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網膜・硝子体

フルオレセイン蛍光眼底造影

1. フルオレセイン蛍光眼底造影とは

Section titled “1. フルオレセイン蛍光眼底造影とは”

フルオレセイン蛍光眼底造影(fluorescein angiography; FA)は、蛍光色素であるフルオレセインナトリウムを静脈内に投与し、専用フィルター付き眼底カメラで眼底を撮影することで、網膜および脈絡膜の血液循環を動態的に画像化する検査法である。網膜循環動態の評価と血液網膜関門の状態把握に優れ、眼底疾患の診断・治療方針決定に広く用いられる。

1961年、Harold R. NovotnyとDavid L. AlvisによりFAの原法が初めて報告された。その後、1967年からJohn Donald McIntyre Gassが各種眼底疾患における体系的なFA所見を発表し、臨床応用が急速に広まった。

フルオレセインナトリウムは青色励起光(波長465〜490 nm)を照射すると黄緑色の蛍光(520〜530 nm)を発する。走査型レーザー検眼鏡(SLO)では488 nmの青色レーザーが使用される。静脈投与されたフルオレセインの約80%は血漿蛋白と結合し、残りの約20%が遊離型(フリー体)として蛍光を発する。正常な血液網膜関門が保たれた状態では、フリー体であっても血管外への漏出は生じない。関門が破綻すると色素が血管外に漏出し、特徴的な過蛍光所見として観察される。

励起光

波長465〜490 nmの青色光を照射する。

SLOでは488 nmのレーザーを使用する。

励起フィルターが不要な波長をカットする。

蛍光放出

発光波長520〜530 nmの黄緑色蛍光を発する。

**遊離型(約20%)**が蛍光の主体である。

**蛋白結合型(約80%)**は蛍光を発しにくい。

バリアフィルター

520 nm以上の蛍光のみを透過させる。

励起光を遮断し、蛍光像を鮮明にする。

血管外漏出が関門破綻の証拠となる。

Q フルオレセイン蛍光眼底造影はいつ頃から行われているのですか?
A

1961年にNovotnyとAlvisが最初に報告した。1967年以降にGassが各種眼底疾患への応用を体系化し、眼底診断の標準的検査法として世界中に普及した。

FAは眼底血管系の可視化に広く応用される。以下に主な適応疾患を示す。

  • 糖尿病網膜症黄斑浮腫(CSME)の治療ガイドおよびレーザー照射部位の決定、原因不明の視力低下評価、新生血管の同定3)
  • 網膜静脈閉塞症:閉塞部位の確認、毛細血管非灌流域の範囲評価、黄斑浮腫の性状確認
  • 網膜動脈閉塞症:閉塞血管と虚血範囲の特定
  • 網膜細動脈瘤:動脈瘤の確認と漏出評価
  • 中心窩網膜毛細血管拡張症(MacTel:毛細血管拡張の範囲と漏出パターン
  • Coats病、FEVR未熟児網膜症(ROP):周辺部血管異常・新生血管の評価
  • 網膜血管炎・網膜血管腫:血管壁の漏出と炎症性変化
  • 視神経乳頭血管炎:乳頭血管からの漏出確認
  • 前部虚血性視神経症:乳頭血流障害の評価

急性網膜壊死(ARN)後に生じる黄斑浮腫では、FAが花弁状(petaloid)の漏出パターンを示し、嚢胞様黄斑浮腫(CME)の鑑別と治療効果の判定に寄与することが報告されている1)

妊娠中は網膜血管閉塞が生じることがあるが、FAの胎盤通過性の観点からOCTAが代替検査として推奨される2)

日本眼科学会の眼底血管造影実施基準(改訂版)に従い、以下を実施する4)

  • インフォームドコンセント:造影剤の静脈内投与、検査後の皮膚黄染(2〜3時間)、尿の黄色化(1〜2日)、副作用の約10%発現リスクを文書で説明し、書面同意を取得する4)
  • アレルギー歴聴取:食物・薬物アレルギー歴、喘息・アトピーの有無を確認する4)
  • 皮膚反応テスト:有用性は限定的とされ、必須ではない4)
  • 血圧測定と静脈確保:検査前に血圧を測定し、留置針(肘静脈)または翼状針(手背静脈)で静脈路を確保する4)
  • 散瞳:散瞳点眼薬で十分に散瞳させる
  • 救急体制の整備:酸素、アンビューバッグ、エピネフリン(アドレナリン)0.3 mg筋注製剤、乳酸リンゲル液、ステロイド薬、抗ヒスタミン薬を常備する4)

β遮断薬やα遮断薬を服用中の患者は副作用リスクが増大するため、事前に把握する4)

  1. 三方活栓で側管を連結し、10%フルオレセイン5 mLを注射筒に接続する
  2. カラー眼底写真と同様にピントを合わせる
  3. タイマー開始と同時にフルオレセインを急速静注する
  4. フィルターを挿入し、観察光を最大にする
  5. 蛍光出現の少し前から1秒1枚のペースで連続撮影する(肘静脈では注入後6〜8秒、手背静脈では10〜12秒で網膜に到達)
  6. 動脈期から動静脈期にかけて高頻度で撮影する
  7. 注入後50〜60秒で対側眼の動静脈期を撮影する
  8. 後極部から周辺部へ順次撮影する
  9. 注入後5分および10分に後期像を撮影する

10%フルオレセイン溶液3〜5 mLを急速静注する4)。小児では0.1 mg/kgを目安とし、腎機能障害患者は通常量の半量以下とする4)

Q 蛍光眼底造影の検査時間はどのくらいですか?
A

注入直後から約1分間は連続撮影を行い、その後5分・10分後に後期像を撮影する。散瞳の時間を含めると、全体で15〜20分程度を要する。

4. 正常所見と異常所見の読み方

Section titled “4. 正常所見と異常所見の読み方”
Fluorescein Angiography image
Fluorescein Angiography image
Ioannis Papasavvas; William R Tucker; Alessandro Mantovani; Lorenzo Fabozzi; Carl P Herbort, Jr. Choroidal vasculitis as a biomarker of inflammation of the choroid. Indocyanine Green Angiography (ICGA) spearheading for diagnosis and follow-up, an imaging tutorial. J Ophthalmic Inflamm Infect. 2024 Dec 4; 14:63. Figure 5. PMCID: PMC11618284. License: CC BY.
In MEWDS choriocapillary hypofluorescence is limited to dots isolated mostly non-confluent. The fundus color picture (top left) shows very faint discolorations. The early FA frame (top middle) shows choriocapillaris non-perfusion or perfusion delay (yellow arrows) which is also shown on the early ICGA frame (top right). On the late ICGA frame (bottom left) there are persistent hypofluorescent dots that correspond with certainty to choriocapillaris non-perfusion as they remain until the late angiographic phase. Bottom right, fundus hyper-autofluorescence typical of MEWDS, due to secondary loss of photopigment and/or accumulation of lipofuscin due to RPE dysfunction

FAは時系列で複数の相として観察される。

  • 脈絡膜相:短後毛様動脈から充盈が始まり、網膜循環より1〜2秒早く現れる
  • 網膜動脈相:脈絡膜充盈の1〜3秒後(注入後11〜18秒)に出現。腕網膜循環時間は10〜15秒
  • 毛細血管相:中心窩無血管帯(FAZ)の直径は約500 μm。FAZを囲む毛細血管網が可視化される
  • 網膜静脈相:早期は静脈壁沿いの層流として観察され、後期には均一な蛍光となる
  • ピーク期:注入後約30秒で蛍光強度が最大となる
  • 後期:3〜5分で再循環期となり、約10分後には蛍光が消退する
  • 正常黄斑:キサントフィル色素とRPEの色素上皮細胞によって背景蛍光が遮蔽され、FAZは暗く見える

FA所見は低蛍光と過蛍光に大別される。

蛍光遮断

定義:出血・色素沈着・滲出物などが背景蛍光を遮る。

特徴:境界が明瞭で、経時的に形状変化しない。

代表疾患:網膜下出血、硬性白斑、色素上皮増殖。

充盈欠損

定義:血管閉塞により蛍光色素の流入がない、または遅延する。

特徴:毛細血管非灌流域は全経過を通じて暗い。

代表疾患:網膜動脈閉塞症、糖尿病網膜症の無血管野。

蛍光漏出

定義:血液網膜関門の破綻で色素が血管外へ滲出する。

特徴:経時的に拡大し、境界が不鮮明となる。花弁状(petaloid)パターンは嚢胞様黄斑浮腫に特徴的1)

代表疾患:黄斑浮腫、CNV、網膜血管炎。

透過蛍光

定義:RPE欠損部を通じて脈絡膜蛍光が透けて見える(window defect)。

特徴:経時的に形状変化しないが、後期に淡く染着することがある。

代表疾患地図状萎縮ドルーゼン融合。

その他の過蛍光パターンとして以下がある。

  • 色素貯留(pooling):組織間隙に蛍光色素が貯留し、経時的に増強する。糖尿病黄斑浮腫やRPE剥離に特徴的
  • 染着(staining):蛍光が増大しつつ境界は明瞭に保たれる。ドルーゼンや円板状瘢痕で観察される
  • 自発蛍光:投与前から蛍光を発する所見。視神経乳頭ドルーゼン等で認められる

日本眼科学会の眼底血管造影実施基準(改訂版)のデータを示す4)

副作用は重症度に応じて以下の頻度で発現する。

重症度発現率
全副作用1.1〜11.2%
軽症1.4〜8.1%
中等症0.2〜1.5%
重症0.005〜0.48%
死亡0.0005〜0.002%

軽度(自然軽快することが多い)

  • 悪心:最も頻度が高く、3〜15%に生じる3)。急速静注により誘発されやすい
  • 嘔吐:約7%
  • 皮膚黄染・掻痒感:皮膚の黄染は2〜3時間、尿の黄色化は1〜2日間持続する
  • 局所疼痛・熱感:注射部位の一過性症状

中等度

  • 蕁麻疹:約0.5%3)
  • 血栓性静脈炎:血管外漏出に伴う局所壊死の可能性がある
  • 発熱・失神:稀に生じる

重篤(極めて稀)

  • アナフィラキシー:IgE介在型または免疫複合体型の機序による4)
  • 気管支痙攣・心停止:極めて稀
  • 死亡:1:200,000〜1:221,7813)
  • 妊婦:フルオレセインは胎盤を通過するため原則禁忌。代替としてOCTAを検討する2)
  • 授乳婦:母乳中に72時間検出されるため施行を避ける3)
  • 重篤な腎機能障害:腎排泄のため投与量を減量する(通常量の半量以下)4)

造影剤投与を直ちに中断し、患者を仰臥位にする。アドレナリン(エピネフリン)0.01 mg/kgを筋肉内注射し、静脈路を確保して輸液を開始する。必要に応じてステロイド薬・抗ヒスタミン薬を投与し、救急搬送の準備を行う。

Q 蛍光眼底造影後に尿が黄色くなりますが大丈夫ですか?
A

フルオレセインが腎臓から排泄されるための正常な反応であり、心配は不要である。皮膚の黄染は2〜3時間、尿の黄色化は翌日までに自然に消失する。

Q 妊娠中や授乳中でもこの検査を受けられますか?
A

フルオレセインは胎盤を通過し、母乳中にも72時間検出されるため、妊婦・授乳婦への施行は原則として避ける2)3)。眼底の血管情報が必要な場合は非侵襲的なOCTアンギオグラフィー(OCTA)が代替として推奨される2)

フルオレセインナトリウムの薬理特性

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フルオレセインナトリウムは分子量332の黄赤色水溶性色素である。励起波長465〜490 nm(SLOでは488 nm)で照射すると、520〜530 nmの黄緑色蛍光を発する。静脈内投与後、約80%が血漿蛋白(主にアルブミン)と結合し、約20%が遊離型として蛍光を発する。腎臓から排泄され(1〜2日で消失)、肝臓での代謝は少ない。

血液網膜関門は内側関門(網膜血管内皮細胞の密着結合)と外側関門(網膜色素上皮細胞のRPE)の2層からなる。正常では遊離型フルオレセインも血管外に漏出しない。糖尿病・炎症・変性疾患等で関門が破綻すると、色素の血管外漏出として観察される。

FAとICGアンギオグラフィーの比較

Section titled “FAとICGアンギオグラフィーの比較”

インドシアニングリーン(ICG)アンギオグラフィーはFAと相補的に用いられる。両者の特性を以下に示す。

項目FAICGアンギオグラフィー
分子量332775
蛋白結合率約80%約98%
主な観察対象網膜血管脈絡膜血管
排泄経路腎臓肝臓

ICGは蛋白結合率が98%と高いため脈絡膜血管外へほとんど漏出せず、脈絡膜血流の評価に適する。

使用する撮影装置によって観察可能な画角と特性が異なる。

装置画角主な特徴
眼底カメラ55°標準的・広く普及
SLO/HRA30〜102°高コントラスト・共焦点
Optos200°超広角・周辺部一括撮影

超広角撮影装置(Optos)は一度の撮影で周辺部まで捉えられ、糖尿病網膜症・網膜変性疾患の周辺病変評価に有用である。


OCTアンギオグラフィー(OCTA)との相補的利用

Section titled “OCTアンギオグラフィー(OCTA)との相補的利用”

光干渉断層血管造影(OCTA)は造影剤を使用せず、毛細血管レベルで3層の網膜血管叢を深度分解能をもって可視化できる3)。妊娠中の網膜血管評価においてFAの代替として有用性が示されている2)

しかし、OCTAは血管外への蛍光漏出を検出できない。黄斑浮腫の定量評価、CNVの活動性判定(漏出の有無)、網膜血管炎における血管壁炎症の評価などにはFAが依然として不可欠である。両者は相補的に用いることで、より精緻な眼底評価が可能となる。

蛍光漏出パターンの治療予測への応用

Section titled “蛍光漏出パターンの治療予測への応用”

急性網膜壊死後嚢胞様黄斑浮腫においてFFAの花弁状漏出パターンが治療反応の予測バイオマーカーとなりうることが示唆されている1)。今後、FAの動態情報を定量化し、抗VEGF治療や光線力学療法の効果予測に活用する研究が進んでいる。

RetCam3の導入により小児に対するFA施行が可能となっている。未熟児網膜症や小児網膜疾患の血管評価に応用が期待される。

Optosを用いた200°超広角FAにより、周辺部病変の撮影時間が大幅に短縮された。糖尿病網膜症の周辺部毛細血管非灌流域の評価や、先天性網膜血管疾患(FEVR等)の広範な評価に有用性が示されている。

Q OCTアンギオグラフィーがあれば蛍光眼底造影は不要ですか?
A

OCTAは非侵襲的で毛細血管の構造を精細に描出できるが、血管外への蛍光漏出は検出できない。黄斑浮腫の活動性評価やCNVの漏出確認にはFAが必要であり、両者は情報を補完し合う関係にある3)


  1. Rana V, Markan A, Arora A, et al. Cystoid Macular Edema Secondary to Acute Retinal Necrosis: The Role of Fundus Fluorescein Angiography in Guiding Treatment. Cureus. 2025;17(11):e96108.
  2. Jurgens L, Yaici R, Schnitzler CM, et al. Retinal vascular occlusion in pregnancy: three case reports and a review of the literature. J Med Case Rep. 2022;16:167.
  3. Flaxel CJ, Adelman RA, Bailey ST, et al. Diabetic Retinopathy Preferred Practice Pattern. Ophthalmology. 2020;127(2):P66-P145.
  4. 日本眼科学会. 眼底血管造影実施基準(改訂版). 日眼会誌. 2011;115(12):1101-1108.

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