する。4)
限局性萎縮(フックス斑):脈絡膜新生血管の退縮後の色素増殖を伴う萎縮。81%が進行する。4)
ぶどう腫:後極部の強膜膨隆。有病率69.4%。1) ぶどう腫の形状はWide-field OCTAで評価できる。6)
近視性脈絡膜新生血管:lacquer cracksを介してBruch膜下から発生する。活動性脈絡膜新生血管の有病率は追跡コホートで15%。4) lacquer cracksがある場合OR 2.56、びまん性萎縮がある場合OR 4.95でリスクが増大する。4)
黄斑分離症(myopic foveoschisis; MF):ぶどう腫内壁と硝子体牽引により網膜層間に分離が生じる。長期間無症状のまま経過することもあるが、黄斑円孔や網膜剥離へ進展する例がある。2)
病的近視に交感性眼炎を合併した稀な症例では、脈絡膜の完全消失が報告されている。3)
眼軸延長が病的近視の根本的な原因である。眼軸が伸展するにつれて網膜・脈絡膜・強膜が引き伸ばされ、菲薄化・萎縮・亀裂が生じる。成人でも眼軸延長は継続し、18〜25歳で年間0.1mm程度、25歳以上では年間0.05mm程度の速度で進行する。7)
遺伝的素因:近視の発症・進行に遺伝が大きく関与する。東アジア人での高有病率もこれを示唆する。
環境因子:近業作業・屋外活動の減少が近視進行を促進する。
年齢と眼軸によるリスク上昇:年齢1歳の増加でリスクが8%、眼軸1mmの延長でリスクが70%上昇する。1)
近視度数の増加による合併症リスクを以下に示す。
| 合併症 | 1D増加あたりのリスク増加 |
|---|---|
| 黄斑変性 | 58%増 |
| 開放隅角緑内障 | 20%増 |
| 白内障 | 21%増 |
| 網膜剥離 | 30%増 |
(Bullimore et al. 2021より5))
近視1D増加により黄斑変性・緑内障・白内障・網膜剥離のリスクが各々有意に増大する。5) 近視進行抑制のNNTは4.1〜6.8と試算されており、進行抑制が将来の合併症予防に直結する。5)
META-PM分類とATN分類を組み合わせることで病変の種類・重症度・活動性を体系的に評価できる。1) ぶどう腫の存在は病的近視の陽性予測値89.8%を示す重要な診断指標である。1)
抗VEGF薬硝子体内注射が第一選択である。RADIANCEおよびMYRROR試験においてラニビズマブ・アフリベルセプトの有効性が確認されており、1〜3回の投与で高い奏効率が得られる。脈絡膜新生血管の活動性(OCTでの網膜下液・脈絡膜新生血管の拡大)を指標にPRN(必要時投与)方式で管理する。
| 薬剤 | 用法 | 特徴 |
|---|---|---|
| ラニビズマブ | 硝子体内注射 | RADIANCE試験で有効性確認 |
| アフリベルセプト | 硝子体内注射 | MYRROR試験で有効性確認 |
| ベバシズマブ | 硝子体内注射 | オフラベル使用 |
硝子体手術が主たる治療法である。後部硝子体剥離の誘発・内境界膜剥離により牽引を解除する。硝子体手術では27G経結膜無縫合硝子体手術(PPV)が施行される。2) トリアムシノロンアセトニドは硝子体の可視化に有用であり、手術操作を補助する。2) 23Gシステムの使用も選択肢の一つである。2)
抗VEGF薬により多くの場合脈絡膜新生血管は不活化される。しかし長期追跡では活動性脈絡膜新生血管の有病率が15%と報告されており、4) 再活性化の可能性がある。定期的なOCTA・OCT検査による経過観察が必要である。
眼軸延長が進むと後極部の強膜が菲薄化・伸展され、局所的な膨出(ぶどう腫)が形成される。ぶどう腫の形成により網膜・脈絡膜・RPEへの物理的張力が増大し、以下の連鎖が生じる。
欧州1228眼を対象とした長期追跡研究(平均11.5年)では、びまん性萎縮の57%・限局性萎縮の81%が追跡期間中に進行した。4) 活動性脈絡膜新生血管の有病率は15%であり、lacquer cracksとぶどう腫が進行の強力な予測因子であった。4)
黄斑分離症(MF)の機序:ぶどう腫内壁の内方への変形と硝子体の牽引力が協調して網膜層間の分離を引き起こす。Mohd Sobriらは61歳女性の黄斑分離症例において27G 硝子体切除術後に vitreoschisis(硝子体分層)を認め、残存する牽引力が中心窩剥離の一因であったことを報告した。2)
交感性眼炎との合併:病的近視は脈絡膜の高度菲薄化を伴うため、眼手術・外傷を契機に稀に交感性眼炎を発症する。脈絡膜が完全消失した重症例も報告されており、3) 病的近視眼への眼内手術には特段の注意が必要である。
眼軸延長を抑制する目的で、強膜へのコラーゲン架橋を行う研究が進んでいる。リボフラビン・UVA照射や化学的架橋剤(グリセルアルデヒド等)を用いた手法が検討されているが、安全性・有効性の確立には至っていない。
Bullimoreら(2021)は、近視進行を1D抑制することで黄斑変性・緑内障・白内障・網膜剥離リスクが有意に低下することを試算した。5)
NNTは近視関連視覚障害に対して4.1〜6.8と算出された。2050年には世界人口の50%が近視を呈すると予測されており、進行抑制の公衆衛生的意義は大きい。5)
低濃度アトロピン点眼・オルソケラトロジー・多焦点ソフトコンタクトレンズ・赤色光照射が近視進行抑制の主要手段として研究されているが、いずれも長期的な眼底病変予防効果の検証は継続中である。
Carlàら(2025)による欧州1228眼・平均11.5年追跡のコホートは、これまでで最大規模の長期観察データの一つである。4)
追跡中の視力予後については最高矯正視力が最良の予測因子(12.1%の説明力)とされており、1) 進行予測マーカーの同定が今後の課題である。
Wide-field OCTAによるぶどう腫の高精度評価6) など、新たな画像診断技術が病態解明と治療タイミングの最適化に貢献することが期待されている。
小児期の近視進行抑制が将来の合併症リスクを下げる。近視1D増加ごとに黄斑変性・緑内障・白内障・網膜剥離の各リスクが増大することが示されている。5) 眼科での定期受診・屋外活動の確保・必要に応じた低濃度アトロピン点眼やオルソケラトロジーなどの進行抑制療法を検討するとよい。