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網膜・硝子体

色素失調症

色素失調症(Incontinentia Pigmenti; IP)は、ブロッホ・スルツバーガー症候群とも呼ばれるX連鎖優性遺伝疾患である。IKBKG遺伝子(Xq28)の変異によってNF-κB経路が障害され、皮膚・眼・中枢神経・歯科・毛髪などの多臓器に病変を来す。

有病率は50,000出生に1人2)、あるいは約40,000新生児に1人4)とされ、発生率は100,000出生に0.7〜1.2人と報告されている5)。患者の97〜98%が女性であり5)、男性は通常X連鎖優性のホモ接合体となり子宮内死亡に至る。出生した男性患者にはモザイシズムが関与していることが多い1)。世界での年間新規例は約27.6例と推定される2)

25〜35%は家族性で、残りは散発性の新規変異による2)。皮膚外所見は全体の70〜80%に生じ4)、眼合併症は約40%(広角FAを用いた詳細な評価では56%)1)4)、中枢神経合併症は30〜50%4)、歯科異常が最多の合併症とされる4)

乳幼児期から成人期にかけて段階的に症状が変化する。

  • 皮膚の水疱・発疹:出生直後から始まる最初の自覚症状。
  • 斜視:患者の18〜33%に認められ、眼合併症の徴候となりうる5)
  • 視力低下:網膜病変の進行や網膜剥離(RD)に伴い生じる。
  • けいれん・発達の問題:中枢神経合併症による。
  • 歯の異常:形態異常・欠損など。
  • 脱毛・爪の変形:毛髪・爪への合併症。

皮膚病変はブラシュコ線(胚発生時の皮膚細胞の移動経路)に沿って分布する。4段階はオーバーラップすることがある2)

第1期:水疱期

時期:出生時〜生後2週間以内に始まり、18か月まで持続可能4)

所見:四肢・体幹に水疱性発疹が出現する。

組織像:好酸球浸潤(30〜60%)を伴う2)

第2期:疣贅期

時期:生後数週〜数か月

所見:水疱部位にいぼ状(疣贅状)病変が形成される。

第3期:色素沈着期

時期:乳幼児期〜学童期

所見:渦巻き状・線状の色素沈着が特徴。患者の98%に発生する2)

第4期:色素脱失期

時期:思春期〜成人期

所見:色素沈着部位が脱色素・萎縮性となる。成人期以降も一部残存する。

眼合併症の頻度と合併症全体像

Section titled “眼合併症の頻度と合併症全体像”

各臓器における合併症の頻度を以下に示す。

合併部位頻度
皮膚(4段階)ほぼ全例
歯科(形成異常)最多合併症4)
36〜77%5)
中枢神経28〜66%5)

眼科的な評価では患者の56%に網膜所見が認められる1)

  • 網膜新生血管(RN):周辺部無血管野を背景に発生する。自然退縮例も報告されており、116日・140日での退縮例がある5)
  • 周辺部網膜無血管野:広角FAで検出される最も重要な所見。
  • 線維増殖膜・牽引性変化:進行例で認められる。
  • 網膜剥離(RD):最重症合併症。Peng et al.の中国シリーズ122眼では27%にRDが生じた1)
  • 斜視視神経乳頭蒼白を伴う眼では外斜視の合併が多い1)
  • 視神経萎縮:患者の約4%に認められる5)

両眼性所見は患者の82%で比較的対称的に分布する1)

Q 皮膚の水疱や色素沈着は自然に治りますか?
A

皮膚病変は4段階を経て変化し、第3期の色素沈着は学童期〜思春期にかけて徐々に薄くなる傾向がある。しかし第4期の色素脱失・萎縮性変化は成人期以降も一部残存することが多い。皮膚外合併症(眼・神経・歯科)は自然軽快しないため、専門的な定期フォローが必要である。

色素失調症はXq28に位置するIKBKG遺伝子(NEMOとも呼ばれる)の変異によって発症する。エキソン4〜10の欠失が全変異の約90%を占める6)。残りは点変異やエキソン重複などの少数変異による。

新規変異の例として、c.832C>T(p.Gln278*、エキソン6)およびc.614_624dup(p.Val209Argfs*76、エキソン5)3)、c.723_724insCAGG(p.A242QfsX15、エキソン5)6)が報告されている。

IKBKG偽遺伝子(IKBKGP1)の存在が遺伝子検査を複雑にする3)6)

同一変異であっても家族内で臨床像が大きく異なる。X染色体不活化(ライオニゼーション)の偏りが表現型多様性の主な原因である3)。変異X染色体が不活化される割合が高い細胞が多い場合、症状が軽微になる。

IKBKG(NEMO)はIKK複合体(NEMO・IKKα・IKKβ)の構成因子であり、NF-κB活性化に不可欠である6)。変異によるNEMO欠損はNF-κB機能を喪失させ、TNF-α誘発アポトーシスへの感受性を高める3)6)。これが皮膚・神経・網膜の広範な組織障害につながる。

  • 家族歴:25〜35%に家族性発症がある2)。母親が罹患している場合、各妊娠で娘の33%が発症するリスクがある。
  • 散発例も多いため、家族歴がなくても発症しうる。
Q 色素失調症の遺伝パターンと男性への影響を教えてください。
A

X連鎖優性遺伝であり、罹患した母親からは各妊娠で娘の約33%・息子の約33%に遺伝するリスクがある。男性はホモ接合体となるため通常は子宮内死亡に至るが、モザイシズムがある場合は生存できる1)2)。F:M比は約37:1と女性に著しく偏る4)

Landy & Donnai基準(1993年)をMinicら(2014年)が改訂した基準が用いられる5)。IP患者の近親者がいる場合といない場合で大基準・小基準の配分が異なる。

典型的な4段階皮膚病変の存在が診断の核心となる。

診断状況主な要件
家族歴あり典型的皮膚病変のいずれか1段階
家族歴なし典型的皮膚病変のいずれか1段階+皮膚外所見
  • 遺伝子検査:GAP-PCR(エキソン4〜10欠失検出)、MLPA(コピー数変化)、全エキソーム解析3)6)。偽遺伝子の影響に留意する。
  • 血液検査:好酸球増多(12〜27%)が特徴的所見5)
  • 皮膚生検:好酸球浸潤とメラニン失禁(表皮から真皮へのメラニン移動)を確認する2)6)
  • 広角蛍光眼底造影(FA):網膜無血管野・新生血管の早期検出に不可欠1)。通常の眼底検査で見落とされる周辺部病変を検出できる。
  • 神経学的評価:脳MRI・発達評価。中枢神経合併症の確認。
  • 歯科的評価:歯の形態異常・欠損の確認。
Q どのような検査で色素失調症と診断されますか?
A

改訂Landy & Donnai基準に基づき、典型的な皮膚病変の存在で臨床診断される5)。確定診断にはGAP-PCRやMLPAによるIKBKG遺伝子検査が有用である3)6)。好酸球増多や皮膚生検の所見も補助的に用いられる。眼科合併症の評価には全身麻酔下での眼底検査(EUA)と広角FAが重要である1)

根治療法は存在せず、合併症ごとの集学的管理が基本となる。

  • 局所ケア:水疱期の二次感染予防が最優先。
  • 局所ステロイド:炎症の軽減に用いる2)
  • タクロリムス外用:免疫調節目的に使用可能2)3)
  • 色素沈着・脱失への特異的治療は現時点で確立されていない。

眼科合併症は視力予後に直結するため、早期発見・早期治療が最重要である。

周辺部網膜無血管野への汎網膜光凝固が標準治療である。

Raiら(2024)の18患者36眼のシリーズでは、治療眼の74%が1回のレーザーセッションのみで十分であった。レーザー治療を受けた眼でRDに進行した例はゼロであった。平均追跡期間は6.9年であった1)

  • 初回EUA(全身麻酔下眼底検査)+広角FAで評価し、必要に応じて即日または早期にレーザーを施行する1)

RDが生じた場合には硝子体手術強膜バックリング術+レーザー+シリコンオイル填充を組み合わせた修復が必要となる1)

オフラベルでの使用が増加しているが、レーザーとの比較研究はまだなく、現時点では研究段階の位置づけである1)

眼科スクリーニングプロトコール

Section titled “眼科スクリーニングプロトコール”

定期的な眼科フォローが視力予後の鍵となる。

  • 推奨スケジュール(Holmstrom):出生直後→生後4か月まで月1回→1歳まで3か月ごと→3歳まで6か月ごと→以降年1回5)
  • Raiら推奨:初回EUA+広角FA→3〜6か月後外来→6〜12か月後FA/EUA→安定なら6か月ごと+1〜2年ごとFA1)
Q 眼の合併症はどのように治療しますか?
A

周辺部網膜無血管野と新生血管に対してレーザー光凝固(PRP)が標準治療である。Raiら(2024)の報告では治療眼の74%が1回のレーザーで十分であり、レーザー治療眼でのRD進行はゼロであった1)。RDが発症した場合は硝子体手術と強膜バックリング術が必要となる1)。早期のスクリーニングと定期フォローが視力を守る最大の鍵である。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

正常ではIKK複合体(NEMO・IKKα・IKKβ)がTNF-αやIL-1などの炎症性サイトカイン刺激によって活性化される6)。活性化されたIKK複合体はIκBをリン酸化して分解し、NF-κBが核内に移行して標的遺伝子を発現させる。NF-κBは炎症・免疫応答・アポトーシス保護に中心的な役割を担う3)

IKBKG変異によってNEMOが欠損または機能不全になると、IKK複合体が構成できず、NF-κB活性化が障害される。その結果、TNF-α誘発アポトーシスへの感受性が著しく高まり、皮膚・神経・網膜の細胞が障害される3)6)

NEMO欠損に起因する炎症応答の異常は以下の連鎖を引き起こす。

  • eotaxin過剰産生→好酸球増多(30〜60%)2)→組織浸潤
  • 好酸球由来のタンパク分解酵素・活性酸素→血管内皮障害
  • 末梢網膜の血管閉塞→虚血性無血管野形成
  • VEGF産生↑→網膜新生血管形成
  • 新生血管の線維増殖→牽引性網膜剥離

各細胞において2本のX染色体のうちどちらが不活化されるかはランダムである。しかしIPでは変異X染色体を持つ細胞がアポトーシスで除去されることが多く、正常X染色体を持つ細胞が優先的に生存する(偏ったX染色体不活化)。この比率は組織・個体によって異なるため、同一変異でも臨床像の幅が大きい3)

7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

新規IKBKG変異の同定と遺伝子診断の進歩

Section titled “新規IKBKG変異の同定と遺伝子診断の進歩”

次世代シーケンシング技術の普及により、これまで見逃されていた新規変異の同定が進んでいる。Chenら(2023)はエキソン6のナンセンス変異(c.832C>T)とエキソン5のフレームシフト変異(c.614_624dup)を同定し3)、Jiangら(2022)はエキソン5の挿入変異(c.723_724insCAGG)を報告した6)。偽遺伝子(IKBKGP1)への対策として、long-read シーケンシングの応用が検討されている。

オフラベルでの抗VEGF注射(ベバシズマブラニビズマブ等)の使用が増加している1)。レーザーとの直接比較研究はまだなく、有効性・安全性の確立が課題である。未熟児網膜症(ROP)での知見をIPに外挿した報告が蓄積されつつある。

プロプラノロールの応用可能性

Section titled “プロプラノロールの応用可能性”

ROPの進行抑制効果が知られているプロプラノロール(0.25〜0.5 mg/kg/6時間)の、IPによる網膜新生血管への応用可能性が論じられている5)。IPとROPは周辺部網膜虚血を共通の病態基盤とするため、β遮断薬によるVEGF産生抑制が治療的に作用する可能性がある。臨床的なエビデンスは現時点では限られる。

広角FAとレーザー治療のエビデンス確立

Section titled “広角FAとレーザー治療のエビデンス確立”

Raiら(2024)の18患者36眼のシリーズは、これまでで比較的大規模な眼科的長期追跡データを提供した1)。EUA+広角FAによるスクリーニング→早期レーザー介入というプロトコールの有効性が示されつつある。今後は多施設共同の前向き研究による標準プロトコールの確立が期待される。


  1. Rai RS, Li AS, Ferrone PJ. Ophthalmologic Presentations of Incontinentia Pigmenti. J VitreoRetinal Dis. 2024;8(2):186-191.
  2. Vaghani UP, Qadree アカントアメーバ角膜炎, Mehta S, et al. Bloch-Sulzberger Syndrome: A Rare X-Linked Dominant Genetic Disorder in a Newborn. Cureus. 2023;15(11):e48823.
  3. Chen H, Ji X, Lai Y, et al. Novel IKBKG gene mutations in incontinentia pigmenti: report of two cases. Front Med. 2023;10:1303590.
  4. Katakam BK, Gurram NR, Chintagunta S, Dhabal A. Incontinentia Pigmenti: A Series of Six Cases with Isolated Cutaneous Involvement. Indian Dermatol Online J. 2024;15:259-262.
  5. Dwiyana RF, Banjarnahor ID, Diana IA, et al. Retinal Neovascularization in Two Patients with Incontinentia Pigmenti. Clin Cosmet Investig Dermatol. 2022;15:803-808.
  6. Jiang J, Zeng J, He Q, et al. NEMO Gene Mutations in Two Chinese Females with Incontinentia Pigmenti. Clin Cosmet Investig Dermatol. 2022;15:815-821.

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