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網膜・硝子体

硝子体腔内注射

硝子体腔内注射は、眼球内部のゼリー状組織(硝子体)で満たされた空間(硝子体腔)に直接薬剤を注入する手技である。

抗VEGF薬の登場以降、実施頻度は著しく増加した。現在では外来で実施可能な、最も頻度の高い眼科手技の一つとなっている。

Q 硝子体腔内注射にはどのような薬剤が使われるのか?
A

最も多く使用されるのは抗VEGF薬(ラニビズマブ・アフリベルセプト・ファリシマブ・ブロルシズマブ・ベバシズマブ)である。そのほか、ステロイド(トリアムシノロン・デキサメタゾン)、抗菌薬(バンコマイシン・セフタジジム)、抗ウイルス薬(ガンシクロビル)、補体阻害薬(ペグセタコプラン等)など、適応疾患に応じた多様な薬剤が使用される。

血管内皮増殖因子(VEGF)を標的とした薬剤が抗VEGF薬の主体を成す。各薬剤の分子形式・用量・特徴は以下の通りである。

ベバシズマブ

一般名:ベバシズマブ(アバスチン®)

用量:1.25 mg/0.05 mL(未熟児網膜症では0.675 mg/0.03 mL)

分子形式:モノクローナル抗体(全長IgG)

備考:硝子体内注射は適応外使用。点滴静注用製剤を無菌的に分注して使用する。

ラニビズマブ

一般名:ラニビズマブ(ルセンティス®)

用量:0.5 mg/0.05 mL(加齢黄斑変性・網膜静脈閉塞症・病的近視に伴う脈絡膜新生血管)、0.3 mg/0.05 mL(糖尿病黄斑浮腫・糖尿病網膜症)

分子形式:Fab断片(抗体の抗原結合部位のみ)

備考:硝子体内での拡散が速い。

アフリベルセプト

一般名:アフリベルセプト(アイリーア®)

用量:標準製剤2.0 mg/0.05 mL、高用量製剤(アイリーア®HD)8 mg/0.07 mL

分子形式:デコイVEGF受容体(融合タンパク)

備考:VEGF-A・VEGF-B・PlGFに結合。

ファリシマブ

一般名:ファリシマブ(バビースモ®)

用量:6 mg/0.05 mL

分子形式:二重特異性抗体

備考:VEGF-AとAng-2(アンジオポエチン-2)の両方を同時に標的とする。

  • トリアムシノロンアセトニド(ケナコルト®、適応外使用):2 mg/0.05 mL または 4 mg/0.1 mL。ぶどう膜炎・嚢胞様黄斑浮腫に使用。
  • デキサメタゾン:0.4 mg/0.1 mL。

抗菌薬・抗ウイルス薬・抗真菌薬

Section titled “抗菌薬・抗ウイルス薬・抗真菌薬”

眼内炎の治療における標準的な投与量は以下の通りである。

  • バンコマイシン:1.0 mg/0.1 mL(眼内炎治療ではバンコマイシン1.0 mg + セフタジジム2.0 mgの併用が基本)1)
  • セフタジジム:2.0〜2.25 mg/0.1 mL
  • アミカシン:0.4 mg/0.1 mL
  • ガンシクロビル:2 mg/0.05 mL(CMV網膜炎導入期は14日間・週2回投与)
  • フォスカルネット:1.2 mg/0.05 mL
  • アムホテリシンB:5 μg/0.1 mL
  • ボリコナゾール:50〜100 μg/0.1 mL
  • クリンダマイシン:1 mg/0.1 mL(トキソプラズマ網脈絡膜炎)
  • メトトレキサート:400 μg/0.1 mL(眼内悪性リンパ腫等)

補体阻害薬(地図状萎縮治療薬)

Section titled “補体阻害薬(地図状萎縮治療薬)”

抗VEGF薬の投与は通常、導入期維持期の2段階からなる。

  • 導入期:疾患活動性を十分に抑制するため、毎月固定で3〜4回投与する(疾患・薬剤により異なる)。

  • 維持期の方法は以下の3種類がある。

    • 固定投与:2か月ごと、3か月ごとなど一定間隔で定期投与
    • 必要時投与(PRN法):毎月受診し、再発所見がある場合のみ注射
    • Treat-and-Extend(TAE法):投与後に活動性所見がなければ次回投与間隔を延長していく方法
  • 病的近視に伴う脈絡膜新生血管では単回投与のみで寛解する場合もある。

刺入部位は眼の状態によって異なる。

眼の状態輪部からの距離
水晶体3〜3.5 mm
有水晶体眼3.5〜4.0 mm
未熟児1.0〜1.5 mm
  • 注射前3日間から抗菌薬点眼を投与する。
  • 注射当日は散瞳して眼底検査を行い、網膜周辺部の状態を確認する。
  • 処置開始前にサージカルタイムアウトを実施する。

3種類の麻酔法が用いられる。

点眼麻酔

薬剤:テトラカイン、プロパラカイン(ベノキシール®)、4%キシロカイン

手順:消毒薬の僚眼飛散を考慮してベノキシールを両眼に投与後、4%キシロカインを注射眼に2回投与する。

特徴:ランダム化比較試験で総合的な疼痛スコアが最低であることが示されている。外来での標準的な麻酔法。

結膜下麻酔

薬剤:エピネフリン非含有の1〜2%リドカイン

特徴:注射時の疼痛は最少だが、結膜下投与そのものの疼痛がある。効果発現は1〜2分。結膜下出血のリスクが高い。

球後麻酔

適応:眼内炎など炎症が強い眼。複数回注射を要する状況。

備考:通常は結膜下麻酔で十分な鎮痛が得られる。リスクが高いため日常的な使用は推奨されない。

感染予防において最重要のステップである。

  • 5%ポビドンヨード溶液の使用が標準的。眼球表面に塗布し、30〜60秒以上の接触時間を確保する。
  • ポビドンヨード(PAヨード)は冷蔵保存したものを室温に戻してから使用する。冷蔵庫から取り出した直後では抗菌効果が低下する。
  • 非密閉容器25℃保存では、有効成分の残存率が5時間で約60%まで低下する。長時間経過したものは使用しない。
  • 不活化には1分程度の接触時間が必要なため、閉瞼させて接触時間を確保する。
  • 術者・介助者・患者全員のマスク着用が推奨される。
  1. 穴あきドレープを貼付し、開瞼器で眼瞼を開大する。
  2. キャリパーで輪部からの刺入距離を計測する(偽水晶体眼3〜3.5 mm、有水晶体眼3.5〜4.0 mm)。
  3. 注射部位は耳上側または耳下側とする。水平直筋の損傷防止のため耳上側・鼻上側が推奨される。
  4. 鑷子で眼球を固定する。注射前に結膜をやや前方へずらすことで、抜針後の針孔がずれて液漏れを防ぐ。
  5. 30G短針を強膜に垂直方向に刺入する。約半分の長さまで挿入する。全挿入は対側網膜を損傷するリスクがある。
  6. 薬液は緩徐に注入する。急速注入は持続的眼圧上昇の原因となる。1)
  7. 抜針後、綿棒で刺入部位を圧迫し硝子体液の漏出を防ぐ。
  8. 2回目以降の注射は前回注射部位を避けて施行する。

眼球固定リングと注射角度ガイドを組み合わせたデバイスを使用すると、以下の利点が得られる。

  • キャリパー・鑷子・顕微鏡が不要となり手技が簡素化される。
  • 5,000件を超える使用実績において水晶体・網膜損傷の報告がない。
  • 注射針を刺入した状態での前房穿刺も可能である。

未熟児では通常手技と異なる点がある。

  • 投与量:0.02 mL
  • 刺入部位:輪部から1.0〜1.5 mm(相対的に水晶体が大きいため)
  • 穿刺方向:下方から刺入する。
  • 麻酔:全身麻酔・気管内挿管下で施行する。
  • 小児用開瞼器を使用し、上級医の指導下で実施する。
  • 術直後に視力(指数弁)を確認する。指数弁が認識できない場合は前房穿刺を行う。
  • 術後3日間は広域抗菌薬の点眼を継続する。
  • 結膜下出血・結膜浮腫は一過性であり治療を要さない。
  • 術後早期の疼痛は消毒薬による角膜上皮障害が原因となることがある。ヒアルロン酸Na点眼が有効である。
Q 注射は痛いのか?
A

点眼麻酔(テトラカイン・4%キシロカイン)を行った上で施行するため、注射中の痛みは軽微である。ランダム化比較試験では点眼麻酔が最も総合的な疼痛スコアを低く保つことが示されている。消毒薬(ポビドンヨード)による刺激感を感じることはあるが、術後早期の疼痛にはヒアルロン酸Na点眼が有効である。

Q 注射前後に抗菌薬点眼は必要か?
A

術前の抗菌薬点眼(3日前からの投与)は一般的に行われている。ただし術後の抗菌薬点眼については、複数の研究で眼内炎発生率を低下させないことが示されている。現時点では術後抗菌薬点眼の有効性に関するエビデンスは一致していないが、感染管理上の観点から術後3日間の投与が一般的に採用されている。

  • 眼圧上昇:注射直後1分以内に注射を受けた全患者(100%)で眼圧上昇が生じる。1) 平均値は28.3〜55.2 mmHgに達する。1) 0.05 mLの注入で眼圧は即座に50 mmHgへ上昇する。1) 注入量が多いほど眼圧変動が大きい。1) 通常は一過性・可逆的であるが、緑内障の既往がある場合は注意が必要である。
  • 結膜下出血:頻度が高いが一過性であり治療を要さない。
  • 眼内炎:最も重篤な合併症。発生率は0.027〜0.065%。1) 発症した場合はバンコマイシン1.0 mg/0.1 mL + セフタジジム2.0 mg/0.1 mLの硝子体内注射による緊急治療を要する。1)
  • 水晶体損傷:針による穿孔で白内障が進行する。刺入距離の遵守で予防する。
  • 網膜裂孔網膜剥離:針による機械的損傷。30G短針の適切な刺入で予防する。
  • 硝子体出血毛様体への損傷が原因となる。
  • 網膜動脈閉塞:急激な眼圧上昇が原因となりうる。動物実験では60 mmHg超で網膜機能・血流の低下が確認されている。1) リスク因子は高齢・高血圧・糖尿病・動脈硬化である。1) バンコマイシン0.1 mL注射後に毛様網膜動脈閉塞症(CLRAO)が生じた症例報告がある。1)
  • ブロルシズマブ特有の合併症:眼内炎症・網膜血管炎・閉塞性網膜血管炎が報告されており、他剤より注意が必要である。

主な合併症の頻度と対処を以下に示す。

合併症頻度対処
眼圧上昇100%(一過性)通常は経過観察
結膜下出血高頻度経過観察
眼内炎0.027〜0.065%緊急硝子体内注射

動脈血栓塞栓症(ATE:脳卒中・心筋梗塞)は理論上のリスクとして存在する。ラニビズマブ・アフリベルセプトの国内外第III相試験ではATEの発現率は0.6〜3%であった。

2021年に発表されたメタアナリシスでは、抗VEGF薬硝子体内注射は主要心血管イベントを増加させないことが示された。3)

網膜静脈閉塞症患者を対象としたRCT 8件・2,320人のメタアナリシスでも心血管リスクの有意な増加は認められなかった。4)

2011年の米国調査では、46%の網膜専門医が両眼同日注射を実施していた。患者の90%以上が同日注射を希望するとされる。

最大規模の研究(5年間・5,890人・101,932件)では眼内炎28例(0.027%)が生じたが、両眼性眼内炎は1例も発生しなかった。両眼同日注射を行う場合は、各眼に別々の器具・薬剤を使用することが必須条件である。

Q 硝子体腔内注射で最も怖い合併症は何か?
A

感染性眼内炎が最も重篤な合併症である。発生率は0.027〜0.065%と低いが、発症した場合には急激な視力低下・眼痛・充血が生じ、緊急の硝子体内抗菌薬注射(バンコマイシン+セフタジジム)が必要となる。発症予防の最重要策は5%ポビドンヨードによる眼球消毒であり、30〜60秒以上の十分な接触時間を確保することが必須である。

Q 両眼同日の注射は安全か?
A

適切な手技を行えば安全である。5年間で10万件以上を対象とした最大規模の研究では、両眼性眼内炎(両眼同時感染)は1例も発生しなかった。ただし両眼同日注射を行う場合は、各眼に別々の器具・薬剤を使用することが絶対条件である。患者の90%以上が同日注射を希望するとされ、通院負担の軽減につながる。

血液網膜関門(blood-retinal barrier; BRB)の破綻は黄斑疾患の主要な病態である。

BRBの安定化と漏出減少において、VEGF-Aが最も重要な分子標的である。5) 開発された抗VEGF分子の形式には、モノクローナル抗体(ベバシズマブ)、Fab断片(ラニビズマブ)、一本鎖抗体断片(ブロルシズマブ)、デコイVEGF受容体(アフリベルセプト)がある。5)

硝子体内注射によりVEGFレベルが低下すると、血管透過性が低下し黄斑浮腫が改善する。5) ただし抗VEGF薬の効果は一時的であるため、定期的な再投与が必要となる。5)

薬液注入により硝子体腔の容積が急増し、急性の眼圧上昇が生じる。注入量依存性が明確であり、0.1 mL(高容量)の注入は0.05 mL(標準容量)より大きな眼圧変動をもたらす。1) このため薬液の緩徐な注入が推奨される。1)

抗VEGF注射による黄斑円孔閉鎖メカニズム

Section titled “抗VEGF注射による黄斑円孔閉鎖メカニズム”

抗VEGF薬は本来黄斑円孔の治療薬ではないが、糖尿病黄斑浮腫患者に対するアフリベルセプト単回注射後に全層黄斑円孔(FTMH)が閉鎖した症例報告がある。2)

推定されるメカニズムとして、黄斑浮腫の軽減により嚢胞状の液体が消退し、垂直方向への牽引力が減少する結果、網膜辺縁の再接着が促進されると考えられる。2) 逆説的に、抗VEGF注射後に新たなFTMH形成が生じる事例も報告されており、詳細な機序は未解明である。2)

導入期に集中投与を行う理由は、疾患活動性を早期に強力に抑制するためである。維持期の間隔延長(TAE法)は、硝子体内の薬剤濃度が治療域を維持できる範囲で再燃を許容しない枠組みを提供する。


6. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “6. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

アフリベルセプト高用量製剤(アイリーア®HD、8 mg/0.07 mL)は、投与間隔の延長(最長5か月)を目指した製剤として一部で導入が始まっている。治療負担の軽減が期待される。

補体阻害薬(地図状萎縮治療)

Section titled “補体阻害薬(地図状萎縮治療)”

ペグセタコプラン(Syfovre®)およびアバシンカプタド ペゴル(Izervay®)は、加齢黄斑変性の地図状萎縮(GA)進行抑制を目的とした補体阻害薬である。月1回または2か月に1回の投与が承認されている(米国)。

ラニビズマブやベバシズマブのバイオシミラーが登場しつつある。コストの大幅な低下により、治療継続率の向上が期待される。

ポビドンヨード硝子体内注射(眼内炎治療)

Section titled “ポビドンヨード硝子体内注射(眼内炎治療)”

1.25%ポビドンヨードの硝子体内注射は、眼内炎治療においてバンコマイシン関連出血性閉塞性網膜血管炎(HORV)のリスクを回避する代替法として研究が進められている。現時点では適応外使用であり、標準治療ではない。1)


  1. Zhao C, Hao M, Zhang H, Zhou W. Intravitreal injection of vancomycin leading to cilioretinal artery occlusion: A case report and literature review. J Int Med Res. 2025;53(6):1-10.

  2. Sharpless M, Hogden M. Full-thickness macular hole closure following a single intravitreal injection of aflibercept in an eye with diabetic macular edema. J Vitreoret Dis. 2022;6(6):457-460.

  3. American Academy of Ophthalmology Retina/Vitreous Panel. Diabetic Retinopathy Preferred Practice Pattern. Ophthalmology. 2024.

  4. American Academy of Ophthalmology Retina/Vitreous Panel. Retinal Vein Occlusions Preferred Practice Pattern. Ophthalmology. 2024.

  5. Duh EJ, et al. Blood-retinal barrier review. Exp Eye Res. 2024.

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