疾患概要
正式名称:RAMSVPS症候群
旧称:FRAM
遺伝形式:常染色体劣性
原因遺伝子:IGFBP7(c.830-1G>A)

家族性網膜動脈大動脈瘤(Familial Retinal Arterial Macroaneurysms; FRAM)は、IGFBP7遺伝子変異を原因とする稀な常染色体劣性遺伝疾患である。2002年にDhindsa & Abboudにより初めて報告された。1)
その後、IGFBP7変異の同定と心エコーによる弁上性肺動脈狭窄の確認を経て、現在はRAMSVPS(Retinal Arterial Macroaneurysms with Supravalvular Pulmonic Stenosis)症候群に改称されている。1)
本疾患は進行性の両側性多発網膜動脈大動脈瘤を特徴とする。原因変異はIGFBP7(4q12)のスプライシング変異 c.830-1G>A(ホモ接合)であり、BRAF/MEK/ERK経路の上方制御を引き起こす。1)
報告例はサウジアラビアとUAEを中心とする15家族・30人に限られる。1)初診時の平均年齢は12.5歳(範囲1〜34歳)で、性差はない。
疾患概要
正式名称:RAMSVPS症候群
旧称:FRAM
遺伝形式:常染色体劣性
原因遺伝子:IGFBP7(c.830-1G>A)
疫学
報告患者数:30人(15家族)
初診時平均年齢:12.5歳(1〜34歳)
性差:なし
民族:アラビア半島出身
同一疾患である。2002年にFRAMとして初報告された後、2011年にIGFBP7変異が同定され、心エコーで弁上性肺動脈狭窄が確認されたことを受けてRAMSVPSへと改称された。1)

主訴は、大動脈瘤から黄斑部への出血・滲出に伴う視力低下である。報告された症例では、初診時の最良矯正視力(BCVA)は右眼20/300、左眼20/60であった。1)
家族歴のある無症状患者で、スクリーニング検査により発見される例もある。
動脈beadingと大動脈瘤は患者全例(100%)に認められる最も特徴的な所見である。1)硝子体動脈遺残は88〜90%に合併する。1)再発性の出血・滲出(硝子体・網膜下)は71%に認められ、submacular gliosisは35%に生じる。1)
漏出を伴う大動脈瘤は、蛍光眼底造影(FA)で明瞭に描出される。末梢毛細血管拡張・脱落および動脈beadingも同時に確認される。1)
特徴的な眼所見
動脈beading+大動脈瘤:100%
硝子体動脈遺残:88〜90%
再発性出血・滲出:71%
その他の眼所見
網膜動脈狭窄・鞘形成:42%
Coats病様所見:42%
submacular gliosis:35%
重症例では、漏出を伴う大動脈瘤が原因となり、網膜内・網膜下滲出物を経て滲出性網膜剥離へと進展する。Coats病様所見(末梢毛細血管拡張・無灌流)は42%に認められる。1)
原因遺伝子はIGFBP7(4q12)であり、スプライシング変異 c.830-1G>A のホモ接合が全報告例で確認されている。1)遺伝形式は常染色体劣性で、近親婚家族に多く認められる。1)
IGFBP7はangiomodulinとも呼ばれる血管分泌因子である。1)網膜では太い平滑筋血管の内皮に特異的に発現し、毛細血管には発現しない。1)この発現パターンが、beadingと大動脈瘤が主要動脈幹に限局して生じる理由と考えられている。
組織学的には、網膜動脈壁に複数の線状断裂が認められる。全身合併症の頻度を以下に示す。
| 全身合併症 | 頻度 | 転帰 |
|---|---|---|
| 肺動脈狭窄 | 65% | 47%手術、13%死亡 |
| 大動脈弁上狭窄 | 22% | — |
| 脳血管病変 | 3例 | 脳卒中・出血死 |
常染色体劣性遺伝であり、IGFBP7 c.830-1G>A の同定で確定診断が可能である。1)近親婚家族に多く、保因者(ヘテロ接合体)は無症状である。
動脈beadingと主要動脈幹の大動脈瘤は患者全例(100%)に認められる。1)FAでは漏出を伴う大動脈瘤、末梢毛細血管拡張・脱落が描出される。1)
IGFBP7 c.830-1G>Aの同定が確定診断に必須である。300人の健常対照群ではこの変異は認められなかった。1)
心エコーによる肺動脈狭窄スクリーニングが不可欠である(65%に心疾患あり)。1)冠動脈瘤・全身動脈狭窄の検出には、心臓カテーテル検査などによる全身血管評価を行う。1)
FRAMは眼底所見が類似する疾患と鑑別が必要である。
| 疾患名 | 主な特徴 | FRAMとの鑑別点 |
|---|---|---|
| Coats病 | 片眼性・特発性 | 毛細血管拡張が主体 |
| IRVAN | 非家族性・炎症性 | 血管炎・前房細胞あり |
| 高安動脈炎 | 大血管炎 | 遺伝子検査で鑑別 |
FRAMは両眼性・家族性であり、主要動脈幹のbeadingと大動脈瘤が特徴的である。Coats病は片眼性・特発性で毛細血管拡張が主体。IRVANは非家族性で血管炎・前房炎症を伴う。硝子体動脈遺残(88〜90%)もFRAMに特徴的な重要な鑑別点である。1)
漏出性大動脈瘤に対して網膜格子状光凝固を施行し、脂質滲出の停止を図る。複数回の施行が必要となる。1)
報告例では、右眼に2年間にわたり複数回のレーザー光凝固を施行した結果、漏出停止と滲出物の退縮が得られた。1)
なお、大動脈瘤が自然破裂した後は、瘤が自然閉塞・線維化するためレーザー治療は不要である。1)
虚血領域に対して汎網膜光凝固を施行する。1)
硝子体出血・黄斑下出血を生じた症例に対して施行する。1)報告例では白内障手術・硝子体切除・膜剥離・SF6ガス充填を組み合わせた手術により、BCVAが20/80まで改善した。1)
ベバシズマブ等の報告はあるが、RAMSVPSにおける役割は未確立である。1)
心血管系の評価と管理が必須であり、冠動脈バイパス術の施行例もある。1)循環器科との連携が生命予後を左右する。
症例によって異なる。漏出性大動脈瘤へのレーザー光凝固で滲出制御は可能だが、反復する出血・滲出により黄斑下グリオーシスが生じると視力回復は困難となる。1)なお、全身管理(心血管系)が生命予後に直結する点も重要である。
IGFBP7変異により正常なIGFBP7産生が障害される。1)IGFBP7(angiomodulin)はCNS血管特異的な血管分泌因子であり、VEGF-Aシグナリングが脳血管新生を駆動する際にVEGF誘導性血管新生をブロックする働きを持つ。1)
ゼブラフィッシュを用いた実験では、angiomodulinをブロックすると血管の発芽とパターニングに欠損が生じることが示されている。1)
網膜においてIGFBP7は太い平滑筋血管の内皮に特異的に発現し、毛細血管には発現しない。1)この発現分布こそが、beadingと大動脈瘤が主要動脈幹のみに生じる病態学的根拠である。大動脈瘤は血管壁の機械的完全性が低下した部位に、圧力が最も高くかかる箇所で形成される。1)
網膜所見と全身動脈所見の間には3つの平行性が認められる。1)
Coats病様所見の成因については、周皮細胞の減少による内側血液網膜関門(iBRB)の破綻が異常な毛細血管拡張を引き起こすと考えられている。2)
冠動脈瘤を合併したRAMSVPS症例の報告により、全身血管病変が従来の認識より広範に及ぶことが明らかになりつつある。1)また、高安動脈炎とRAMSVPSの動脈所見の類似性は、未発見の共通病態基盤の存在を示唆する可能性がある。1)
これまでの報告例はすべてアラビア半島出身者に限られるが、アラビア半島以外にも未診断・誤診例が存在する可能性がある。Coats病やIRVANとして診断されている症例の中に、FRAMが含まれている可能性が指摘されている。1)
抗VEGF薬のRAMSVPSに対する有効性は未確立であり、今後の検討が待たれる。1)
網膜静脈閉塞症を背景とする網膜動脈大動脈瘤形成も報告されており、3)動脈瘤形成機序の解明においてFRAMの病態研究が一つの手がかりとなる可能性がある。