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網膜・硝子体

真菌性眼内炎

真菌性眼内炎は、眼内液(硝子体・前房水)に真菌が感染・増殖する重篤な眼疾患である。感染経路によって内因性(血行性播種)と外因性(手術・外傷・角膜炎からの波及)の2型に分類される。

内因性眼内炎の半数以上が真菌性であり、30%が両眼性となる。外因性は術後・外傷後・角膜炎関連の3カテゴリに細分される7)。細菌性眼内炎と比べ進行は緩徐で、日〜週単位で症状が増悪する。

内因性

感染経路:真菌血症からの血行性播種

主な起因菌:Candida albicans(最多)

頻度:全内因性眼内炎の半数以上

両眼性:約30%に認められる

外因性

感染経路:手術・外傷・角膜炎からの波及

主な起因菌:Aspergillus属(最多)

頻度:片眼性が多い

分類:術後・外傷後・角膜炎関連の3カテゴリ

起因菌はCandida属・Aspergillus属が代表的だが、希少菌種による報告も増加している。Trichosporon属(エキノキャンディン系薬に自然耐性)6)、C. rugosa(非アルビカンスCandidaの0.1%未満)3)、Arthrographis kalrae5)、Neoscytalidium dimidiatum7)などが報告されている。

COVID-19流行後は、ステロイド使用による免疫抑制を契機とした真菌性眼内炎が相次いで報告されている1)9)

Fungal Endophthalmitis image
Fungal Endophthalmitis image
Nianjia Wang; Jiayi Wu; Xintong Xiang; Qian Zhao; Liang Yao. Endogenous Fungal Endophthalmitis Following Eyebrow Tattooing: A Case Report. Cureus.; 17(9):e93246. Published 2025. Figure 2. PMCID: PMC12553984. License: CC BY.
Baseline ophthalmic examination findings of the right eye. (A) Marked ciliary congestion. (B) Slit-lamp examination revealed abundant inflammatory cells and a significant aqueous flare in the anterior chamber. (C) Dense vitreous opacity precluding view of the fundus. (D) Ocular B-scan ultrasound showed extensive vitreous opacities.

飛蚊症・霧視・視力低下が初期症状として多い。進行例では眼痛・充血を伴う。

起因菌によって病状の進行速度が異なる。

  • カンジダ眼内炎:潜行性で、数日〜数週かけて視力が低下する。
  • アスペルギルス眼内炎:より急性の経過をとり、濃密な硝子体混濁を伴って急速に視力が低下する。
  • 外因性(術後・外傷後):亜急性〜慢性で、潜伏期は数週間〜数ヶ月に及ぶことがある。

後極部を中心に境界不明瞭な黄白色綿毛状の脈絡網膜浸潤を呈する。網膜内出血を伴うことがある。

  • fungus ball:羽毛状の特徴的な硝子体混濁。カンジダ眼内炎でみられる。
  • 「真珠の首飾り」様所見:局所硝子体炎症の凝集による数珠状混濁。Klebsiella感染との合併例でも確認されている8)
  • 誤診リスク:術後再発性硝子体炎として真菌を見落としやすい。ステロイド投与で増悪した症例が報告されている4)
  • サルコイドーシスとの類似:硝子体混濁の形態が類似し、早期の最大50%で誤診されることがある2)
Q 真菌性眼内炎の症状は他の眼疾患と見分けがつきにくいか?
A

硝子体混濁の外観はサルコイドーシスなどの非感染性ぶどう膜炎と類似し、早期には最大50%で誤診されるとの報告がある2)。また、術後の再発性硝子体炎として真菌感染を見落とすケースもある4)。詳細は「診断と検査方法」の項を参照。

内因性と外因性でリスク要因は異なる。主なリスク要因を以下に示す。

分類主なリスク要因
内因性中心静脈栄養・免疫抑制剤・ステロイド
内因性臓器移植・好中球減少・悪性腫瘍
内因性糖尿病・長期ICU入院
外因性術中合併症・高齢・ステロイド点眼
外因性角膜潰瘍・コンタクトレンズ不適切使用

COVID-19関連では、長期入院と全身ステロイド投与が免疫抑制をもたらし、真菌性眼内炎を誘発した症例が報告されている1)9)。乳癌化学療法(ドセタキセルによる白血球減少)3)免疫抑制療法メトトレキサート+ステロイド)2)、コンタクトレンズ使用中の衛生管理不良からの角膜炎波及5)IOLへの真菌バイオフィルム定着6)、植物外傷による植物病原真菌の感染7)、糖尿病のコントロール不良4)8)も報告されている。

Q COVID-19後に真菌性眼内炎のリスクはあるか?
A

ある。COVID-19治療に用いられる全身ステロイドや長期ICU入院が免疫抑制をもたらし、内因性真菌性眼内炎の誘因となることが報告されている1)9)。視力変化が生じた場合は速やかに眼科受診が必要である。

眼内液培養がゴールドスタンダードである。硝子体検体は前房水より診断率が高い。培地はサブロー寒天培地を用い、37℃と室温の両条件で最低2週間培養する。

血液培養は内因性症例の1/3〜1/2のみ陽性となるため、陰性でも眼内炎を否定できない。

増菌培養では、硝子体液を血液培養ボトルに接種することで平均1.23日での陽性化が報告されている6)

  • β-Dグルカン:補助診断に用いられるが陰性例がある。C. rugosa症例では血清≦3.2 pg/mL・硝子体≦3.0 pg/mLと低値であった例が報告されている3)
  • PCR(panfungalプライマー/ITS遺伝子):培養陰性でも菌種同定が可能。COVID-19合併例やC. rugosa症例での有用性が報告されている1)3)
  • MALDI-TOF MS:迅速かつ正確な菌種同定を可能にする6)

起因菌が判明したら必ず薬剤感受性試験を実施する。Aspergillus terreusはアムホテリシンBに高率(98%)に耐性を示す(MIC 2 μg/mL)2)。Trichosporon inkinのフルコナゾール感受性(MIC 2.0 μg/mL)が確認された例では、フルコナゾール単独治療が成功している6)

Q 血液検査が陰性でも真菌性眼内炎の可能性はあるか?
A

ある。内因性眼内炎でも血液培養が陽性となるのは1/3〜1/2にとどまる。β-Dグルカンも陰性例がある3)。眼内液の直接培養やPCRが確定診断に不可欠である。

主要な抗真菌薬の特徴を以下に示す。

薬剤投与経路特徴
フルコナゾール静注・経口Candida第一選択
ボリコナゾール静注・経口糸状菌・耐性Candidaに有効
アムホテリシンB静注・硝子体内広域・眼内移行性限定的
  • フルコナゾール:静注100 mg、または経口200〜400 mg/日。カンジダ脈絡網膜炎の第一選択。
  • ボリコナゾール:糸状菌およびフルコナゾール耐性Candidaに有効。内服200 mg/日。硝子体内移行性が良好。
  • アムホテリシンB:広域スペクトルだが眼内移行性は限定的。腎毒性が問題となる2)
  • イサブコナゾール:ボリコナゾール血中濃度が低値の際の代替薬として報告されている1)2)
  • ミカファンギン:A. terreus例で300 mg/日での使用が報告されている2)。ただしTrichosporon属には自然耐性があるため使用しない6)

治療期間は通常4〜6週間。Trichosporon inkinではフルコナゾール16週間投与による制圧成功例がある6)

  • アムホテリシンB:5 μg/0.1 mL2)
  • ボリコナゾール:100 μg。硝子体切除眼での半減期は約8時間(アムホテリシンBは24時間以上)2)

感染源の物理的除去(debulk)、薬剤拡散の促進、検体採取を目的に施行する。以下の場合に適応となる。

  • 硝子体混濁が高度で薬物療法単独では不十分な場合
  • 診断確定のための検体採取が必要な場合
  • 難治性・再発例

IOL関連症例ではIOLおよびバイオフィルムを含む水晶体嚢の除去が重要となる5)6)

カンジダ

脈絡網膜炎のみ:経口アゾール系(フルコナゾール・ボリコナゾール)

硝子体侵犯あり:硝子体切除術+硝子体内抗真菌薬注射を追加

治療期間:原則4〜6週間

アスペルギルス

第一選択:ボリコナゾール(A. terreusはアムホテリシンB耐性率98%)

局所療法:硝子体切除術+硝子体内ボリコナゾール注射

感受性試験:必須(耐性確認のため)

希少菌種

Trichosporon:エキノキャンディン無効。フルコナゾール感受性確認後に使用

その他:MALDI-TOF MSで同定後、薬剤感受性試験に基づいて選択

Q 真菌性眼内炎にステロイドを使ってはいけないか?
A

原則として控えるべきである。ステロイドは真菌の増殖を助長し、病状を急速に悪化させる危険がある。A. terreus眼内炎でステロイド(硝子体内デキサメタゾン)投与後に急激に増悪した例が報告されている2)。ステロイド点眼や硝子体内注射を行う前に真菌性感染を除外することが重要である。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

真菌血症→脈絡膜・網膜への定着→感染病巣形成→硝子体播種→眼内炎→汎ぶどう膜炎全眼球炎、という段階的な進行をたどる。

  • アスペルギルスの血管中心性侵入:血管周囲から侵入し、血管閉塞と出血性病変を形成する。
  • IOLバイオフィルム:真菌が人工水晶体(IOL)に付着・増殖し、免疫回避機構として機能する。これが慢性・再発性感染の原因となる6)

Koideら(2023)はC. rugosa眼内炎の1例を報告し、Virchow-Robin腔を介した硝子体腔への侵入経路を示唆した3)。C. rugosaは非アルビカンスCandidaの中で0.1%未満という希少種だが、免疫抑制状態では侵襲性感染を起こす。

Kaderli Tamerら(2022)はCOVID-19治療中に発症した眼内炎例において、ステロイドが血液網膜関門の破壊を増強し、真菌の眼内侵入を促進したことを報告した9)

Trichosporon属は莢膜多糖(グルクロノキシロマンナン; GXM)抗原を産生し、貪食細胞による食菌を阻害することで侵襲性感染を成立させる6)。この機序がエキノキャンディン系薬の自然耐性とともに、難治化の主因となっている。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

ポビドンヨード灌流硝子体切除術

Section titled “ポビドンヨード灌流硝子体切除術”

難治性真菌性眼内炎に対する新規治療法として、硝子体切除術中に0.025%ポビドンヨードを灌流液として使用する手技が報告されている。

Huangら(2024)はArthrographis kalrae による重症眼内炎の1例に0.025%ポビドンヨード灌流硝子体切除術を施行した5)。従来の抗真菌薬では制御困難だった感染が同手術で制圧された。ポビドンヨードは耐性メカニズムを持たない点で、多剤耐性真菌への対応策として期待される。

  • MALDI-TOF MS:従来の形態学的同定や生化学的同定よりも迅速・正確な菌種同定が可能となっている6)。Trichosporon inkinなど希少菌種の同定に特に有用である。
  • PCR+シークエンシング:培養陰性例でも ITS 遺伝子領域を標的としたpanfungal PCRにより菌種同定が可能である1)3)。COVID-19パンデミック以降、血液培養陰性の内因性眼内炎例での診断に貢献している。

Trichosporon属に対する抗真菌薬のブレークポイント(臨床的折点)はいまだ確立されていない6)。各施設での薬剤感受性試験結果に基づく個別治療が現状であり、エビデンスに基づく治療指針の整備が今後の課題である。


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