脈絡網膜炎
限局性白色病巣:網脈絡膜に単発〜多発する黄白色の円形病巣を形成する。後極部に好発し、周囲に出血を伴うことがある。
硝子体病変なし:硝子体への波及を認めない段階。全身抗真菌薬のみで治癒することが多い。
OCT所見:網膜経路では内層限局の高反射腫瘤、脈絡膜経路では網膜下病変を呈する2)。

眼カンジダ症(ocular candidiasis)は、カンジダ血症(candidemia)に合併して発症する眼内感染症である。全身のカンジダ血症から網膜および脈絡膜血管への血行性播種により生じる内因性感染が大半を占める。外傷や手術による外因性感染は北米・欧州では稀であるが、熱帯地域ではより多い。
起因菌のほとんどは Candida albicans である。C. glabrata、C. parapsilosis、C. tropicalis、C. krusei など非アルビカンス種も原因となる。カンジダ血症患者における非アルビカンス種の割合は54.4%と過半数を占めるが、眼カンジダ症の発症リスクが最も高いのは C. albicans 感染である。
Breazzanoらの38研究・7,472人を対象としたレビューでは、カンジダ血症後の眼科スクリーニングで9.2%に脈絡網膜病変が、1.6%に眼内炎が認められた。硝子体病変を必須とする分類体系が確立された1994年以降の眼内炎発生率は0.9〜1.2%に低下している。アジア諸国ではカンジダ眼内炎の有病率が欧米の約2.5倍高い(3.6%対1.4%)。内因性真菌性眼内炎の30%は両眼に発症する。
米国感染症学会(IDSA)はカンジダ血液培養陽性全例に対するルーチンの眼科スクリーニングを推奨している。眼カンジダ症が無症候性でも眼底検査によって発見される場合があり1)、最初の血液培養陽性から7日以上経過した検査で眼病変の検出率が高いとされる。
IDSAはカンジダ血液培養陽性の全例に対して眼科スクリーニングを推奨している。眼カンジダ症は無症候性のまま進行しうるため1)、自覚症状がなくても散瞳下眼底検査を受けることが重要である。
真菌血症に引き続いて発症するため、全身的な発熱が先行することが多い。飛蚊症、IVH(中心静脈栄養)の既往、発熱の3徴がそろえば真菌性眼内炎を強く疑う。
眼カンジダ症は細菌性眼内炎と異なり、日〜週単位で比較的緩徐に進行する。初期像や進展過程を観察することが可能である。臨床的にカンジダ脈絡網膜炎とカンジダ眼内炎に大別される。
脈絡網膜炎
限局性白色病巣:網脈絡膜に単発〜多発する黄白色の円形病巣を形成する。後極部に好発し、周囲に出血を伴うことがある。
硝子体病変なし:硝子体への波及を認めない段階。全身抗真菌薬のみで治癒することが多い。
OCT所見:網膜経路では内層限局の高反射腫瘤、脈絡膜経路では網膜下病変を呈する2)。
眼内炎
硝子体炎:硝子体混濁が進行し、羽毛状の fungus ball(真菌球)を形成する。
毛玉状・真珠の首飾り状混濁:“fluff balls”や”string of pearls”と表現される特徴的な硝子体所見を呈する4)。
前房炎症:フィブリン析出や前房蓄膿を伴いうる。進行例では豚脂様角膜後面沈着物がみられる。
病変が長期化すると、渗出性肉芽腫が硝子体内へ突出し、増殖膜を形成して牽引性網膜剥離に至る。虹彩ルベオシスや続発緑内障を併発することもある。
カンジダ血症の原因となる全身性の危険因子と、眼への転移を促進する局所因子が複合的に関与する。
カンジダ血症および眼カンジダ症に関連する主な危険因子を以下に示す。
| 分類 | 主な危険因子 |
|---|---|
| 医原性 | IVH、中心静脈カテーテル、腹部手術、尿管カテーテル |
| 薬剤性 | 免疫抑制薬、広域抗菌薬、ステロイド長期投与 |
| 基礎疾患 | 糖尿病、悪性腫瘍、AIDS、臓器移植後 |
眼カンジダ症の発症リスクを高める因子として、C. albicans 感染、中心静脈栄養の使用、持続的なカンジダ血症、発症前2週間以内の好中球減少症が報告されている。
近年、COVID-19重症患者における眼カンジダ症の増加が報告されている。長期のステロイド投与と免疫抑制状態が日和見感染を惹起する3)4)。COVID-19パンデミック下のICU環境では、カンジダ血症の発生が約5倍に増加したとの報告もある3)。
腎移植においては、臓器保存液のカンジダ汚染が感染源となることがある。その発生率は0.86〜14.4%と報告されている1)。
長期の高用量ステロイド投与や中心静脈カテーテル留置、人工呼吸管理を受けたCOVID-19重症患者ではカンジダ血症のリスクが上昇し、眼カンジダ症を合併する症例が報告されている3)4)。退院後も飛蚊症や霧視が出現した場合は速やかに眼科を受診すべきである。
眼カンジダ症の診断は臨床的に行われ、患者の病歴・リスク因子・眼底所見から総合的に判断する。易感染性宿主となりうる危険因子の存在が診断の重要な手がかりとなる。
眼カンジダ症の診断分類は以下の通りである2)。
| 分類 | 定義 |
|---|---|
| 確定例(proven) | 眼底所見+硝子体培養陽性 |
| 疑い例(probable) | 典型的眼底所見+全身性カンジダ症既知 |
脈絡網膜炎は深部の限局性白色病巣として、眼内炎は硝子体炎を伴う毛玉状・真珠の首飾り状混濁として臨床的に診断される。
細菌性眼内炎、眼トキソプラズマ症、サルコイドーシス、眼内悪性リンパ腫などの仮面症候群が挙げられる。糖尿病網膜症、高血圧網膜症、血液悪性腫瘍に伴うロート斑との鑑別も必要である。硝子体混濁が強くなるとこれらの鑑別が困難となる。
治療の原則は、感染源の除去と適切な抗真菌薬の全身投与である。眼病変の程度に応じて眼局所療法を追加する。
IVHが感染源となる場合はカテーテルの早急な抜去が必要である。感染源の持続は眼病変の遷延化を招く1)。
日本ではカンジダ眼内炎の第一選択薬としてトリアゾール系抗真菌薬であるフルコナゾール(ジフルカン®)の静脈注射を選択する。フルコナゾールは水溶性で前房水や硝子体腔への移行が良好であり、酵母菌、特に C. albicans に有効である。
抗真菌薬は網膜病変が瘢痕化するまで継続が必要であり、通常3週〜3ヶ月間投与する。全身治療開始1〜2週間程度で網膜の浸潤巣は徐々に縮小し始めるが、内服に変更後も病巣が完全に瘢痕化するまで治療を継続する。
IDSAガイドラインでは、カンジダ血症を伴う患者に対してエキノキャンディン系(ミカファンギン等)の初期投与を推奨しているが、エキノキャンディン系は眼内移行が不良であるため、眼カンジダ症を合併した場合はフルコナゾールまたはボリコナゾールへの変更が必要である2)。
病巣が黄斑部へ及ぶ場合、アムホテリシンB(ファンギゾン®)5μg/0.1mLの硝子体内投与が有効とされる(保険適用外)。ボリコナゾール100μg/0.1mLの硝子体内投与も選択肢となる3)。
Sakaiら(2021)は、C. glabrata 眼内炎に対してリポソーマルアムホテリシンB(L-AMB)5〜10μg/0.1mLの硝子体内投与を計9回行い、硝子体炎の改善と脈絡網膜病巣の消退を得たことを報告した2)。L-AMBは従来のアムホテリシンBデオキシコール酸塩と比較して網膜毒性が少ないとされる。
全身治療に反応しない場合や、すでに眼内増殖性変化が進行している場合は硝子体手術を行う。硝子体手術中の灌流液中のフルコナゾール濃度を10〜20μg/mLに調製する(保険適用外)。重度の硝子体炎では、感染負荷の軽減と真菌膿瘍の除去を目的として早期の硝子体手術が望ましい。
カンジダによる真菌性眼内炎では、早期に適切な治療を行えば視力予後は比較的良好である。ただし白色病巣が黄斑部に生じた場合は視力低下の原因となる。進行例では牽引性網膜剥離や続発緑内障に至ることがあり、治療開始の遅れが予後を悪化させる。
眼カンジダ症の大半は内因性感染、すなわち他臓器の感染巣からの血行性転移による。カンジダ血症に伴い、血流豊富な脈絡膜や虹彩毛様体を介して真菌が眼内に到達する。
カンジダの眼内播種には2つの経路が提唱されている2)。
脈絡膜に真菌が到達すると、脈絡膜から網膜に向かい渗出性肉芽腫性病変を形成する。眼底後極部を中心に小円形白色病巣と小出血斑がみられ、次第に多発性となり硝子体混濁を伴ってくる。急速に進行する細菌性眼内炎とは異なり、眼底に明瞭な病巣を形成して日〜週単位で比較的ゆっくりと進行する。
後期には硝子体混濁が進行し、羽毛状のfungus ball(真菌球)が出現する。さらに渗出性肉芽腫が硝子体内へ突出し、増殖膜を形成して牽引性網膜剥離に至る。同時に前房内でも炎症細胞が増加し、フィブリン析出や虹彩後癒着がみられ、虹彩ルベオシスや続発緑内障へと進行しうる。
従来のアムホテリシンBデオキシコール酸塩(AMB-D)は網膜毒性が懸念される。リポソーマルアムホテリシンB(L-AMB)はリポソーム二重膜にAMBが挿入された製剤であり、ヒト細胞への毒性を軽減しつつ抗真菌活性を保持する。
Sakaiら(2021)は、C. glabrata 眼内炎に対しL-AMB 5〜10μg/0.1mLの硝子体内投与を計9回実施し、視力20/16を維持しつつ脈絡網膜病巣の消退を得た2)。ウサギを用いた動物実験では、AMB-Dで約1/3に組織学的網膜障害が認められたのに対し、L-AMBでは障害を認めなかったと報告されている。
COVID-19パンデミックに伴い、ICU長期入院・人工呼吸管理・高用量ステロイド投与を背景としたカンジダ眼内炎の報告が増加している。
Kaluarachchiら(2022)は、COVID-19肺炎の治療後に発症したカンジダ眼内炎にサイトメガロウイルス感染を合併した症例を報告した3)。診断的硝子体手術と硝子体内ボリコナゾール投与、リポソーマルアムホテリシンB静注により視力は手動弁から6/18に改善した。
Fossataroら(2023)は、COVID-19 ARDS後に発症した両眼性カンジダ眼内炎の症例を報告した4)。パンデミック下で硝子体手術が施行困難であったため、臨床所見とマルチモーダルイメージング(SD-OCT、FA、ICGA)による推定診断でリポソーマルアムホテリシンB静注を開始し、3ヶ月後に瘢痕化を得た。
SD-OCTにおける”rain-cloud sign”(全層性高反射浸潤巣)は、カンジダ眼内炎に示唆的な所見として注目されている4)。培養・生検が困難な状況下でも、FA・ICGA・OCTを組み合わせたマルチモーダルイメージングが診断の一助となる可能性が示されている。