乳頭・網膜浮腫

視神経乳頭メラノサイトーマ
ひとめでわかるポイント
Section titled “ひとめでわかるポイント”1. 視神経乳頭メラノサイトーマとは
Section titled “1. 視神経乳頭メラノサイトーマとは”視神経乳頭メラノサイトーマ(optic disk melanocytoma; ODM)は、視神経乳頭部のメラノサイトが増殖する良性腫瘍である。篩状板のメラノサイトを起源とし、先天性かつ非遺伝性の疾患と考えられている1)。
1933年にReeseが「視神経乳頭の黒色腫」として報告し、1962年にZimmermanとGarronが良性病変として「メラノサイトーマ」と命名した。ぶどう膜のどこにでも発生しうるが、視神経乳頭に好発する。悪性転化率は約1〜2%ときわめて低い1)。
かつては高度な色素沈着から悪性黒色腫と誤認され、眼球摘出が行われた例もあった。現在はその良性の性質が広く理解され、不必要な外科的介入は減少している1)。
組織病理学的には、大型のメラノソームを含有する多辺形細胞からなる。核小体は目立たず核細胞質比(N/C比)は低い。Melan A陽性、S100陰性の免疫組織化学的プロファイルを示す。
悪性転化率は約1〜2%ときわめて低い1)。ただし、腫瘍壊死や血管閉塞による重篤な視覚障害が生じることがある。重度の視力低下がただちに悪性転化を意味するわけではなく、詳細は「病態生理学・詳細な発症機序」の項で解説する。
2. 主な症状と臨床所見
Section titled “2. 主な症状と臨床所見”大多数の患者は無症状であり、眼底検査で偶発的に発見される。
- 無症状:76%が無症状で発見される。
- 視覚症状あり:約26%で何らかの視覚症状が出現する。
- 光視症・飛蚊症:それぞれ約4%に認められる。
合併症が生じた場合、視力低下や視野障害が明らかになる(詳細は「臨床所見」の項参照)。
片眼性に発生し、検眼鏡で黒褐色〜黒色の色素性腫瘤として観察される。
腫瘍の局在と範囲:
- 乳頭内限局:15%
- 1象限波及:約50%
- 下耳側局在:33%で最多
- 隣接脈絡膜への波及:54%
- 隣接網膜への波及:30%
神経眼科学的所見:
- RAPD(相対的瞳孔求心路欠損):9〜30%に認められる1)
- 視野異常:90%に認められる。盲点拡大や弓状暗点が典型的1)
合併症の頻度:
血管閉塞・出血
網膜内滲出:約12%に認められ、最大16%との報告がある1)。
網膜出血:約5%に認められる。
網膜血管閉塞(CRVO/CRAO):約3%に認められる。血管圧迫による重篤な合併症。
硝子体播種:約4%に認められる。
76%は無症状で視力への影響はない。しかし壊死や血管閉塞などの合併症が生じると、重篤な視力低下を来すことがある1)。RAPDは9〜30%に認められ、視野異常は90%に存在する。
3. 原因とリスク要因
Section titled “3. 原因とリスク要因”ODMは先天性の病変であり、特定の環境要因や後天的な原因は知られていない。
疫学的特徴(診断時):
- 診断年齢:平均50歳(範囲1〜91歳)
- 人種:白人が65%を占める
- 性別:女性が63%を占める
腫瘍の増大と悪性転化リスク:
以下の表にリスク因子をまとめる。
| リスク因子 | 詳細 |
|---|---|
| 腫瘍厚1.5mm超 | 増大リスクの主要因子1) |
| 増大率 | 10〜15%で緩徐な増大1) |
| 悪性転化率 | 約1〜2%1) |
緩徐な増大を示す累積リスクは5年で11%、10年で32%、20年で38%と報告されている1)。腫瘍増大自体は悪性転化を意味しない(「病態生理学・詳細な発症機序」の項参照)。
4. 診断と検査方法
Section titled “4. 診断と検査方法”診断は眼底検査における典型的所見に基づく。各種画像検査により腫瘍の性状評価と悪性黒色腫との鑑別を行う。
眼底検査・眼底写真
Section titled “眼底検査・眼底写真”黒褐色の色素性腫瘤が視神経乳頭に付着する所見が特徴的である。定期的なカラー眼底写真の撮影により増大の有無を判定する。
OCT・OCT-A
OCT:結節状隆起と後方シャドーイングが特徴的所見。高反射ドットを認めることがある1)。腫瘍による浮腫評価にも有用で、症例報告では1年後の中心網膜厚は158μmであった1)。
OCT-A:造影剤不要で腫瘍表面の毛細血管を可視化。血管欠如領域と視野欠損の対応関係を評価可能。非侵襲的な悪性黒色腫鑑別に有用な新規技術。
超音波Bスキャン
Bモード超音波:ドーム状の形態と高い内部反射が良性の示唆所見。Khadkaらの症例では厚さ1.68mm、横径3.01mmを計測1)。
蛍光眼底造影(FA):びまん性低蛍光が特徴。同症例では遅延動脈充填(32秒)を認め、血管閉塞の確認に有用1)。
自発蛍光(FAF):
- 短波長自発蛍光(SWAF):低自発蛍光を示す
- 近赤外線自発蛍光(IRAF):高自発蛍光を示す
CT・MRI: Khadkaらの症例ではCTで0.1×0.3cmの高密度病変を確認。MRIでは病変の同定は困難であった1)。
最も重要な鑑別疾患は脈絡膜悪性黒色腫である。
| 特徴 | メラノサイトーマ | 悪性黒色腫 |
|---|---|---|
| 色調 | 黒褐色・均質 | 灰色〜黄白色・不均質 |
| 超音波内部反射 | 高い(良性示唆) | 低い |
| 眼底自発蛍光 | SWAF低蛍光 | 多様 |
細針吸引生検(FNAB)
Section titled “細針吸引生検(FNAB)”感度84%、特異度98%と高い診断精度を持つ1)。腫瘍が小さい場合や侵襲を回避する場合には施行しないこともある。
通常のOCTは網膜の断層構造を画像化するが、OCT-Aは造影剤を使わずに血流情報をとらえ、血管構造を可視化する技術である。視神経乳頭メラノサイトーマでは腫瘍表面の毛細血管や血管欠如領域の評価が可能で、悪性黒色腫との非侵襲的な鑑別に活用が期待される。
5. 標準的な治療法
Section titled “5. 標準的な治療法”ODMは良性腫瘍であり、基本的に治療は不要である。定期的な経過観察が標準的な管理方針となる。
管理の選択肢:
- 経過観察:大多数の症例の第一選択1)
- 細針吸引生検(FNAB):悪性転化疑い時の組織診断目的1)
- 眼球摘出:悪性転化が確認された場合または患者の希望による1)
Khadkaらの症例では、腫瘍が小さくFNABは回避され、眼球摘出は患者が拒否したため経過観察が選択された1)。良性の性質が広く認識されるようになり、不必要な眼球摘出は著しく減少している1)。
推奨される経過観察方法:
- カラー眼底写真+OCTによる年1回の定期検査
- 視野検査の定期施行
- 自覚症状(視力低下、視野変化)出現時は追加精査
視神経乳頭メラノサイトーマは良性腫瘍であり、大多数の症例では治療は不要である。年1回のカラー眼底写真とOCTによる定期観察が推奨される。ただし悪性転化率が約1〜2%あるため、定期受診を継続することが重要である1)。
6. 病態生理学・詳細な発症機序
Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”ODMの起源は篩状板のメラノサイトであると考えられている1)。
視機能障害の機序:
- 神経線維圧迫:腫瘍による直接的な視神経線維への圧迫
- 血管閉塞と壊死:腫瘍→近傍血管閉塞→壊死→低酸素による網膜症1)
- RAPD の機序:軸索腫脹、乳頭圧迫、網膜微小循環変化の3要因に起因する1)
重要な臨床的事実として、神経線維圧迫や血管閉塞の程度は腫瘍サイズとは必ずしも相関しない1)。このため、腫瘍が増大しても重篤な合併症を来さない例がある一方、小さな腫瘍でも血管閉塞を合併する例が存在する。
腫瘍増大と悪性転化の関係:
- 腫瘍増大自体は悪性転化を意味しない1)
- 壊死変化を伴う腫瘍では急速な外見変化(色の変化・縮小)が生じることがある
- CRAOを合併するODMの症例は文献上数例にとどまる1)
7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)
Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”OCT-Aによる腫瘍血管評価
Section titled “OCT-Aによる腫瘍血管評価”OCT-Aは視神経乳頭メラノサイトーマの評価における新規技術として注目されている。腫瘍表面の毛細血管ネットワークを非侵襲的に可視化し、血管欠如領域と視野欠損の空間的対応関係を評価できることが報告されている。
従来の蛍光眼底造影(FA)に代わる非侵襲的評価法として、悪性黒色腫との鑑別精度向上への貢献が期待される。
掃引光源OCT(SS-OCT)の応用
Section titled “掃引光源OCT(SS-OCT)の応用”従来のスペクトラルドメインOCTに比べ、より深部組織の評価が可能なSS-OCTの症例報告が蓄積しつつある。腫瘍下方の脈絡膜構造や篩状板の詳細な観察により、腫瘍の起源や進展形式の解明が進むことが期待される。
長期自然経過の解明
Section titled “長期自然経過の解明”腫瘍増大と悪性転化の予測因子について、より大規模な長期コホート研究が必要とされている。腫瘍厚1.5mm超以外の予測因子の同定、OCT-Aパターンと視野予後の関連解析などが今後の課題である。
8. 参考文献
Section titled “8. 参考文献”- Khadka S, Byanju R, Pradhan S. Central retinal artery occlusion in optic disk melanocytoma. Clin Case Rep. 2021;9:e04927.