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網膜・硝子体

アフリベルセプト(Aflibercept)

アフリベルセプト(商品名:アイリーア®、EYLEA®、Regeneron Pharmaceuticals, Inc.)は、VEGF受容体の細胞外ドメインとヒトIgG1 Fc部分を融合したリコンビナント融合タンパク質である。分子量は115 kDaで、VEGF-A・VEGF-B・PlGFに結合する可溶性デコイレセプターとして機能する。

承認の経緯は以下の通りである。

  • 2011年(FDA):湿性加齢黄斑変性に対して承認
  • その後:網膜静脈閉塞症(RVO)による黄斑浮腫、糖尿病黄斑浮腫、糖尿病黄斑浮腫合併糖尿病網膜症、未熟児網膜症へ適応拡大
  • 2023年:高用量8mg製剤(アイリーア® HD)として湿性加齢黄斑変性・糖尿病黄斑浮腫・糖尿病網膜症に承認

VIEW試験においてラニビズマブとの非劣性が証明され、標準治療としての地位を確立した10)

Q アフリベルセプトと他の抗VEGF薬の主な違いは何か?
A

アフリベルセプトはVEGF-A・VEGF-B・PlGFの3因子を阻害する点が最大の特徴である。VEGF-A165に対するKd値は0.49 pMで、ベバシズマブの約100倍、天然VEGFR1の約19倍の高い結合親和性を持つ9)。また、このクラスで唯一PlGF-2に結合し、他薬より硝子体内半減期が長い1)。詳細は「6. 他の抗VEGF薬との比較」の項を参照。

アフリベルセプトはVEGFR1の第2 IgドメインとVEGFR2の第3 Igドメインを、ヒトIgG1 Fc部分と融合させた構造を持つ。

分子特性の詳細を以下に示す。

  • VEGF結合親和性:VEGF-A165に対するKd = 0.49 pM。天然VEGFR1(9.33 pM)の約19倍、VEGFR2(88.8 pM)の約180倍の高い親和性を示す
  • VEGFトラップ機構:VEGF二量体の両側に結合し、不活性な1:1複合体を形成する
  • PlGFへの結合:このクラスで唯一PlGF-2にも結合する。胎盤増殖因子の阻害により病的血管新生の多経路を遮断する
  • 組織移行性:すべての網膜層を貫通可能である2)
  • 半減期:硝子体内半減期が他の抗VEGF薬より長く、投与間隔延長が可能となる薬理学的基盤をなす1)
  • ベバシズマブとの比較:VEGF-Aへの結合親和性はベバシズマブの約100倍である9)

主要臨床試験の概要を以下に示す。

試験名疾患主要結果
VIEW 1/2湿性加齢黄斑変性RBZ非劣性(52週)
VIVID/VISTA糖尿病黄斑浮腫レーザー比視力改善(52週)
PANORAMA増殖糖尿病網膜症(NPDR)58.4%でDRSS 2段階改善(24週)
Protocol W非増殖糖尿病網膜症CI-糖尿病黄斑浮腫等予防HR=0.32(2年)

新生血管型(湿性)加齢黄斑変性

Section titled “新生血管型(湿性)加齢黄斑変性”

VIEW 1/2試験において、アフリベルセプト2 mgの各投与レジメンはラニビズマブに対して非劣性を証明した。52週時点の視力維持率は全群で同等であった10)

高用量製剤の成績については以下の通りである。

PULSAR試験では、アフリベルセプト8 mgとアフリベルセプト2 mgを比較した。8 mg製剤は12週間隔・16週間隔ともに2 mg 8週間隔に対し非劣性を示した。48週時点で79%が12週間隔、77%が16週間隔を維持した10)中心窩網膜厚(CRT)の変化(48週)は8 mg 12週間隔 −141.9 μm、8 mg 16週間隔 −147.1 μm、2 mg −126.3 μmであった。16週時点で中心サブフィールドの液体消失率は8 mg 63% vs 2 mg 52%であった10)

眼内炎の累積発生率は1年で1.0%以下であり、動脈血栓塞栓事象はアフリベルセプト2 mg群3.3% vs ラニビズマブ3.2%(96週)であった10)

VIVID/VISTA試験では、アフリベルセプト2 mg(4週/8週投与)がレーザー対照に対し52週・100週・148週すべての時点で有意な視力改善を示した11)

Protocol Tでは1年時点においてアフリベルセプト群の視力改善が最大であった。ただし軽度群(最高矯正視力(BCVA) ≧ 20/40)では3剤間に統計的有意差はなかった(8.0 vs 7.5 vs 8.3文字、P > 0.50)11)

英国の実臨床研究(DRAKO研究)では以下が示された3)

  • 初回5回の月次投与を完了した患者では12ヶ月で4.2文字改善(全体平均2.5文字改善)
  • 非医師による投与が57%を占めたが安全性は同等であった

DAM Studyでは、アフリベルセプト+マイクロパルスレーザー(MPL)とアフリベルセプト+シャムレーザーを比較した7)。48週時点の注射回数は両群で同等(8.5回 vs 7.9回)であり、MPL追加による最高矯正視力有意差は認められなかった。中心網膜厚(CMT)変化は433 → 288 μmであった7)

高用量8 mg製剤では48週時点で視力改善は2 mgに対し非劣性であり、93%が12週以上の投与間隔を維持した。CRT変化は8 mg 12週間隔群で −171.7 μmであった11)

PANORAMA試験では中等度〜重度の非増殖糖尿病網膜症患者を対象とした。

  • 24週:アフリベルセプト群の58.4%がDRSS 2段階以上の改善 vs コントロール群6.0%11)
  • 52週:2q16群65.2%、2q8/PRN群79.9% vs 15.0%が改善11)
  • 100週:視力を脅かす合併症+CI-糖尿病黄斑浮腫の発生率は2q16群16.3%、2q8/PRN群18.7% vs 50.4%11)

Protocol W試験では2年時点でアフリベルセプト群のCI-糖尿病黄斑浮腫+視力低下または増殖糖尿病網膜症(PDR)発生率が16.3% vs シャム群43.5%(HR = 0.32)であった。4年累積では33.9% vs 56.9%(HR = 0.40)と、長期的な疾患進行抑制効果が示された11)

Q 糖尿病網膜症の進行をアフリベルセプトで予防できるか?
A

PANORAMA試験やProtocol W試験のデータにより、非増殖糖尿病網膜症の段階からアフリベルセプトを投与することで、増殖糖尿病網膜症やCI-糖尿病黄斑浮腫への進行が有意に抑制されることが示されている11)。4年追跡のProtocol W試験ではハザード比0.40と長期の予防効果が確認された。

COPERNICUS/GALILEO試験(網膜中心静脈閉塞症)ではアフリベルセプト2 mgがシャムに対し24週時点で最高矯正視力15文字以上改善率で有意な優越性を示した。

VIBRANT試験(網膜分枝静脈閉塞症)では24週時点でアフリベルセプト群がレーザー群に対し有意な視力改善を示した12)

SCORE2試験では、アフリベルセプト治療はOCT上でより良好な所見を示したが、視力についての有意差は認められなかった12)

Protocol AB試験では、アフリベルセプトと硝子体手術+汎網膜光凝固PRP)を比較した。24週時点での視力差は認めなかった。硝子体出血の消退期間はアフリベルセプト群36週 vs 硝子体手術群4週であった11)

近視性脈絡膜新生血管:MYRROR試験で24週時点の最高矯正視力変化は+12.1文字 vs シャム群 −2.0文字であった。

未熟児網膜症:FIREFLEYE試験でアフリベルセプト0.4 mg vs レーザーを比較したが、24週時点で事前設定の非劣性基準には達しなかった。

適応外使用の症例報告

Lopez Fontanetら(2023)のIRVAN症候群(特発性網膜血管炎・動脈瘤・神経網膜炎症候群)の症例では、アフリベルセプト+PRPの併用で黄斑浮腫が消退し、4年間再発を認めなかったと報告された1)

Chuら(2023)は網膜血管増殖性腫瘍(RVPT)症例にアフリベルセプト2回投与を行い、腫瘍の退縮と3年間の再発なしを報告した。すべての網膜層へのアフリベルセプトの透過性が治療効果に寄与した可能性がある2)

Takahashiら(2021)は網膜色素変性合併ポリープ状脈絡膜血管症の1例に硝子体内アフリベルセプト7回投与を行い、視力が0.05から0.15へ改善したと報告した5)。なお同患者では一過性の眼血流低下も観察された。

Huangら(2022)は脈絡膜悪性黒色腫関連CMEに対し、ベバシズマブ無効後にアフリベルセプト2回投与で顕著な改善を報告した9)

Neacaら(2025)は再発性中心性漿液性脈絡膜網膜症(CSCR)の1例でアフリベルセプト1回投与後6ヶ月の改善を報告した4)

Aflibercept image
Aflibercept image
Hidetaka Matsumoto; Junki Hoshino; Saki Numaga; Kaori Mimura; Yosuke Asatori; Hideo Akiyama. Retinal vasculitis after intravitreal aflibercept 8 mg for neovascular age-related macular degeneration. Jpn J Ophthalmol. 2024 Aug 20; 68(5):531-537 Figure 2. PMCID: PMC11420316. License: CC BY.
Images of the left eye of a 79-year-old woman with treatment-naïve neovascular age-related macular degeneration associated with polypoidal choroidal vasculopathy. At baseline, best-corrected visual acuity (BCVA) was 0.8 (0.10 logarithm of the minimum angle of resolution (logMAR) units). (a) Color fundus photograph shows retinal pigment epithelium (RPE) degeneration at the macular area. The retinal vessels appear normal. (b) Fluorescein angiography demonstrates mild leakage and window defects at the macular area. The retinal vessels appear normal. (c) Optical coherence tomography (OCT) shows a shallow irregular RPE elevation (double layer sign) and protruding RPE detachment, reflecting a branching neovascular network and polypoidal lesion, accompanied by subretinal and sub-RPE fluid. The fo

投与方法は毛様体扁平部経由の硝子体内注射である。製品は2〜8℃で冷蔵保存し、凍結は禁忌である。

疾患別の標準投与レジメンを以下に示す。

疾患製剤導入投与維持投与
湿性加齢黄斑変性2 mg4週×3回8週ごと
湿性加齢黄斑変性8 mg(HD)4週×3回8〜16週ごと
糖尿病黄斑浮腫/糖尿病網膜症2 mg4週×5回8週ごと
糖尿病黄斑浮腫/糖尿病網膜症8 mg(HD)4週×3回8〜12週ごと
RVO2 mg4週ごと
近視性脈絡膜新生血管2 mg初回1回必要時4週ごと
未熟児網膜症0.4 mg10日以上の間隔

製剤の仕様は以下の通りである。

  • 2 mg製剤:40 mg/mL、0.05 mL。単回使用バイアルまたはプレフィルドシリンジ(PFS)
  • 8 mg製剤(HD):114.3 mg/mL、0.07 mL

DRAKO研究では、治療決定から実際の投与までの中央値は6日であり、初回5回の月次投与を完了した患者で転帰が有意に良好であった3)

Q 注射の頻度はどのくらいか?
A

疾患や製剤によって異なる。湿性加齢黄斑変性では2 mg製剤で月1回の導入投与3回後に8週ごとの維持投与となる。8 mg製剤(HD)では維持期に最大16週ごとまで延長が可能である。糖尿病黄斑浮腫/糖尿病網膜症では導入5回後に8週ごとが標準であるが、8 mg製剤では最大12週ごとが可能である11)

**最も多い有害事象(5%超)**は以下の通りである。

  • 結膜下出血:最も頻度が高い局所有害事象
  • 眼痛:注射時および注射後の疼痛
  • 白内障:長期投与例での発生
  • 硝子体浮遊物(飛蚊症:注射後の気泡・薬液由来
  • 眼圧上昇:注射後60分以内に生じる急性眼圧上昇

主要な警告事項は以下の3点である。

  • 眼内炎・網膜剥離:最も重篤な局所有害事象。1年累積発生率は1.0%以下であり、大規模レビューでは0.022〜0.16%と報告されている10)
  • 急性眼圧上昇:注射後60分以内に発生し、眼圧モニタリングが必要
  • 動脈血栓塞栓:心筋梗塞・脳卒中のリスク。発生率はアフリベルセプト2 mg群1.8%(1年)/ 3.3%(96週)10)

注射に関連する重篤有害事象の発生率は0.1%未満である10)

製剤形態別の安全性:PFSはバイアルに比べ眼内炎症の発生率が低い(PFS: 0.3/10,000 vs バイアル: 1.2/10,000)。

DRAKO研究では非医師と医師間で安全性プロファイルに差はなかった3)

特殊な有害事象の報告

Davoudiら(2021)はアフリベルセプトへの切り替え後に色素上皮剥離(PED)が増悪した症例を報告した。ベバシズマブへのレスキュー投与で改善が得られており、薬剤間の個体差反応が示唆された6)

Takahashiら(2021)は網膜色素変性合併ポリープ状脈絡膜血管症患者における硝子体内アフリベルセプト投与後の一過性眼血流低下を報告した5)

Q 眼内炎のリスクはどの程度か?
A

眼内炎の発生率は大規模レビューで0.022〜0.16%と低い10)。注射後に急性の眼痛・充血・視力低下・飛蚊症が出現した場合は眼内炎の可能性があり、直ちに眼科を受診する必要がある。なお注射関連の重篤有害事象全体では0.1%未満である。

主要な硝子体内注射用抗VEGF薬の特性を比較する。

アフリベルセプト

分子量:115 kDa(融合タンパク質)

作用標的:VEGF-A、VEGF-B、PlGF

VEGF-A親和性:Kd = 0.49 pM(最高)

投与間隔:8〜16週(8 mg製剤)

ベバシズマブ

分子量:148 kDa(全長抗体)

作用標的:VEGF-Aのみ

VEGF-A親和性:AFL比1/100

承認状況:眼科ではオフラベル使用

ラニビズマブ

分子量:48 kDa(抗体断片)

作用標的:VEGF-Aのみ

投与間隔:4〜8週

承認状況:眼科適応あり

臨床的比較のポイントは以下の通りである。

  • Protocol T(糖尿病黄斑浮腫):1年時点でアフリベルセプトの視力改善が最大。ただし軽度群(最高矯正視力 ≧ 20/40)では3剤間に統計的有意差なし11)
  • VIEW試験(加齢黄斑変性):アフリベルセプト2 mg 8週間隔 ≒ ラニビズマブ0.5 mg 4週間隔の効果10)
  • 色素上皮剥離増悪例:アフリベルセプトで色素上皮剥離が増悪した症例でベバシズマブへのレスキューが有効であり、薬剤間の個体差反応が存在する6)

高用量8mg製剤による投与間隔延長

Section titled “高用量8mg製剤による投与間隔延長”

PULSAR試験(加齢黄斑変性)では8 mg製剤で48週時点での79%が12週間隔、77%が16週間隔を維持した10)。PHOTON試験(糖尿病黄斑浮腫)でも同様に12〜16週間隔への延長が93%の患者で達成された11)。これにより患者の通院負担軽減が期待される。

非増殖糖尿病網膜症へのプロアクティブ治療戦略

Section titled “非増殖糖尿病網膜症へのプロアクティブ治療戦略”

Protocol W試験では、増殖糖尿病網膜症や視力喪失が生じる前の非増殖糖尿病網膜症段階からの早期介入により、4年間の追跡でCI-糖尿病黄斑浮腫や重篤な網膜症イベントの発生リスクがハザード比0.40と大幅に低減した11)。この結果は糖尿病眼病変の治療戦略に重要な示唆を与える。

DAM Study(アフリベルセプト+マイクロパルスレーザー)では、48週の注射回数削減効果は認められなかった7)。MPLの追加が治療負担軽減につながるかは現時点で確立されていない。

IRVAN症候群・網膜血管増殖性腫瘍・ポリープ状脈絡膜血管症合併網膜色素変性・脈絡膜腫瘍関連嚢胞様黄斑浮腫など、希少疾患に対するアフリベルセプトの有効性が症例報告レベルで蓄積されている1)2)5)9)

また、IRVAN症候群では別症例でアフリベルセプト+テノン嚢トリアムシノロンアセトニドの併用が報告されており8)、複合的治療戦略の開発も進んでいる。

Q 8mg製剤と2mg製剤の違いは何か?
A

8 mg製剤(アイリーア® HD)は2 mg製剤に比べ維持投与の間隔を最大16週(加齢黄斑変性)または12週(糖尿病黄斑浮腫/糖尿病網膜症)まで延長できる点が最大の違いである。PULSAR試験・PHOTON試験で視力改善の非劣性が確認されており、安全性プロファイルも同等とされている10)11)。投与間隔延長により通院頻度が減少し、患者の治療継続性向上が期待される。


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