従来型PRPレーザー
スポットサイズ:200〜500μm
照射時間:0.1〜0.3秒
出力:100〜250mW
総スポット数:1200〜2000発(ETDRSプロトコール: 1200〜1600発)4)
波長:577nm(黄色)が主流。532nm(緑)も使用される。

汎網膜光凝固術(Panretinal Photocoagulation; PRP)は、網膜全周の周辺部にレーザーを照射して意図的に光凝固瘢痕を作成する治療手技である。
1970年代に実施されたDRS(Diabetic Retinopathy Study)で有効性が初めて実証された。DRSでは未治療眼の重症視力低下(SVL: 5/200未満)発生率が16.3%であったのに対し、PRP治療眼では6.4%と大幅に低下し、PRPがSVLリスクを50%以上低減することが確立された。4)
その後のETDRS(Early Treatment Diabetic Retinopathy Study)では、ハイリスクPDRに対するETDRSプロトコール(1200〜1600スポット)が標準化された。4) ETDRSはまた、2型糖尿病患者への早期PRPが5年間でSVLを50%減少させることも示した。4)
適応疾患は以下の通りである。
PRPはレーザーを網膜の周辺部全体に照射する外来治療である。全身麻酔は不要で、散瞳点眼後に接触レンズを用いて施行する。複数回のセッションに分けて行うことが多い。
PRPは治療手技であるため、「症状」は主に術後の副作用・合併症として現れる。
PRP後に生じうる合併症を以下に示す。
**漿液性網膜剥離(SRD)・網膜色素上皮剥離(PED)**はPRP後に一定の頻度で発生する。Gandhiら(2024)は、PDR患者でPRP後にSRDとPEDが出現した症例を報告した。OCT所見では脈絡膜厚(SFCT)がPRP前の225μmから治療後204μmへと変化した。1)
**滲出性網膜剥離(滲出性RD)**はより重篤な合併症である。Videkarら(2024)の報告では、PRPに関連した滲出性RDの発生率は0.07%と低頻度であった。2) しかし脈絡膜肥厚(パキコロイド)を有する眼では発生リスクが有意に上昇する。
黄斑円孔はまれな合併症である。Kumarら(2021)は、PRP施行後に黄斑円孔を発症した61歳女性の症例を報告した。SF6ガスタンポナーデによる硝子体手術を施行し、最終視力は20/200から20/40に改善した。3)
PRPでは周辺網膜を意図的に凝固するため、周辺視野の狭窄は不可避の副作用である。ただし中心視力への影響は通常軽微であり、詳細は「標準的な治療法」の項を参照されたい。
PRPが必要となる主な背景疾患と、PRP後合併症のリスク要因を示す。
PRPの施行判断に必要な検査と、術後モニタリングに用いる検査を示す。
以下の主要検査法の目的をまとめる。
| 検査 | 目的 | タイミング |
|---|---|---|
| 蛍光眼底造影(FA) | 無灌流域・新生血管評価 | 術前・術後 |
| OCT | 黄斑浮腫・SRD・PED評価 | 術前・術後 |
| OCTA | 新生血管・毛細血管脱落評価 | 術前・術後 |
ハイリスクPDR(乳頭新生血管が乳頭面積の1/4以上、または硝子体出血を伴う新生血管)に対しては早急なPRP施行が推奨される。4) FAで広範な無灌流域が確認された場合も適応となる。
従来型PRPレーザー
スポットサイズ:200〜500μm
照射時間:0.1〜0.3秒
出力:100〜250mW
総スポット数:1200〜2000発(ETDRSプロトコール: 1200〜1600発)4)
波長:577nm(黄色)が主流。532nm(緑)も使用される。
PASCALレーザー(パターンスキャン)
スポットサイズ:200〜280μm
照射時間:約0.02秒(マイクロパルス)
出力:300〜400mW
特徴:1回のフットペダル操作で複数スポットを短時間に照射。疼痛軽減・施行時間短縮に有利。
各波長の特性を以下に示す。
| 波長 | 色 | 特徴 |
|---|---|---|
| 532nm | 緑 | 汎用性高い。酸化ヘモグロビンに吸収 |
| 577nm | 黄 | 黄斑部でのキサントフィル吸収少ない |
| 810nm | 近赤外 | 白内障・硝子体出血越しに照射可能 |
Videkarら(2024)の研究では532nmレーザー(出力250〜300mW、照射時間200ms、548〜590スポット)を用いたPRP後の滲出性RD症例が報告されている。2)
**Protocol S(DRCR.net)**は、増殖糖尿病網膜症に対してランベシズマブ(硝子体内注射)がPRPと同等以上の視力成績を示すことを実証した。4) 中心窩に及ぶPDRでは、抗VEGF薬がPRPの代替として選択される場合がある。
Protocol Sでは中心窩に及ぶPDRにおいて抗VEGFがPRPと同等の成績を示したが、抗VEGF薬は継続的な注射が必要であり、治療中断リスクも存在する。4) 一方PRPは1〜数回の治療で長期効果が期待できる。いずれを選択するかは病態・患者背景に応じて判断する。
PRPが新生血管を退縮させる基本メカニズムは以下の通りである。
レーザー光は網膜色素上皮(RPE)と光受容体に吸収され、周辺網膜の外層組織を凝固・破壊する。その結果、以下の連鎖反応が生じる。
Gandhiら(2024)は、PRP後にSRDとPEDが出現した症例において、OCTでSFCTが225μmから204μmへ変化したことを報告した。1) レーザーの熱効果によるRPEの機能障害が、RPEポンプ機能を低下させ、網膜下液の貯留を促すと考えられている。
Videkarら(2024)は、脈絡膜肥厚(>390μm)を有する眼でPRP後に滲出性RDが生じやすい機序を報告した。2) 厚い脈絡膜には拡張した大口径脈絡膜血管(パキ血管)が存在し、PRPのレーザー熱が大量の血液を含むこれらの血管に吸収されることで、局所的な高温と浸透圧変化が生じ、脈絡膜液が網膜下へ移行しやすくなると推察される。
SDMは閾値以下のマイクロパルスレーザーを用い、RPEへの熱損傷を最小限にしながらPRPと同等のVEGF抑制を目指す手法である。光凝固瘢痕を生じないため、従来PRPに伴う周辺視野障害・夜盲を回避できる可能性がある。ただし有効性の確立には更なる大規模試験が必要である。
眼底画像と連動したナビゲーションシステムを用いて照射位置を自動制御する手法である。無灌流域への選択的照射が可能となり、不必要な周辺正常網膜の損傷を減らすことが期待される。
DRCR.net Protocol Sは、PDRに対するランベシズマブ(2mg)のPRPとの非劣性を5年間にわたって示した。4) しかし抗VEGF継続不能例における病勢進行のリスクが課題として残っており、治療選択においてアドヒアランスの評価が不可欠である。
Videkarら(2024)はOCTによる脈絡膜厚測定がPRP後滲出性RDの予測に有用であることを示した。2) 脈絡膜厚 >390μm を閾値としたリスク層別化と、高リスク眼への予防的抗VEGF投与の有効性を評価する前向き試験が期待される。