定義
先行品との類似性:安全性・純度・力価で臨床的に意味のある差異がないこと
製造の特殊性:生細胞を用いて産生。同一分子の再現は不可能

バイオシミラー(biosimilar)は、すでに承認されたバイオ医薬品(先行品)と高度に類似し、安全性・純度・力価において臨床的に意味のある差異がないことが確認された生物学的製剤である7)。
化学合成により製造されるジェネリック医薬品と本質的に異なる点がある。バイオシミラーは生きた細胞(大腸菌、酵母、チャイニーズハムスター卵巣細胞など)を用いて産生されるため、分子量が大きく構造が複雑である。先行品と完全に同一の分子を再現することは不可能であり、類似品(highly similar)としての位置づけとなる。先行品の開発には10〜15年・12〜25億ドルが必要とされるのに対し、バイオシミラーの開発期間は8〜10年程度でコストは約1/10とされる。
眼科領域のバイオシミラーとして最も重要なのは、加齢黄斑変性(nAMD)・糖尿病黄斑浮腫・網膜静脈閉塞症などに用いられる抗VEGF(血管内皮増殖因子)薬のバイオシミラーである。
定義
先行品との類似性:安全性・純度・力価で臨床的に意味のある差異がないこと
製造の特殊性:生細胞を用いて産生。同一分子の再現は不可能
ジェネリックとの違い
分子の複雑さ:低分子薬と異なり、大きく複雑なタンパク質分子
産生方法:化学合成ではなく生細胞が必要
開発コスト
先行品:10〜15年・12〜25億ドル
バイオシミラー:8〜10年・コスト約1/10
適応症外挿
外挿の原則:臨床試験を実施していない適応症にも先行品と同じ適応が認められる場合がある
ジェネリック医薬品は先行品と化学式が同一であるのに対し、バイオシミラーは生細胞で産生される複雑なタンパク質分子であり、先行品と高度に類似しているが完全同一ではない。製造プロセスの複雑さにより開発費用も高く、承認に必要な臨床試験の要件もジェネリックとは異なる。
米国では2009年に生物製剤価格競争イノベーション法(BPCIA)が制定され、バイオシミラーの承認基準が法制化された。眼科バイオシミラーの承認にあたっては、参照薬では通常2つの比較臨床試験が求められるのに対し、バイオシミラーでは1つの適切な比較臨床試験で足りる場合がある7)。
nAMDを対象とした眼科バイオシミラーの承認試験には、9ヶ月以上の追跡期間が求められ、先行品との安全性・有効性の同等性を実証する必要がある8)。
互換性製品とは、処方医の介入なしに薬局で先行品から代替調剤が可能な特別なステータスを付与されたバイオシミラーである。互換性の認定には、先行品からバイオシミラーへ、またはその逆に複数回切り替えを行っても安全性・有効性が維持されることを示す追加データが必要となる。
処方医の処方変更なしに、薬局の判断で先行品からバイオシミラーへ代替調剤が可能な製品を指す。Cimerli(ranibizumab-eqrn)は5つの適応症すべてで互換性製品の認定を受けており、Byoovizも互換性ステータスを取得している7)。互換性製品の認定は、バイオシミラーの普及と医療費削減に重要な役割を果たす。
ラニビズマブ(先行品:Lucentis)のバイオシミラーとして、米国・日本を含む複数の国で製品が承認されている。
以下に主なラニビズマブバイオシミラーを示す。
| 製品名 | 一般名(INN suffix) | 承認年(米国) |
|---|---|---|
| Byooviz | ranibizumab-nuna(SB11) | 2021年 |
| Cimerli | ranibizumab-eqrn(FYB201) | 2022年 |
| RBZ BS(日本) | ラニビズマブBS | 2021年9月 |
Byooviz(ranibizumab-nuna、SB11):2021年にFDA承認を受けた、米国初の眼科バイオシミラーである7)。nAMD患者705名を対象とした第3相RCTでは、先行ラニビズマブとの最良矯正視力(BCVA)差は−0.8文字にとどまり、1年時点の同等性が確認された2),4)。免疫原性解析では、抗薬物抗体(ADA)の発現がSB11と先行品で同等であり、PK・安全性への影響は認められなかった3)。Byoovizはその後、互換性製品ステータスを取得した7)。
Cimerli(ranibizumab-eqrn、FYB201):2022年にFDA承認を受けた7)。COLUMBUS-加齢黄斑変性試験(477名)では、FYB201群の平均最高矯正視力改善は+7.8文字、先行品群は+8.0文字であり同等性が確認された5)。5つのラニビズマブ承認適応症すべてで互換性製品の認定を受けた7)。第3相試験データによりバイオシミラー認定を受けた製品である5)。
日本のラニビズマブBS:2021年9月に近視性脈絡膜新生血管(CNV)を対象として承認された1)。承認前の351名を対象としたRCTで先行品との同等性が確認されており、虹彩炎の発現は0件であった1)。複数のバイオシミラーを対象としたシステマティックレビューでも、転帰は先行品と同等であることが示されている6)。
2024年に、アフリベルセプト(先行品:Eylea)のバイオシミラー5製品がFDA承認を受けた8),9)。いずれも2mgの硝子体内注射製剤であり、有害事象プロファイルは先行アフリベルセプトと一致している7)。
以下に承認済みアフリベルセプトバイオシミラーを示す。
| 製品名 | 一般名(INN suffix) | 製造元 |
|---|---|---|
| Yesafili | aflibercept-jbvf | Biogen/Samsung Bioepis |
| Opuviz | aflibercept-yszy | Regeneron/Mylan |
| Ahzantive | aflibercept-mrbb | Coherus BioSciences |
| Enzeevu | aflibercept-abzv | Amgen |
| Pavblu | aflibercept-ayyh | Pfizer |
複数の大規模第3相RCTにより、ラニビズマブバイオシミラーの有効性は先行品と同等であることが確認されている2),4),5)。
Wooら(2021)の第3相RCT(nAMD、705名)では、SB11(Byooviz)と先行ラニビズマブの52週時点での最高矯正視力変化量は同等(差:−0.8文字)であり、統計的同等性の基準を満たした2)。
Holzら(2022)のCOLUMBUS-加齢黄斑変性試験(nAMD、477名)では、FYB201(Cimerli)群の平均視力改善は+7.8文字、先行品群は+8.0文字であり、事前設定の同等性マージン内であることが確認された5)。
一方、長期前向きデータは依然として限られており、5年以上の長期追跡に関するエビデンスの蓄積が今後の課題とされている7)。
免疫原性はバイオシミラーの安全性評価において特に重要な項目である。
Bresslerら(2023)はSB11のpost hoc解析で、抗薬物抗体(ADA)の発現率はSB11と先行ラニビズマブで同等であり、ADAの有無がPK・視力・安全性に有意な影響を与えないことを報告した3)。
賦形剤(添加物)の組成が先行品と異なる場合、安全性プロファイルに影響する可能性がある点には注意が必要である8)。
注射後非感染性眼内炎症:まれに報告される有害事象として、バイオシミラー投与後の非感染性前眼部炎症がある。
Tetsumotoら(2024)は、ラニビズマブBS硝子体内注射後に急性非感染性前眼部炎症を発症した74歳男性の症例を報告した1)。患者はCOVID-19ワクチン接種2日後に注射を受け、24時間以内に前房細胞3+・フレア2+が出現した。ベタメタゾン点眼により4日目に症状は軽減した。
無菌性眼内炎症の発生機序として、バイオシミラー固有の外来エピトープが抗原提示細胞に認識されて免疫活性化が起こるメカニズムが推察されている1)。また、COVID-19ワクチン接種後の免疫活性化が相乗的に炎症を増強させた可能性も示唆された1)。現時点では、COVID-19ワクチン接種と抗VEGF硝子体内注射の間隔は少なくとも2週間空けることが推奨されている1)。
なお、先行品の抗VEGF薬でも眼内炎(感染性0.02〜0.14%、無菌性0.005〜4.4%)は既知の有害事象であり1)、バイオシミラー特有のリスクではない。
複数の第3相RCTにより、視力改善効果は先行品と統計的に同等であることが確認されている2),4),5)。ただし長期(5年超)の前向きデータはまだ限られており7)、今後の継続的なデータ収集が重要である。
抗VEGF薬はメディケア(米国の高齢者向け公的保険)Part B支払い総額の10%以上を占め、ラニビズマブとアフリベルセプトはその中でも上位に位置する医薬品である。
バイオシミラーの卸売取得費用(WAC)は先行品を大きく下回る。
| 製品 | 規格 | WAC(1バイアル) |
|---|---|---|
| ranibizumab-nuna(Byooviz) | 0.5mg | 1,130ドル |
| ranibizumab-eqrn(Cimerli) | 0.3mg | 816ドル |
全患者を先行品からラニビズマブバイオシミラーへ切り替えた場合、メディケアで年間約1億3,200万ドル、患者自己負担で年間約3,360万ドルの削減が見込まれる。
米国のインフレ抑制法(IRA、2022年)では、バイオシミラーのアドオン支払い(ASP加算)が従来の6%から8%に引き上げられており、バイオシミラーの処方を促進するインセンティブとなっている。
医療費削減効果
メディケア全体:年間約1億3,200万ドルの節約が見込まれる
患者自己負担:年間約3,360万ドルの削減が見込まれる
価格競争の促進
先行品より低WAC:Byooviz 1,130ドル、Cimerli 816ドル(0.5mgおよび0.3mg換算)
インフレ抑制法:ASP加算6%→8%に引上げ
アクセス向上
互換性製品:薬局での代替調剤が可能になり患者アクセスが向上
適応症外挿:先行品と同じ複数疾患に使用可能
全患者が先行品からラニビズマブバイオシミラーへ切り替えた場合、メディケアで年間約1億3,200万ドル、患者自己負担で年間約3,360万ドルの削減が見込まれる。アフリベルセプトバイオシミラーも含めればさらに大きな節約が期待される。
ラニビズマブおよびアフリベルセプトに続き、複数の抗VEGF薬バイオシミラーが開発・審査段階にある。代表的な開発品として CKD-701、XSB-001、Xlucane、LUBT010、SB15(アフリベルセプトBS)などが挙げられる。
ベバシズマブ(Avastin)のバイオシミラーについては、法的・規制上の問題が議論されており、眼科領域での承認に向けた課題が存在する。
長期前向き安全性・有効性データの蓄積が最重要課題である7)。現在の第3相RCTは主に1〜2年の追跡期間であるため、5年以上の長期追跡データが求められる。リアルワールドエビデンス(RWE)の収集も重要性を増している。