位置
赤道部の前方約5mm:毛様体扁平部に接する網膜最前縁。
鼻側:角膜輪部から5.5〜6mm。陥凹が広く識別容易。
耳側:角膜輪部から6.5〜7mm。やや後方に位置。

鋸状縁(きょじょうえん)は、毛様体扁平部(後部毛様体)から後方に続く感覚網膜の最前縁である。眼球赤道部から前方約5mmに位置し、幅は約2mmを有する。
毛様体扁平部の単層無色素上皮が多層の感覚網膜へ移行する境界部位であり、その外観は鋸歯状を呈する。鋸歯状の形態は、網膜の突起(projections)と毛様体扁平部の陥凹(bays)が交互に並ぶことで生じる。
鼻側と耳側で位置が異なる。鼻側は角膜輪部から5.5〜6mmで識別しやすく、耳側は6.5〜7mmとやや後方にある。渦静脈から鋸状縁までの領域を周辺部網膜と呼ぶ。
位置
赤道部の前方約5mm:毛様体扁平部に接する網膜最前縁。
鼻側:角膜輪部から5.5〜6mm。陥凹が広く識別容易。
耳側:角膜輪部から6.5〜7mm。やや後方に位置。
構成
鋸歯状の境界:網膜の突起と毛様体扁平部の陥凹が交互に並ぶ。
幅約2mm:無色素上皮から多層感覚網膜への移行帯。
未分化光受容体帯:移行帯幅は約280μmで、外節・内節を欠く未分化光受容体が存在する。
機能的意義
硝子体付着の基点:硝子体基底部が鋸状縁をまたぎ360°強固に付着。
網膜剥離の弱点:未分化光受容体と色素上皮の接触面積が小さく、付着力が低い。
手術基準点:硝子体手術の創口位置を決定する解剖学的基準。
鋸状縁は眼球の内側(眼内)で、毛様体扁平部のすぐ後方、角膜輪部から鼻側で約5.5〜6mm、耳側で約6.5〜7mm後方の位置にある。感覚網膜の最前端にあたり、眼底検査では強膜圧迫を加えながら間接眼底鏡を用いることで確認できる。
鋸状縁は解剖学的構造であり、それ自体は自覚症状を生じない。鋸状縁付近の病変(網膜離断・裂孔・囊胞様変性など)が生じた際に以下の症状が現れる。
鋸状縁の組織学的特徴は以下の通りである。
鋸状縁付近に生じる主な病変とそのリスク要因を以下に示す。
鋸状縁断裂
定義:三日月状の周辺網膜裂孔(網膜離断, retinal dialysis)。硝子体と網膜の付着部が鋸状縁後縁で離断する形態をとる1)。
好発部位:下耳側に多い。鼻側・耳側の非対称性が要因とされる。
原因:多くは外傷に関連する。若年性は両眼性で緩徐に進行する。
巨大裂孔
定義:90°以上の裂孔。鋸状縁から後方に拡大する場合がある。
好発:格子状変性を有する強度近視眼に多い。
硝子体基底部後縁の裂孔:強度近視眼や眼内レンズ(眼内レンズ)眼に特徴的な小裂孔が基底部後縁沿いに生じることがある。
変性・裂孔
囊胞様変性:正常人のほぼ全例に存在する。若年性網膜離断・網膜分離症に関与する。
格子状変性:頻度5〜10%。網膜剥離症例の約40%に格子状変性が存在するが、変性から剥離に至る率は0.3〜0.5%にとどまる。
鋸状縁付近の未分化光受容体は色素上皮との接触面積が小さく、毛細管引力と付着体数が低下している。これが黄斑部より周辺網膜で剥離が生じやすい解剖学的背景となる(病態生理学の項参照)。
鋸状縁断裂(網膜離断)は、硝子体と網膜が強固に付着する鋸状縁後縁が外傷などで引き裂かれた状態である。三日月状の裂孔が形成され、下耳側に好発する1)。外傷に関連する例が多いが、若年性では両眼性・緩徐進行を示すこともある。
鋸状縁およびその周辺病変の観察には、強膜圧迫(強膜インデンテーション)を加えながら間接眼底鏡を用いた周辺部網膜の精密検査が不可欠である。
症候性後部硝子体剥離(PVD)では、初回検査で裂孔を発見した症例の5〜14%に、経過観察中に追加裂孔が生じるとされる1)。そのため初回診察後も一定期間の経過観察が必要である。
周辺部馬蹄形裂孔の光凝固・冷凍凝固では、裂孔を囲む処置が鋸状縁まで届いているかを確認することが重要とされる1)。治療失敗の最も多い原因は、前方境界の処置が不十分であることとされている1)。
液体パーフルオロカーボン(PFCL)を用いた硝子体手術が選択される。PFCLは重比重の液体で剥離した網膜を展開する効果があり、巨大裂孔症例の整復に有用である。
硝子体手術では、トロカール創口を角膜輪部後方に設ける。安全な創口位置の目安は以下の通りである。
| 眼の状態 | 輪部からの距離 |
|---|---|
| 有水晶体眼 | 3.5〜4.0mm |
| 偽水晶体眼・無水晶体眼 | 3.0〜3.5mm |
創口は3時・9時方向を避ける。この位置には長後毛様動脈と神経が走行するため、損傷リスクがある。
硝子体手術の創口(トロカール位置)は鋸状縁の解剖学的位置を基準に決定される。創口が前方すぎると毛様体・水晶体を損傷し、後方すぎると基底部硝子体への操作が不十分となる。鋸状縁の個人差(鼻側・耳側の位置差、水晶体の有無)を理解することが安全な手術に不可欠である。
硝子体基底部は鋸状縁をまたぐ形で前後約6mmの帯状に360°存在する。コラーゲン線維が網膜面に対して垂直方向に走行し、強固な癒着を形成する。この強固な付着部位が牽引力を受けると裂孔形成の基点となる。
鋸状縁と毛様体の位置関係を以下に整理する。
| 構造 | 鋸状縁からの距離 |
|---|---|
| 毛様体ひだ部後縁 | 前方2〜2.5mm |
| 扁平部(前後幅) | 3〜4.5mm |
| 基底部前縁 | 前方5mm |
黄斑部では桿体光受容体が色素上皮と広い表面積で接触し、付着力が強い。一方、鋸状縁付近では未分化光受容体の外節・内節が発達しておらず、色素上皮との接触面積が著しく小さい。その結果、毛細管引力と付着体の数がともに低下し、わずかな牽引力でも網膜剥離が生じやすくなる。
これに加えて、鼻側と耳側の非対称性(耳側が鼻側より後方に位置する)が、下耳側の鋸状縁断裂が多い理由と考えられている。
鋸状縁付近の光受容体は未分化であり、外節・内節を欠くため色素上皮との接触面積が小さい。毛細管引力と付着体数が低下しているため、牽引力に対して弱い部位となっている。また硝子体基底部が鋸状縁をまたいで強固に付着しているため、硝子体牽引の影響を最も受けやすい領域でもある。
25ゲージ・27ゲージを用いた極小切開硝子体手術(minimally invasive vitreous surgery; MIVS)では、トロカールシステムにより創口が小型化・自己閉鎖型となった。これにより毛様体・基底部硝子体への侵襲が軽減され、手術後の炎症・低眼圧のリスクが低下している。
鋸状縁の解剖学的形態(鋸歯状突起の数・形状の個体差)と病理変化の確定的相関は現時点では確立されていない。外傷歴のない両側性網膜離断と鋸状縁の発達異常との関連も、今後の研究課題として残されている。