CNV関連
加齢黄斑変性:SMHの最多原因。1型(RPE下)、2型(網膜下)、3型(RAP病変)のいずれでも生じる。
ポリープ状脈絡膜血管症:nAMDの亜型で、SMH頻度が高い8)。
強度近視:近視性脈絡膜新生血管から出血を生じる。範囲は限局的なことが多い。
網膜色素線条:ブルッフ膜の裂隙から脈絡膜新生血管が発生する。

黄斑下出血(submacular hemorrhage; SMH)は、脈絡膜または網膜循環に由来する血液が神経感覚網膜と網膜色素上皮(RPE)の間に貯留した状態である。黄斑部に及ぶ網膜下出血を特にSMHと呼ぶ。
最も多い原因は滲出型加齢黄斑変性(nAMD)に伴う脈絡膜新生血管である5)。nAMDにおける網膜下出血は比較的よくみられる所見であり、活動性の脈絡膜新生血管やポリープ状脈絡膜血管症(PCV)の徴候とされる10)11)。ポリープ状脈絡膜血管症はnAMDの亜型に分類され、SMHの発生頻度が典型的nAMDより高い8)。
その他の原因として、外傷(脈絡膜破裂を伴うことが多い)2)、網膜細動脈瘤の破裂、強度近視、網膜色素線条、凝固異常、網膜中心静脈閉塞症、糖尿病網膜症などがある。
黄斑部出血の臨床像として、網膜下出血と色素上皮下出血は区別が困難な場合がある。一般的に色素上皮下出血のほうが色調が暗い。OCT所見はこれらの鑑別に有用である。
黄斑外の出血は視力に影響しにくいが、黄斑部の網膜下出血は凝血する前であればガス移動術や硝子体手術により除去が可能であり、視力改善が期待できる12)。凝血している場合は組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)の併用が必要となる12)。
出血のサイズ・厚さ・原因によって異なる。小さな出血は抗VEGF療法単独や経過観察で改善する場合がある6)。大きく厚い出血は手術的介入が必要になることが多い。詳細は「標準的な治療法」の項を参照。
SMHの発症は通常急激である。
nAMD患者では急激な視力悪化として自覚される1)。片眼のみの場合は発見が遅れることもある。
眼底検査では黄斑部に暗赤色の出血塊を認める。出血が新鮮であれば鮮紅色、陳旧化すると黄白色(脱ヘモグロビン化)を呈する8)。
OCTは出血の厚さ・範囲の定量的評価にも有用であり、100 μm超の厚さは手術適応の一つの基準とされる5)。
一般的に色素上皮下出血は網膜下出血より暗い色調を呈する。OCTでは両者の存在する層が異なるため鑑別に有用である。ただし網膜下出血があるとその外層側が陰になり、色素上皮下出血が隠される可能性がある。
SMHの原因疾患は多岐にわたる。
CNV関連
加齢黄斑変性:SMHの最多原因。1型(RPE下)、2型(網膜下)、3型(RAP病変)のいずれでも生じる。
ポリープ状脈絡膜血管症:nAMDの亜型で、SMH頻度が高い8)。
強度近視:近視性脈絡膜新生血管から出血を生じる。範囲は限局的なことが多い。
網膜色素線条:ブルッフ膜の裂隙から脈絡膜新生血管が発生する。
その他
網膜細動脈瘤:破裂により多層性出血を生じる。網膜前・網膜内・網膜下に及ぶ。
外傷:脈絡膜破裂に伴うことが多い2)。
凝固異常:血液凝固障害や抗凝固薬使用で出血傾向が亢進する1)。
その他:鎌状赤血球症、壊死性腫瘍、視神経乳頭ドルーゼン、網膜中心静脈閉塞症など。
nAMDに伴うSMH患者の多くが抗凝固薬・抗血小板薬を内服している。
Weberら(2023)は手術を要したnAMD関連SMH患者115例を後方視的に解析した1)。72.2%が抗凝固薬または抗血小板薬を内服しており、内服群の出血面積(平均35.92 mm²)は非内服群(平均21.91 mm²)より有意に大きかった(p=0.001)。ビタミンK拮抗薬(VKA)内服群はDOAC内服群より出血面積が大きく(63.70 mm² vs 31.76 mm²; p=0.005)、視力予後も不良であった。
抗凝固薬の適応は循環器内科医と連携して慎重に評価すべきである1)。
SMHの診断は眼底検査とOCTを中心に行う。原因疾患の特定が治療方針の決定に不可欠である。
細隙灯顕微鏡・倒像検眼鏡による観察が基本となる。暗赤色の黄斑下出血を確認し、出血のサイズ・厚さ・新鮮度を評価する。出血が残存している場合は原因疾患の鑑別が困難なことが多い。
OCTはSMHの診断と管理において極めて重要である10)11)。
SD-OCTやSS-OCTなど新世代の機種が推奨される10)。術中OCTは網膜下注入の正確性と安全性を向上させる5)。
フルオレセイン蛍光造影(FA)およびインドシアニングリーン蛍光造影(ICGA)は脈絡膜新生血管・ポリープ状脈絡膜血管症の検出に有用である。ICGAはポリープ状脈絡膜血管症の分枝血管網(BVN)とポリープ状病巣の同定に特に有効であるが、出血による遮蔽で所見が不明瞭な場合もある8)。
| 検査法 | 主な役割 |
|---|---|
| OCT | 出血の厚さ・範囲の定量評価 |
| FA/ICGA | 脈絡膜新生血管・ポリープ状脈絡膜血管症の検出 |
| 超音波Bモード | 眼底透見不能時の網膜剥離除外 |
SMHの治療は出血のサイズ・厚さ・持続期間、原因疾患、および患者の全身状態に応じて個別化する5)。確立されたガイドラインは存在せず、エビデンスの多くは症例集積やレトロスペクティブ研究に基づく。
治療介入の時期は視力予後に大きく影響する。動物実験では24時間以内に不可逆的な視細胞障害が開始することが示されている。臨床的には発症7〜14日以内の介入が推奨され、14日を超えると血塊の器質化と視細胞喪失のため視力回復が制限される5)。
外傷性SMHでは、発症30日以内の気体移動術が最適な移動効果と視力改善をもたらすとされる5)。Mottaら(2023)は受傷48時間以内に硝子体内tPA 0.25 μg+C₃F₈ 0.3 mLを投与し、3ヶ月後に6/5(1.2相当)の完全視力回復を達成した2)。
薄い出血や中心窩外の出血は抗VEGF硝子体内注射単独で管理可能である10)11)。
Iyerら(2021)はnAMD関連の大きく厚いSMH症例で、抗VEGF単独療法により視力20/400→20/30への改善が得られ、10年間安定したことを報告した6)。POHS関連SMHの別の症例では、経過観察と間欠的抗VEGF療法で30年後も視力20/20を維持した6)。
CATT試験のサブ解析では、病変の50%以上が出血で占められたnAMD患者でも、抗VEGF単独療法で血液の少ない患者と同等の視力・形態改善が得られた6)。
膨張性ガス(SF₆またはC₃F₈)を硝子体内に注入し、腹臥位により出血を中心窩から移動させる方法である5)。
大きなSMHや厚い出血に対しては硝子体切除術が行われる5)。
Gabrielleら(2023)のランダム化比較試験(90眼)では、硝子体切除術+網膜下tPA+抗VEGF群と気体移動術+硝子体内tPA+抗VEGF群で、6ヶ月時の視力改善は同等であった(硝子体手術群+16.8文字 vs PD群+16.4文字)5)。ただし硝子体切除術群は再出血率が低かった(5% vs 15.8%)。
日本では黄斑下血腫の移動には硝子体内気体注入術または硝子体切除術が行われる12)。抗VEGF薬硝子体内注射やtPA(適応外使用)の併用もあるが、適応についてはさらなる議論が必要とされている12)。
網膜細動脈瘤による中心窩下血腫に対しては、可及的速やかな血腫除去が視力回復に重要であり、硝子体内ガス注入(SF₆またはC₃F₈を0.2〜0.8 mL)と1〜2週間の腹臥位、または硝子体手術による除去が行われる。一過性高眼圧に対しては前房穿刺やグリセオール®点滴を行う。後部硝子体剥離未完成眼ではガス注入により網膜裂孔・網膜剥離・硝子体出血の合併症リスクがある。
色素上皮下出血はガスタンポナーデでは移動しにくく、硝子体手術でも除去困難であるため、原因に対する治療で更なる出血を抑制するのが現実的な選択肢となることが多い。
発症14日を超えると血塊が器質化し、視細胞の不可逆的損傷が進行するため、視力回復が制限される5)。ただし陳旧例でも網膜下内視鏡手術8)や網膜切除術+RPEパッチ移植5)で一定の機能改善が得られた報告がある。
SMHによる網膜障害は複数の機序が関与する。動物実験から以下の3つの主要な障害機序が明らかにされている。
溶血した赤血球からヘモジデリンが遊離し、フェントン反応を介して活性酸素種を産生する。これが視細胞に酸化ストレスとアポトーシスを惹起する7)。鉄の最終代謝産物であるフェリチンは網膜毒性を持ち、視細胞および色素上皮の破壊を進行させる5)。
RPEと神経感覚網膜の間に介在する血塊が、双方向の栄養交換を遮断する。RPEから視細胞への栄養供給が途絶し、視細胞の代謝障害と変性が進行する7)。
フィブリン塊の収縮が視細胞外節に剪断力を加え、外節の剥離と変性を引き起こす。
Glatt & Machemer(1982)のウサギモデルでは、網膜下自己血注入後1時間で視細胞浮腫が出現し、24時間で不可逆的視細胞損傷が認められた。7日後には外顆粒層の重度核溶解が生じた。Toth ら(1991)のネコモデルでは、25分後にフィブリンと視細胞外節の密な嵌合が確認された6)。
これらの障害は発症24時間以内に開始し、7日以内に外層網膜の著しい破壊に至る8)。早期介入の根拠はこれらの実験的知見に基づいている。
ただし臨床的には、全ての症例で不可逆的障害に至るわけではない。出血の厚さが薄い場合や脈絡膜新生血管が中心窩から離れている場合には、抗VEGF療法のみで視力が回復することもある6)。視力予後は脈絡膜新生血管の存在、出血の厚さとサイズ、原疾患がnAMDであるかどうかに大きく依存する。
汎ヨーロッパ第III相ランダム化比較試験であり、nAMDに関連する最近の中心窩SMHを対象に、標準的抗VEGF療法と硝子体手術+網膜下tPA+ガスタンポナーデ+抗VEGF併用療法を比較する9)。SMH管理における大規模前向き研究の欠如を補う試験として結果が注目されている。
Chauhanら(2024)は外傷性の広範SMH(ほぼ全周の出血性網膜剥離)に対し、従来の安全用量(25〜50 μg)を超える60 μgのtPAを23Gソフトチップで2箇所に網膜下注入した3)。術後1ヶ月で視力は指数弁から20/80へ、シリコーンオイル除去後は20/60へ改善した。網膜毒性の徴候は認められなかった。
Yokoyamaら(2022)はポリープ状脈絡膜血管症による陳旧性SMH(発症3週間以上経過)に対し、網膜下内視鏡手術(SES)を施行した8)。25G 3ポートを強膜から網膜下腔に挿入し、内視鏡下で直接SMHを除去し、ポリープ状脈絡膜血管症病変(ポリープ・BVN)を凝固した。SMHは完全消失し、黄斑の網膜感度が改善した。術後2年間抗VEGF療法は不要であった。内視鏡下でポリープとBVNがRPE内に存在することが直接確認された。
Pappasら(2021)は泡沫進化理論と二相吸収の原理を応用し、硝子体手術中に網膜下に微小空気泡を複数注入してtPAとともにSMHを移動させる新技術を報告した7)。72歳男性のnAMD関連SMH(3.5乳頭径)に対し、2週間後に出血の90%以上が消失し、5ヶ月後に視力は光覚弁から20/70へ改善した。
Iftikharら(2025)は単眼nAMD患者の急性大型SMHに対し、硝子体手術+網膜下tPA後、2週間ごとのファリシマブ/アフリベルセプト交互投与を行った4)。5ヶ月後に視力は20/400から20/70へ改善した。難治例における個別化した隔週抗VEGF投与の可能性が示された。