急性期眼所見
結膜充血(48〜58%):両眼性の充血は急性感染の予測因子。
結膜下出血:出血性素因を反映した所見。
原因不明の視力低下:急性期にも発症しうる。

エボラウイルス病(Ebola Virus Disease; EVD)は、フィロウイルス科エボラウイルス属に属するマイナス鎖単鎖エンベロープ型RNAウイルスによる人獣共通感染症である。ヒトに疾患を起こすのは主に4種(ザイール・スーダン・タイフォレスト・ブンディブギョ)で、全6株(EBOV, SUDV, TAFV, BDBV, BOMV, RESTV)のうちザイールエボラウイルス(EBOV)が最重症型とされる。1)
1976年に旧ザイール(現コンゴ民主共和国)で初めて報告され、318例、致死率88%を記録した。1) 2014年の西アフリカ大流行では28,000例以上、約11,000人が死亡し、全体の平均致死率は約50%とされる。ザイール株の致死率は57〜90%、スーダン株41〜65%、ブンディブギョ株40%と株により大きく異なる。1) 自然宿主はオオコウモリ科のフルーツコウモリと考えられており、感染動物または患者の血液・体液との直接接触で伝播する。1)
眼科的合併症は、エボラウイルス病後症候群(Post-Ebola Virus Disease Syndrome; PEVDS)として急性感染から回復した後に生じる。生存者の最大60%が急性感染後に何らかの眼症状を報告し、最も頻度が高いのはぶどう膜炎で、全生存者の最大1/3に発症する。
下表にエボラウイルスの主な株と致死率を示す。
| 株(略称) | 推定致死率 | 主な発生地域 |
|---|---|---|
| ザイール(EBOV) | 57〜90% | DRC・ガボン |
| スーダン(SUDV) | 41〜65% | スーダン・ウガンダ |
| ブンディブギョ(BDBV) | 40% | ウガンダ |
急性期の全身症状は発熱・頭痛・筋肉痛・関節痛・腹痛・嘔吐・下痢・出血など多彩である。1) 眼症状として以下が認められる。
急性期眼所見
結膜充血(48〜58%):両眼性の充血は急性感染の予測因子。
結膜下出血:出血性素因を反映した所見。
原因不明の視力低下:急性期にも発症しうる。
PEVDS眼合併症
ぶどう膜炎(最多):前部・中間部・後部・全ぶどう膜炎。退院後3〜8週で発症。片眼性・前部が最多。
白内障:ぶどう膜炎の続発として発症。最も一般的な外科的介入の適応。
上強膜炎・角膜実質炎:比較的早期から生じうる。
視神経症・眼球運動障害:重症例の所見。
前房水ウイルス残存
前房水からの生存ウイルス分離:涙液からは分離されず、前房水からのみ検出される。
19〜34ヶ月時点でのRT-PCR:報告症例では全例陰性。
2024年12月に発表されたシエラレオネの112人コホート研究では、ぶどう膜炎の有病率は21%、後部ぶどう膜炎57%・全ぶどう膜炎29%で、罹患眼の39%が20/400未満の視力を示した。
退院後3〜8週で発症することが多い。片眼性・前部ぶどう膜炎が最多で、発症リスク因子は急性期の高ウイルス量・充血・高齢とされる。生存者全体の21〜33%に発症するとの報告がある。詳細は「5. 標準的な治療法」も参照されたい。
EBOVはゲノム約19 kb、7遺伝子を持つエンベロープ型マイナス鎖RNAウイルスである。1)5) フルーツコウモリが自然宿主と考えられており、感染動物または感染者の血液・体液との直接接触により伝播する。1)
眼合併症(PEVDS)のリスク要因は以下の通りである。
急性EVDの確定診断はBSL-4対応の研究施設でのみ可能である。1)
| 検査法 | 対象時期 | 備考 |
|---|---|---|
| RT-PCR(NAT) | 発症早期 | WHO推奨。曝露後48時間以内の陰性は除外不可1) |
| IgM/IgG血清学検査 | 急性期以降 | 感染後数日〜数週で陽性化 |
| ウイルス分離 | 急性期 | BSL-4施設のみ実施可能 |
曝露後48時間以内の陰性結果は感染を除外できないことに注意を要する。1)
感染後の眼科診断にはマルチモーダルイメージングを活用する。
網膜病変は非色素性であることが特徴で、「Dark without pressure(DWP)」を伴う。乳頭周囲病変は水平縫線に従い中心窩を避ける傾向があり、OCTでは外網膜層の異常が認められる。マルチモーダルイメージングが診断に有用である。
急性EVDの基本は支持療法(輸液・電解質管理・対症療法)である。2020年10月にFDAが承認した2種の抗ウイルス薬が利用可能である。1)
PALM試験の報告では、mAb114群の28日致死率34%、REGN-EB3(Inmazebの前身)群35%に対し、旧標準薬ZMapp群50%・レムデシビル群53%という結果が示された。7)8)
急性期全身治療
支持療法:輸液・電解質補正・対症療法が基本。
Inmazeb:FDA承認(2020年10月)。3種mAb合剤。ザイール株対象。
Ebanga(mAb114):FDA承認(2020年10月)。単剤mAb。ザイール株対象。
ぶどう膜炎の治療
ステロイド点眼:1日4回〜1時間おき(重症度に応じて)。調節麻痺薬を併用。
経口プレドニゾン:重症例では全身ステロイドを考慮。
ステロイド硝子体内注射:難治例への選択肢。
免疫調節薬:役割は現時点では不明。
白内障手術
最多の外科介入:ぶどう膜炎続発白内障に対して施行。
術前評価:前房水のウイルス残存リスクを考慮。19〜34ヶ月時点でのRT-PCRは報告症例全例陰性。
術後管理:既往ぶどう膜炎による合併症リスクが高く、慎重な管理が必要。
ぶどう膜炎の既往があるため、術後合併症リスクが通常より高い。前房水へのウイルス残存リスクもあるが、19〜34ヶ月時点での報告では全例がRT-PCR陰性であった。手術時には適切な感染管理プロトコールの遵守が推奨される。
EBOVは粘膜や擦過皮膚から侵入する。エンベロープ糖タンパク(GP)が宿主細胞表面に結合した後、マクロピノサイトーシスにより細胞内に取り込まれる。エンドソーム内でカテプシンL/BがGP1ドメインを切断し、細胞内のNPC1(Niemann-Pick C1)受容体と結合して膜融合が起こる。5)
初期感染標的はマクロファージと樹状細胞(抗原提示細胞)であり、これらが全身へのウイルス伝播を媒介する。ウイルスの免疫回避機構として、VP24がMAPKおよびNF-κBシグナルを阻害し、VP35がdsRNA認識とIFN発現を阻害することが報告されている。5)
眼はウイルスが急性感染後も残存する「免疫特権臓器」の一つである(脳・生殖器と同様)。7) 急性EVD中にEBOVが眼組織に侵入し、免疫監視を逃れて前房水中に残存すると考えられている。涙液からはウイルスが分離されないのに対し、前房水からは生存ウイルスが分離されており、眼内特有の免疫特権環境がウイルス残存に寄与していると推察される。7)
急性EVD中にEBOVが眼を含む免疫特権組織に侵入して残存することが示されており、前房水から生存ウイルスが分離された一方、涙液からは分離されなかったことが報告されている。7)
眼は脳・生殖器とともに「免疫特権臓器」と呼ばれ、免疫監視機構が限定的な環境である。急性EVD中にウイルスが前房に侵入し、免疫応答から逃れて残存すると考えられている。前房水からは生存ウイルスが分離されているが、涙液からは検出されていない。7)
広域中和抗体MBP134AFはEBOV・SUDV・BDBVの3株に対して有効性が示されており、現在研究が進行中である。また、抗EBOV治療薬が眼の免疫特権臓器でのウイルス残存に対して効果を持つかどうかは現時点では未解明である。7)
NPC1受容体を介したウイルス侵入を阻害する小分子化合物の探索が進んでいる。5)
ワクチンとしてErvebo(FDA承認2019年12月、単回投与)およびZabdeno/Mvabea(2回投与、1歳以上対象)が存在する。治療薬としてInmazeb・Ebangaが2020年10月にFDA承認されているが、いずれもザイール株を対象とする。1) 他の株(スーダン株など)に対する有効な治療薬は現時点では存在しない。